西暦勇者行進曲-暗躍する謎の三人組-   作:黒歴史ノート

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オリキャラ注意です


02. それぞれの一歩目と勇者のパーティ

 

 奈良県と大阪府の間に、一つの山があります。

 山麓から頂まで緑の草木に覆われた山で、標高は1100メートルと少し。

 世界的に見れば小ぶりですが、山頂に立てば東には奈良盆地の隅々まで見渡せて、西には大阪、紀伊水道、その向こうの淡路島まで望む事ができて、かつては高天原山、神話の舞台なんて呼ばれる事もありました。

 高嶋友奈は、そんな山の麓に住んでいます。

 

「わぁ、私の家はどこかな・・・・・・!?」

 

 しかし、初めて登った神話の山から見える景色にも、友奈は遠足気分でした。

 小さく見える何かを、あれが自分の家かなと指差します。

 

「友奈さん、そっちは大阪側っすよ」

「あっ、そうだっけ・・・・・・? エヘヘ・・・・・・」

 

 三ノ輪銀からの冷静な指摘には、思わず照れ笑い。

 でも、友奈は山登りなんて初めてだからと、ちょっとだけ言い訳をするのでした。

 そもそも銀から貰ったスマホの変身アプリ(銀は勇者アプリと呼んでいました)の力が無ければ、とても登り切れなかったでしょう。友奈は特別な訓練など受けていない普通の子供です。

 

「そういえば、道を直すって聞いたけど、私はどこで頑張るのかな?」

「あ、そうそう、ここで山の神様と待ち合わせする約束なんですよ」

 

 そして、友奈の照れ隠しの話題変えに乗っかって、銀は説明をします。

 週末などのお休み以外では、友奈の小学校が終わってから午後五時までとお母さんと約束しているお役目ですが、今日は山の神様との顔合わせだそうです。なんでも、ここは天に通じる山で、天から下りてくる神様達が多い土地柄、各地への案内役になる神様がたくさん住んでいたそうです。

 あくまで過去形で、今はそんな神様も二人きりだそうですが。

 

「地図を借りる約束だったのに、やけに遅いような・・・・・・」

 

 銀の言葉に合わせて、友奈も辺りを見回します。

 そして、思いがけない物を見てしまうのでした。

 

「あっ! 銀ちゃん、あそこ見て!」

「なんすか友奈さん・・・・・・って!?」

 

 ーー道を教えると言ったが、いつ教えるとは言っていない。

 ーー昨日までは、スマホに地図を入れられたのだ。

 ーーだが、いきなりスマホが言うことを聞かなくなったのだ。

 ーー我々は十分にがんばった。

 ーースマホが悪い。

 ーー我々は悪くない。

 

 それは、電子機器に不慣れな神様達の言い訳が並んだ、立て札でした。

 友奈が思わず銀の方を見ると、あははと苦笑いしていました。

 山の神様達には、地図情報を入れる検証用に勇者アプリのスマホを渡しておいたそうです。スマホといい勇者アプリといい神様達には新しい存在で、いきなり頼まれても困るだろうと思ったそうです。

 しかし、それが故障して逆に神様達を困らせてしまうなんて、本当に困った話でした。

 

「でも、地図情報を入れるだけで不具合が起きる要素あったかな・・・・・・」

 

 銀と一緒に神様達の様子を見に行くと、谷川で山椒魚みたいなしっとりした女神様と、天狗のような女神様が「お前が悪い」「お前がスマホを怒らせたんだ」と泣きながら喧嘩をしていました。しかし、スマホが恭しく安置された神籬(ひもろぎ)や、護摩を焚いた形跡はどちらも迷走が明らかでした。

 

「二人ともストップ、どうどう」

「えぇい、今忙しいのだ! この山椒魚女を懲らしめて天へ詫びねば・・・・・・っ!」

「えっと、とりあえず話だけでも聞かせてほしいなって・・・・・・」

「余所者は引っ込んでおれ! はやくこの女天狗を懲らしめねば、天から何を言われるか・・・・・・っ! このっ、人間の癖になんという剛力・・・・・・っ!」

 

 とりあえず、二人の神様を引き離して、友奈と銀は身元を明かします。

 そして、銀の顔を「えっ」と見直して、神様達は青褪めるのでした。

 

「「申し開きも無いっ!」」

 

 そうして銀に平伏して詫びる二人の神様が誕生しました。

 しかし、銀は怒ってないからと神様二人を宥めます。

 友奈もポケットに入っていた飴玉を、神様達にあげました。

 飴玉で神様達が大人しくなった所で、銀は神籬に飾られていたスマホの様子を見ます。

 

「あ、普通にバッテリー切れですね」

「「ばってりぃ・・・・・・?」」

 

 そうして銀が手回しで充電をしたり、動作確認すること数分。

 

「友奈さんのスマホに地図を入れられるか試してもらえます?」

「「う、うむ・・・・・・」」

「あっ、地図が来た! よかったぁ・・・・・・! 道って北海道まで通じてるんだね!」

「ふぅ、これで道を直すお役目を開始できる・・・・・・」

 

 充電以外、特に問題無い事が判明したのでした。逆に言えば、システム上は問題なくても、神様は充電ができないくらい電子機器に不慣れな事も判明したのですが、神様だから仕方ありません。

 

「やっぱ、勇者システムの発展は人間が鍵かぁ・・・・・・」

「何か言った、銀ちゃん?」

「いや、なんでもないっす」

 

 とはいえ、今日の目的は山の神様達との顔合わせなので、友奈は電子機器に翻弄されて自信を無くした、しょんぼりしている二人の神様を慰めたり、昔話を聞いたり、少し前に天下った神様の逸話を聞いたり、一緒に遊んでお役目の初日を終えるのでした。

 

「この地図の、まっすぐ四国まで通ってる道は、その神様の?」

「うむ、道案内も要らぬと、道を切り開いて行きおった」

「おかげでいくつも道が潰れて・・・・・・」

「山が崩れて川も溢れて、えらい事になったわ・・・・・・」

「四国にばかり通じても使いどころが無いだろうに・・・・・・」

 

 神様達は最後、友奈のお土産だといってヘアピンに宝玉をつけてくれました。

 友達の証だそうで、また友達が増えて、ホクホク気分の友奈なのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 友奈のいる場所から、ところ変わって四国の某所。

 土居球子と伊予島杏は、とある樹の下にいました。

 樹冠は雲に隠れて、樹幹も円周で数千メートルはある、大きな樹です。

 しかし、樹皮に苔が層を成し、草花が幹に根を張ったその姿は山のようでもあります。

 

「よーし! いよいよ登るぞーっ!」

「タマっち、ちゃんと水筒持ってきた? ハンカチは?」

「大丈夫だ! 問題ない!」

 

 先日の球子と杏は、神様達三人に止められて登る事ができませんでした。

 なんでも、"手続き"がまだ終わってなかったそうです。

 しかし、先ほどメールが来て、週末に選ばれた十人が初めて集まるイベントがあると聞いたものですから、これは急いで箔をつけなくてはと、球子は杏を誘ったのでした。

 二人とも既に勇者アプリで変身して、準備は万端でした。

 しかし、そこへ来て、二人を止めに入る声が掛かります。

 

「お待ち下さい」

「よし、行くぞー!」

「ちょっと待って、タマっち。誰か呼んでる」

「お? なんだ?」

 

 それは怪しい仮面をつけた、神官のような衣装の女性でした。

 表情が見えないものですから、球子は無意識のうちに身構えます。

 

「土居様と、伊予島様ですね?」

「そうですけど・・・・・・」

「そうだ、そういうお前は誰だ!」

 

 しかし、女性は二人を確認するなり、平伏しました。

 

「えっ・・・・・・」

「私は大社より参りました、照と申します」

「うぇ・・・・・・?」

「(素直・・・・・・普通の子供ね・・・・・・)」

 

 なお、それは単に会話の主導権を握る為のパフォーマンスでした。

 しかし、二人は相手の思いがけない行動に、呆気に取られて会話のペースを握られてしまいました。

 二人の警戒が緩まると、女性は自然に立ち上がります。

 仮面の裏での呟きは、二人には聞こえませんでした。

 

「タマ達に何の用だ?」

「一つは、乃木様より、こちらへ勇者様が参られたら見守るよう仰せつかりました」

「乃木・・・・・・?」

「お二人もご存知の、三人の神様のうちのお一人です。ユルい顔の」

「おぉ、ユルい顔の奴か!」

 

 わずかに残った二人の警戒心も、照さんがユルい顔をした神様こと、乃木園子に言われて来たということで、すっかり霧散してしまいました

 しかし、照さんが話すところでは、お役目の仲間ではないそうです。

 

「大社は、この神樹様の結界を管理し、世間の目に触れないようお守りする組織です」

「おぉ、だからワープしないと外から見えないのか!」

「しかし、特殊な組織ゆえに、己が特別と勘違いする人間も多数おります」

「えっと、それはどういう・・・・・・?」

「二つ目の用件は、こちらです」

「「え・・・・・・っ!?」」

 

 ふいに照さんは、袂から一枚の紙を取り出して見せます。

 そして"保護者委任状"の文字列に球子達は身体を強ばらせるのでした。

 特に意識せずとも保護者を重く見る、二人は本当に素直な子供でした。

 しかし、照さんはそんな二人を容赦無く追撃します。

 

「ご両親から、お二人が消えたと心配のお電話を頂いております」

「うぐぅ・・・・・・っ!?」

「すぐに家へ戻り、どこへ行き何時までに帰ると予定を告げてから、お役目にいらしてください。親御さんに対する、お子様の義務ですよ」

「は、はい・・・・・・」

 

 球子と杏は良い子ですが、年相応に不注意な所もありました。

 最初から負い目がある勝負は一方的で、今ならまだ怒られないの一言がトドメになりました。

 球子と杏は勇者アプリを自ら操作して、ワープ機能で帰宅させられてしまうのでした。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 神様に選ばれた子供達に対して、照さんの姿勢はこんな感じでした。

 少々、子供には厳しいでしょうか。

 しかし、これには神様の大雑把さへの反動も多分にありました。 

 照さんに言わせれば、よくわからない神様都合で子供が大変なお役目をするなど、両親が心配しないわけがないのです。だから、大社というか照さんは乃木園子のような奇妙な存在に対しても、保護者にきちんと事情を説明して合意を得て、緊急時の連絡先の交換など"手続き"を終えない限りは、神樹への立ち入りは断固として許可しないと一度は追い払ったのでした。神様側の事情があるとしても、大社虫と乃木園子が呼ぶような存在の危険性を考慮しても、それはそれ、これはこれと信じていたのでした。

 

「よし、言ってきたぞ!」

「言ってきました」

「よろしい。二人とも偉いですよ」

 

 自分達の罪はさておき、でした。

 照さんの不幸が、心配性な神様を地上へ招いてしまった事も。

 大社の組織体質か、心配性な神様の弱みに付け込もうと企む亡霊を涌かせてしまった事も。

 罪悪感はあります。

 しかし、それは照さんが他所の家庭の平和を軽んじる理由にはなりませんでした。

 

「では、参りましょうか」

「えっ、照さんも樹を登るんですか・・・・・・?」

「勿論です。私より神樹様を登れる人間は居ませんよ?」

「なっ、お前・・・・・・強いのか!?」

「いいえ、戦力は皆無です。ゴミみたいなものですね」

「それなのにどうして登ろうと!?」

 

 杏が驚きますが、大人なら驚くような事ではありません。

 子供を預かった以上、すぐ側で見守るのは当然なのです。

 

「ご安心ください。いざとなれば神樹様の寿命を削って発動する自爆祝詞で、お二人と逃げるくらいの事はできます。おそらく神樹様は怒り狂うと思いますが」

「それって発動しちゃダメなヤツだよな!?」

 

 球子がそう言いますが、照さんにとっては貴重な自衛手段です。

 乃木園子すら、ほぼ無意味だが意気は買う、という程の祝詞なのです。

 

「乃木様からお二人にと預かったこの旋刃盤や金弓箭は、まだ私の習熟が足りませんし・・・・・・。やはり自爆しか・・・・・・」

「それ、私達の武器なんですよね!? どうしてこっそり自分で使う気満々なんですか!?」

「え、だって子供に武器を持たせるなんて非常識・・・・・」

「ヒロインの武器を横取りしないでください!」

「そうだぞ! プレゼントを横取りして恥ずかしくないのか!」

 

 しかし、球子と杏は自分の武器を求めるのでした。

 照さんとしては、子供に物騒な武器なんて持たせたくないのにです。

 なので、初見で平伏して威圧したように、照さんは二人を諫める事にしました。

 

「おのれ、崇高な理想を解さぬ、愚かな勇者共め・・・・・・」

「どうして急に魔王になるんですか!?」

「いいからよこせ! ほら、杏にもパス!」

「ありがとう、タマっち!」

「あぁ・・・・・・っ!」

 

 しかし、ビックリさせて主導権を握る手は、二度目は通じませんでした。

 照さん自身、内心これは無理かなと思っていましたが、案の定でした。

 杏と球子は神樹様を登り始めると、人間の未練だとか亡霊とか乃木園子が言っていた大社虫を、容赦なく矢で射抜き、旋刃盤を投げつけて消滅させていきます。

 そんな二人を見ながら、照さんは子供達の将来を憂うのでした。

 大社虫が勇者を脅威と認識したら、どんな対策を打ってくるでしょう。

 大社内の自分を特別と勘違いした人々への監視は、最優先で強めなくてはいけません。

 あと、乃木園子からお願いされた勇者システムの開発は大社のセキュリティ的に断ろうと思う、照さんなのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 四国からは遠く離れた、北海道旭川にて。

 荒れ地に、木材同士を打ち合わせる音が響きます。

 地面と共に震える空気は工事現場を彷彿とさせますが、重機の影はありません。

 あるのは、冗談のような大きさの木槌を振りかぶる人影が一つだけです。

 

「これでラストー!」

 

 それは、秋原雪花が祠建設に向けて、基礎の丸太杭を打ち込む光景でした。

 雪花は良い地盤に固定された丸太を手で確認して、うんと頷きます。

 これならば地震が来ても崩れない土台を作れそうでした。

 

「いやぁ、毎日精が出ますな」

「あ、及川さん、お疲れ様です」

 

 そして、雪花のそんな様子を見に来たのは、及川さんでした。

 及川さんは仕事が忙しくても、フットワークの軽さには定評があります。

 役所で落ち着きがないと呆れられる一方、市民への気軽さから一定の支持があるくらいには。

 

「どうですか、少し休憩がてらにお話でも」

「あ、はい。及川さんさえ良ければ・・・・・・」

 

 ベンチに腰掛けて、及川さんからお手拭きと一緒に缶コーヒーを手渡されると、雪花は小学生なのに建設作業員になった気分でした。

 雪花はお洒落な服をデザインする仕事に憧れているのに、真逆もいいところです。

 

「何か足りない物はありますかな?」

「いえ、大丈夫です。楠さんが手配してくれているんで」

 

 しかし、最近の雪花は、及川さんに紹介された宮大工の楠さんから手解きを受けて、大工まっしぐらでした。楠さんは昔ながらの職人気質ですが、雪花も歴史ある古い建物が好きなのでついつい懐こく質問を浴びせて、実際に作業するうちに筋は悪くないと見込まれてしまったようでした。

 

「勇者としての目線では、いかがですかな?」

「いや、楠さんが凄すぎて特には・・・・・・。いるんですね、神様を感じられないのに、神様のニーズに合った物を作れる職人さんって。ド素人の私が勉強しながら精霊と相談して設計図を描くつもりだったのに、楠さんが来たらすぐ図面が完成しちゃって・・・・・・」

 

 雪花の作業進捗については、すこぶる順調でした。

 作業全体についても、神様達を受け入れるだけなら三ヶ月もあれば可能で、冬への備えをするにしても追加で三ヶ月あれば可能という見通しが立ちました。お役目を受けてから一週間も経たず、お役目に関わる十人が顔合わせするイベントもまだ開催されていないにも関わらずです。しかし、雪花が建設作業の工程管理などできないのは言うまでもなく、あらゆる面において大人の手助け、主に楠さんのおかげでした。

 

「では、勇者様のお時間を頂いても、それほど問題は無い・・・・・・?」

「ですねー。基礎の千本杭が終わったから、これからコンクリを練って流し込みますけど。コンクリの養生期間、ぶっちゃけ暇かも・・・・・・。いや、楠さんから工具の扱いや木組みを教え込まれて、暇なんて無いかも・・・・・・?」

「一日だけ、勇者アプリのスマホをお借りする事はできますか?」

「大丈夫だと思いますけど、どうしてですか?」

 

 雪花はこれまでの経緯から及川さんを信頼して、そう答えるのでした。

 実際、及川さんは切羽詰まった状況でなければ信じられる大人でした。

 

「いや、知人との酒の場で、うっかり勇者様の事を喋ってしまいまして。日曜朝のアニメに夢中な娘に変身グッズを持たせてやりたい、ぜひともそのスマホを解析したいと頼み込まれてしまいまして・・・・・・」

 

 及川さんの知人も、ありふれたIT企業の創業社長だそうで、切羽詰まらなければ勿論、勇者の力を奪って娘に与えようなんて考えは持たない人でした。

 雪花は及川さんにお世話になったぶん、週末の集会で神様三人にお願いしてみると答えるのでした。

 なお、勇者システムの開発を照さんに断られてしょんぼり気味の神様三人が、雪花の話にどんな反応を示すかについてはお楽しみです。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 奈良四国、北海道から、再び場所が変わって沖縄。

 西の水平線へ日が沈む頃、郡千景と古波蔵棗は台所にいました。

 その視線の先には、きつね色に揚がった丸いお菓子が十三個積まれたお皿。

 古波蔵のお母さんが、明日の集会に持っていきなさいと作ってくれたのです。

 美味しそうなサーターアンダギーですが、まだ食べてはいけません。

 

「千景、一つくらい食べても、たぶんバレない・・・・・・」

「・・・・・・!」

 

 それなのに、棗はなんて事を言うのでしょう。

 千景は表情を引き締めて、棗を注意します。

 このお菓子は、週末の集会で友達になる人達へ贈る、大切な物です。

 一つでも食べたら、それはもう純粋な贈り物ではなくなってしまいます。

 このお菓子は十三個揃っているから意味があるに違いないのです。

 そんな強い気持ちを込めて、千景は一言放ちます。

 

「まだダメよ・・・・・・」

「そうか、残念だ・・・・・・」

 

 すると、棗はあっさり引き下がるのでした。

 千景はホッとしますが、自分が食べたそうに見ていたから棗が甘やかした事には気づきません。

 

「なら、外へ行こう。こんな香りに包まれていると、切なくなる・・・・・・」

「そうね・・・・・・」

 

 そして、二人は一緒に台所を出て行きます。

 それはまるで千景がずっと憧れていた友達同士のようでした。

 たった数日でこんな関係が出来るなんて、千景も信じられない気持ちでした。

 しかし、古波蔵家で過ごした日々のおかげなのでしょう。

 

「千景は自分に厳しいな・・・・・・」

「おおげさよ・・・・・・」

 

 古波蔵家の一員になって、千景は家の手伝いもするようになりました。

 例えば小学校へ行く前にやる、古波蔵家の裏手にある、鶏小屋の掃除もそうです。

 お祖母さんがやっていた、毎朝の仕事を分けてもらったのです。

 それは千景がこの家で居場所を得る為に、古波蔵家の人が与えてくれた儀式でした。

 しかし、それは千景自身が望んでやる事でもありました。

 千景は何の奉仕もせずに安穏とはしていられない、少し哀しい子供でした。

 

「おばぁは、三日に一度は掃除をサボってた・・・・・・」

「毎日やったら、鶏のストレスになるってこと・・・・・・?」

「いや、そんなことは無い・・・・・・。千景が大丈夫か心配なだけで・・・・・・」

「それは・・・・・・」

 

 たしかに千景は最初のうち、半ベソになって鶏小屋の掃除をしていました。

 眠い目を擦って掃除に来たのに、知らない人だと雌鶏達には怯えられ、一羽の正義感の強い雄鶏に追い回されて、千景の繊細な心はいたく傷つけられました。しかし、それでも仕事を続けたおかげで三日目には雌鶏達は千景に慣れて、正義感の強い雄鶏とも仲直りできて、小さな困難は、千景の小さな誇りになったのでした。

 

「初日はずっと落ち込んでいたから・・・・・・」

「もう平気よ・・・・・・。けど、ありがとう・・・・・・」

 

 千景は数日で、少しだけ強くなりました。

 小さな鶏小屋の隅ですが、胸を張れる居場所ができたおかげかもしれません。

 棗に心配されても、自尊心を傷つける哀れみと感じず、素直にありがとうと言えるくらいには強くなれていました。

 

「やっぱり、千景は綺麗だな・・・・・・」

「な、なによいきなり・・・・・・」

 

 千景だけでなく、棗も少しだけ言葉数が増えました。

 千景はいつも話を聞いてくれるから、何を言っても良い気がしたのです。

 

「私もよくわからない・・・・・・。けど、渡り鳥が運んだ種が庭先で芽を出すと、どんな花が咲くか楽しみになる。千景もどんな花になるのか、ずっと見ていたい気分になる・・・・・・」

「そ、そう・・・・・・。でも、そういう事はあまり言わない方が・・・・・・」

「どうしてだ?」

「それは、その・・・・・・。口説いてるみたいだから・・・・・・」

「口説く・・・・・・?」

「好きな人に・・・・・・いろいろ言うのよ・・・・・・」

「千景のことは好きだぞ・・・・・・?」

「~~~!?」

 

 こんな風に、特にお役目を貰っていない二人ですが、何もしていないわけではありません。

 香川でも、若葉とひなたはゴミ拾いのお役目を始めましたが、二人の様子をどこか物憂げに見ていた園子に気づくと、一緒に遊んだり相談に乗ってあげて一週間を終えました。

 長野でも、歌野と水都のところを訪れた須美が「誰?」と言われてショックを受けたり、神様の事情説明で隕石の話までうっかり漏らしてしまうのですが、歌野と水都が三人だけの秘密にしてくれて事なきを得たりしました。

 

 それぞれがそれぞれのペースで前へと進みながら、週末の集会はやってきました。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ではでは~! 第一回、西暦勇者パーティを開催しま~す! ぱちぱちぱち~!」

 

 司会の園子のかけ声で開かれた集会は、参加者の紹介から始まります。

 

「こちらのお誕生席にいるのが、乃木若葉さん~。会場提供ありがと~!」

 

 ちなみに、当初は高天原の隅っこを集合部屋にしていましたが、急遽変更になりました。

 ワープの座標も切り替えて、乃木家の離れ屋を新たに集合部屋にしての開催です。

 おかしな場所へ子供を連れて行くのはやめてほしいという、大人の指導が入ったのです。

 あと、小学生を天国へ連れて行くのは字面がダメという、天の神様の指導もありました。

 色々な壁にしょんぼり園子だった頃もありましたが、若葉とひなたが相談に乗ってくれて今では元気です。

 

「乃木若葉、小学四年生だ。皆のご足労感謝する」

「ご先祖様は隣のひなたんと一緒に、神域のお清めをしてくれてるんよ~」

「上里ひなたと申します。皆さん、ようこそおいでくださいました。若葉ちゃん共々感謝申し上げます」

「この二人はちょっと固いけど、皆はリラックスしていいんよ~?」

「よーし! 次はタマだな! 土居球子、愛媛の小学四年生だ!」

「わー、タマっち流石ー・・・・・・」

 

 一人ずつ自己紹介をして、それから緊張を解すミニゲームと雑談の時間に入ります。

 

「誰とも話さないの・・・・・・?」

「千景も、誰とも話してない・・・・・・」

 

 一部、ミニゲームが終わってもうまく打ち解けられない子もいましたが。

 

「ねーねー、二人は沖縄から来たんだよね? 沖縄ってどんなところ?」

「いいなぁ、あたしも祠作りが終わったら沖縄行きたいなぁ・・・・・・」

「えっと、私はまだ日が浅いけど、人が皆優しくて・・・・・・。あと、海が綺麗で・・・・・・」

「あぁ、海が綺麗だ」

 

 なんだかんだと、皆に話し相手は見つかりました。

 園子達も、あの子はあそこが魅力だよと他のメンバーに吹き込んで回ります。

 おやつ休憩では、沖縄の二人が持ってきたお菓子が振舞われました。

 

「どぉなつは話に聞いたことはありましたが、食べるのは初めてです・・・・・・」

「えっ、須美くんドーナツ食べたことが無いの!? スマホは持ってるのに!?」

「うたのん、スマホとドーナツは関係無いよ・・・・・・。でも、確かに意外かも・・・・・・」

「須美は横文字が嫌いだからなぁ・・・・・・」

「その理屈だと、うたのんのセリフがそのまま私も疑問かも・・・・・・。スマホはいいの・・・・・・?」

 

 サーターアンダギーという名前を出すべきか沖縄の二人が迷っていましたが。

 

「これって、沖縄のドーナツだよね? なんて名前だっけ?」

「・・・・・・! サーターアンダギーだ・・・・・・」

「高嶋さん、物知りなのね・・・・・・」

 

 気遣い上手な子のおかげで、どうにか事なきを得ました。

 ゲームと雑談とおやつ休憩で気持ちが解れたところで、集会は次へと進みます。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「それじゃあ、ちょっとだけ真面目なお話をするね~」

 

 園子がおもむろに話を切り出して、皆の注目を集めます。

 

「あらかじめ説明した通り、ここにいる十人は神様のお役目で集められた勇者です」

「なので、それぞれが何をしているのか確認の意味を込めて、改めて説明させていただきます」

 

 銀と須美の二人が立ち上がると、今度はそちらへ注目が移動します。

 銀が集会室の隅から出してきたホワイトボードの左上には「しあわせ国造り計画」と題が書かれていました。

 その内容を須美が説明しますが、かいつまめば神様の宅地を造成する計画でした。

 高天原で居候している神様達の移住の為に、水道みたく大地の気の流れを整えて、神域を清めて、道を通して、仮設住宅も作る。

 この計画に関わるのが、歌野、水都、若葉、ひなた、友奈、雪花の六人でした。

 

「次に、神様への救援計画です」

 

 須美はホワイトボードの中央上に「虫退治計画」と題を書きます。

 これはうっかり汚い場所へ下りて虫に集られてしまった神様を助ける計画です。

 誰の助けも無いと神様が焦ってしまうので、落ち着かせる意味もあります。

 この計画に関わるのが、球子と杏です。

 球子はえへんと胸を張って、杏はあまり威張るのは良くないと球子を窘めます。

 千景と棗はお役目を任されていないので不安そうでしたが、勿論、役割はあります。

 須美はホワイトボードの右上に続けて「勇者相談係」と題を書きます。

 

「お役目は、毎日決まってやることではありません。なので、人によっては計画通りにいかずに困ったり、逆に動き出すきっかけが無くて困る事もあると思います。そういう時の相談先が、棗さんと千景さんです」

 

 神様も相談に乗りますが、どうしても人間が解決しないと意味が無い事もあります。

 千景は自分で解決する意義に何か思うところがあったのか、うんと頷きます。

 棗も千景の様子に、なんとなく納得したような顔をしていました。

 

「神頼みで解決しても、納得しない神がいるという事か」

「それもあるけど、人間側の納得が大きいかな~」

 

 若葉の解釈には、園子が注釈を加えます。

 歩く道を用意したのが神々でも、道を歩き通すのは人間の意志。

 そういうと大げさに聞こえますが、ようは神様とは対等であるという自信作りでした。

 神様と共に歩むには人間側に大きな自信が必要になります。

 それも神様と決別するのでなく、共に認め合う為の大きな自信です。

 

「そういうわけで、なっつんとちーちゃんが実は結構大事だったり~」

「誰かが困ったら、勇者同士の助け合いで解決を目指すのね・・・・・・」 

「身近な大人に相談するのもいいかもしれないね~」

 

 神様関係で頼れる大人は少ないですが、園子は指を立てて言います。

 ひょっとすると予想もしないところから苦境は打開されるかもしれないと。

 

「園子っちが、うちの社長さんの話に喜んだのもソレ?」

「大社に勇者システムの開発を断られた所に、まっさらな開発環境の話が湧いてきて、願っても無いんよー♪」

 

 少し難しい話になりましたが、最後に銀がまとめます。

 

「まぁ、勇者は一人じゃなくて良い、皆で助け合って未来を目指しましょうって感じです!」

 

 そのまとめで、小学生の十人はお役目の雰囲気をおおまかに理解したようでした。

 こうして、第一回の西暦勇者パーティは最後にLINEグループを作って、誰かが困ったら皆で解決する認識を共有して閉められるのでした。

 今は掛け声だけですが、本当に助け合える仲間になれるように。

 

「あの、また今度、お役目の様子を見に来てもいいかしら・・・・・・?」

「千景さん・・・・・・? あぁ、こちらの都合を連絡するよ」

「若葉、私もいいか・・・・・・?」

「あぁ、勿論構わない」

 

 勇者達は出来たばかりの関係を胸に、それぞれの道へと戻っていくのでした。

 

 

 

(つづく)

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