良く晴れた青空の下、緑豊かな見晴らしの良い丘の上に一人の青年と子供が立っていた。
青年は腰を落とし、自らの腰ほどの背丈の子供と目線をそろえた体勢をそろえる。そして、その中性的な顔立ちに優し気な表情を浮かべて口を開く。
「ナギの目にはね、魔法が宿っているんだよ」
ナギと呼ばれた少年は不思議そうな顔を浮かべている。
「魔法……?」
「そう、魔法の力だよ。父さんと同じなんだ」
すると、男の瞳に変化が訪れる。
「あっ、父さんの目緑色になった。どうやったの」
そう言ってナギは父親の目を見る。その瞳は淡い翡翠色であり、宝石のような輝きを放っている。
「ナギもそのうちできるようになるよ」
「そうなの? だったら嬉しいな」
「嬉しいのかい?」
そう言って父親はナギに尋ねる。
「うん。だって、綺麗だもん」
その言葉に父親は目を丸くした後心底嬉しそうにほほ笑んだ。
「ありがとう。父さんもナギの緑色の目を早く見たいな」
「うん! もし緑色になったら父さんに一番に見せに行くね」
ナギの元気な声を聞いた父親の顔にはどこか悲しそうな雰囲気が感じられる。
「それは嬉しいな。ただねナギ、一つだけ父さんと約束してくれるかい?」
「約束?」
「そう、約束。――緑色の目はね、絶対に誰にもみせちゃ駄目だよ」
父親との約束。ナギはその意味がわからいときょとんとしている。
「父さんは僕に見せてるよね?」
「それはナギが特別だからだよ。父さんの目もいつもは黒いだろう?」
「……確かに、でもどうして? 綺麗なんだから皆に見てもらえばいいのに」
ナギは父親に疑問を投げかける。
父親は真剣な顔つきでナギの目をしっかりと見て答える。
「それはね、危ないからなんだ」
「危ないの?」
「そう。この目を誰かに見せると悪い人たちがいっぱいくるんだ」
「悪い人たち?」
「うん。凄く悪くて怖い人たちさ」
「どうして悪い人たちがくるの?」
ナギは首を傾げている。
「ナギももっと長く遊んでたいって思ったことあるよね」
「うん。友達と遊んでる時とか」
「この目はね、それを叶えてくれるんだ」
「本当!?」
ナギは父親からの話に目を輝かせている。
「うん、本当だよ。だけど、そう思うのは悪い人たちも同じなんだ」
「長く遊びたいの?」
「……ちょっと違うけど、大体そうかな。ナギは賢いね」
「……むむむ」
子ども扱いをされたのが気に入らないのかナギは不満げにそっぽを向く。
その様子を見て父親はクスリと笑う。
「大丈夫。ナギならすぐにわかるよ」
「……そうかな?」
「うん。ナギは父さんと一緒で頭がいいからね」
「父さんと一緒はうれしいな」
その言葉にナギはすっかり機嫌を直し笑顔になる。
「それで、約束は守ってくれるかな?」
「わかった。約束する」
「ありがとう。いい子だね」
父親はナギの頭をゆっくりと撫でる。
撫でられたナギは気持ちよさそうに目を細めているが、不意に口を開いた。
「……もし、約束を破っちゃたらどうなるの?」
「それはね、悪い人たちがきちゃうんだ」
「そして?」
「その人たちがナギを連れて行っちゃうよ」
ナギは表情の見えない影が自分に迫ってくる光景を想像し、恐怖に駆られる。そしていてもたってもいられずに父親の胸に抱き着く。
「ごめんごめん。怖がらせちゃったか。でも大丈夫だよ、ナギが約束を守ってくれれば悪い人たちは絶対に来ないから」
「本当?」
「本当だよ」
ナギは父親の言葉を聞いて、安堵したのか、ゆっくりと胸元から離れ目にうっすら浮かんでいた涙を拭う。
「さてと、そろそろ帰ろうか。お母さんも家で待ってるしね」
「うん!」
ナギと父親はゆっくりと歩き始めた。
* * *
――ジリリリリリ
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で少年は目を覚ます。
彼は音のする方を向いて時刻を確認し、安堵した様子でゆっくりと起き上がる。
(懐かしい夢を見たな)
そう思いながら彼はテキパキと身支度を整えていく。
彼の名前は『ときねナギ』。
木の葉隠れの里のアカデミーに通う忍者見習いだ。
綺麗な緑色をした髪は短めに切り揃えられており、黒色をした大きい瞳からは愛嬌が感じられる。しかし、その表情は対照的に大人びた印象が感じられ、どこか不自然な印象を受ける。
彼は身支度を整えると、静かな家を後にし、家の前にある小道をゆっくりと歩き始める。
暫く歩いた後に、ナギは視界の端に一人の少女を捉える。その年齢はナギと同じぐらいに見える。短めの黒い髪を頭の横で一つに結んでおり、歩くたびに左右に揺れている。
少女の方もナギに気付いたようで二人の目が合うが、少女は直ぐに視線を逸らした。
その様子を見て、ナギは苦笑を浮かべながら声をかける。
「おはよう、コハク」
その言葉に少女は大袈裟に驚いてみせる。
「わ、びっくりした。いきなり声をかけないでよね、ナギ」
「いや、絶対気付いてただろ。目が合ったし」
「いやね、朝から変な妄想はやめてちょうだい」
あくまで主張を変えないと言った彼女の態度に、ナギは苦笑する。
毎日の同じようなやり取りをしているためナギはもう慣れていた。
いちいち訂正しててはきりがないとナギは早々に話題を変える。
「ところで、今日はアカデミーの卒業試験の日だな」
「ええ、そうね」
コハクは特に興味がないとばかりに切り捨てる。
「随分と余裕だな」
「当たり前でしょう。あんなの、落ちる奴の気が知れないわよ」
「その言葉、落ちた奴の前で絶対に言うなよ」
「わかってるわよ」
どうだか。コハクなら言いかねない。
ナギは言われるまでもないという態度の彼女に疑いの目を向ける。
「何よ? むかつく顔して」
「別に。わかってるならいい」
言葉とは裏腹に未だに疑惑の視線を送ってくるナギを見て、コハクはどこか不満そうにする。
それに気づいたのかナギはその視線を前方に向けると、一人の少年が歩いていることに気付く。
整った顔つきに刺々しい雰囲気。
どこかもろさを感じさせるその背中にはうちはの家紋が描かれていた。
「あれは、うちはサスケか」
「……うちは」
うちは。その言葉を耳にした途端、隣を歩くコハクからは敵意が溢れだす。
それは周りを歩く子供が思わず避けてしまうほどだった。
そんなコハクの様子を見て、ナギは彼女の肩を優しく叩く。
彼女はハッとし、先ほどまでの敵意を抑えると、ナギの手をはじいた。
「ありがと。でも大丈夫だから」
そうは見えないのだが。
ナギはそう思いつつも口には出さない。
ある事情で、コハクはうちは一族に敵意を抱いている。
彼女はその名前を聞くだけで怒りに似た表情を浮かべるのだ。
以前、それが原因でサスケと殴り合いが始まったことがあった。幸い、早い段階で教師による仲裁が入ったためどちらも大事には至らなかったが。あのまま続いていたら二人とも大怪我をしていただろう。
コハクは静かになると早足でナギを置いて前へ行ってしまう。
恐らくはナギに顔を見られたくないのだろう。
前を歩くコハクの髪の色を見て、どこかサスケのそれと似ているとナギは思った。
卒業試験をナギとコハクは難なく合格できた。
ナギはコハクの心配などは毛頭していなかったが、無事に受かって何よりだと安堵する。
しかし、彼はある試験に落ちたある少年のことを気にかけていた。
うずまきナルト。四代目火影の息子にしてその身に九尾を宿し、里の人間から避けられている少年。いつも悪戯ばかりしていてイルカ先生をはじめとする教師陣を困らせている存在だ。両親は既に故人であり、天涯孤独の身の上である。
ナギはナルトとは大して接点はなく、あまり話したこともないが、どこか彼のことが気になっていた。その感情は同情というよりも好奇心に近いものだった。彼は火影になるという夢をよく語る少年だが、ナギは彼が本当にその夢を叶えるのではないかとなぜか思えるのだった。
そんな彼の思考を遮るように足音が聞こえてくる。
そちらを振り向くと、コハクがこちらに近づいてくるのが見える。
「コハク、無事二人とも合格したな」
「だから言ったでしょ。落ちる奴の気がしれないって」
その言葉に一人の少年が反応する。
黄色い髪に青色の瞳の少年、ナルトだ。
彼は俯いたかと思うと走って教室から出ていった。
コハクはそれを呆れたように横目に見る。
「なにあれ。馬鹿じゃないの。ただ自分が力不足だっただけじゃない」
「そういうことは言うもんじゃない」
「ナギ、あんたあれの味方するの」
ナギの言葉にコハクは不満そうに口をとがらせる。
彼はその様子を見てため息を吐く。
「そういうわけじゃない。ただ、コハクだって人の見えないところで努力してるだろ」
「? ええ。それがどうしたのよ」
「ナルトだってお前の見えないところで努力しているかもしれない」
その言葉にコハクは目を見開く。
そして真剣な表情のナギを見て、小さく呟く。
「……そうね、今のは私が悪かったわよ。これでいい?」
「やけに素直だな」
「さすがに今のは私に非があるわ。朝に釘差されてたのにね。……ただね、一つだけ言わせてもらうわ]
「何?」
「――努力しても結果がでなきゃ意味ないのよ」
言い終えると、コハクは少しばつが悪そうに顔を背ける。
そして、純粋な疑問をナギに投げかける。
「それにしても、随分とあれのこと気にかけるのね」
「どうしてだろうな。自分でもよくわからないが、何か気になるんだ」
「変なの。それよりも、下忍選抜試験のこと考えたほうがいいんじゃないの」
「ああ、そうだな。人の心配してて自分が落ちたら笑い種だな」
「ええ、そうよ」
下忍選抜試験の合格率は約三分の一だ。
担当上忍にもよるが決して優しい試験ではないのだろう。
まあ、忍になることは命を懸けるということだから当たり前か。
ナギはそう考えながらもどこか先ほど走っていった少年のことが頭から離れない。
そんなナギの状態に気付いていたか、コハクはナギの額をコツンと拳骨で軽く叩く。
「ほら、また別のこと考えてる。ナギが落ちるとは思えないけどその状態だと怖いわ」
「なんだ、心配してくれてるのか?」
「なっ」
ナギの言葉にコハクは照れたように俯く。
しかし、直ぐにほんのり紅潮した顔を上げナギの方を真っ直ぐ見る。
「そ、そうよ。ナギは私のライバルなんだから落ちたら許さないわよ」
ナギの予想に反して彼女は素直に認める。予想外の行動にに今度は思わずナギのほうが照れ臭くなってしまった。
「わ、わかった。今は自分の方に集中する。……それにしても、班割りはどうなるんだろうな」
「確かに、気になるわね。弱い奴と一緒はごめんね」
コハクがそう思うのは当然だろう。忍にとって味方の実力は直接生死に関わってくる。
背中を安心して預けられる人間を望むのは当然だろう。
「いずれにしても、明日に決まるさ」
「そうね」
そして迎えた班割りの日、教室にナルトの姿を見つける。 そのいつもの悪ガキのような笑みを見てどこか安心する。
ナギは、ナルトが昨夜また問題を起こしたものの、無事卒業したということを耳にしていた。
そんなナギに気付き隣に座るコハクは肘で彼を小突く。
その表情は昨日の会話を忘れたのかとでも言いたげだ。
ナギは視線を前に立つイルカ先生の方に戻す。
次々に班が発表されていく。
「……次、第六班! ときねナギ、あさひコハク、ゆめのシンリ」
思わず二人は顔を見合わせる。
彼らは、見知った顔が同じ班であることに思わず安堵する。
「改めてよろしくな、コハク」
「こっちこそ、足は引っ張るんじゃないわよ、ナギ」
そして二人は同時に疑問を浮かべ、小さな声で話し出す。
「シンリってどういう奴なんだ」
「私だって知らないわよ。あいつ、誰とも話さないじゃない」
ふと遠くからの視線を感じて二人はそちらを向く。
視線の先には一人の少年が静かにこちらを見ていた。
ゆめのシンリだ。
珍しい白髪に眼鏡。手には分厚い本を持っている。そして、その無感情な表情からは、子供らしさが一切感じられず、どこか不思議な雰囲気が感じられる。
確かに、彼には近寄りづらいだろうな。
だが、あの表情の下で何を考えているのか。
ナギはゆめのシンリに対して純粋な好奇心を抱いていた。
そんな思考をよそに、イルカ先生が続ける。
「続いて、第七班。うずまきナルト、はるのサクラ、うちはサスケ」
その言葉に各々が一喜一憂する。
ナルトとサスケか、中々面白い組み合わせなのではないかとナギは感心する。 冷え切ったサスケにもあの純粋な悪戯少年ならいい影響を与えてくれるかもしれない。
これから彼らに訪れるであろう波乱にナギは思いを馳せる。
そんな彼をコハクは半分諦めたような目で見ている。
「はあ、他人のことより自分のこと考えろって何回言ったらわかるんだか」
「わかってるって」
そう軽くあしらっているナギの様子にコハクはもう何も言わなかった。
班割りが終わり、ナギ、コハク、そしてシンリの三人は近くの高台に集まっていた。
その目的は、同じ班の仲間として活動していくにあたって、お互いのことを知るためだ。
ナギがおもむろに口を開く。
「じゃあ、まず俺から自己紹介をしよう。俺はときねナギ。好きな言葉は努力。将来は立派な忍びになりたいと思ってる。一応、雷遁と風遁の簡単なものなら使える。これからよろしく」
特に何の反応も返ってこないことにナギは苦笑しつつ、コハクにもするように促す。
「私はあさひコハク。好きなものは……直ぐには思いつかないわね。嫌いなものは、うちは一族。最強の忍びを目指すわ。火影なんか目指すのもいいかもしれないわね。私の足だけは引っ張らないでくれればよろしくしてあげるわ」
コハクは高飛車に言い捨てる。
その物言いにナギは思わずシンリの顔色を窺ってしまう。
いつも接していて慣れている自分ならまだしも、彼は気分を害したのではないか、と。
しかし、シンリの表情はまったく動かない。
その様子にナギは薄ら寒いものを感じる。
コハクも少し怪訝そうな顔で彼の方を見ている。
「次、あんたの番だから」
コハクがそう促すも彼は口を開く気配はない。
その様子がコハクには気に入らなかったようで彼女は露骨に不快そうに言う。
「はあ。黙ってないで何か言ったらどうなの? 何をすればいいかぐらい流れでわかるでしょ?」
依然、シンリは口を閉ざしている。
「この――」
思わずコハクが手を出そうとしたその時、ついに彼は口を開いた。
「――キミたちは人生の意味ってなんだと思う?」
彼の口から出てきた場違いな言葉に思わず二人は耳を疑う。
そんな二人の様子を気にせずに彼は続ける。
「ボクは人生に意味なんてないのだと思ってる」
そしてまた口を閉ざす。
こちらの答えを待っているのだろう。
ナギはそう思った。
しかし、ナギは中々答えを出せないでいる。
一方でコハクはすぐさま反応した。
「人生の意味? そんなのどうだっていいわ。意味とか目的とかそんなもの、あったってなくたって関係ない。どうせ私たちは生きたいようにしか生きられないんだから」
シンリは静かにコハクを見つめ、次いでナギに視線を向ける。
ナギは少し戸惑いながらも言葉を紡ぐ。
「そうだな。考えたことがなかったからはっきりとしたことは言えない。ただ、俺が思うにそれは生きていく中で見つけていくものなんじゃないかと思う。高々十年しか生きてない俺たちが今の時点で考えても結論は出ないんじゃないか?」
場に静寂が訪れる。
そして、
――シンリはニヤリと妖しく笑う。
「合格だよ。キミたちはやっぱり面白い」
その言葉に再びコハクとナギは虚を突かれたように呆ける。
しかし、その言葉の意味を理解して、コハクがムッとして言う。
「あんた、私たちを試したの?」
「まあ、そうなるかな」
「意地が悪い奴だな」
二人に責められるシンリは少し困った様に笑う。
「そんなに怒らないでよ。ちょっとした悪ふざけなんだから」
「どうだか、案外、あれが本性かもしれないわよ」
その言葉にシンリは一瞬見開く。
「やっぱり、キミたちは子供らしくないね。面白いからいいんだけど」
「人生の意味とか聞いてきたお前がそれを言うのか」
少し呆れた様子でナギが言う。
「いやいや、キミたちが答えてくれるって思ったからあんなことを言ったんだよ。予想通り面白い回答もくれたしね」
「……私としては普通に自己紹介してほしかったんだけど」
コハクが疲れたように言う。
「ああ、そういえばまだだったね。ボクはゆめのシンリ。どういう人間かはもう大体わかってくれたかと思うけど、好きなものはさっきみたいな類の問答。嫌いなものは無回答かな。忍を志した理由としては色んな経験ができそうだからかな。これからよろしくね」
「ああ、よろしく」
三人全員の自己紹介が終わる。
コハクはふと何かを思い出したように疑問を浮かべる。
「そういえば、担当上忍ってどういう奴なのかしらね」
「くさめタタラ、だっけか」
「面白い人だといいけどね」
そこに黒い髪の青年が近づいてくる。
木の葉の額当てをしていることから忍であるようだ。
顔には狐の仮面をつけており、その表情は窺えない。しかし、その足取りや体格、わずかに見える皮膚の感じからすると、まだ若いことがわかる。
「……もしかして、あれが担当なのかしら? 頼りない奴ね」
「いや、さすがにあれは若すぎないか」
「ああ見えてもしかしたら凄い忍なのかもよ? 年を誤魔化す忍術だってあるかもしれないしね」
三人が思い思いに話していると、視界から先ほどの青年が消える。
彼らが驚きながらその人物を探していると、後ろから声をかけられる。、
「――君たち、好き勝手言い過ぎだぞ。確かに僕は若造だけど、これでもれっきとした上忍なんだぞ」
その声に三人は驚いて声の主の方を向く。
全然見えなかった。これが上忍なのか。
ナギは戦慄しながら隣にいる二人に視線を向ける。
コハクとシンリも同じことを思っているのか、顔に驚愕を浮かべて声の主を見ている。
「僕が君たちの班の担当上忍、くさめタタラだぞ。タタラ先生でいいぞ。これからよろしくだぞ」
その突然の自己紹介を受けて、コハクは――
「……そのむかつく喋り方をどうにかしてほしいわね」
不快そうな表情でそう言い放った。
タタラはその言葉を予測していなかったのか、一瞬呆けた後、ハハハと大きな声で笑い始める。
「お前、面白い奴だぞ。でも、これは僕の個性だから変えてあげないぞ」
コハクは何か言いたげにタタラを見ているが、言っても無駄だと悟ったのか黙っている。
「それで、タタラ先生は自己紹介のためにここにきたのか?」
ナギの問いにタタラは首を振る。
「いんや、それだけじゃないぞ。僕がここに来たのは、明日、早速テストを受けてもらうからだぞ」
「テスト?」
「そうだぞ、内容は秘密だぞ。場所と時間、そして持ち物はこれに書いてあるぞ」
そう言ってタタラは三人に紙を渡す。
それを見てコハクが顔をしかめる。
「げ、ちょっと早すぎない? しかも、無駄に遠いし」
「それにこの持ち物、野宿でもするのかな」
「本当、何をするんだろうな」
「――それじゃあ僕はこれで失礼するぞ」
彼らの疑問を無視してタタラはいきなり去って行った。
凄い速さで姿を消した彼を三人は目で追うのを諦め、同時にため息を吐いた。
「嵐のようなやつだったわね」
「あれが担当とか少し不安だな」
「そう? ボクは面白いと思うけどね」
楽しそうに言うシンリを二人は呆れたように見ている。
こいつと同じ班で大丈夫なのだろうか。
そう思う二人の心はこのとき一致していただろう。
19/3/5 タタラの外見描写 狐の仮面を追加しました。