西暦勇者行進曲-暗躍する謎の三人組-   作:黒歴史ノート

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05. 一人で立っても手を繋ぐ、勇者達の行進曲

 そこは、とある会社の研究室。

 古い時代を感じる、規格違いのLANケーブルの詰まった段ボール。

 ケーブルから樹脂皮膜を剥がすニッパーとハサミの工具箱。

 フロッピーディスクが詰まったプラスチックケース。

 リピータハブ、ブリッジ、その他の機材が大切そうに保管された鍵付きの棚。

 そんな用途のわからない物が所狭しと並ぶ部屋に、秋原雪花はいました。

 

「これが、新しいスマホですか?」

 

 雪花が手元のスマホについて敬語で問いかけるのは、壮年の男性です。

 

「ひとまず形にはなったので、お披露目しようと思ってね」

「私達が最初に望んだのとは違う形だけど、これはこれで悪くないかなって~」

 

 その男性は乃木園子により、新しい勇者システムの開発を依頼されていた人物でもありました。

 会社に趣味で残しておいた研究室で、昔の仲間と暇を見つけて作ってみたそうです。古びた研究室の一角に、園子から送られたという妙に真新しいサーバとパソコンと、それと不釣り合いな注連縄や琴、磐笛、勾玉、蛇の抜け殻、液体の詰まった瓶などの異物が並ぶのは奇妙ですが、それらの組み合わせで勇者システムは作られたそうです。

 

「ちなみに、どういう機能になったんですか?」

「まず、基礎的な勇者の機能は、大幅にカットした」

「カットしたっていうか、実現できなかったんだよね~」

 

 そんな勇者システムの概要は、次のようなものでした。

 

「当然だが、人間だけで出来る事には限度がある。神々の祝詞によって、神々の領域と人間の領域の区別をつけられるようになったが、そこから逸脱するのは人間の力だけでは不可能だった」

「えっと、それじゃあカットされなかった機能は・・・・・・?」

「記憶力の向上、情報処理能力の向上、五感の最適化、運動の最適化、肉体的な回復力の向上、といったところだな」

「変身は?」

「カットした」

 

 人間が動かす基礎部分は、ろくな機能をつけられず、せいぜい何も訓練を積んでいない小学生女児が、空手黒帯の成人男性を制圧できた程度だそうです。ちなみに、その実験は社長である男性の娘さんと、会社の部下を戦わせた結果だそうなので、いくらかは上司への忖度があったかもしれませんが、厳密なところは定かではありません。

 

「まぁ、物理的な側面はその程度だが・・・・・・」

「他に、何かあるんです?」

「あぁ、霊的な存在への抵抗力は既存のシステムとは比較にならないほど向上した。既存のシステムがまったく人間側の可能性を考慮していなかったせいだが、園子くんの紹介してくれた霊障に遭っている人間で試したところ、強い除霊の効果が確認できた」

「ほぅほぅ、なんだかメンタルも強くなりそうですね?」

「性格を矯正する効果は無いが、精神面の安定をもたらす効果はあるようだ。なにせ、うちの娘はこれでアイドルのオーディションに通ったからな」

「うわ、すごいドヤ顔・・・・・・」

 

 あくまで人間としての能力向上であり、とんでもない奇跡を起こすような力は、新しい勇者システムの基礎部分には存在しないようでした。

 

「とはいえ、うちの娘は不満だったようなので、機能を付け足した」

「けっこう我が儘ですね、娘さん」

「そこが可愛いのだ」

 

 そして、奇跡を起こす力は、やはり神様に頼るしか無かったそうです。

 

「近くにいる神に呼びかけて、相手の応じる範囲で力を行使できるようにした。主導権はあくまで人間で、それで良ければ神が応じる形式だ」

「つまり、神様にお願いを聞いてもらうってことですか?」

「強制力は無く、神々の好み次第だがな」

「せっちゃんなら大丈夫なんよ~」

 

 とはいえ、それでも雪花であれば大丈夫だろうと、園子は言うのでした。何の根拠も無いのですが、雪花が助けてと言えばそれに応じる神様は大勢いるだろうとは、園子の談です。

 

「こちらから神々へ呼びかける際には、変身だけでほぼ神々の負担が無いごっこ遊びプランから、既存システムと同レベルの負担を神々が背負う重課金プランまで五段階で要求を出せる。どこまで勇者に貢ぐかは神々次第、"うちの娘と違って"最初から選ばれていた勇者がどれほどの物なのか、今日はしかと見せてもらいたいものだ」

 

 ちなみに、ごっこ遊びプランは、既存のシステムと比べれば完全に玩具だそうでした。

 

「・・・・・・社長さん、娘さんの結果があんまり良くなかったの?」

「ごっこ遊びプラン以外に応じてくれる神様はいなかったみたい~」

「なるほどねぇ・・・・・・。園子、ちょっと試しに乗り換えても大丈夫?」

「大丈夫なんよ~」

 

 そして、雪花がスマホ乗り換えると、幸いにして雪花の精霊はそのままついてきてくれました。

 雪花のお役目を進めるのに必要な肉体強化については、精霊の方もノリノリのようで、いつでも好きなだけ使って良い契約を結んでくれました。

 なお、ワープ機能は体力の消費が激しいから園子達がいなくなったら一週間に一往復くらいにしてほしいとの事でしたが、それだけでも雪花としては申し訳ない気持ちになりました。

 

「まぁ、それと気づかず犠牲を押しつけるよりはマシかな・・・・・・?」

「わたしも、西暦ならこのシステムでも悪い事にはならないかなって~」

「最上位プランで即契約・・・・・・だと・・・・・・」

 

 しかし、園子曰く、多機能高性能が約束された勇者システムは園子達がいなくなれば失われて、雪花達はこの神様へのお願いを適宜行う勇者システムに慣れなくてはいけないそうでした。

 ちなみに話は変わりますが、この勇者システムは神世紀に持ち帰っても使い道があるそうです。これは先ほど話に出てきた除霊効果に期待しての事でしょう。園子達の世界の人々は神様に依存した虫をお腹に飼っているようですから。園子達が別の手段で虫を追い出してしまっていたのはもったいないですが、あれは十人の勇者が納得する儀式の意味もあったので仕方がありません。

 

「じゃあ、これとは別に勇者システム作るの? 隕石をどうにかするんだよね?」

「あ、それは天の神様に相談したら、説得を手伝ってくれるって~」

 

 なお、数か月後、園子達はあちらに救援に赴いてくれた天の神様が迷わず巨大隕石に向けて天沼矛を打ち込んで、説得とは何だったのかと呆気にとられるのですが、それはまた別の話です。

 日本神話ではご飯を作ってくれる神様を殺した月の神様に対して、天の神様の好感度はとても低いそうですが、園子達が困っているのにずっと日和見を決めていたうえに追い打ちを仕掛けた事への叱責の意味もあったのかもしれません。

 

「それじゃ、もう残った問題はあの牛の扱いだけ?」

「神樹様の一部みたいだけど、正体がよくわからないんだよね~」

 

 なお、隕石が解決した途端、丸っこい牛の精霊を核にして神樹様をもう一度降臨させようとした大赦に対して、名状し難いマスコットが激怒してまた一悶着あるのですが、それもまた別の話です。神様の恩恵を打ち切られて国の混乱を招いた大赦に対して、新しい勇者システムを使って虫下しをさせようとする園子達と、それを嫌がって逃げ回りつつ神樹様をなんとしても呼び出してやると執念を燃やす大赦の鼬ごっこは、大赦の求心力が致命的に低下して、日本国政府に大赦の居場所が無くなっても続くのですが、西暦においてはあまり関係の無い話です。

 

「まぁ、そっちは園子達に任せて、私は粛々と祠作りを進めるかね」

 

 それから二ヶ月後の西暦においては、高天原に避難していた神様達が降りてくる祠が完成して、神様達の地上復帰は順調に進められるのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 しかし、何事も話が進むごとに問題は起きるものです。

 二ヶ月後の東京某所、古びたアパートの廊下。

 郡千景と古波蔵棗は、わざわざ沖縄から東京まで出張する羽目になっていました。

 

「ここにいるの・・・・・・?」

「水虎はそう言ってるが・・・・・・」

「私の七人ミサキもそう言ってるけど・・・・・・」

 

 二人の傍らには、新しい勇者システムに応じた、神様の精霊がいました。

 千景と棗はそれぞれ七人ミサキと水虎と呼んでいますが、昔から人間の近くで暮らしていた神様だそうで、人間への好奇心が強いのが良くも悪くも特徴的でした。

 

「扉に鍵はかかってるけど・・・・・・行きなさい、七人ミサキ」

「(ピッ)」

 

 七人ミサキは千景の指示に従って扉をすり抜けると、アパートの部屋へ侵入し、鍵を開けて千景と棗を招き入れます。

 

「よくやったわ」

「いちいち家に鍵をかけているのか・・・・・・」

 

 控えめに言っても不法侵入なのですが、好奇心の強い精霊はあちこちの神様と連絡を取り合い、気になる事を伝えてくるから仕方ありません。

 

「なんだか臭うな・・・・・・」

「さて、問題の子は・・・・・・いた」

 

 二人が部屋へ入ると放置された排泄物の臭いが鼻をつきますが、長居はしません。

 

「この部屋にいるのは、この二人だけね?」

「(コクコク)」

 

 千景と棗の今回のお役目は精霊が言うところでは、アパートの部屋に閉じ込められている二人の幼児を児童相談所へ連れて行くだけの簡単な物でした。児童相談所の職員に怪しまれて千景達まで捕まりそうになりましたが、幼い命を二つ預けて、逃げ切ってお役目は完了です。

 

「はぁ・・・・・・。それにしても、どうして私達が東京でお役目なんて・・・・・・」

「うっかり、東京から来た人間をスカウトしたのが失敗だったか・・・・・・」

 

 わざわざ千景と棗が沖縄から東京へ来ているのは、地上に神様が降りてくるようになった事が、大本の理由としてありました。神樹様のように、人間に好意的ゆえに困った依頼を投げて来る神様が増えて、勇者を探さなくては手が足りなくなってしまったのです。

 そこで、千景と棗は身近にいた精霊にスマホのLINEで相談してみたのですが、たまたま精霊に勧められるままスカウトした近くにいた少女が、終戦記念日に沖縄に来ていただけの東京の少女だったのが失敗の始まりでした。人材が大勢いるに違いない東京への繋ぎにできる一方で、東京にいる大勢の神様達の困った声を吸い上げるパイプになってしまったのです。

 

「東京で勇者は順調に増えているみたいだから、あと少しの辛抱の筈だけど・・・・・・」

「夏の海が呼んでいるのに、遊べないのは辛い・・・・・・」

 

 なお、コミュニケーション能力に難のある、千景と棗が人材を探したり教育を施したりするのは控えめに言っても無理難題でした。沖縄に来ていた最初のスカウト勇者がコミュニケーション能力に優れた勇者でなければ、二人は小学生にして過労死していたかもしれません。

 

「高嶋さんの方は、小学校で勇者候補を探すと言っていたけど、うっかり厄介ごとに巻き込まれていないかしら・・・・・・?」

 

 そんな自分達を省みて、千景はしばらく週末会議以外でコミュニケーションが取れていない、仲間の事を思うのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 再びところ変わって、奈良県某所、小学校の放課後の教室にて。

 高嶋友奈は、友達と一緒に勇者の心構えを考えていました。

 

「えっと、よく寝て、よく食べるっと・・・・・・」

 

 友奈は幸い、三人も勇者になってくれる友達を見つけていました。

 皆で楽しく勇者をする標語を作り、心も浮き立つ気分でした。

 なので、いくつか紙に書き出した標語も、どれも友奈のようにふわっとした心構えになってしまいましたが、このくらいふわっとしていた方が自分でも勇者になれると見た人が感じるだろうというのが、友奈の考えでした。

 

「次は、なせばなる・・・・・・?」

「なせば大抵なんとかなる、かも。大抵がなかったらパワハラかも」

「ひっ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

「お前、パワハラとか言いつつ上から目線で物言うのやめろよな」

 

 とはいえ、四人もあつまると意見はバラバラです。

 意見をまとめるまでに、友奈はそれはもう苦労もありました。

 

「あ、無理と思ったら誰かに頼る、とかほしいかも!」

「お前、もう標語は絞っただろ。しかもまた楽な標語を――」

「あと、無理なときは無理せず自分を第一、とかも良いかも!」

「カッコ悪っ」

 

 勇者に対する考え方もそれぞれ違うようで、やる気の強い人、それほど無い人で、やる気の強い人がイライラしてしまう場面もありました。

 

「っていうかお前、本当に勇者になるつもりあるのか?」

「えー、勇者でも、無理な物は無理かも」

「そんな考えで勇者をやるとか言って――」

「えっと、それは『悩んだときは相談』かな? すぐに無理って言うのは断られた子が可哀想だから、ちゃんと皆で考えてから答えるみたいな?」

「うーん、それならいいかも・・・・・・?」

「チッ・・・・・・」

 

 ちなみに、友奈の神様の道作りのお役目は、幸いにして月の神様だけでなく、高天原の神様達が磐船の撤去作業を手伝ってくれたり、簡単な道の補修を自分達で行ってくれたので、大した苦労も無く終わりました。もしも、この三人を引き連れてお役目をしていたらかなり大変になっただろうと、友奈が内心で胸をなで下ろしたのは誰にも言えない秘密です。

 

「勇者になったらどんな精霊が来てくれるのかな・・・・・・?」

「あたしは絶対、高嶋のドラゴンみたいにカッコ良いのがいい」

「わたしは癒し系のマスコットがいいかも!」

 

 なお、この三人のうち一人の呼びかけにごっこ遊びプランですら神様が応じてくれず、奈良県の勇者候補のグループは結成直後から崩壊の危機に陥ったりもしましたが、それはまた別の話です。

 そして、こんな三人をまとめるのにも苦労している友奈は、十人も集めて話し合いをしていた園子達を少しだけ尊敬しました。

 

「タマちゃん達の所は一人だけだからいいなぁ・・・・・・」

 

 そして、少しだけ贅沢な事を呟き、教室の天井を仰ぎ見るのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 さらに場所を変えて、四国の某所にて。

 一人の少女の変身姿を見て、土居球子は驚愕していました。

 

「お前、ふざけてるのか!?」

「タマっち、落ち着いて・・・・・・!」

「お前はまさか、須美の先祖なのか!?」

「ひょっとすると縁があるのかもしれないけど・・・・・・落ち着いて!」

 

 球子達が新しい勇者候補だといって園子から紹介された少女は、園子曰く、精霊にも好かれて勇者システムを使いこなせるうえに礼儀正しい、かなり理想的な少女だそうでした。

 しかし、球子はどうしても許せませんでした。少女が変身して身に纏った、ピッチリとした勇者装束が強調する小学生とは思えない双丘が。

 

「タマにはわかるぞ! そんなのが許される須美の関係者だけだって!」

 

 二次性徴には個人差があるので仕方がありませんが、初対面でよく男の子と間違われる事もある球子と違い、小学三年生だというのに早くも胸が膨らんで腰回りにもくびれが存在する杏を、さらに四つほどランクアップさせたような体型はいくらなんでも許せませんでした。杏は可愛らしい女の子らしさの範囲で、年上の須美はそもそも控えめな衣装で体型を隠しているので球子も目を瞑りますが、小学生の癖に女の武器をこれでもかと見せつけるようなボディラインを強調した勇者装束に対して、球子は堪忍袋の緒が切れる寸前なのでした。

 

「おかしぃだろぉ!? なんでそんな物が、お前にばっかりぃ!」

「あの・・・・・・土居様はいったい何をおっしゃって・・・・・・?」

 

 そして、少女が小首を傾げたときに、その黒髪が胸の輪郭に沿って丸い曲線を描いたのが、球子の最後の一押しになりました。

 

「もう許さん! もいでやる! 覚悟しろぉ!」

「きゃっ!? おやめください・・・・・・!?」

「やめて、タマっち! 照さんから預かった大切な子なのに・・・・・・!」

「いやだ、タマはこのぼた餅だけは絶対に許さん!」

 

 そもそも交通事故で意識不明だったうえに神様に愛された黒髪巨乳の美少女でしかも勇者なんて属性を盛りすぎ、せめて胸くらい捨てて対等になれと、わけのわからない理屈をこねて球子は少女に襲いかかるのでした。

 少女は母親から、球子と杏は恩人なので失礼な事はしてはいけないと厳命されており、球子に逆らえないのですが、その従順な姿勢もかえって球子の火に油を注ぎました。球子も女だというのに、征服欲が満たされるような、危ない感覚が湧いてしまうのです。

 

「な、なんだこいつ・・・・・・。こいつは危険だ!」

「タマっち、いいかげんにしなさい!」

 

 杏によって二人が引き離されて、かろうじて少女の貞操は守られました。しかし、この出来事で杏の球子への信頼度が著しく下がったのは言うまでもありません。

 

「大丈夫ですか・・・・・・?」

「はい・・・・・・。ありがとうございます、伊予島様・・・・・・」

 

 なお、杏も後々、この物わかりの良い少女に先輩風を吹かせてメイドコスプレをさせて球子に呆れた目で見られたりするのですが、それはまた別の話です。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 四国から再び場所を変えて、長野県某所。

 白鳥歌野は自室にて、顔に妙な機材をつけて、また妙な動きをしていました。

 

「みーちゃん、どうかしら? ちゃんと私できてる?」

「えっと、ちょっとカクカクしてるけど、いい感じかも?」

 

 ベッドに腰掛けた同じく妙な機材を顔につけた水都も、歌野とは明後日の方向を見ながら話をしています。

 

「これがVR・・・・・・。若葉の家にいるように見えるけど、これって四国までワープする神様の奇跡と、どう違うのかしら?」

 

 しかし、そんな二人ですが、その目に映るのは歌野の部屋ではなく、遠く離れた乃木邸の光景です。スマホでワープすればこのような遠回しな真似は必要無いのですが、これも理由がありました。

 

「よくわかんないけど、これから勇者が増えたら集まる場所を用意するのも大変になるから・・・・・・。この空間で皆が集まるようにすれば良いんじゃないかって、須美ちゃん達が北海道の人から提案されたみたい・・・・・・」

「五十人とかになったら今の離れ屋だと狭くなりそうだものね。そうすると、集会で食べるおやつもバーチャルになるのかしら?」

「そこまでは、流石に無理なんじゃないかな・・・・・・あっ」

 

 やがて、歌野と水都が雑談をしていると、VR乃木邸に入室者がありました。

 歌野は入室者の名前を見て、嬉しそうに声をかけます。

 

「こんにちは若葉、お邪魔してるわよー?」

『歌野も藤森さんも来ていたのか、待たせてしまって済まない』

「いいのよ、家の中をうろうろして勝手に楽しんでたから」

 

 乃木邸への入室者は、現実の乃木邸の住人の、乃木若葉でした。

 

「あの、ごめんね・・・・・・? 偽物だとしても、乃木さんの家に勝手に上がり込んじゃって・・・・・・」

『それこそ、藤森さんが言ったように、ここは私の家ではないからな。気兼ねは不要だ』

 

 若葉はそう言いますが、いつもの乃木邸の離れ屋での集会感覚でお誕生席に座る若葉を見て、水都が若葉の家にいる気分になってしまうのは仕方がありませんでした。若葉の見た目も、多少動きがカクカクしている事を除けば、いつも一緒にいる若葉そのままですからやはり緊張します。

 ちなみに歌野達が園子から聞いたところによれば、北海道の勇者システムの開発ついでに、勇者の魂の形を記憶しておいて外部からの霊的な干渉に対して速やかに修復を行う技術ができたらしく、それを応用して魂の形を元にしたリアルなモデルを作る事ができたそうでした。

 

「ところで、上里さんは来るのかしら?」

『ひなたは少し用事があって遅れる。しかし、これで三人はここを利用できるとわかったわけだ。今のように子供だけで遠出をして、親に心配をかける事も減りそうだな』

「どのみち、お役目では遠出するんだから変わらないと思うわよ?」

「私はあちこち飛び回っていたから、お母さん達が安心したって言ってたけど・・・・・・。でも、これって神様の負担を減らすのが目的だよね・・・・・・? ワープ機能って神様が疲れるみたいだから、それを使わずに皆と会えるなら、神様達も楽ができるから・・・・・・」

 

 なお、VR乃木邸で世間話をする三人は知らない事ですが、各地で新規にスカウトされている勇者達の中には神様との縁が無かったり、相性の良い神様の体力不足でワープ機能を使えないメンバーもいたので、そういうメンバーにバリアフリーな環境を整える意味でも、誰でも利用できて誰かに相談ができる集会場所の用意は急務だったのでした。

 

『私は常にここにいて、他の勇者を待つべきなのだろうか?』

「そんな農協の主のおじいちゃんみたいな事、要らないんじゃない?」

 

 とはいえ、今日のところは三人で思い思いに、この新しい玩具を楽しみます。

 千景がいれば「この仮想空間を舞台にデスゲームが始まるのね・・・・・・」と不穏な事を言ったりしたかもしれませんが、歌野と水都はここで野菜を育てたりできるのか、若葉はここでうどんは作れるかと夢を膨らませて和気藹々と歓談に興じるのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 VR乃木邸で三人の勇者が歓談している頃、現実の乃木邸離れにて。

 上里ひなたは、一本の包みを机に出していました。

 

「こちらは、どうすれば神様にお返しできるのでしょう?」

 

 ひなたが包みの紐を解いて見せる中身は、一振りの内反りの刃。

 大葉刈という、若葉が先日のお役目の為に神樹様から借り受けた剣でした。

 

「神様が不要と思えば、そのまま朽ちた刃に戻るのでは?」

「しかし、前回のお役目を終えてからもこの様子でして・・・・・・」

「あー、ひょっとして球子さん達と同じパターン・・・・・・?」

 

 ひなたに相談された須美と銀は、顔を見合わせて相談します。

 

「どうする須美? やっぱり大社に押しつけるか? 」

「うーん、大社周りも綺麗になったから、大丈夫だとは思うけど・・・・・・」

 

 なんでも、二人は球子と杏からも武器を返却されて少し困っているそうでした。

 球子の旋刃盤と杏の金弓箭は、真っ当な対応として神様に返そうとしたところ、いろいろ頑張ってくれたお礼にあげると言われてしまい、どこに安置すれば良いのかわからない有様だそうです。神世紀に持ち帰って何か役に立つかとひなたが尋ねると、大赦の代わりに権威を強めつつある神世紀の政府の象徴くらいにはなるだろうかと須美が言いますが、大赦が五月蠅いだろうと銀が言い、あっさり持ち帰りの話は立ち消えになりました。

 

「よし、大社に押しつけるか」

「そうね、ひとまず連絡を取ってみましょう」

 

 結局、西暦の大社に管理を丸投げしてしまう方向に話は進みました。

 

「ほっ・・・・・・。大人の方が管理して下さるのでしたら、安心ですね」

 

 しかし、大人が引き取ってくれるならばと、ひなたも一安心です。

 これで若葉と一緒に、日常と呼ぶにはやや風変りですが、平穏な生活に戻れそうでした。

 

「そういえば、千景さんとは仲良くできていますか?」

「えっ・・・・・・?」

 

 須美から、ひなたと千景の関係について言及がありましたが、それはまた別の話。

 

「少し前にお会いしたら、千景さんがひなたさんに避けられているようだと、悩んでおられたので・・・・・・」

「そ、それはご迷惑をおかけして・・・・・・」

「千景さんって、わりと繊細っぽいからなぁ」

 

 ひなたの悩みは尽きませんが、それはそれとして平穏な日々がやって来るのでした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 それから少し時間が流れて、十人の勇者達が小学生らしく眠りについた午後九時頃。

 乃木園子は、乃木家の離れ屋にて、風呂上りに畳の上でゴロゴロしつつ言います。

 

「何年もかかると思っていたけど、案外あっさりしてたね~」

 

 ここだけの話、園子だけでなく須美と銀も、実は乃木家の居候をしていました。

 悪い大人に目をつけられて泣いていた園子をそのまま野放しにしておく若葉ではなかったので、若葉とひなたも一緒になって神様の面目を保つ為にずっと隠し通してくれた秘密でしたが、園子達のお役目も終わりが近づいたところで、そろそろ種明かしでした。

 西暦の勇者達が、神様との非日常を、日常へと変えつつある道はいまだ半ばです。

 しかし、その一方で園子達は、もう間もなく本来の目的を達成する目処が立ちそうでした。

 

「そもそも、あたしらの世界ってどうして天の神様と三百年も戦っていたんだ?」

「それは言わない約束なんよ~。戦争は始めるより終わらせる方が大変なんだから~」

 

 これから数か月後には、園子達は神世紀へと戻り、天の神様の親切に頼って巨大隕石に対応したり、神様から解放されたと喜ぶ人々や、神様に縋りつく人々、それらを見つめる神様達と向き合っていくのですが、それは神世紀の話。

 西暦における園子達の暗躍は、これでおしまいです。

 

「あと数か月は、こっちの皆の手伝いかな~?」

「イネス行こう、イネス! 日本全国イネス巡り!」

「私は神世紀で失われた西暦の思想や技術をまとめた本を蒐集する使命が・・・・・・」

 

 園子達も神世紀へ帰るまでに遊び回ったり、困った誰かを助けたりする事はあるでしょうが、神様が怒って人類が滅んでしまうかもしれない大変な話は、これでおしまいです。

 この西暦において天の神様が人類に怒ったり、巨大隕石によって人類は滅亡の危機に瀕するのかについては、神樹様が「無い」と言い、天の神様も「無い」と言い、月の神様も「無い」と言い、高天原の賢い神様も、八百万の神様達も「無い」と言い、高天原を集団で汚されてややご立腹の藤原さんの氏神様も「無い」と言っているので、ひとまず良しとします。

 

 とはいえ、何が起きるかわからないのが世の中です。

 西暦の勇者達には、これからも頑張ってもらわなくてはいけないでしょう。

 西暦の人類としては、神様と一緒に歩み始めた道のりは、まだ始まったばかりです。

 ここで話は区切りますが、どこまでも勇者達の旅は続きます。

 

「あ、せっちゃんからメール・・・・・・『一部の神様が祠から出てくれないどうしよう』?」

 

 

 

 

(おわり)




また打ち切りですが、これで終わりです。
ここまでお付き合いくださった方々、本当にありがとうございました。

見切り発車で、迷走が洒落にならなくなってきたので申し訳ありません。
前作の名状し難いぐんちゃんのような物が高嶋さんに叩かれておしまいは可哀そうだったので、異世界に流れ着いた残骸がマスコットに成り下がって牛鬼に食べられながら恍惚としているくらいの救済が欲しかったのですが、やはり話作りは難しい……
大社と大赦を悪者にせず亡霊に憑りつかれた被害者として扱いたかった一面もあるのですが、これもやはり難しく……
次はきちんとプロットを作ってから出発しようと思います。

改めて、ここまで目を通して下さった方々は本当にありがとうございました。
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