西暦勇者行進曲-暗躍する謎の三人組-   作:黒歴史ノート

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不穏注意です。


04.手を繋いだ絆とつきまとう呪縛

 西暦二○一四年、某月某日、イネス坂出店。

 自称神様の鷲尾須美は胸が張り裂けそうな緊張に襲われていました。

 

「ほら、須美の好きな宇治抹茶だぞー?」

「あ、ありがとう銀・・・・・・」

 

 そうなった経緯は言葉にすれば、それほど難しい話ではありません。

 須美は数週間前にある失敗をして、それを友達の銀と園子に隠していたのです。

 それも最初はそれほど大きな失敗ではなく、うっかり一人で白鳥歌野と藤森水都と話をした際に、自分達の素性を丁寧に説明するあまり、こちらの世界で降ってくるかもわからない嘘くさい巨大隕石について喋ってしまっただけでした。

 それだけなら、まだ言い訳もできるのです。

 この世界では本当に降ってくると決まったわけではないから、皆を混乱させないように内緒にしてほしいと、歌野と水都にもきちんと口止めできているつもりでした。

 しかし、その巨大隕石というのが実は神様を怒らせた結果かもしれない疑惑が持ち上がり、須美が慌てて口止めをし直そうとしたらそれが答え合わせになって、須美達は神様と喧嘩しているらしいとバレてしまったのです。

 園子と銀に隠し事をしたまま、勇者に不信感を抱かせてしまったかもしれない不始末をどう詫びるか、須美は答えを出せないままでいました。

 

「なぁ、最近何か隠し事してないか?」

「あっ、え、えっと・・・・・・」

 

 しかし、そんな須美は今日になって、袋小路へと追い込まれました。

 銀にイネスのジェラート屋に誘われた時からわかっていました。

 銀のそれは三人の内でだけ通じる「あたし達、友達だよな?」という無言の問いかけです。

 それでも何も話そうとしない須美に業を煮やした銀にさらに一歩踏み込まれて、須美は万事休すでした。

 

「え、えっと、えっと・・・・・・」

「あちゃ~、ミノさんにはバレちゃったか~」

 

 しかし、そんな須美の苦境に割って入る声が一つ。

 

「実はね、この前こっそり一人で高天原に行ってきたら、わたし達がすごく偉い神様と敵対してるのが天の神様にバレてたみたいで~」

「えぇっ!?」

「それで、仲直りを手伝おうかって、天の神様から心配されちゃった~」

「親切だなこっちの天の神様!?」

 

 園子が横から挟んだ話題は、須美の秘密と比べてもかなりの物でした。

 そもそも、別世界で人類を滅ぼそうとした張本人の、天の神様に須美達の素性がバレている事がとんでもない大事件なのですが、それに対する天の神様の反応が、友達感覚の親切さだったのも衝撃的でした。しかし、天の神様の性格からすれば、これが本来の有り様なのでしょう。天の神様は日本神話でも、誰かが殺されでもしなければ怒らない温和な神様として描かれています。

 いえ、それはさておき、園子の告白は須美にとって好機でした。

 園子が作った流れに乗り、須美もようやく口を動かす事ができました。

 

「あ、あの、実は私も隠し事があって・・・・・・」

「え、わっしーが隠し事なんて珍しいね~?」

「実は、白鳥さんと藤森さんにーー」

 

 そして、園子に続いた須美の告白への反応はあっさりとしたものでした。

 

「神様にバレてるなら、勇者達にも言っといた方がいいよな?」

「だね~。でも、わたし達とあっちで喧嘩してるかもしれない神様が、高天原の神様達に責められて針の筵になってるから助けてほしいって天の神様が言ってたから、そっちの対応が先かも~?」

「嘘、私達よりよっぽど大変じゃない!?」

 

 園子の告白の衝撃であっさり流された部分もありましたが、須美が罪悪感で鬱ぎ気味なのを二人が気遣ってくれたのではと考えるのは、須美の浮かれすぎでしょうか。いえ、何にしても須美が救われたのは同じなので、内心で二人に感謝しつつ須美は園子の話に乗っていくのでした。

 

「偉い神様と仲良くなれたら、うたのん達も安心だよね~」

「こういう和解ってどうやってやるんだ?」

「神様との和解なら、"うけい"なんてどうかしら?」

 

 須美が提案したのは、日本神話で天の神様と海の神様が戦いを回避するのに使った方法でした。神話の"うけい"では和解の印として三柱の女神と五柱の男神が生み出されて、八王子の名前が残っているそうですが、須美達はそこまでおおげさな儀式をする必要は無いでしょう。

 

「神様は作れなくても、何か説得力のある神宝は欲しいよね~?」

「そうね、それなら、この磐笛なんてどうかしら?」

 

 ちなみに、"うけい"それ自体は、罪を問われた人間に身の潔白を主張させてから熱湯の中の小石を拾わせて腕の火傷で罪の有無を確かめる盟神探湯(くかたち)のように、宣言をしたうえで神判を乞う行動を起こして、その成功によって言葉の正しさを周囲にアピールする儀式です。高天原にいる神様達に対して和解を見せるのであれば、神様達が見慣れた儀式が良いだろうと須美は思ったのでした。

 

「磐笛って、神様と気持ちを一つにしないと音が出ないんだっけ~」

「えっ、これはそういう磐笛だけど・・・・・・。どうして知ってるの?」

「タマっちとあんずんが大社で見せてもらったって自慢してたんよ~」

「そ、そうなの・・・・・・? たしかに磐笛は海辺に行けば拾える物だけど・・・・・・。うちの家宝って聞いてたのに・・・・・・お父さんたら・・・・・・」

 

 なお、いざ三人が高天原へ行くとよほど他の神様にイジメられたのか、すごく偉い神様こと"月の神様"が須美達にとても腰の低い態度で接してきたり、月見うどんを薦められたりして和解にうまく話を持っていけない事もありましたが、最終的には一緒にうどんを食べてかろうじて一般的な和解にこぎ着ける事に成功するのでした。うどんを食べてから磐笛を使った"うけい"をしたせいで、あの儀式にはどのような意味があるのかと周囲の神様に尋ねられた高天原の賢い神様が返答に窮して、うどんの白さが身の潔白を表して、それを一緒に食べる事に意味があるなどと独自の解釈を広めてしまい、八百万の神様にうどんが重要な呪具だと勘違いされたりもしましたが、それはまた別の話です。

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 須美達が高天原でうどんを食べている頃、場所は変わって北海道。

 秋原雪花は近所の喫茶店で、久しぶりの自由を満喫していました。

 

「ん~、やっぱり一人でのんびりする時間は大切だにゃあ・・・・・・」

 

 平日は学校と建築作業、休日は建築作業と楠さんの講義。

 世間一般の習い事に忙しい小学生とは別方向で、ハードな日々を雪花は送っていました。

 しかし、そんな雪花にも、雨により偶然の自由時間ができたのです。

 

「喫茶店でケーキなんて、いかにもおしゃれな女って感じがするし」

 

 冗談のような大きさの木槌を振り回す建築仕事で低下した女子力をケーキ一つで取り戻せたかは微妙でしたが、雪花がそれで満足ならそれで良いのでしょう。

 この一ヶ月、雪花はとてもお役目を頑張っていましたから。

 雪花の頑張りは、一ヶ月で祠作りを棟上げまで進めてしまう程でした。

 棟上げまで進めば、祠の基本的な骨組みは出来上がりです。

 ここに至るまでにもいくつも祭事を挟みましたが、この棟上げと同時に行った"上棟式"は一般的な家作りにおいてもお餅を撒いたり御神酒を振る舞ったりする大きな節目です。上棟式では五柱の神様の分霊を呼んで祭祀が行われて、今回は思いがけず偉い神様がまるごと降臨したがるという事故もありましたが、おおむね問題無く儀式は終わりました。

 ちなみに、上棟式で呼ぶ神様は一般的に、日本神話の"神産み"で生まれた木の神様と、天の神様と仲良しの天女様と、天の神様を岩戸から呼び出す儀式を行う御殿を造った神様二柱と、地元の産土神様だそうでした。

 まるごと降臨したがった偉い神様こと、天女様は紀伊半島から歩いて北海道まで行くのは大変だから迎えに来てほしいと、雪花が高嶋友奈の家を経由してワープで迎えに行くことになりましたが、天の神様へのお土産に北海道の野菜や海産物を使った料理をタッパで確保しつつ、天の神様には良い感じに伝えておくと言い残してお帰りになりました。なお、最後の言葉の意味は雪花にはわかりませんでしたが、園子から後に答えとご褒美がありました。

 

「いろいろ美味しいイベントだったし、またあるといいなぁ」

 

 まず、園子からご褒美として渡されたお小遣いはなかなかの金額でした。

 そして、お小遣いの理由は、天の神様が親友の楽しそうな様子に人間への好感を深めたそうで、そのお礼だそうでした。雪花は誰かの為になれたのであれば、それを受け取るのに言う事はありませんでした。

 

「でも、これはちょっとお裾分けしないとかにゃあ・・・・・・?」

 

 しかし、ケーキ一つで満足気味の雪花は、残るお小遣いの使い道についてふと考えるのでした。

 あぶく銭だから服を買うなどして使い切ってしまうのも手ですが、雪花は少しでも将来の足しを考えてしまう、計算高い少女でした。

 

「ふむ・・・・・・。LINEを見てると友奈のところに遊びに行く連中が多いっぽいし、女王様にちょっと媚びを売っておくべきか・・・・・・」

 

 雪花はスマホを取り出すとLINEのメッセージを数日遡って、友奈が多くの勇者に構われているらしい流れを確認します。そこから雪花は、勇者グループにおいて友奈が女王蜂的な存在になりつつあるのではと予想して、友奈に遊びに行っても良いかとメッセージを投げるのでした。

 

「お、返ってきた。えっと、なになに・・・・・・『ちょっと助けてほしいかも><』。よし、いっちょ女王様の好感度を稼ぎに行くとしますか!」

 

 友奈からの返信はなにやら取り込み中のようでしたが、これはむしろ好機でした。ちなみに、雪花が友奈の家へ行くと、LINEを見た勇者が勢ぞろいしており、雪花は一人首肯するのでした。

 郡千景、古波蔵棗、土居球子、伊予島杏、自由な勇者は全員が揃っていました。

 

「お、眼鏡が来たなら、なんとかなるな!」

「いやいや、眼鏡は関係無いっしょ」

 

 球子に雪花は思わずツッコミますが、杏がそれを否定します。

 

「いえ、実は雪花さんが来ないと難しいかなって・・・・・・」

「これだけ人数がいても難しい何かがあったの?」

「うん、実はね・・・・・・」

 

 そして、友奈から差し出されたのは算数の教科書でした。

 

「・・・・・・うん?」

「あのね、宿題で・・・・・・。カッコとか、割るとか、掛ける順番がわかんなくて・・・・・・」

「・・・・・・あー、うん、ルールだけ押しつけられてもわかんないよね」

 

 部屋の時間が一瞬止まった気がしましたが、雪花はすぐ気を取り直します。

 そういえば先週、小学校で習った計算の順序がありました。

 雪花はわりと物分りの良い部類ですが、そういえばクラスにも掛け算や割り算を先にやって、足し算と引き算が後回しにされるのが納得いかないと悩んでいる級友がいたのを思い出すのでした。

 

「っていうか、五年生のあんたらも説明できないんかい」

「そういうルールだとしか教えられてない」

「私も・・・・・・」

 

 棗と千景は先生に教えられた事をしっかり守っているようで、雪花のようにひねくれた部分が無く、ルールを丸覚えしているようでした。

 友奈はそのあたり、少し雪花と近い部分があるのかもしれません。

 

「うーん・・・・・・。友奈は、足し算の応用が掛け算っていうのはわかる?」

「えっと、よくわかんないです!」

「よし、じゃあそこから説明するよ」

 

 なぜか雪花の周りに友奈どころか、勇者の人だかりができましたが、それはさておき説明を進めます。

 

「友奈は、2×3を2+2+2って計算したこと、あったりしない?」

「あっ、それはあるかも!」

「掛け算はそういう同じ足し算をギュッと一つの箱に入れたものなのよ。1+2+2+2+2+2+2+2+2+2じゃなく、1+2×9って感じに」

「ふむふむ・・・・・・」

「つまり、2×9は、2の足し算が9個あるって読み解かないといけないわけよ。二人組が九組と、一人余りがいて、合計何人いるかって感じで」

「せっちゃん、そこは3+2×8がいいと思うな」

「ぼっちは可哀想だもんね。っていうか計算早いね、友奈ってば。そういう感覚はよくわかってるわけか、理屈を知らないだけで」

 

 その後も雪花は例え話を交えつつ、友奈に計算の順序がそうでなくてはいけない理由を説明していくのでした。なお、球子は雪花を流石は眼鏡だと評しましたが、雪花はそれほど自分を知的とは思っておらず恥ずかしかったので、軽く笑って聞き流しました。

 

「とまぁ、色々と話してみたけど、友奈の助けになったかにゃあ?」

「うん、すっごくよくわかったよ! ありがとう、せっちゃん!」

「あ、うん・・・・・・」

 

 しかし、球子への照れ隠しで無警戒だったところ、友奈から至近距離から笑顔を向けられたのを受け流すのは無理でした。友奈の明るい笑顔に対して内心で、なるほど皆が集まってくるわけだと傍観者を気取ってみたりもしますが、同時にアイドルってこういう物なのかなと惚けた考えが浮かぶあたり、雪花は友奈の笑顔を食らってダウン後に立ち上がるも満身創痍といったところでした。

 

「いやー、美少女ってズルいにゃあ」

「できれば、仲良くしてあげてね・・・・・・?」

「お、千景さんからのアドバイス?」

「高嶋さん、ああ見えて寂しがり屋なところがあるから・・・・・・」

 

 そして、そんな雪花に対して千景から耳打ちで意外な助言がありました。

 

「高嶋さんって、私と棗、土居さん達を羨ましそうに見ている時があって・・・・・・。できれば仲良くしてあげてほしいというか・・・・・・」

「あー、そういえば友奈って特定コンビがまだいないのか・・・・・・」

 

 雪花はふと、若葉とひなた、歌野と水都を想像します。

 たしかに形だけを見れば、友奈と雪花が余り物という状態でした。多くの勇者が友奈の元へ遊びに来ている裏側に、一人で頑張っている友奈への気遣いがあるらしいと聞かされて、雪花はもう少し友奈に積極的に絡んで良いかもしれないと思うのでした。

 もっとも、皆に構われている友奈と違って、雪花はずっと放置されていたわけですが。

 ただ、そんなに寂しがりでもない雪花は友奈に嫉妬なんてしません。友奈に寄り添って、きちんと教わった通りの順序で計算ができているのを確認して、友奈がふと視線を雪花に向けてきたら、小声で「カンペキだよ」と伝えて、お姉さんぶったりしました。

 

「やった、おわったー!」

「おつかれさん」

 

 しかし、友奈の世話を焼ける時間はそう長くはありませんでした。

 小学生の宿題なんて、問題の数も知れたものですから、仕方がありません。

 

「せっちゃんのおかげだよー」

「いやいや、友奈の実力だから・・・・・・。あ、そうだ、友奈にはこの前のお礼も兼ねて、ちょっとご褒美をあげるからね」

「え、お礼? ご褒美ってなぁに、せっちゃん?」

「北海道に神様を呼ぶときに、家を通してくれたっしょ?」

 

 そして、友奈が宿題を終えると、雪花はスマホをいじって数分で北海道と往復、友奈のついでに家に集まっていた勇者達にもケーキを持ってくるのでした。これで園子からのお小遣いは使い切りましたが、どうせあぶく銭なのでパァッと使い切って問題はありません。

 

「どうしよう、タマっち・・・・・・。私達何もお返しを用意してないよ・・・・・・」

「そういえばそうだな。雪花は何か手伝ってほしい事とか無いかー?」

「今のところ無いから、困ったときの為の貸し一つって事でいいよ」

「だってさ、杏」

「えっと、それなら私も貸し一つで、いただきます・・・・・・?」

「どうぞどうぞー」

 

 むしろ、将来の足しにもなりそうなので、雪花としては万々歳でした。

 ちなみに、千景と棗はその場にいないメンバーに遠慮した様子でしたが、気遣い上手の友奈が気にしなくて良いとうまく取りなしてくれました。

 

「まぁ、気にしないと言っても、自慢はイヤミったらしいけどね」

 

 なお、雪花のそんな一言は、十人の勇者の中でもかなり極端な気の遣い方でした。

 ケーキの一つで機嫌を損ねるような勇者はおらず、雪花同様に周囲を気にしがちな友奈の好感度が上がった以外に、気遣いの意味はそれほどありませんでした。

 

「ねーねー、せっちゃん。せっちゃんはコレの意味知ってる?」

「あー、なんか神様が力を入れてくれる、ゲージなんだって」

「やっぱり、せっちゃん物知りだね!」

 

 しかし、そんな雪花に友奈が親近感を覚えて、二人の距離はぐっと近づきました。

 

「ゲージが全部溜まってると、満開っていう変身ができるとか」

「あれ、せっちゃんのゲージは溜まってるね?」

「園子達にプレゼントされた奴がそのままだからねー。なんか精霊とセットで運用するらしいけど、友奈達には精霊がいないし、園子達に聞いてみるかにゃあ?」

 

 こうして、雪花は友奈と少し親しくなり、日々の交流が少しだけ盛んになっていくのでした。

 やがて、なにげない日常の雑談の中で、クラスの男子の視線やそれを気にする女子の感情を考慮しての立ち回りを考える雪花に、友奈が「皆の気持ちを考えたら良いんだよ」とあっさり答えて、雪花がやはり友奈は女王の器だと感じたりするのですが、それはまた別の話です。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 雪花が友奈に算数の授業をしていた頃、長野県某所にて。

 藤森水都はすっかり着慣れた巫女装束に変身して、白鳥歌野の元へと遊びに来ていました。友達の家に遊びに行くのに変身する意味は、水都の気持ちの問題でした。

 なんとなく、巫女装束を纏っていた方が勇気を出して何かができる気がしたのです。近所の人からイタいコスプレ趣味の子だと思われてしまう可能性はありましたが、それでも精神武装として水都は普段から巫女の格好をしていました。

 

「あら、みーちゃん今日もやる気満々ね!」

「う、うん・・・・・・。私にできる事って、これくらいだし・・・・・・」

 

 水都のような理由で装束を纏うのは、あまり褒められた事ではないかもしれません。

 しかし、歌野が家庭菜園で土いじりをしているのを眺めて楽しむ事にすら不安を覚える水都が思い出したように装束を纏う言い訳として、一回変身したら一カ所に大地の力を流すという誓いを立ててお役目を進めた結果、深夜にも水都単独でお役目が行われて、極めて短期間のうちに四国まで大地の力の網が広がってしまったものですから、何が良い方向に転ぶかはわかりません。

 

「でもね、諏訪の神様が、もうやる事は無いって・・・・・・」

「あら大変・・・・・・。ちょっと前に北海道を目指すって言ってたわよね?」

「うん、だけど流れの乱れが少なくて、三日で終わっちゃった・・・・・・」

「なんだか、ほとんどみーちゃん任せになっちゃったわね?」

「そんなことないよ・・・・・・。うたのんだって、東京でわたしが変な車に引きずり込まれても助けに来てくれたし・・・・・・。うっかり目を閉じてワープして岩の中に埋まっても助けに来てくれたし・・・・・・。うっかり深夜の海にワープしちゃっても助けに来てくれたし・・・・・・」

「みーちゃんは少しうっかりが多いけど、そのアグレッシヴさはなかなかグレートよ?」

「そんな、わたしなんてぜんぜん・・・・・・」

 

 ちなみに歌野は水都がトラブルに巻き込まれでもしない限りは日中にお役目をするだけで、深夜に地面へと謎の石を打ち込んで回る巫女としてネットで都市伝説扱いされているのに、まったく気にしていない水都の図太さを軽く尊敬しているのですが、水都のそれはお役目に依存して視野が狭くなっているだけなので、水都自身は何も誇る気になれないのでした。

 そもそも歌野に凄いと言われても自信を持てないのは、水都が思い描く理想が、友達と力を合わせてお役目を進めていく事だったので、それと乖離した結果を認めたくないという理由もありました。一人で先走ったり、友達の言う事を自虐で受け入れない態度を取っておきながら、誰かと協力してお役目を進めたいと思っている、水都のこじらせた感情は下手に理解しようとしてもかえって関係を壊すばかりの厄介な物でした。

 

「訂正、みーちゃんは私がいないとダメダメみたいね」

「う、うん・・・・・・。だからね、やる事が無くなっても・・・・・・」

 

 しかし、そのあたり歌野はいい感じに大雑把でした。

 

「みーちゃん、この畑を見てみなさい」

「えっ・・・・・・? うん、なんだかすごい豊作だね・・・・・・?」

「そう、私も最初はこんなに実ったのが嬉しかったけど・・・・・・」

「えっと、なんか気持ち悪い・・・・・・?」

「そう、それよ! なにこの、デキモノみたいなトマト! これは解決しないとマズいって、みーちゃんも思うわよね!?」

「う、うん、そうだね・・・・・・?」

 

 水都が満足していないなら、満足できる何かを一緒に探せば良いだろうと、次の行動を促すのが歌野の出した今回の答えでした。

 

「みーちゃん、セカンドミッションよ。どうすればこの畑がモアビューティフルになれるか、私と一緒に考えて頂戴」

「う、うんっ・・・・・・!」

 

 水都にとって、それはお役目が終わっても一緒にいてくれる何よりも嬉しい言葉だったのですが、歌野がそれを理解しているかはわかりません。

 しかし、水都は歌野の畑仕事を手伝うなら邪魔だろうと、巫女装束を脱ぎ捨てました。

 学校の制服は汚してはいけないからと歌野にズボンとシャツを借りて、歌野の隣に寄り添うのでした。

 

「やっぱり肥料の問題なのかしら・・・・・・」

「えっと、大地の力を畑に入れすぎたんじゃ・・・・・・?」

「チッチ、みーちゃん。農業はわりとケミストリーが重要よ?」

 

 初心者の水都に、歌野はミネラルが無いと植物は育たないと説明してくれました。大地の力とはどういう物かについては、それが流れ込んだ場所の植物が元気になるのは間違い無いのですが、どうして元気になるのかを水都は考えた事がありませんでした。

 

「まず、土の栄養状態が変わるかと思ったけど、そうじゃないみたい」

 

 なお、土を舐めてそう言う歌野は、本当にわかっているのか玄人ぶっているだけなのかわかりませんが、なんとなく格好良かったので水都としては高得点でした。

 

「うーん、栄養が無いと、育たないんだよね・・・・・・?」

「植物の気持ちがそのまま反映されて何にでもなってくれる不思議物質って可能性も考えたけど、そのわりにはなんていうか、形が歪なのよね」

「うん、こんな風になりたいって思った結果には見えないよね・・・・・・。この気持ち悪いトマトなんて、誰かの都合で歪んじゃったように見えるっていうか・・・・・・」

「やっぱりそう見える? まぁ、心当たりが無くはないんだけど」

「そうなの?」

 

 そして、水都が素人であるのを考慮しても、歌野は農業に関しては博識でした。

 

「トマトと共生してる、菌根が怪しいのよね・・・・・・」

「きんこん?」

「植物って、土の中の栄養を集めるのがわりと下手なのよ。だから、菌類の力を借りて土の中のミネラルを吸収したりしてるの」

 

 歌野が言うには、菌根を作る菌類はそれ自体はとても弱く、植物にミネラルを送る対価として糖類を貰ってようやく繁栄できる、植物に依存した生態を持っているそうです。しかし、植物が元気になれば菌類はそれだけ多くの恩恵を得られるので、必死に土の中に菌糸を伸ばしてミネラルを集めてくる、それは共存共栄の関係とも言えました。

 

「じゃあ、その菌根がトマトに悪さをしてるの・・・・・・?」

「悪さとまでは言わないけど、パワーバランスがおかしくなったのかもしれないわ」

「おかしくなると、どうなるの・・・・・・?」

「とりあえず、トマトが菌類の都合で成長したり実をつける関係になるんじゃないかしら?」

 

 歌野にそう言われると、水都は畑のトマトがなおさら不気味に見えました。

 それは水都の繊細さゆえかもしれませんが、歪な果実はまるでトマトが「これを食べるな」と言っているようにさえ見えてしまうのでした。

 

「・・・・・・うたのん、ちょっとこのトマト切ってみていい?」

「えぇ、いいわよ?」

「じゃあ、一個貰うね・・・・・・あ」

 

 そして、水都の感覚はどうやら正解だったようでした。

 不意に、水都の脳裏へ諏訪の神様から神託が降ってきたのです。

 

「うたのん、このトマト食べた?」

「ちょっと気持ち悪くてまだだけど、どうかしたの?」

「諏訪の神様が、このトマトは食べちゃダメだって」

「神様が言うって、それってよっぽどよね?」

「えっと・・・・・・。因子が体に入り込んで・・・・・・」

「因子?」

「えっと・・・・・・。寄生するって・・・・・・」

「ホワッツ!? パラサイト!?」

 

 菌類のそれは悪意ではないのでしょう。

 ただ、自分達の生息域を広める為に共存者であるトマトを支配下に置いて、トマトを管理する人間にも干渉を試みる、生存戦略なのでしょう。

 しかし、歪なトマトを見ていると、それに支配されて幸せな結末が訪れないのは間違いないと、水都は感じてしまうのでした。

 

「・・・・・・園子ちゃん達も、流石にこんな事になるとは思ってないよね?」

「どうかしら? でも、一度きちんと聞いておいた方が良さそうね」

 

 水都は急に怖い事になってしまったと思いつつ、妙に冷静な部分もありました。

 それは、これがどこかで聞き覚えのある話だったせいでしょう。

 食べ物を介して体に何かが入り込むのは、神話や昔話に限らず、ありふれた話です。

 わざと大げさな例え話をすれば、旧約聖書の禁断の果実もそのうちの一つです。

 人類は蛇に誑かされて楽園に生えていた知恵の木の実を食べて、神様によって楽園から追放されたそうですが、蛇に誑かされた人類の罪は、そのまま全人類について回る原罪になりました。

 食べ物一つで神様に嫌われるなら、何かに寄生されるくらいは当然あると思う水都なのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 水都と歌野が諏訪の神様の指示に従って菌類の野望を阻止しにかかった一方、四国某所、神樹様の根本近くにて。

 上里ひなたは、乃木若葉と一緒に土地のお清めをしていました。

 

「神樹様が汚い場所に降りたというのは比喩ではなかったのですね」

「球子と杏は、特にそういう事は言ってなかったんだがな・・・・・・」

 

 土居球子と伊予島杏によれば、大社の結界の内部は綺麗に整えられているという話でした。

 しかし、ひなたが若葉と一緒に、ワープ先の座標から調べた神樹様の結界の外側へとやって来たところ、そこは産業廃棄物の不法投棄事件で有名な場所でした。

 どうしてこのような場所に降り立ったと文句の一つも言いたいところですが、助けたい相手が近くにいたからだと言われては何も言えません。

 

「ただのゴミ拾いと思ったら発電所のプールから金属塊を回収させられたり、不法投棄事件の後片づけをさせられたり、正直わりに合わない気がしないでもないが・・・・・・」

「あら、プールは若葉ちゃんが進んで引き受けたのでは?」

 

 ちなみに、ひなたが若葉に協力して進めていた発電所のプールの溶けた金属塊を片づける仕事は、元々は園子達が個人的に行っていた仕事でした。しかし、園子から捨てられた子犬のような顔で若葉が見つめられていた頃があり、視線に耐えかねた若葉が相談に乗ったところ、園子が金塊を売って資金調達しようとしたところトラブルに巻き込まれて、悪い大人に仕事を押しつけられてしまったという話を聞かされてしまったのでした。

 こんな大失敗、誰に相談して良いかもわからないと園子に泣きつかれた結果、若葉とひなたは仕方なくそれを手伝う事になったのでした。

 

「まぁ、園子が困っていたのだから仕方ないだろう・・・・・・」

「あらあら、若葉ちゃんは園子さんがとても心配なのですね」

 

 初対面で園子を怪しい奴と断じた若葉がそこで助けようと考えたのはおかしな話ですが、若葉はなぜか園子の落ち込んだ様子に我慢がならなかったそうです。若葉は正義感の強い子ですが、それにしてもまるで家族が誰かにいじめられように怒って、ひなたにも手伝ってほしいと言い出したのには、当時のひなたも驚いたものです。

 

「だいたい、ひなたも園子を助ける時にどういうコネだか知らないが警察と連絡を取っていたり、いろいろやっていたじゃないか」

「あれは警察ではなく及川さんですよ」

「及川さん・・・・・・誰だ?」

「園子さんから頂いたデジタルカメラ。流石に子供が買えるものではなかったので、誰か大人の方が背後にいるだろうと、落とし物を拾ったという体で購入者を調べたところ、及川さんという北海道の偉い方が購入されたとわかったのです。そちらはお話をした限り、悪い大人ではないようでしたので園子さん達の状況を説明して、ご協力を願う形に」

 

 しかし、そんなプール掃除も少し前に終わりました。園子達が金塊で資金を用立てる約束で祠を建てる土地等を確保していた及川さんの助けもあって、園子達の金塊を取り上げようとした悪い大人も適切に処理されて、園子達は金塊の処分をこの切羽詰まらなければ信頼できる大人に任せて、無事に潤沢な資金を手に入れる事ができたそうでした。

 

「さて、それよりもこちらのお掃除に取りかかりましょうか」

「大人がもう十年以上掃除を続けて、まだ片づいていないコレを私達だけでどうにかするのは難しいんじゃないか?」

 

 とはいえ、そんな既に終わった仕事はさておき、目の前の仕事へ目線を戻します。

 ひなたが新聞で調べた限りでは、この土地の表面を覆っていた産業廃棄物は91万トンと見積もられており、その大半が大人によって搬出されて再処理されたそうですが、あくまで表面を覆っていた物に限られるそうで、化学物質も重金属も適当に野焼きで処分していた業者によって汚染された土を含めば処分すべき廃棄物は見積もりの二倍以上とも言われているそうです。そんな土壌の浄化はゴミ拾いでどうにかなる話ではなく、自然の力に頼るしか無いと考えるのが常識的でしょう。

 

「いえ、水都さんと歌野さんが諏訪と繋いでくださったので、そこはなんとかなるようです」

 

 しかし、そういった常識に囚われない神様というのが、この世界にはいるそうです。人間が恐れる悪い物を引き受けて溜め込んでくれる代わりに人間が扱いを間違えると悪い物が溢れ出してしまう、祟り神の一種をひなたは神樹様から神託で紹介されたのでした。

 

「諏訪から、祟り神様に少し来ていただこうかと。大丈夫ですよ、温厚な神様のようですから」

「ひなたが大丈夫というなら、信じるが・・・・・・」

「ただ、祟り神様を呼ぶ儀式には少し時間もかかり、この土地に住んでいるあまり宜しくない何かが私を排除しようとする可能性もあるので、若葉ちゃんには私の護衛をお願いします」

「了解した。全霊を以てひなたを守ろう」

 

 そして、ひなたのお願いに、若葉は今回の仕事の為に神樹様から授かった刃を構えて応えます。

 この"大葉刈"という刃は、穢れた物を切り捨てるのに威力を発揮するそうです。

 日本刀と違って鎌のように内反りになっていますが、古い剣にはこういう形がよく見られます。藤原さんの氏神様が国譲りの際に振るったとされる剣も、やはり内反りが特徴的な剣です。

 

「では、始めます」

 

 若葉が幼い頃から居合いの稽古で扱っている刀とは異なりますが、刃の重さで姿勢を崩さない基本は同じ、ひなたは若葉を信頼して儀式を始めるのでした。

 ひなたが祝詞を唱え始めると、剣呑な気配を感じたのか、球子や杏の話で聞いたような白くて細長い虫が地面から湧き出て来ますが、若葉が刃を振うと容易く一刀両断されて消えて行きます。

 そして、ひなたの周りに諏訪からの大地の力の流れに乗ってやってきた祟り神の使いである無数の蛇が現れ始めると、虫が一転して逃げに回ります。しかし、蛇達の勢いが増して、やがて海嘯のような群れが大地を舐めて泳ぎ回り始めると、お腹を膨らませた蛇達がチラホラ見られるようになり、虫の末路が察せられました。蛇の数はとても数万で収まるものではなく、数百万にも及ぶ大群が見渡す限りの大地を波打たせて、儀式の開始から三時間ほどかけて地面を舐め尽すと、ようやく全てが諏訪へと帰って行きました。

 

「・・・・・・なんとも、大がかりな儀式だったが、大丈夫かひなた?」

「はい、ご心配ありがとうございます・・・・・・」

 

 しかし、若葉に大丈夫だと言う一方で、ひなたも流石に疲れました。

 ボタン一つで世界が揺れ動いたような気疲れと、こんな祝詞一つで大地を裏返してしまうような存在が天地に数多く存在しており、それらが鎮まる場所が無い事への不満を抱えているという現状への恐怖が、ひなたの精神を数時間でひどくすり減らしたのでした。

 

「このような神と共存するだけの自信ですか・・・・・・」

 

 いつか園子が言った事に対して弱音も漏らしてしまいましたが、それも気疲れのせいでしょう。

 

「あぁ、園子が言っていたな。このお役目を通じてそれを身につけろという話だったか」

「はたしてそれは可能なのでしょうか」

 

 ひなたは蛇達が泳ぎ回ってふかふかに耕されてしまった足下の地面を踏みながら、これがどこまでも続く景色に圧倒されてしまうのでした。

 

「ふむ・・・・・・。見たところ蛇一匹は大した存在ではなかったようだが?」

「いえ、ですが・・・・・・。あぁ、なるほど・・・・・・」

 

 しかし、若葉の言葉で、ひなたも少しだけ平静を取り戻す事ができました。

 これも当初から言われていた通りでした。

 だから仲間を大切にするのです。

 

「とはいえ、現代は皆で心を一つにという時代ではないからな・・・・・・」

「あら、若葉ちゃんたらお爺ちゃんみたいですね? 世も末だと?」

 

 ところが、それで綺麗に終わらせないのが若葉らしさでした。

 

「いや、正解が一つでない、良い時代だよ」

「えぇ、そうですね・・・・・・」

「千景さんとも、うどんが好きな事を除くとほとんど趣味も性格も別だが、不思議と気は合った」

「千景さんですか・・・・・・」

 

 若葉はよほど千景との仲直りが嬉しかったのでしょう。

 しかし、千景が出て来て、ひなたの心は一気に重くなりました。

 たしかに、若葉と千景はうまく仲直りできましたが、それはお互いの心に余裕があればこその、スリリングな関係だとひなたは傍目から見て感じていました。

 

「あまり火遊びをしすぎてはダメですよ・・・・・・?」

「む・・・・・・? どういう事だ?」

 

 ひなたの内心に、親友の気を引く千景への嫉妬が無いわけではありません。しかし、それをさておいても、若葉と千景をこの世の多くの人間関係に当てはめるのは恐ろしい話でした。

 秩序の崩壊がいつやってくるか、わかったものではないのです。

 

「・・・・・・・・・」

 

 もっとも、若葉と千景であれば、破滅的な大喧嘩をして仲違いをしても、また仲直りをするのでしょう。そういう意味では、若葉と千景の世界は儚くも、希望がある世界と言えました。

 

「あぁ・・・・・・」

 

 ひなたの千景に対する感情的な見くびりは、やはり千景への嫉妬ゆえなのでしょう。しかし、若葉の友達が増えるのは喜ばしい事の筈なのに、こんなにひなたの心に暗い感情が湧き出てくるのは、諏訪から祟り神を呼んだせいで、何か良くない物に触れてしまったのかもしれません。

 そうでなくては、こんな醜い嫉妬の情があるなど、ひなたは考えたくもありません。

 

「さて、今日の仕事も終わった。帰ろうか、ひなた」

「あ・・・・・・。はいっ・・・・・・」

 

 ひなたのおかしい様子を見て、若葉が黙って手を繋いでくれたのも、心の繊細な人を気遣う事を覚えたおかげなのでしょう。ひなたは若葉の一番を譲る気はありませんが、こういうささくれた心に踏み込まない気遣いを若葉に教えてくれた事については、千景に感謝するのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 それぞれにお役目は進み、某月末日、乃木家の離れ屋にて。

 最初の一ヶ月を締めくくる、週末の集会がやってきました。

 

「思い返せば早くも第四回、勇者パーティを開催しま~す!」

 

 いつもは園子の司会進行で、皆で一緒におやつを食べたり遊んだりするのがお決まりです。

 

「・・・・・・でも、今回はちょっと大事な話をしないといけないんだ~」

 

 ただし、今回に限って集会の流れはお決まりではありませんでした。

 この議題に関する話し合いの結果によっては、今回で勇者達が集まるのも最後になるかもしれない、とても重要な話があると園子が切り出すのでした。

 

「園子くん、私達は大丈夫よ」

「うん、園子ちゃん達が、ちょっと心配だっただけだから・・・・・・」

 

 園子が話の内容を伝える前に、歌野と水都がわかっていると言い、歌野が球子と杏に目配せをすると二人も頷いて、既に四人は大丈夫だと言ってくれましたが、残りの反応は未知数でした。

 そして、園子だけでなく銀と須美も、議題を並べたホワイトボードの前に並んでから、園子が言葉を選びつつ自分達の正体を明かすのでした。

 

「な・・・・・・っ! 園子が私の子孫だと・・・・・・っ!?」

 

 しかし、残念な事に勇者達の反応は期待外れな部分が多々ありました。

 

「じゃあ須美は・・・・・・千景の子孫か? それともひなたか?」

「土居さん、黒髪で適当に言ってない・・・・・・?」

「じゃあ、銀さんはどなたの子孫なのでしょう・・・・・・?」

「髪の色は・・・・・・なんとなく私に似ているが・・・・・・」

 

 誰が誰の子孫かとあれこれ想像を巡らせる勇者が数名。

 

「えっと、神様とうまくできなくって、仲直りしたくて頑張ってるのは私達と一緒だよね、せっちゃん?」

「だねぇ、だけど喧嘩腰の神様に絡まれるなんて大変だよ」

 

 一方で、園子達の話を聞いて、力を貸すと言う勇者も少々。

 

「どうしましょう、母性の強い若葉ちゃんなんて、新発見です・・・・・・!」

「母性!?」

「だって、ろくに事情も知らないのに園子さんの事を放っておけないと心配そうにしていた若葉ちゃんが園子さんと血縁関係だったのですよ!? これは本能的に子供を嗅ぎ分けて愛情を注ぐ母性の塊としか・・・・・・!」

「私はまだ小学生だぞ・・・・・・」

 

 そして、よくわからない方向で興奮している勇者と、それに辟易としている勇者もいましたが、総じて状況の理解に躓いている感がありました。

 

「須美くん。とても大事な話だけど、神樹様の中に変な虫がいた、神世紀の人類は神樹様の恩恵で作られた物ばかり食べていた。これらの話は本当?」

「はい、虫は私達が見ただけですが、食べ物については三百年ずっとそうだと聞いています」

「そう・・・・・・。一度、諏訪の神様に診てもらいましょう」

「えっ?」

「変な寄生虫をお腹に飼っているかもしれないわ」

「なんで寄生虫の話に!?」

 

 なぜか、歌野がカタツムリを操って鳥に食べさせる動きをさせる寄生虫について懇切丁寧に須美に説明して話の流れを乱して来ることもあり、残念ながら質疑応答を通じて理解を得ようとした園子達の努力はそれほど報われませんでした。

 

「そういえば園子、私のスマホにだけついてきた、この精霊ってなに?」

「近くの神様が、勇者を補助する為に降臨してくれた借りの姿なんよ~」

「ほぉ、満開とセットなのは何か理由があんの?」

「満開の力は反動が大きいから、精霊が肩代わりしてくれないと大変なことになるんよ~。私達のは、神樹様が肩代わりしてくれてたみたいだけど~」

「え、この精霊ってば、そんな自己犠牲の精神で私の近くにいたの? ・・・・・・え、散華は絶対に嫌だからそのまま優しい雪花でいてくれ? あー、押しつけられた仕事なのね、神様業界も世知辛いにゃあ・・・・・・」

 

 やがて、満開についての話になったところで、話し合いは行き詰まりを見せました。

 

「なぁ、杏・・・・・・?」

「うん、タマっち。やっぱりおかしいって思うよね・・・・・・?」

 

 雪花の質問への園子の回答に、球子と杏が首を傾げたのです。

 そんな神様ばかりに不都合を押しつけるシステムを自分達は使っているのかと。

 この一ヶ月、神様と親近感を強める出来事ばかり続いていた西暦の勇者達にとっては、神様との喧嘩よりも神様に犠牲を押し付ける方が強い違和感のようでした。

 

「神様ならいくらでも不都合を押しつけて良いと思ってるのかしら?」

「千景、園子達がそれを命令していたわけじゃない」

「それくらいわかってるわよ・・・・・・。園子さん達には恩もあるし・・・・・・」

 

 しかし、神様に支えられるのが当たり前の神世紀で、命をかけていた園子達には仕方のない犠牲に見えていたものが、平和な西暦の勇者達には許容できないのはある意味では想定内でした。園子は全てを知らせる事を優先して、神樹様の散華についても説明をしましたが、それによって神様との喧嘩程度は気にせず好き勝手にいろいろ話をしていた勇者達は明確に三つのグループに分かれる事になりました。

 

「その大赦っていうのは、神様を玩具とでも思っているのかしら・・・・・・」

「千景、落ち着け・・・・・・。しかし、大赦・・・・・・球子達がお役目をしていた大社と関係があるのか・・・・・・?」

「あー、大社虫に取り付かれた人間の主張、照がなんか言ってたよな?」

「神樹様を皆のために効率良く使うべきだって主張だよね・・・・・・」

「大丈夫、あんたを道具扱いなんてしないって。誰だってそう思うよ、私だって命は大事だもの。とんだ貧乏くじを引かされたって気分だよね」

「神樹様が可哀想・・・・・・」

 

 神樹様に同情して、園子達はともかく大赦が信じられないという勇者が六名。

 千景、棗、球子、杏、雪花、友奈のグループ。

 

「これも真っ当な生存戦略なのかしら?」

「やっぱり気持ち悪いかも・・・・・・」

 

 園子達にすら含みのある視線を向ける勇者が二名。

 歌野、水都のグループ。

 

「園子達が最善を尽くした結果がそれなら、何も言う事は無い」

「若葉ちゃんは、園子さん達の過去に口を出す気はないのですね」

「とはいえ、これから進む道については相談してくれるのだろう?」

「私も、園子さん達の力になりたいのは同じ気持ちですよ」

 

 そして、園子達に寄り添ってくれたのは若葉とひなたの二名だけでした。

 しかし、二人でも味方がいる事に感謝しつつ、園子は残り八人の説得に取りかかります。

 

「うたのんとみとみとは、私達が信じられないかな~?」

「私としては、神樹様のご褒美なんて虫下しがあるから、それで園子くん達がリフレッシュしてくれたら良いかなって思うんだけど。園子くん達の話を聞いていると、どうも何かされてるんじゃないかって不信感が先に出ちゃうのよ」

「せめて、誰か神様には診てもらった方がいいと思うな・・・・・・」

 

 しかし、この二人については天の神様から「がっつり寄生されてるよ」と神託が須美に下されて説得に失敗するのが僅か十秒後で、月の神様から「あえて放置していると思っていた」と呆れたような神託が下されたのが十二秒後の事でした。

 

「え、え・・・・・・?」

 

 それはまさしく予想外の返り討ちと言うにふさわしい状況でした。須美など神託を直接受け取った立場でありながら状況を飲み込めず、どうしてそうなるのかと、立ち尽くしていました。

 

「えっと・・・・・・。マジ?」

「大マジよ」

 

 銀が搾り出した質問はほぼ無意味でしたが、神様ぐるみのドッキリではない事は判明しました。

 

「えっと、いつの間に入り込まれちゃったのかな~?」

「生まれたときからじゃないかしら? 園子くん達の時代にも、例の虫って神樹様の中にいたんでしょ?」

「いたいた。三年くらい前にまとめて退治したけど」

「で、神世紀の人類の主食は神樹様の恵みで作られる物でしょ? 疑うわよ」

「え、え・・・・・・えぇっ!?」

「お、須美も追いついてきたか? いや、焦るよなマジで。銀様の目を以てしても見抜けなかったっていうか」

 

 園子も内心は冷や汗が止まらない気持ちでした。

 神樹様を操ろうとする虫ぐらいの認識だった物が、神世紀の人類に遍く寄生している可能性があると言われては、どうして神樹様の散華から間もなく月の神様が人類を滅ぼしにかかったのか、わかる気がしてしまうのでした。神樹様に三百年も寄生して利用し尽くした存在が宿主を無くしたとして、それをどうして神様が放置しておくでしょうか。

 

「それじゃあ、園子くん達のリフレッシュについて考えましょうか」

 

 歌野によって話し合いの再開が提案されて、園子もようやく気を取り直します。

 しかし、歌野が最初から球子と杏に話を通しておいたせいで、神樹様にお願いして虫を追い出してもらう以外の選択肢は無く、園子達は歌野の言う通りにせざるを得なくなったのでした。

 なお、虫と一緒に園子達の身体の中に宿っていた神樹様と聞いていた何かが追い出されて丸っこい牛のような精霊になりましたが、それはまた別の話です。

 

 

 

(つづく)

 




話をきちんと作れる人がうらやましい。
とりあえず最後までは書きます。


悪人がいない神世紀の裏に対して巡らせる暗い妄想と
神婚が無ければ大赦関係者はまたろくでもない事をしたんだろうなという妄想と
実は神樹様も神婚に便乗した連中は嫌いだったんじゃないかという妄想が
本作の気持ち悪い虫を作りました。
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