クズなフータロー君と恋に溺れる五つ子の日常   作:やマッチ

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五等分の花嫁に出会ってから、水曜日がくるのが待ち遠しくて仕方ない。以前は水曜日なんて、週の真ん中で一番憂鬱だったのに…………どうか、もうちょっとだけ(三年くらい)続いて欲しいなと思うこの頃。



第十話 : 五つ子の次女は、いつだって直球勝負な女の子である。

 中野二乃の朝は早い。このマンションに五人で住むようになってから、食事係はいつも二乃が担ってきた。最初は日ごとの分担制だったのだが、他の姉妹が揃いも揃って、料理のイロハのイも知らないポンコツだったので、仕方なく自分がやることにしたのだ。

 

 とはいえ、嫌々していたわけではない。子供の時の夢は、お店を出すことだったくらい料理をするのは好きであったし、自分の作った料理を姉妹達が美味しいと言って食べてくれるのは、中々に心が弾むものであった。

 

だからこそ、驚いた。その日、朝起きた二乃の目に飛び込んできたのは、自分以外の姉妹が台所に立つ姿。それも二人。それは──

 

 

「この卵焼き、美味しい!とっても甘くて、ほっぺがとろけそうだよ、三玖」

「……ありがと、四葉」

「一花が作ったサンドイッチも中々ですね。ですが、まだまだ、食材本来の味を引き出せてはいません。五月チェック、星5への道のりは険しいですよ?」

「…………五月ちゃん、やっぱり食レポブログ続けてたんだね」

「い、いえ!これは癖みたいなもので……」

「……嘘つきなさい。こっそりブログ更新してるの、知ってるわよ」

「二、二乃!それは言わない約束では!?」

 

 あたふたする五月に対して、姉妹達が呆れ果てた目を向ける。そんな中、二乃は一人、思いを馳せる。

 

(……まさか三玖だけじゃなくて、一花まで料理をするようになるなんて…………五つ子ながら考えることは同じね)

 

 朝起きて台所に行った時、三玖と一緒に食事を作っている一花を見て驚いた。いつもは、ぐーたら寝ている癖に、自分よりも早く起きて朝ご飯を作っていたのだから。

 

 同時に確信した。絶対にこれはフータローの為だ、と。彼の為にお弁当でも作って、アピールをしようという一花の作戦であると。二乃の脳裏に浮かぶのは、フータローと一緒にお弁当を食べる、お昼の光景。

 

『どう、フータローくん、美味しい?』

『ああ、美味しいよ』

『ほんと?嬉しい!』

『こんな料理を毎日食べられる奴が羨ましいよ。そいつは世界一の幸せ者に間違いないな』

『も、もう、そんなこと言って!…………フータローくんが望むなら、私、いつでも──』

 

(とか言っちゃって、そのまま毎日作るようになって、フー君の胃袋を掴んじゃって、『もう二乃が作る料理以外、胃が受け付けないんだ。責任取ってくれ』なんて言われるようになっちゃって、『し、仕方ないわね…………これからは私が責任持って、フー君の為に毎日お味噌汁作ってあげるわ』なんて言うことに………………キャーッ!!)

 

「……二乃、何ニヤニヤしてるの?」

「!な、何でもないわ!!」

「……その割には、だらしない顔してましたが」

「二乃、涎垂れてるよ」

「え、う、嘘」

 

 慌てて口もとをティッシュで拭う二乃。いけない、いけない。途中から自分に置き換わってしまっていた。

 

 そんな二乃を姉妹達は変な者を見る目で見ていたが、その中で一花がチラリと二乃を見てきた。それに気づかない振りをして、二乃は食事を続ける。

 

(まあ、いいわ。一花の料理の腕前はまだまだ……味勝負なら私の方に分がある…………見たところ今日はお弁当、作ってなかったみたいだし……それなら、私の方が先に渡して、フー君の胃袋を掴めばいい…………文句はないわよね?)

 

 

 

──なぜなら、恋は早い者勝ちなのだから

 

 

 

 

   ○

 

 

 

(フー君、どこにいるのかしら?お弁当の好み、聞きたいのに)

 

 昼休みの校舎を二乃は歩いていた。友人達とお昼を食べた後、飲み物を買ってくるといい、一人別行動をとった二乃。だが本当は、フータローに会いに行く為であり、会って、明日作る予定のお弁当の好みを聞きたいからであった。

 

 たが、肝心のフータローが見つからない。お昼休みに入り、フータローのクラスに行ったが、フータローはいなかった。食堂で食べているのだろうかと食堂に向かうもその姿はない。

 

 五月に声をかけようとも思ったが、食事中だったので邪魔するのも悪いと思い、そのまま後にした……決して食事中の五月に声をかけるのが怖かったからではない。

 

(フー君はお昼用意してないだろうから、絶対捕まえられると思ったんだけど)

 

 クラスにはいない。食堂にもいない。こんなに長い間トイレ、というわけではないだろうし、他に行くべき場所といえば……後は屋上くらいだろうか。

 

 そう思い、屋上へと続く階段を昇り始める。と、そこで、二乃の背に聞きなれた声がかかる。

 

「あれ、二乃? 何してるの、こんなとこで」

「……四葉?」

 

自分を呼ぶ声に振り向くと、そこにいたのは五つ子の四女、四葉。四葉は不思議そうな顔をしながら、二乃に向かって駆け寄ってくる。

 

「どうしたの、二乃。この先屋上だよ?何か用があるの?」

「別に用があるってわけじゃ……って、四葉こそ何してるのよ」

「私?私は散歩だよ。もうすぐ駅伝の大会があるからねー。少しでも運動しとかないと」

「……そう、頑張るわね」

 

 昼休みまで練習してるなんて、流石としかいいようがない。五つ子ながら、大した妹である。感心する二乃。とはいえ、今は四葉と立ち話をしている時ではない。話はまた今度ね、と切り上げようとする。が、

 

「そうだ、聞いてよ二乃。さっき、上杉さんにも一緒に運動しようって言ったんだけどね、俺はいいって断られちゃった」

「!? ふ、フー君に会ったの?」

「うん、会ったよ…………って、ふーくん?」

「え、あ、ま、間違えたわ……って、そんなことはどうでもよくて!アイツにどこで会ったの!?」

 

 勢いよく四葉に詰め寄る。そんな二乃の勢いに圧倒されたのか、四葉は目を白黒させながら、声を絞り出す。

 

「え、えっと……な、中庭かな」

「中庭ね!? わかったわ、ありがとう!」

「え!? ま、待って、二乃!」

「何よ、四葉。私、急いでるんだけど」

 

 駆け出そうとした二乃の手を掴んだ四葉に対し、二乃は急いでると文句を言うが、四葉はそれに構わず、逆に二乃に尋ねてくる。

 

「二乃。もしかして、上杉さん探してるの?」

「……ま、まあね。ちょっと、聞きたいことがあるから」

「……そっか。じゃあ、私も一緒に探してあげる!一人より、二人のほうが見つけやすいよ!!」

「え!?い、いいわよ、私一人で」

「いいから、いいから。ほら、上杉さんを探しに、レッツ、ゴー!」

「ちょ、ちょっと、四葉!?」

 

 四葉はそう言って、二乃の腕に抱きつく。二乃は四葉を離そうとするが、力では四葉にかなうはずがない。仕方なく離すのを諦め、四葉と一緒に歩き始めた。

 

(まあ、いいか。フー君を見つけたら、四葉には席を外してもらえばいいんだし。それに二人の方が見つけ易いし、ね)

 

そのまま二人は、中庭に向けて移動する。

 

 

だが、結局のところ、昼の間にフータローを見つけることはできなかった。

 

 

 

    ○

 

 

 

 

「今日は寒いな、もう本格的に冬だな」

「……ええ、そうね」

 

 すっかり日が暮れた夜の道を、二乃は風太郎と一緒に歩いていた。アルバイトが終わり、いつものとおり、マンションまで送ってもらう帰り道。この時間は、二乃が唯一、風太郎と二人きりになれる時間。故に自然と歩く速度も遅くなる。この時間をもっと伸ばす為に、少しでも一緒にいる為に。

 

「……そういえば、フー君。今日のお昼ってどこでお昼食べてたの?全然、姿、見かけなかったんだけど」

「…………どうしたんだ、急に」

 

 二乃の言葉に怪訝な表情をする風太郎。たが、聞きたいのはこっちのほうだ。

 

「別に。昼、ちょっと用があって、フー君のこと探してたんだけど、全然見当たらなかったから。クラスにも食堂にもいなかったでしょ? それに四葉が、中庭でフー君に会ったって言ってたから、一緒に探しにも行ったのよ? 結局、見つけられなかったけど」

「…………だからか」

「え、フー君?どうかしたの?」

 

 二乃の言葉を聞いて、風太郎は苦虫を噛み潰したような表情をする。だがすぐに顔を戻すと、二乃に微笑みかけた。

 

「いや、何でもない。昼は職員室にいたな。授業でわからないとこがあったからな、先生に聞きに行ってた」

「お昼にまで勉強してたの?呆れたわ、どこまで勉強熱心なのよ?」

「まあな、勉強は俺のアイデンティティの一つだからな」

「何よ、それ」

 

 風太郎の返事を聞き呆れたように笑う二乃。風太郎もまたおどけるように笑う。二人はそのまま、たわいもないお喋りをしながら歩いていたが、やがてマンションに辿り着いた。

 

 二乃は焦る。せっかくの二人きりなのに、このままでは、何もないまま終わってしまう。兎に角、何か話題を出さなくては。

 

「ね、ねぇ」

「ん、何だ、二乃」

「……もうすぐクリスマスよね」

「ああ、そうだな。もう今年も終わりか……二乃達と出会ってから、もう半年以上経ったんだもんな」

 

 あっという間だったな、と感慨深そうに呟く風太郎。二乃もまた、この半年間に思いを馳せる。色々な事があった。好きな人ができた。

 

そう思った途端に、どこからか次々と気持ちが溢れ出てくる。もう、あれこれ考えている余裕はない。出たとこ勝負するしかない!

 

「……フー君は…………く、クリスマスプレゼントって……何が欲しい?」

 

(言っちゃった!とうとう言っちゃった!いくら何でも直球すぎるでしょ、私。もっとさりげなく聞きなさいよ!?)

 

自分の口から出た言葉に目をぐるぐるさせ、顔を真っ赤にする二乃。一方風太郎は、そんな二乃の様子に気づいた様子もなく、少し寂しそうに口を開く。

 

「プレゼント、ね。考えたこともなかったな……毎年、らいはとケーキ食べるだけだったし」

「……そう」

 

 フータローの家は貧しい。以前までの私達と同じくらいお金に困っているのだろう。だったら、尚更今年は豪華なプレゼントを用意しなければ。

 

 クリスマスの日、部屋に飾り付けをして、沢山の料理を作って。勿論、妹のらいはちゃんも呼んで、一緒に楽しい時間を過ごす。完璧な計画。

 

(ほんとは、二人で過ごせるのが一番だけど、それは恋人同士になってからでもいいわ。兎に角、今はアピールをすること。料理は私の一番の長所なんだから)

 

 そう意気込む二乃。だが風太郎は、そんな二乃の考えに冷や水を浴びせるかのごとく、色気のない話を切り出す。

 

「クリスマスもいいが、その前に試験があること忘れてないだろうな?」

「ええ、勿論よ。ちゃんと勉強してるから安心して」

 

 当たり前だ。赤点なんかを取ったら、フータローの家庭教師生活がなくなってしまうかもしれないのだ。手を抜くわけがない。

 

風太郎は二乃の返事を聞き、それは頼もしいと安堵する。

 

「全員無事に試験に合格すること。家庭教師の立場からすれば、それが何より欲しいクリスマスプレゼントだな」

「……そ」

 

 分かってはいた。フー君が望んでいるのは私達が試験に合格して、無事に進級を果たすこと。それが何よりのフー君へのプレゼント。

 

 でも、それだけでは満足できないのだ。それでは、ただの家庭教師に対する生徒のプレゼントでしかない。或いは、三玖や五月ならばその為に全力で取り組むのかもしれない。

 

 だが、二乃が求めるのは、望むのはそんなことではない。恋する乙女としては、もっと色気のある物を贈りたいのだ。

 

 そんな二乃の複雑な内心を知る由もなく、風太郎は楽しそうに、五つ子の中で誰が一番いい点を取るか予想している。

 

「まあ今回も一番は五月だろうな。大学を目指してるだけあって、凄く勉強してるしな」

「…………ええ、そうね」

「いや、三玖の可能性もあるか。歴史は相変わらず断トツだし、他が良ければ一番になれる」

「……………」

「待てよ、一花かもしれないな。一花はやればできる子だし、本気になりさいすれば、十分可能性はある」

「…………ッ」

「いやいや、待てよ。大穴で四葉ってことも「アンタねぇ!わざと言ってんでしょ!?」……に、二乃?」

 

 突然の二乃の叫びに仰け反る風太郎。たが、二乃はそんなことを気にしている暇はない。

 

「何で私の名前が出てこないのよ!?私には無理だっていうわけ!?」

「そんなことないぞ、うん。二乃にも期待してる」

「嘘ばっかり!じゃあ何で、私の名前が出てこなかったのよ!?一番可能性低いって思ってるんでしょ!!」

「いや、ほら、二乃はさ。料理当番もしてて、バイトもしてるだろ?それに加えて勉強もとなると……ちょっと時間がなくて厳しいんじゃないかと……」

「ッぅぅぅぅ!!!」

 

(やっぱり思ってるんじゃない!それに何て言った? バイトもしてるから? 時間がない? それは一花も同じ条件の筈。なのに私には無理でも、一花にはできるっていうの? 一花にできて、私にはできないって? 冗談じゃない!)

 

そんなこと断じて認められる筈がない。

 

(私達は五つ子なのよ。一花にできて、私にできない筈はないわ。なのに、フー君は私には無理だっていう………………いいわよ、だったら、思い知らせてやるわ)

 

二乃は目に力を入れ、拳を握り、風太郎に力強く宣言する。

 

「アンタ、さっき私達が試験に合格することが、一番嬉しいクリスマスプレゼントだとか言ったわよね…………冗談じゃないわ、そんなもので、私が満足するわけないでしょう!?」

「……に、二乃?」

「私が!もっといいクリスマスプレゼント、用意してやるわよ!!」

「…………どういう意味だ?」

 

何を言っているのか、さっぱりわからないといった顔をする風太郎。それを見た二乃の目に炎が宿る。

 

わからない? だったら分からせてやる。

 

 

私の想いを。

 

 

「だ、か、ら!!」

 

 

私の意地を、覚悟を。

 

 

「私が、一番取ってやるって言ってんの!!!」

「…………は?」

 

思いがけない二乃の言葉に、目を丸くする風太郎。その反応は、ただ単に驚いているだけなのか、それとも──私が一番になれる筈がないと思っているのか。

 

「いや、待て、二乃。落ち着け、冷静に」

「ほんと、ムカつくわ。アンタって私のこと侮ってるでしょ?……全然見てないでしょ?………………私はフー君のこと、いつも見てるっていうのに」

「……二乃」

 

もう止められない。後戻りできない。

 

「いい!?今度の試験で、私は姉妹の中で、絶対に一番になるわ!三玖にも、四葉にも、五月にも、そして……一花にだって、絶対に負けない!」

 

でも構わない。保険なんていらない。

 

そう、欲しいのはただ一つだけ。

 

「その代わり約束して。私が一番になったら、私の言うこと何でも一つ聞くって」

「……何だって?」

 

それだけは──譲れない。

 

「私が一番になったら、フー君は私の言うこと何でも一つ聞く。その代わり、私が一番になれなかったら、フー君の言うこと何でも一つ聞いてあげるわ」

「…………それがプレゼントの代わりだと?」

「ええ、そうよ。不満かしら?」

 

不敵な表情を浮かべながら、風太郎を見つめる二乃。だが、内心は正反対だった。

 

(ど、どうしよう……勢いで言っちゃった……何でも言うこと聞くなんて…………私、何て事言ってるのよ!?)

 

自分の言った意味をようやく認識したのか、段々と顔が赤くなる二乃。仮に自分が一番を取れなくて、何でも言うことを聞かなければならないとしたら──

 

(も、もしも、フー君が『何でも言うこと聞くんだろ?』って言って、私を無理矢理、押し倒してきたら………………あら?それも悪くないのかしら?)

 

どっちに転んでも意外と悪くないかも、と思い直す二乃。一方の風太郎は、しばらくの間、唖然とした表情で二乃を見ていたが、やがて息を大きく一つ吐き、二乃に笑いかける。

 

「じゃあ、俺が勝ったら、二乃には、冬休み用の特別課題をプレゼントしてやるからな。覚悟しとけよ」

「ふふ、その計画は考えるだけ無駄よ。だって、私は絶対一番になるから」

「それは頼もしい。家庭教師としてはそうなることを祈ってるぜ」

 

「じゃあな、お休み」と言ってフータローは去っていく。二乃はいつものとおり、その背中を見つめながら決意を込める。

 

 

結局、最後は色気のない会話になってしまった。他の恋する乙女達は、もっと色々な恋の駆け引きを駆使して、意中の男の子を射止めるのだろう。

 

だが、自分にはこれしかできない。

 

でも、これが自分なのだ。

 

駆け引きなんていらない。

 

これでいい。

 

 

何故ならば──

 

 

「恋する乙女は、いつだって一直線なんだから!」

 

 

そう言って、二乃は、去っていく彼の背中を見ながら不敵に微笑んだ。

 

 





次回は、期末試験前の勉強会のお話。
試験が目前にせまり、マンションのリビングでテスト勉強をするフータローと五つ子達。
そこで三玖と五月は、『彼女』の真実に気付く。

『五つ子の三女と五女は、『彼女』の想いに気づき始める。』
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