西暦勇者行進曲-暗躍する謎の三人組-   作:黒歴史ノート

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03. お話する勇者達と未知の世界

 北海道旭川、とある会社の応接室。

 乃木園子は緊張した面持ちで、ソファーに腰掛けていました。

 最近はなかなかほわほわできない園子ですが、今日も一頑張りです。

 人類の未来をかける気持ちで、大人との対話に臨んでいました。

 

「では、これを少し動かしてもらえるかな?」

「あ、はいー」

 

 その人は、秋原雪花に言わせると、"ちょっと娘さんへの愛情が重い、及川さんの知り合い"でした。そして園子が経歴を調べたところでは、二十世紀末に企業向け汎用機の仮想化ソフトウェアを扱う会社を立ち上げて急速に事業を拡大、現在はネットワークを経由して企業や個人へコンピューティングリソースを提供する、いわゆるクラウドの分野で活躍する傍ら、ちょっとオカルト方面にも顔を出している社長さんだそうでした。

 園子も調べている途中から、よくわからなくなりました。

 ITのことなんてちんぷんかんぷんです。

 

「わ、ホントに動いたー・・・・・・」

「開発現場から離れたとはいえ、昔取った杵柄だよ」

 

 しかし、勇者システムの一部を見せてあげたところ、大赦が三百年かけて作ったそれを一目で理解して、その場で園子から勇者の力を引き出す単純なシステムを作ってくれたので、とりあえず凄い人である事は園子も理解したのでした。園子にしか使えない、手がほんのり発光するだけで、園子が拒絶すればすぐ停止する程度のシステムでしたが、初見から三十分足らずで作成したのであれば十分すぎる成果でした。

 それに、神様でなく自身の力を使う発想も、園子は良いと思いました。

 

「誰かに命令じられて勇者になるのは違うだろう?」

「社長さんは祝詞をそう解釈したんだねー」

 

 祝詞は神様へ奏上する形式もありますが、古くは宣り聞かせる言葉で、上位者が下々へ告げる言葉とも解されます。

 社長さんは多くの宣命体(せんみょうたい)の祝詞(恐みも申すではなく(のる)の形式)で構成された勇者システムを、神様ないしシステムを作った誰かが使用者に対して勇者になれと命じる仕組みと解釈したようでした。

 だから、使用者が主体になれるよう、使用者自身を力の供給源に設定したようです。

 

「大赦ではあまり見なかった発想かも~・・・・・・」

 

 園子も感心しますが、このやり方にはいくつか問題があります。

 例えば、社長さんの作ったシステムが動いたのは、そもそも園子がイレギュラーなのもありますが、こちらへ来るより前に、園子が大赦(照さんのいる大社ではありません)にお願いして勇者システムの基本構造にまで手を加えていた経緯がありました。平行世界へ移動した先で神様達が非協力的なケースを想定して、勇者システムを園子達だけで動かせるようにシステム自体を改造してあったのです。園子が自力でシステムを動かせるのはそんな下地ありきで、この勇者システムそのままで仮に若葉がシステムを動かせるかというと、そんな事はありません。

 勇者システムは元々が神様の力を科学的に制御する為に作られた物ですから、人間から力を引き出すという園子の無理な注文を大赦がなんとかできた時点で十分な奇跡です。そのうえで今後を語るとすれば、大赦が奇跡的に作成した勇者システムが元になるのでゼロから作るよりは簡単ですが、園子の無理な注文を大赦がどうやって解決したのか不明なうえに、三百年の技術差を想像して、園子はかなり不安になってしまうのでした。

 

「なるほど、流石に門外漢でもその不安はよくわかるが・・・・・・」

 

 一方で、社長さんは言葉とは反対に、佇まいは堂々としていました。

 

「しかし、それを踏まえたうえでも、このシステムの少なくとも論理部分は全く先進的でも革新的でもない。祝詞を変数として解釈すれば見慣れた構成が各所に見られるうえに、その扱いも洗練されていない。一部を見るだけで何を参考にしたかわかるくらい、陳腐な構造だ」

 

 園子も三百年の技術の停滞していた側面は認めるところです。三百年の成果を陳腐だとこき下ろされた大赦への同情は、今はそっと横に置いておきます。大切なのは現状の正しい把握でした。

 

「祝詞という要素がブラックボックスになっているが、それ以外はありきたりのシステムだ。その祝詞が肝なのは理解するが、それさえ解決してしまえば開発を引き継いで問題になる点は見当たらない。祝詞の専門家はこちらで探す事もできるが・・・・・・」

「うーん、祝詞に詳しい人は、こちらで探してみるんよ~」

 

 しかし、現状では祝詞の並べ替えと論理部分の改善が社長さんの限界のようでした。祝詞の専門家については、うっかり変な人に声をかけないように園子が引き受けますが、大社しか頼れる相手の心当たりが無く、大社の照さんの頑なさを思い返して、園子は早くも暗礁に乗り上げた心地になるのでした。

 だから、勇者システムはひとまず論理部分の改善から取りかかるという社長さんに縋るように約束を交わして会社を出るなり、園子は郊外へと向かうのでした。不安を地面を蹴りつける事で誤魔化して、内心ではこれでも一応は一歩前進だと自分に言い聞かせながら、駆けて行きました。

 

「わっしー、一歩前進だよ~! ほめてほめて~!」

「やったわね、園っち! えらいえらい」

「えへへ~」

 

 郊外で待っていたのは、鷲尾須美でした。

 今日の須美は雪花の見守り係でしたが、雪花が夕方に帰宅してからも園子を待っていたのです。

 吉報を運んできたという体で駆け寄る園子に、須美が笑顔以外を向ける事はありません。園子が抱きついても、須美はそれを受け止めて頭を撫でてくれました。温かく柔らかい感触は頑張った園子へのご褒美です。

 

「ありがとー、わっしー。それじゃあ、もう一頑張りしてくるね~」

「あら、何かあったの?」

 

 新たな課題は、十分に元気を蓄えてから告白するのでした。

 

「祝詞に詳しい人を探してるんよ~」

 

 ところが、須美はあての無い園子の悩みを察したのか、一つ妥協案を出してくれました。

 

「園っち、祝詞は神様と会話する為の言葉でしょう? 神様の知り合いがこっちでは増えた事だし、神様に聞けばいいんじゃないかしら?」

「あ、そっかー。神樹様と違って、喋る神様もいるんだよねー」

「銀の話にも、スマホを祀ろうとした神様がいたわよね?」

「あー、いたいたー」

 

 何かを祀るというのは、実は神様にとっても一般的な行為です。

 諏訪の神様も国譲りの力比べに敗れてからは、諏訪でうまくやって行けるように諏訪の大地の神様を祀っており、今でも一年の半分はその神様への奉仕という神事をこなしています。祭祀の大ベテランなのです。

 

「諏訪の神様はちょっと無口だけど、みとみとの為だからってお願いしたら色々と教えてくれないかな~?」

「とりあえず当たってみる価値はあるんじゃないかしら?」

「だよね~」

 

 その後、園子はノリと勢いで、あちこちの神様に当たってみました。

 その結果、わりとあっさり三人の神様からアドバイスは貰う事ができたのでした。祝詞は人間の言葉では表現しづらいからと、全員がそれぞれ須美に神託を下す形ではありましたが、海と山と天に関わる祝詞をそれぞれ一時間足らずで教えてもらえたのでした。国学趣味の須美が天の祝詞を声に出して録音しながら興奮して、この祝詞は国宝にすべきと主張したりもしましたが、それはさておき勇者システムの開発計画は前進しました。

 

「うーん、このままプログラムに組み込むのは難しいんよー・・・・・・」

 

 しかし、祝詞を言語に落とし込むのには、苦労もありました。

 

「これは神様達の歌、神々の感じる"もののあはれ"の表象・・・・・・! やはり本居宣長先生は偉大な国学者だったわ・・・・・・!」

「わっしー、これってどうしたら言語にできると思う~?」

「もののあはれは論理的に解する物ではなく味わい知るものよ!」

「あ、これはダメなわっしーだね~・・・・・・」

 

 特に、祝詞を人様に見せられる形にするまでは、苦難の道のりでした。

 神様が感じる概念を人間が認識した時点でズレがあるのに、そこから人間の論理的な言語に翻訳しなくてはいけないのです。須美が独特な感性を発揮して、山の胎動や海の呼び声に夜天の静寂という、よくわからない用語の含まれた楽譜じみた資料を作成してしまったのを、園子が頭がおかしくなりそうな思いで翻訳し直したのを、翌日になって様子を見に来た銀がわかりづらいと擬音や漫画的表現を加えて、ヴォイニッチ手稿じみた解読不可能な物にしてしまったのを、三人が更に一日話し合って人間に読めるように復元する経緯を辿り、かれこれ三日がかりで言語の難しさを思い知らされたのでした。

 

「わっしー、日本語ってなんだっけ~? あいうえお言える~?」

「ひゃっ!? 園っち、確かに悪かったとは思うけど、私はただよかれと思って・・・・・・」

 

 翻訳完了と同時に園子が須美に絡んでしまったのも、仕方ありません。

 おおげさかもしれませんが、園子は須美の生み出した名状しがたい資料によって正気と狂気の境を彷徨ったのです。サンチョが乱舞する夢も、あれに比べれば子供だましです。

 

「須美はあれを書いて平気なんだから不思議だよなー」

「だって、あれは意味よりも感覚で書いたから・・・・・・。まさか生身で門を通り抜けても平気な園っちがダメージを受けるなんて・・・・・・」

「わっしぃ~?」

「ご、ごめんなさい!」

 

 後日、完成した資料に目を通した社長さんは天を仰ぎ見ていました。

 園子も我が身を以て、それは万が一にも人間が意味を理解できたら高次の存在に至るか愛国面に堕ちるかの二択を迫ってくる危険物だと感じていました(理解はしていません)が、理解に至るきっかけになりそうな箇所は命がけで削除しておきました。だから、変身グッズの材料として表面だけ使ってもらうには問題無いだろうと結論づけたのでした。

 なお、社長さんは本当に表面を利用するに留まって、須美が歯痒さから魂に訴える意気込みの愛国小説をネットに投稿して、クソ小説愛好家に星一つの評価を受けて落ち込んだりもしますが、それはまた別の話です。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 園子が神々の祝詞もとい須美の感性に苦しめられていた頃、香川丸亀にて。

 乃木若葉も、コミュニケーションに少しだけ悩んでいました。

 自分の嗜好を他人にどう思われるかという、若葉らしくない心配です。

 相手の挙動を、若葉は一瞬たりとも見逃すまいとしていました。

 

「これがうどん・・・・・・? ズルズル・・・・・・私の知っている物とは・・・ズルズル・・・まるで違うわ・・・・・・ゴクゴク・・・・・・」

 

 しかし、一心不乱に讃岐うどんを啜っている郡千景の様子を見る限りでは、若葉の心配は杞憂と言えそうでした。

 

「うどんを気に入ってもらえたなら何よりだ」

「あ・・・・・・うん・・・・・・」

 

 どうして若葉が千景と一緒にいるのか、その経緯は昨日まで遡ります。

 昨日の放課後、千景は古波蔵棗と一緒に、若葉のお役目(ゴミ拾い)の手伝いをしに来ました。一緒にやった事は、近所の山や神社の清掃に、どこかの施設へワープしてプールの底に溜まった金属の固まりを回収するような、いつもの作業です。ひなたを含めて四人を見守っていた三ノ輪銀が「勇者装束は解かないでくださいね。一瞬で死にますから」と言って千景と棗を怯えさせる場面もありましたが、いたって平和な活動でした。

 それまでは千景も若葉も、お互いに苦手意識などありませんでした。

 そうなってしまったきっかけは、若葉が活動後にうっかり口を滑らせてしまった事でした。若葉が声をかけるだけで千景が身体を硬直させたり、棗の背後に隠れる様子が活動中に度々見られたので、若葉は何か悪い事をしたのではとしつこく問いつめてしまったのです。千景はお役目に不慣れで緊張していただけですが、若葉も不安だったのです。

 しかし、「乃木さんは何も悪くない」と正直に言う千景に対して、若葉が「何も問題が無いならその反応はおかしいだろう」と否定で返して、千景がショックで口を利いてくれなくなったのは本当に不幸なすれ違いでした。若葉は自分の悪いところを言ってほしいと歩み寄ったつもりが、千景はお前は嘘をついていると糾弾されたように感じたのですから。

 その場にひなたや棗、それに銀もいたので誤解はすぐに解けましたが、お互いの苦手意識がそのままでは残ってしまいそうなので、二人のわだかまりを早々に払拭すべく歓談の場が設けられたのでした。

 

「これが・・・・・・乃木さんの好きな物・・・・・・?」

「あぁ、味も香りも喉越しも完璧なうどんは、香川の誇りだ」

「そうなの・・・・・・」

 

 しかし、話し合いの場にうどん屋を選んだのは、若葉のセンスでした。

 それゆえ、若葉は仲直りの場でまた独り善がりになる不安と戦っていたのです。

 

「私も・・・・・・このうどんは好きになれそう・・・・・・」

「そうか・・・・・・!」

「うん・・・・・・。たぶん、好き・・・・・・」

 

 だから、千景がうどんを気に入ってくれたのは本当に幸いでした。

 

「乃木さんとも、できれば仲良くしたい・・・・・・」

「あぁ、私も同感だ」

 

 うどんで勝ち取った共感は、若葉はもちろん千景にとっても得難いものでした。

 まるで戦場に立っているような若葉から、やっと力が抜けたのです。

 千景が若葉の心が緩んだ隙に好意を投げかけて、ようやく話が回り始めます。

 

「恐がりは少しずつ直すから・・・・・・。待っててほしい・・・・・・」

「私に慣れようとしてくれるのは嬉しい。だが、私は歩み寄ってくれる友人には、同じだけ何かを返したくなる性分でな・・・・・・」

「それは良い心がけだと思うけど・・・・・・?」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、自分だけで気が逸ってしまう事もある。だから、私が間違えないよう、千景さんの気持ちはその時々で教えてもらえると嬉しい。すれ違いや押し付けはなるべく避けたい」

「うん・・・・・・。わかったわ、なるべく伝えるようにする・・・・・・」

 

 最初はあったぎこちなさも、会話を重ねるうちに薄れて行きました。

 好意をお互いに受け止め合った、成功体験が舌を滑らかにしました。

 

「乃木さんは何か困った事は無い・・・・・・?」

「あまり思いつかないが・・・・・・。しいて言えば、友人が少ない事が・・・・・・」

「乃木さんもそうして肩の力を抜けば、きっと大丈夫よ・・・・・・」

「ふふっ、ありがとう。ちなみに千景さんの方は悩みは?」

「今のところ無いわね・・・・・・」

「そうか、それは良い。だが、いつか悩みができたら相談してくれ」

「ありがとう。将来の悩みは将来の事だから・・・・・・。今は大丈夫よ・・・・・・」

 

 会話が弾むにつれて、お役目に絡んでいた話題も少しずつ固さが取れて、最後には冗談混じりの話になりました。ひなたに何でも頼り切りだと苦笑する若葉が、髪の手入れもひなたのアドバイスだと言うと、母親譲りの黒髪の手入れだけは念入りだという千景が髪質に合うシャンプーとトリートメント探しにこのWEBサイトを使ったとスマホを見せたり、まとまりのない会話でしたが、それも心が打ち解けた成果でした。

 

「あ、ゲームセンター・・・・・・」

「む、千景さんはゲームをするのか?」

 

 そうして、すっかり打ち解けたおかげなのでしょう。

 うどん屋を出ると、千景がゲームセンターに入りたいと言いました。

 

「沖縄では外遊びばかりしていたから・・・・・・」

「こういう場所はあまり・・・・・・いや、これも千景さんを知る機会だ」

 

 ゲームセンターは若葉の認識では不良の溜まり場で、これまでの経緯から気弱な少女と思われる千景を連れて入るのを、若葉は躊躇しました。棗からも、千景はニワトリに追われて半泣きになり、学校の放課後には棗と海で遊んでヘトヘトになって、ご飯とお風呂を済ませたら九時頃には眠気に勝てなくなる、守らねばいけない存在と聞いていました。

 

「乃木さん、弾は撃ち切る前にリロードよ!」

「わ、わかった!」

 

 だから、ゲーム機に触れてからの千景の豹変は冗談かと思いました。

 

「次のラッシュは覚えゲーだから、私の合図で撃って!」

「千景さん、このゲームに詳しいのか!?」

「前に数回やっただけよ!」

 

 しかし、初めてやるガンシューティングゲームのランキング一位に千景と若葉をもじった「C・W」の名前が君臨したり、いくつか千景と一緒にゲームをするうちに、若葉もゲームセンターに酔ってしまうのでした。

 若葉が勘違いをして、ゲームとは簡単な物だと思い込んで、目に付いたご当地ゆるキャラのストラップ欲しさにクレーンゲームにこっそり一人で挑戦して五百円が吸い込まれて呆然としたり、千景があっさり取ってまた呆然としたり、かと思えば千景から「乃木さん、もう出ましょう・・・・・・」と言われて呆然としたまま、手を引かれてゲームセンターを後にしてしまうのでした。

 

「千景さんは凄いな・・・・・・。何かコツがあるのか?」

 

 ゲームセンターの外に出ると、若葉は千景に尋ねました。

 しかし、興奮の冷めやらぬ様子の若葉に、千景は申し訳なさそうにするのでした。

 

「クレーンゲームはアーム設定を下見するのが大事だから、あれも乃木さんとの連携プレイよ・・・・・・。だから、これはあげる・・・・・・」

「いいのか・・・・・・?」

 

 千景は景品のストラップを差し出しつつも、表情に誇らしさはありません。

 若葉が心配そうに声をかけると、千景は少し躊躇してから言いました。

 

「乃木さんに悪い事をしたお詫びだから・・・・・・」

「詫び・・・・・・?」

「ゲームについて説明不足で、クレーンに五百円も使わせたから・・・・・・」

「ふむ・・・・・・? 二人で協力して取れたのなら、それで良いのでは・・・・・・」

「そうじゃなくて、あれはお店の都合ですごく取りづらくしてあったと思うから・・・・・・。えっと、クレーンは華やかでゲームセンターの看板だから、ゲーマー対策にすごい厳しい設定にしている事があって・・・・・・」

 

 若葉にはわからない理屈でしたが、普通にやっても景品を取れないゲームをさせた事に、千景は罪悪感を感じているようでした。

 しかし、ゲームセンターの事情はわからなくても、自分の趣味の場所で不興を買ってしまう不安は若葉もわかるので、返答は間違えません。

 

「なるほど、千景さんが一緒で助かったという事か・・・・・・」

「そんな偉そうに言うつもりは・・・・・・」

「いや、千景さんのおかげでゲームを心から楽しめたのは事実だ。ありがとう」

「あの、その・・・・・・。うん・・・・・・」

 

 千景は戸惑いつつも、若葉の返答に表情の陰が薄れるのでした。

 千景の控えめな笑顔が見えて、若葉もホッと一安心です。

 千景から渡されたストラップもお詫びではなく二人で一日を楽しんだ証として受け取って、これからはお役目だけでなく友人としてもよろしくと握手を交わして、夕方、二人は再会を約束して別れるのでした。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 しかし、若葉は一人になってから、しばらくはストラップをぼんやりと眺めていました。飾り自体は骨付き鳥をモデルにした単なる樹脂のフィギュアですが、千景という新しい友人との間にできた絆を象徴するような、何だか得難い宝物のように思えたのです。ひなたからは日常的に何かと受け取っていますが、若葉が初めてのゲームセンターで味わった吊り橋効果じみた衝撃は、うっかりそのままひなたへの報告を忘れそうな程でした。

 しかし、若葉はひなたに家の前で呼び止められ、繋ぎ留められました。

 

「若葉ちゃん、明日は私とデートに行きましょう」

「む、デート・・・・・・?」

 

 その日から、若葉はひなたにしばらく連れ回される事になりました。

 数日かけてじっくりと、ひなたに思い出を上書きされ、千景からプレゼントされたストラップはひなたから送られたストラップと並んで若葉のスマホを飾って、その存在は日常へと埋没させられて行きました。千景の方でも、棗と一緒に次の場所へ向かう事が決まって、若葉と千景の関係は顔を合わせたときに親しく笑いかけ合う程度に留まり、かろうじて軟着陸に成功したのでした。

 名状しがたい祝詞のような物に向き合う園子が「何かイイモノを見逃した気がするんよー!」と嘆いたりもしましたが、それはまた別の話です。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 千景と若葉がお互いに信頼回復に努めていた同日の、奈良県某所。

 高嶋友奈は、灰色の空間にいました。

 

「うぅ、ちょっと怖いかも・・・・・・」

「そうか・・・・・・。手を繋ぐか?」

「うん・・・・・・」

 

 古波蔵棗、お役目の手伝いに来てくれた少女と手を繋ぎながら、友奈は前を向きます。

 灰色の空間ですが、それは神様の道と言いました。そして、友奈の受けた印象は、どこまでも長いトンネルでした。ろくに入り口が無くて、一度入ってしまえば、すぐ出るかずっと先まで行かないと出られず、景色はどこまでも灰色で無機質です。

 友奈に地図を貸してくれた山椒魚みたいな女神様が言うには、そもそも道というより別世界(幽世?)なのだそうです。友奈の普段過ごしている世界に寄り添って存在するけれど、なかなか接点が無いのでうっかり迷い込むと神隠しに遭ってしまうとか。友奈がその話を怖いと言うと、勇者アプリに不自然についているワープ機能(銀の鍵の門?)の方が怖いと女神様は言いましたが、よくわかりません。

 やっぱり友奈は、目の前に広がる灰色の空間の方が怖いと思ってしまうのでした。

 

「棗ちゃんは、平気なの・・・・・・?」

「よくわからないが・・・・・・」

 

 最初、こっそり一人でこの空間を見た時には、友奈はすぐに家へ帰って布団に隠れてしまった程です。とても一人では頑張れる気がしませんでした。

 

「友奈が迷子になるのが怖いと言っていたから、長い糸を持ってきた」

「そっか! 入り口から引っ張れば、迷子になっても戻ってこれるもんね!」

 

 そんな友奈に対して、棗は淡々としていました。

 漁師さんから借りてきたという釣り糸を腰に結わえて先へ進んでいく棗を見送って、しかし、友奈は少しだけ罪悪感を覚えます。友達に怖い事を押しつけるのは友奈の本意ではなく、しかし、友奈が助けてもらっている立場であればこそ強く何かを言うこともできません。

 

「ただいま」

「あ、おかえり棗ちゃん!」

 

 だから、次は自分がきちんとしようと思う、友奈なのでした。

 

「だいたいは地図通りだった・・・・・・」

 

 釣り糸を頼りに戻ってきた棗はスマホを見せて、地図の赤い印を指差して言いました。

 

「ただ、少し違う部分もある。例えば、ここの道祖神は壊れたのか、どこにも見当たらなかった」

 

 それは地図上には存在する、道標が無くなっていた報告でした。

 道祖神と呼んでいますが石像みたいな形がある物ではなく、近づくとこっちだよと呼びかけてくれる、神様達の道路標識だそうです。友奈が山の神様達に聞いた限りですが、それが無いと神様も道に迷ってしまうので、定期的に壊れていないか点検をしないといけないそうです。

 

「一緒に行くか?」

「うん!」

 

 棗に呼びかけられて、友奈も道を進みます。

 棗は友奈のお役目については詳しく知らないのです。

 道祖神の設置はスマホに表示される祝詞を唱えるだけですが、棗と一緒に地図の赤い印まで移動したら、友奈が手本に祝詞を読み上げます。

 

「――天津神国津神八百万神共に聞食せ(きこしめせ)と恐み恐みも申す」

 

 友奈が祝詞を唱えると、道祖神が設置されます。

 友奈の設置した道祖神は、勇者システムの力を借りて気配を残す、友奈印のマーキングでした。

 

「友奈、なんだかよくわからない物があった・・・・・・」

「えっ、あ、ホントだ、これなんだろう・・・・・・?」

 

 しかし、友奈が感慨に浸る間もなく、棗がまた何かに気づきました。

 それは何も無い灰色の世界では明らかに不自然な、大きな石でした。

 

「・・・・・・神様に聞いてみよっか?」

「聞いて良いのか?」

「友達だから、たぶん大丈夫!」

 

 そうして、友奈が電話をかけたのは山の神様達でした。

 電子機器に不慣れな神様達が電話に出られるかは、ドキドキです。

 

「(こうか・・・・・・? えぇい、横から口出しするな! もしもし?)」

「出てくれてありがとう! あっ、高嶋友奈です!」

「(おぉ、聞こえるぞ。しなのみくまり・・・・・・ゴホン、川の神だ)」

 

 友奈の電話に出てくれたのは、山椒魚みたいな女神様でした。

 

「えっと、実はお役目で、神様の道を歩いてて・・・・・・」

「(おぉ、頑張っておるのか、感心感心。して、何か困り事か?)」

「うん、変な石が転がってるから、どうしようかなーって・・・・・・」

「(石・・・・・・あぁ、どこぞの神が放置した磐船(いわふね)か。撤去して構わん)」

「いいの?」

 

 そして電話相談の結果、それは壊して良いものだとわかりました。

 放置自転車みたいな物だそうです。

 

「(交通の邪魔だからな。殴って砕いてしまえ)」

「うん、わかった! 勇者パンチでドーンだね!」

「(うむ)」

 

 そうして、友奈は道を直す以外に、道端に放置された大きな石を砕く仕事が増えたのでした。放置された物には、棗が持ってきた石とは比べられないような大岩や鉄の塊もありましたが、大抵は砕く事ができました。

 

「っ・・・・・・痛ぁーぃ!?」

 

 しかし、それでも一部には、どうしようもなく頑丈な物がありました。

 友奈が思い切り叩いて、拳を痛めてしまう程の頑丈さです。

 

「明日は千景も連れてきて、三人でやってみよう・・・・・・」

「そ、そうだね・・・・・・! ごめんね、一杯手伝わせちゃって・・・・・・」

「それは構わない。困った誰かを助けるのは当たり前だ」

 

 しかし、翌日は千景がネットで石の割り方を調べてから来てくれたので作業が捗りましたが、それでもやっぱり歯が立たない物も見つかり、困ってしまうのでした。一部の素材がわからない物は、完全にお手上げです。

 

「一度、全員に相談してみた方が良いんじゃないかしら・・・・・・」

「相談で解決するのか・・・・・・?」

「三人でこのまま悩んでも仕方ないもの・・・・・・」

 

 結局は千景の提案により、課題は週末へ持ち越しになりました。

 

「ぐんちゃん、相談って具体的にどんな事をすればいいのかな?」

「えっと、力押し以外に何かあるかもしれないでしょ・・・・・・?」

「力押し以外って?」

「それは・・・・・・例えば、磐船が乗り物なら、持ち主を見つけたら退かしてくれるかも・・・・・・。だから、持ち主探しを手伝ってもらうとか・・・・・・」

「あっ、そっか!」

「なるほど、その発想は無かった」

 

 どうしても壊せない磐船の持ち主の神様に心当たりは無いか、皆に相談する事を決めたのでした。

 なお、週末に磐船の話を聞いた園子が、その小惑星じみた大きさや材質に「まさか・・・・・・いやいやいやー」と意味深な反応を示しながら、それはさておき持ち主が見つからなくても磐船を破壊できるくらいには勇者システムを強化するから大丈夫と言うのを聞いて、どうして壊す話になるのだろうと安堵より首を傾げる友奈なのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 友奈達がお役目で行き詰まった一方、四国の某所にて。

 伊予島杏はこれまでのお役目を振り返り、不安を感じていました。

 読書家の杏は、本で見かけた故事をよく思い返す事があります。

 そして、このときは武田信玄の戒めを思い出していたのでした。

 戦いは五分の勝ちをもって上となし、七分を中とし、十分を下とす。

 七分の勝ちは怠けを生み、十分の勝ちは驕りを生むという話です。

 

「神樹の方はもう綺麗さっぱりだな!」

 

 杏達のお役目は、それはもう順調に進みました。

 勇者アプリや、神様の武器のおかげなのでしょう。

 数日前まで、神樹に絡みついていた白い影は倒しても倒してもきりが無いくらいに湧いて来たのが、今では影も形もありません。

 一見、球子が言うように相手を根絶できたと見る事もできました。

 

「大丈夫なんでしょうか・・・・・・?」

「ん? どういう事だ、杏?」

 

 しかし、杏は言いようのない気持ち悪さを感じるのでした。

 杏と球子は、相手を根絶しようと策を弄したわけではないのです。

 逃げた敵が居ないとは思えませんし、逃げてそのまま何も無いとも思えません。

 だから、杏にはこの綺麗さが嵐の前の静けさのように思えたのでした。

 

「このまま何も無いとは到底思えなくて・・・・・・」

「いいえ、しばらくは大丈夫かと」

「えっ・・・・・・?」

「もう既に、"何か"は起きておりますから」

 

 しかし、今日も二人を見守っていた仮面の女性、照さんが言います。

 仮面のまま神樹の平たい場所を見つけて毛氈(もうせん)野点傘(のだてがさ)を広げて、正座で佇んでいる奇妙な絵面ですが、その言葉が杏は気になりました。

 

「何か起きているんですか・・・・・・?」

「はい。しかし、まずは神樹様が綺麗になった記念に、一服しましょう」

 

 しかし、照さんは杏をちょいちょいと手招きします。

 杏は少し躊躇しました。お役目前にメールでは言われていましたが、まさか本気で神様の上で一服するなんて思っていなかったのです。それこそ、いつもの冗談が下手な照さんなりの冗談だと思っていました。

 

「ささ、土居様も腰を下ろしてください」

「なぁなぁ、その重箱は何だ? ひょっとしておやつか?」

「はい、きな粉と小豆餡のぼたもちです。お茶もありますよ」

「おぉー! 杏もこっちに来いよ! 遠慮なんてもったいないぞ!」

「えっと、じゃあ・・・・・・」

 

 ひょっとすると大切な話があるのかもと、杏も腰を下ろします。

 しかし、おやつを食べながらの話は杏の懸念に掠りもしない物でした。

 

「こうして笛の音を響かせると、神樹様は少しご機嫌になるんですよ」

「おー、その笛って何か特別なのか?」

「はい。耳には聞こえない神様が奏でる執拗低音(バッソ・オスティナート)と重なって、玉響(たまゆら)の音色が生まれるんです。言ってしまえば、神様と合奏ができる笛ですね」

「バッソ・・・・・・たま・・・・・・? よくわからないけど、特別なんだな!」

「試しに音を出してみますか?」

「えっ、タマにできるかなぁ・・・・・・?」

「大丈夫ですよ。コツをお教えしますから」

 

 仮面を外して笛を吹き、球子にも指導を始めた照さんの顔は、どこかで見た覚えがある気がしましたが、杏はよく思い出せませんでした。

 

「伊予島様もいかがですか?」

「えっと、じゃあちょっとだけ・・・・・・」

 

 杏が試しに吹いてみた笛は、小さな音しか出ませんでした。

 しかし、なぜか風に揺れる神樹の葉音は嬉しそうに聞こえました。

 

「お上手ですよ」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

 

 杏は笛を手放すと、しばらくはおやつを食べながら、照さんの笛と神樹の葉音が奏でる調べに耳を傾けました。

 しかし、曲が一段落ついたところで、杏は話を切り出します。

 

「あの、先ほどの話について伺ってもよろしいでしょうか・・・・・・?」

「そうですね・・・・・・。あまり隠しても不安を煽るだけですから、お話しましょう。とはいえ、大した事ではありません」

 

 そして、杏の懸念する"何か"の正体は、以下のような物でした。

 

「大社内部で、神樹様を私的に利用している私を追い落として、神樹様を皆で利用すべきという声が聞こえるようになっただけです」

 

 それは杏もどこかで見慣れた、ありふれた人間らしい意見でした。

 しかし、それはどこかズレた空虚な意見にも思えました。

 

「ちょっと待て、それだと照が独り占めして悪いように聞こえるぞ?」

「そうですか? では、神樹様を十分にもてなしたらお帰りいただくつもりの私と、神樹様を帰さずに延々と利用したい人間の対立とでも言いましょうか。神様をそのまま帰して二度と来なかったらどうするつもりだというのが、対立者の意見ですね」

 

 せっかくの資源を有効利用できない人間は組織のトップにふさわしくない、というのは正論のようにも思えますが、杏はお人好しの神様を人間が縛り付ける話に、宮沢賢治の「オツベルと象」を思い出すのでした。白い象が親しげに話しかけてきても鎖につないで利用するばかりで、やがては関係が破綻してしまう、杏にとっては残念なお話でした。

 

「大社はそういう利益追求型の組織ではないので、神樹様を手放したくない勢力が湧いたのは不自然ですが、亡霊の声に耳を傾けた人間がいたのでしょう」

「・・・・・・大社虫って、神樹様に何をさせたいんでしょう?」

「本人らに聞いてみなくてはわかりませんが、亡霊というのは過去に縋りつく存在です。生前が神様に近しい大社の亡霊だからこそ、神様と別れたくないのかもしれません」

「あー、また明日遊ぼうなって言っても、ゴネる奴っているもんなー」

「それと遠い話ではないかもしれませんね。しかし、あまり亡霊に心を寄せるべきではないかと。もはや、あれらの望みは叶わないのですから」

「そうなのか?」

 

 そして、照さんが言うには大社虫の願いが叶う可能性はもう無いそうです。

 杏と球子に勝てないとわかって、神樹の弱みになるだろう大社の切り崩しにかかったのは、杏にしてみれば新たな危機のようですが、もはや大社どうこうで動く状況ではないと照さんは言います。

 

「私事で恐縮ですが、私の娘が病院でお世話になっておりました」

「たしか、それで心配性な神様が降りてきて、神樹になったんだよな?」

「・・・・・・お二人に教えた記憶は無いのですが」

「お母さんから、照さんは家庭が大変なところ頑張ってるんだから迷惑をかけちゃいけませんって、言われていたので・・・・・・」

「神樹とも仲良さそうだから、普通に考えてそうだろうなーって」

「・・・・・・そうでしたか」

 

 照さんが謎の女の演出に失敗していた事に受ける衝撃はさておき、娘さんは来週、無事に退院できる事になったそうです。

 なんでも、数日前にいきなり神樹へ大地の力の流れができたそうです。それによって神樹は交通事故で脳死状態だった照さんの娘さんを助けるという奇跡を起こして弱みは無くなり、大社虫が何を言おうと耳を傾ける必要は無くなったそうですが、大地の力がどうして出来たのかわからないのが最後の不安だそうでした。神樹がどこかの神様に迷惑をかけたのだとしたら、それこそが新しい危機かもしれないと、照さんは言いました。

 

「大地の力って・・・・・・」

「たぶん、歌野さんと水都さんだよね・・・・・・」

 

 しかし、心当たりがあった杏と球子は、LINEでメッセージを投げてみました。 

 そして、返事はすぐにありました。

 内容を一目見て、やっぱりと杏はスマホ画面を照さんに見せます。

 

「やっぱり、私達の友達がやった事だったみたいです」

 

 ――イエス、アイディド! 現代の農業はオンデマンド、求める場所にすぐ供給よ!

 ――諏訪の神様にお願いしたら、最短ルートを教えてくれたから。

 

 それを見て、照さんは小さく息を吐きました。

 

「・・・・・・ありがとうございました」

 

 そして、正座のまま手をついて、頭を下げるのでした。

 どうしたのかと怪訝にも思いましたが、これが最後の不安だと言っていたのを杏も思い出して、少々の肩すかしではありますが、これで杏達のお役目に関わる不安は無くなったのだと納得したのでした。照さんは仮面を外したままなので、肩の荷が下りた穏やかな表情が杏にも見えました。

 しかし、丁寧なお辞儀には慣れず、やはり反応には困ります。

 

「お二人には何とお礼を言えば良いか・・・・・・」

「えっと、私達は大した事なんて、それに色々なご迷惑を・・・・・・!」

「そ、そうだよな! だから、そんな頭を下げる事なんて無いって!」

「お二人は謙遜されますが、私はお二人がいらっしゃらなければ神樹様に近寄る事もできず、いつまでも一人で戦っていた事でしょう」

 

 大人に感謝されるなど、考えた事もありませんでした。

 杏も球子も、大人に守られている感覚で活動していたのです。

 

「私達はちゃんと力になれたのでしょうか・・・・・・?」

「勿論です。子供だからと口うるさく注意もしましたが、お二人のおかげで、我々がどれほど心丈夫だったか・・・・・・」

「えー、そうは見えなかったけどなー?」

「そこは、大人が見栄を張り通せた証として認めて頂ければと」

 

 照さんは大人の見栄だと言いますが、それも杏には違和感でした。

 杏が遠出しても安心して両親が送り出してくれる環境作りだったり、大社へ勇者システムという手札を渡さなかったような貢献は、かなり大きいような気がするのでした。

 しかし、それでも二人への感謝の姿勢を、照さんは崩しません。

 

「神樹様の代理としても、二人の勇者様に最大限の敬意を・・・・・・。ありがとうございました・・・・・・」

「わ、何だこれ・・・・・・?」

「花びら・・・・・・?」

 

 おまけに神樹の代理として感謝されるのはもうわけがわかりませんでした。

 照さんが平伏するタイミングに合わせて神樹から花びらが降ってきて、杏と球子を祝福したものですから、照さんの勘違いではないのでしょう。

 しかし、神様に感謝される程の事をした自覚は杏には全く無かったのです。

 

「それだと歌野と水都はどうなるんだ?」

「我々に希望を与えて下さったのは、土居様と伊予島様のお二人ですので」

 

 しかし、照さんと球子の会話にまたズレを感じて、それをじっと考えて、やっと気づきました。

 

「あ・・・・・・」

 

 今更になって気づくのも恥ずかしいですが、先週末にこのお役目について説明を受けたときに言われた通りの事でした。このお役目は誰も助けてくれないと不安がる神様を安心させる意味が大きく、神樹からも照さんからも、孤立無援で困っていた時に駆けつけてくれたのを感謝された、それ以上の事ではなかったのです。ヒロインらしい活躍を賞賛されたわけではないと気づくと、杏はヒロインらしく活躍できていないからと、まだ敵を倒せていないからと感謝に違和感を覚えていた自分がどうしようもなく恥ずかしくなるのでした。

 

「神樹様もきっとお二人にお礼をしたいと望んでいます。ご希望は遠慮なくおっしゃってください」

「い、いやー、そうはいってもなー・・・・・・?」

 

 球子も単に助けに来てくれた事への感謝だと気づいたのか、恥ずかしそうにしていました。

 なので、神樹からのご褒美については二人共が保留としました。

 ここでお願いを考えるのが恥ずかしかったのが九割ですが、皆に相談したいという体でした。

 しかし、週末の集会においては二人がご褒美を決めた方が良いと意見が一致する裏側で、歌野がこっそり「たぶん、困った事になる子が出てくると思うから、神樹様のご褒美は切り札として取っておいてくれると助かるわ」と意味ありげな事を言ってきて、了解しつつも首を傾げてしまう杏と球子なのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 とある週末、香川丸亀。

 八人の小学生と二人の自称神様達が、一週間を振り返って歓談している裏にて。

 鷲尾須美は、白鳥歌野と藤森水都をこっそり乃木家の離れの裏手に呼び出していました。

 須美らしくない振る舞いですが、これは少々急ぎの用件でした。

 

「あの、実はすごく重要な話があって・・・・・・」

「それって、高嶋さん達が見つけた磐船の話?」

「っ・・・・・・! え、えぇ・・・・・・」

 

 人気の無い場所は選びましたが、須美はつい周囲を気にしてしまいます。誤魔化せない後ろめたさがそうさせるのですが、小悪党じみた振る舞いに須美は自尊心が削れていくのを感じました。

 

「園子ちゃんが取り乱してたけど・・・・・・。やっぱりそうなんだ・・・・・・」

「はい・・・・・・」

 

 とはいえ、須美が傷つくのは、まぎれもなく須美達自身の責任です。

 神様達と仲良くする為だと言って旗振りをしている三人が神様相手に喧嘩を売っている可能性が浮上など、とんでもない話でした。須美達は最初から嘘をついたつもりなど無く、正体不明の巨大隕石をどうにかする為にこの世界へやって来た、そのつもりでした。しかし、本人達の認識がどうであれ、須美達に不信感を持たれて、神様達にそっぽを向かれてしまえば、全て台無しなのです。

 

「だから、なるべく皆には内緒にしてほしくて・・・・・・」

「須美ちゃんがそう言うなら、もちろん内緒にするけど・・・・・・」

「なるべくカミングアウトは早い方が良いわよ?」

「ちょっ、うたのん・・・・・・!?」

 

 須美のお願いに対して、歌野は不満そうでした。しかし、歌野の不満も、自分達は須美の味方なのにどうして内緒にするのかという疎外感が滲んでおり、須美は強い罪悪感を覚えるのでした。

 

「皆に告白するかどうかは・・・・・・。園っち達と相談して考えます・・・・・・」

「了解。だけど覚えておいて、須美くん」

 

 歌野は最後まで、本心は反対のようでした。

 

「須美くん達が何かに困ったときに役立つと思って、神樹様のご褒美は取っておいてと意味ありげに伊予島さん土居さんの二人に囁いちゃった、私って今すっごく気まずいの! ゴーアヘッド! 前向きに園子くん達を説得するのよ!」

「うたのん、そんな事してたんだ・・・・・・。うん、あれは何だったのって後で聞かれるのは恥ずかしいもんね・・・・・・。ぶっちゃけどうでもいいけど・・・・・・」

「ホワッツ!? みーちゃん!?」

 

 しかし、歌野も緊張した空気はとぼけてごまかして、気負わないで良いと言ってくれました。

 須美は秘密の口止めをするつもりが、園子達を説得できるように励まされてしまったのでした。

 ちなみに、高天原から地上をじっと観察していた神様達が、そんな大きな磐船を持っている神様を消去法で見つけ出して締め上げにかかったのは別の話です。しばらく後、高天原を訪れた須美達に対して、月の神様が幽世に乗り捨てた巨大な磐船の件で謝罪してきたり、何かできる事があったら言ってほしいと頼み込んできたり、月見うどんを勧めたりしてくる意味不明な挙動で須美達に恐怖を与えてくるのですが、それもまた別の話です。

 現時点における須美は、大切な友達と喧嘩になる不安に耐えながら、どうやって隠し事をやめるように提案するか会話運びを考えて、頭を抱えるばかりです。

 友達への信頼だけを胸に進む、須美の夜明けはまだしばらく先なのでした。

 

 

 

(つづく)




不定期更新とはいいましたが、本当にまったり更新ですみません。

うたみーが裏で何をやってるのかなと思ったら吶喊工事で大社の裏まで敷設完了していた恐怖。

03/30 07:30 誤字修正
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