「早速。」
それは開始の合図。
「飛ばしてみましょう。」
ヒョウカのその言葉に前置きも飛んだ。
「ぇ…!」
驚いたが何とか、次の言葉を飲み込み、
「はい。」
返事する事ができたカケル。
「席へ。」
ヒョウカに促され座るカケル。
「先ずは、起動手順を…。」
ヒョウカの伸びる指先が、
「これをオンにして…。」
スイッチを手順通りに、
「次に、このスイッチを…。」
押していく。
光。
それはコックピットのパネルに順番に点っていくヴァルキリーの息吹。
ただのシミュレーターだが、確実にヴァルキリーに命が目覚めたと解る。
「手と足を…。」
光に心を奪われていたカケルを促すヒョウカ。
「はい。」
返事の後に、
『ゴクリ。』
固唾を飲み込むカケル。
ゆっくり。
いえ、恐る恐る…。
手を伸ばすカケル。
そっと指先が触れる。
そのまま、握り込む操縦桿。
しっくり。
そこが、両手と両足の定位置だと思える程に落ち着いたカケル。
「閉めますね。」
ヒョウカが言葉の通りにシミュレーターの扉を閉めた。
一瞬の暗転からキャノピーに映し出される風景。
「地上からの発進です。」
ヒョウカの声はスピーカーから。
「はい…。」
見える風景は、記憶には無いずなのにどこか懐かしさを感じるカケル。
「場所は地球だそうです。」
ヒョウカの言葉に、
「私達は、記録の中でしか見たことは無いですね…。」
納得のいくカケル。
「それでも、なんだか懐かしいと思うんですね…。」
感じたままを口にするカケル。
「それは…。」
ヒョウカのその言葉は、
「私達の遺伝子に刻まれた記憶かもしれませんね。」
同じ気持ちだったのかもしれないと思うカケル。
暫時。
「では…。」
ヒョウカのその言葉は、これから始まる特訓の始まりだったと後にカケルが語る。
「滑走路から始めましょうか。」
キャノピーに映る景色が切り替わり、地平線へ向かう一本の長い道が眼前に伸びる。
簡単に、
「離陸してください。」
言うヒョウカ。
「え!?」
その一文字が、
「えっと…。」
混乱を現すカケル。
「スロットルレバーを…。」
ヒョウカの言葉に、無意識に左手を見るカケル。
そこに握られているのは、指示されたスロットルレバー。
『グィ!』
操作音と共にエンジンの出力を現すゲージが上がる。
微進。
ゆっくりとキャノピーの風景が後ろへ流れ始めた。
「わっ…。」
ぎりぎり声になった、
「動いてる。」
カケルの感動。
ヒョウカが放つ、
「離陸速度まで加速!」
語尾は強く命令系。
カケルが出した、
「ひゃい!」
返事でなく悲鳴。
『グィ!』
スロットルレバーが大きく引かれ、一気に風景を後ろに流した。
当然、
「速度が達したら操縦桿を引く!」
次の指示を強く出すヒョウカ。
「えっいやっ!」
更に怪しくなる返事のカケル。
『ふわり』
風景が告げる効果音。
画面カットでは、タイヤが地面から離れるシーンである。
合成の空へ舞い上がるヴァルキリーと共にカケルの心も舞い上がる…。
ただし、一瞬だけ。
何故か?
それは…。
「舞い上がるのはヴァルキリーだけ!」
ヒョウカの一言が、カケルを現実に引き戻していた。
ここからは、ヒョウカの指示の下に、カケルがヴァルキリーを飛ばした。
あっという間。
これを実感したカケル。
告げられた、
「今日は、終わりにしましょう。」
ヒョウカの言葉で。
カケルの、
「はい。」
返事に含まれたものは、名残惜しさ。
その言葉に含まれたものを、
「明日もみっちり飛びますからね。」
感じるヒョウカ。
「あっ…。」
驚き、
「解りました。」
ヒョウカなら不思議ではないと思い出すカケル。
「リクノさんも終わりましょう。」
こちらにも指示を出すヒョウカ。
「おう。」
待っていたとばかりの返事は、嬉しそうなリクノ。
そして、帰宅を告げる鐘が鳴る。
その日の学園生活は終わりだと。