嵐が去った後。
そんな例えが、ぴったりの状況。
そこに残された三人。
静寂…。
「あの…。」
カケルが。
「あのよ…。」
リクノが。
「あのですね…。」
ヒョウカが。
ほぼ、同時に。
そして、再び訪れた静寂。
「ははは…。」
耐えられなくなるカケル。
「ぶっ!」
耐えられなくなるリクノ。
「ふふふ…。」
耐えられなくなるヒョウカ。
小さく始まった笑いは、次第に大きくなる…。
一頻(ひとしき)り。
笑い声が広い格納庫を満たした。
次の静寂を待ち、
「どうしましょうか?」
ヒョウカが二人に切り出す。
「どうって…。」
リクノがカケルとヒョウカの顔を交互に見ながら、
「どうよ。」
「どうします?」
二人を交互にみながら、カケルも問いかけた。
「そうですね…。」
今度は辺りを見回しながら、
「掃除しますか?」
ヒョウカが提案した。
「確かに…。」
カケルも辺りを見回し、
「このままじゃ…。」
「そうだな…。」
リクノも賛同した。
「それじゃあ…。」
含みのある言い方、
「体操服ありますか?」
ヒョウカが二人に聞いた。
「ロッカー行けば…。」
リクノは気付き。
「私も…。」
カケルも。
「では、着替えてきますか…。」
ヒョウカの言葉が合図となり、三人は格納庫から着替えに向かった。
再集合。
着替えを終え、格納庫へと戻った三人。
「どこからか、やります?」
格納庫の埃を確認したカケル。
「そうだな…。」
リクノも見回し確認する。
「そろそろだと思うのですが…。」
ヒョウカは、しきりに格納庫の扉を気にしていた。
音。
それも人工的な…。
より正確にはエンジン音。
それも車もの。
(実際は電気自動車なので、エンジン音ではなく安全の為に付けられた音。)
それが、格納庫の前に止まった。
エンジンが止められ、しばしの静寂の後。
『ギッ。ギギィィィィィ!』
長い間使われていなかったという主張をしながら、大扉がゆっくりと開かれていく。
二枚の大扉の間から生まれた光の中に、立つ人影が、
「掃除道具持ってきました。」
告げた。
その言葉に驚く、カケルとリクノ。
「着替えに行く前に、頼んでおきました。」
ヒョウカの仕業であった。
その事に、更に驚いた二人。
「掃除道具を取りに行きましょう。」
ヒョウカに促され、無言で頷く二人。
小型オープンカーのトラックの荷台に乗せられた掃除道具。
一瞥(いちべつ)。
「短い時間で、ここ迄そろえてくれるとは…。」
感心し、
「生徒会長も中々やりますね。」
褒めるヒョウカ。
だが、二人はヒョウカの手際にただ驚くばかり。
「これを…。」
ヒョウカが荷台から取り、二人に差し出す。
「布…。」
疑問がそのまま口に出たカケル。
「ですか?」
「布には違いないですが…。」
布を広げ、
「【割烹着(かっぽうぎ)】です。」
着る方向をカケルに向け、
「手を通してください。」
笑顔で催促した。
「は、はぃ…。」
着る物だとは判ったが、【割烹着】の意味は判らず、言われるままに手を通す。
「では、後ろを向いて。」
次の指示を出したヒョウカ。
今度も言われるままにヒョウカに背を向けたカケル。
「これを結んで…。」
ヒョウカが背中で『ゴソゴソ』とする感覚のみが伝わる。
不意に背中の感覚が消え、
「後は…。」
また、荷台から布を取り出し、
「これを頭に被って…。」
今度は頭に『ゴソゴソ』の感覚。
また感覚が消え、
「出来上がり。」
ヒョウカが終わりを告げた。
「これは?」
カケルの疑問だが、リクノも頷き乗っかる。
「古式の掃除スタイルです。」
ヒョウカの回答。
「割烹着に、三角巾です。」
説明されたが、その意味は判らない二人。
その二人の表情を確かめるように、
「掃除で汚れても良い格好です。」
解り易い解説にしたヒョウカ。
「なるほど…。」
納得のカケル。
「そういう事か…。」
理解したリクノ。
「では、リクノさんもどうぞ。」
ヒョウカが渡す。
「判った。」
早速、袖を通し、
「後ろ、止めてくれ。」
カケルにお願いした。
「私は…。」
着慣れているのが判る程に、袖を通し、後ろを自分で結った表情。
後ろを止め終えたリクノに、
「これを…。」
三角巾を渡すヒョウカ。
その後、自分の三角巾を頭に結ったヒョウカ。
「多分…。」
新たな布を二人に渡し、
「これも必要かと…。」
自分用にした布で口と鼻を覆うマスクにしたヒョウカ。
「あっ。なるほど…。」
納得しカケルも真似をする。
「確かにな…。」
リクノも納得しマスクにする。
身支度を終えた三人。
互いを一瞥(いちべつ)し、無言で頷く。
そして、荷台の掃除道具を手にした。
「先ずは、換気から…。」
ヒョウカのくぐもった合図で、格納庫大掃除大作戦が開始された。