無意味。
そんな言葉がカケルの脳裏に浮かんだ。
格納庫に積もった埃が舞い、マスクの隙間から喉を刺激する。
「ケホ。」
咳。
「ケホ。」
もう一度。
「いつから使ってないのよ。」
格納庫に文句を言ったカケル。
「掃除してるのか…。」
リクノも、
「埃を立たせているのか…。」
文句を、
「わかりゃしない。」
格納庫に言った。
「お二人の言い分も判りますが…。」
ヒョウカの手際は、
「このように、そっと…。」
埃を立たせていなかった。
「やれば、大丈夫ですよ。」
「なるほど…。」
感心するカケル。
「雑にやるなって事か…。」
多少、不満げなリクノ。
黙々と行われる掃除。
静寂。
それは、掃除する音だけが格納庫を満たしていた。
「ん?」
それだけで、疑問だと判る短い言葉。
「何だろう?」
格納庫の隅に紙に包まれた板状の物を見付けたカケル。
「何だ?」
掃除に飽きていたのが、一目瞭然のリクノは直ぐにカケルの元へ。
「何ですか?」
カケルの疑問の言葉に惹かれ寄って来たヒョウカ。
「ここに、あったんですけど…。」
格納庫の隅に隠す様に置かれていた物を引っ張り出すカケル。
「板?」
リクノが、
「それも大きい。」
形状を言った。
「何でしょうね。」
ヒョウカも興味津々。
カケルも興味津々で、
「開けてみますか?」
二人に効いた。
その板は紙で包まれた上に、紐で縛ってあった。
「そうだな…。」
リクノが賛同し、
「気になるものは確かめろだ。」
「ここにあったということは…。」
ヒョウカの、
「備品では?」
推理。
「そうですね…。」
結び目に手をかけ、
「開けますね。」
解くカケル。
解かれた紐。
次に、包んであった紙を開ける。
「木の板…。」
カケルが見たままを口にした。
「何だ、これ?」
リクノも理解不能と。
「…。」
顎に右手を当て、考える仕草のヒョウカは無言。
そして、沈黙の間から、
「もしかしたら…。」
その言葉にカケルとリクノは同時に、発したヒョウカの顔を見た。
「裏返しみてください。」
指示を理解する間の、
「わ…。」
一瞬の間。
そして、
「判りました。」
言葉と同時に板を裏返すカケル。
「あっ!」
驚くカケル。
「これは…。」
驚くリクノ。
「やはり…。」
自分の推理が当たった事に声を上げたヒョウカ。
「ひ、飛行機…。」
板に書かれた文字を読み上げるカケル。
「…道部。」
途中からリクノが引き継いだ。
「飛行機道部」
ヒョウカが通し読んだ。
理解を超え起きた沈黙。
「これって…。」
カケルが誰に言うわけでもなく口にした。
「ああ…。」
リクノも理解が追い付く。
「ここが、格納庫でヴァルキリーがある理由ですね…。」
ヒョウカの説明に納得した二人。
「元々、ここは飛行機道部だったんですね…。」
カケルに賛同し、頷く二人。
格納庫の中を、ゆっくりと首を巡らせるカケル。
映る。
熱気。
居るはずの無い当時の部員が、カケルの視線の先で躍動し始めた。
熱く語る声を上げながら、その思いで、この場の温度も上げる。
その姿に見惚れるカケルの存在は、向こうからは見えていない。
「おい!」
肩を揺すり、
「どうした?」
語りかけるリクノ。
「大丈夫…。」
覗き込む、その顔は、
「ですか?」
心配の表情を浮かべるヒョウカ。
「あっ…。」
二人の声が、
「はい。」
カケルをこちらの世界へと戻した。
「長い間、ぼーっとしてたから…。」
安心で胸をなでおろす。その言葉がぴったりのリクノ。
リクノの言葉に、
「私…。」
驚き、
「そんなに、長い間…。」
答えたのは、
「そうですよ…。」
ヒョウカ。
(私が見てたのは…。)
思うが口には出せず、
「ごめんなさい。」
謝りこの場を納めた。
「何も無ければ…。」
リクノは、カケルを一瞥。
「では、続きを…。」
ヒョウカは二人を促した。
「はい。」
必要以上に元気に答えたカケル。
「はぁ…。」
肩を落とし、
「やるか…。」
諦めたリクノ。
その日は、艦内で決められ夕刻の時間まで格納庫の掃除を続けた三人。
疲れ、
「今日は…。」
埃塗れ、
「終わりかな…。」
カケル。
「だな…。」
リクノも疲れ、埃塗れ。
「そうですね。」
ヒョウカは疲れ、埃が付いた程度。
二人が塗れになり、一人は着くほどに格納庫内は綺麗になり、埃が移動した様に思えた。
「では…。」
ヒョウカが、あの板を持ち出し大扉の前へと移動する。
「部室には、看板が無いと雰囲気出ませんからね。」
掛けれた【飛行機道部】の看板により、今この格納庫が部室となった。
「なんか、本当に部室みたいだな…。」
リクノの冗談にも思える感想。
「本当…。」
カケルも同じ思いのようだ。
「本当ですね…。」
ヒョウカも乗り、
「ふふふ…。」
笑った。
それが、きっかけとなり三人は笑った。
暫時。
誰からともなく、終えた笑い。
待っていたかのように、
「今日は帰りましょうか。」
ヒョウカが促す。
「はーい。」
疲れなど無いような元気なカケル。
「んじゃ。お疲れ。」
途端に元気になるリクノ。
「では。また、明日。」
ヒョウカは変わらず。
三人は家路へと。