クズなフータロー君と恋に溺れる五つ子の日常   作:やマッチ

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原作がこの物語よりドロドロギスギスしてきてワロタ。これは負けてられないな。



第十一話 : 五つ子の三女と五女は、『彼女』の想いに気づき始める。

 中野五月は、リビングのテーブルで間近に迫った期末試験対策の課題に取り組んでいた。教科は社会、五月にとっては一番苦手な歴史の問題である。

 

(鎌倉幕府が開かれた年は、『イイクニつくろう鎌倉幕府』ですから、1192年……ではありませんね。それは源頼朝が征夷大将軍に任命された年でした。幕府が開かれたのは、1185年です)

 

 歴史というのは不思議なものだ。この問題のように子供の時に教わったことでも、時が経つにつれ、それは間違いであったと分かったりすることがある。

 

 だからこそ興味深いのであろうが、覚える身としては中々に難儀なものだ。特に自分のように要領が悪くて、頭の固い人間からして見れば、以前当たり前に教わったことが、ある日急に間違いだと言われ、正しくはこっちだと教えられても、簡単には納得し難いのが現実である。

 

 とはいえ、教職を目指す以上は避けて通る訳にもいかない。生徒に間違ったことを教えるわけにはいかないのだから。

 

 五月は問題を解きながら、チラリと前を見る。そこにいるのは、自分達の家庭教師、上杉風太郎。彼はテーブルの中心に座り、それぞれ質問をしてくる五つ子達の相手をしていた。

 

「フータロー、ここわからないんだけど」

「ああ、ここはな、解の公式を使うんだ。X=2a分の-b……」

「上杉さん!ここの英文はどう訳すんですか、さっぱりわかりません!!」

「ああ、ここのwhoは、誰って意味じゃなくて、関係代名詞のwhoなんだ」

「……なるほど、ふーですか」

「わかってくれたか、四葉。嬉しいよ」

「ふー、ふー、ふー…………あれ?……そういえば、前に二乃が、上杉さんのこと、ふーく「四葉!ここの現代文わからないんだけど教えてくれるかしら!?」…に、二乃、何で私に」

「前のテスト、アンタの予想がドンピシャだったからよ。さぁ、早く!早く教えなさい!!」

「ちょ、ちょっと待って二乃。く、首がぁぁあわあわ」

「……何やってるの、二人とも」

「……ほっとけ、三玖。この問題だがな……」

 

 いつもの日常、いつもどおりの光景。そんな他の姉達が彼を中心に騒ぐなか、一人、静かに喧騒を守る者がいた。五月はその人物をチラリと見る。

 

 隣の騒ぎにも目もくれず、黙々と彼が作ってきた課題を解いているのは、五つ子の長女、中野一花。五月はその姿にしばし見惚れた。

 

 足を崩しながらも、背筋をきちんと伸ばした姿の何と美しいことか。役者としての心構えなのかわからないが、以前までぐーたら寝転んでいた姿とは別人である。

 

 元々姉妹の中で一番モテるタイプではあった。子供の時から、持ち前の明るさと元気のよさで皆の中心であったし、成長するにつれ控えめになった現在でも、よく男の子に告白されているらしい。

 

 とはいえ、自分達は五つ子、同じ顔なのだ。一花がモテるなら、自分だって……とは二乃の弁だが、五月も少なからず同じ気持ちではあった。夏祭りの時なんか、一花だけ食べ物にサービスされて、いたく腹を立てた記憶がある。

 

 だが今の一花を見ていると、とても同じであるとは思えなかった。

 

 問題に集中しているのか、少し伏し目がちになった目元は長い睫毛がよく映える。それだけではない。答えがわかったのだろうか、少し口元がほころぶ姿……やや前のめりになったことで髪が邪魔になったのか、髪を耳にかける仕草……同じ女であり、妹である自分の目から見ても、ぞっとするほど色気のあるものだった。

 

 いつから一花は、こんな姿を見せるようになったのだろうか。少なくとも半年前までは、転校してくる前までは、自分達と同じであった筈だ。或いは、一花も恋をしているのだろうか。雑誌に書いてあった、女の子は恋をすると、何倍も可愛いくなると。だとするならば、相手は誰だろう。学校の同級生?先輩?仕事で知り合った俳優? 

 

それとも、もしかして──

 

と、そこで五月の見つめる視線に気づいたのか、一花が顔をこちらに向け、首を傾げる。

 

「ん?五月ちゃん、どうかした?」

「い、いえ!何でもありません」

「そう?」

「ええ………勉強の調子はいかがですか、一花」

「うーん、まあまあかな。まあ、赤点は回避できると思うよ。五月ちゃんは?」

「全力を尽くしていますが……やはり社会は少し苦手ですね」

「とか言って……私より点数いい癖に」

「い、いえ。そんなこと……」

 

 一花のからかう言葉にする恐縮する五月。一花はそんな五月を微笑ましそうに見ていたが、ふと顔を前に向けた。その視線の先には、わいわい騒ぐ姉達とそれを仲裁する彼の姿。彼はいつもどおり、余裕のある笑みを携え、次々に質問してくる姉達の相手をしていた。

 

 だが、その穏やかな顔に、いつもとは違い疲れの色が見えるのは気のせいではないだろう。無理もない、と五月は先程まで取り組んでいた課題を手に取る。

 

「……彼も大変ですね。今日も私達の為に、一人ずつ違う課題を作ってきて下さって……しかも全部手書きなんですから。それに加えて、昨日もケーキ屋のバイトをしていたらしいですよ」

「……フータロー君は働きすぎなんだよ。もっと楽をしていいのに」

 

 五月の声に反応したのだろうか、一花がぼんやりと彼らを見つめながら、呟く。その言葉には、彼に対する労りとそして──少しの非難が込められていたように聞こえた。

 

 一花がそんなことを言うなんて、と五月は少し動揺しながらも、風太郎を弁護するかのように続ける。

 

「でも、彼も自分の道を歩む為に頑張っています。彼と私達、お互いに頑張って、一緒に前へ進んでいけば「違うよ」……え、一花?」

 

 突然言葉を遮られた五月は、一花の方へ振り返る。するとそこには、妹である五月ですら、見たことがない表情をした一花がいた。

 

「フータロー君はもう十分頑張ってきたんだから、これ以上頑張る必要なんてないんだよ。今までフータロー君は、たった一人で頑張ってきた……一人で色々なものを背負ってきたの。五月ちゃんだって知ってるでしょ、彼の家庭事情は」

「え、ええ」

「……彼は期待されればされるほど、頑張る人だから。休むこともせず、真っ直ぐ歩き続けちゃう…………だからね、そんな彼を支える人が必要なの。彼が肩の力を抜いて、ううん、違う。彼が楽をして生きていけるようにする人が……」

「い、一花……?」

 

 一花はそう言って、じっと彼らを、いや、彼を見つめていた。五月は何か言葉を発しようとして──できなかった。彼を見つめる一花の横顔は、あまりにも美しく、神聖で、何者も立ち入ることを許さない雰囲気を纏っていた。

 

五月はゴクリ、と喉を鳴らす。

 

もしかして、一花は彼のことが──

 

と、そこで一花が五月の方に向き直り、肩を竦め、おどけた表情をする。

 

「なんて、ね。私達はしっかり勉強するだけだよ。それが一番フータロー君の為になるんだもん」

「……え、ええ、そうですね」

 

 一花はそう言って、再び問題を解き始めた。五月もまた、ペンを握り、問題に取り組む。

 

手を動かしながら、五月は思った。

 

 

やはり一花は、自分とは、自分達とは何かが違う、と。

 

 

 

 

    ○

 

 

 

 

「……できた」

 

 中野三玖は、そう呟いてペンを置いた。課題を全て終わらせた達成感と疲労から、思わずソファーにもたれかかる。

 

「あー疲れたぁ。もー駄目、頭パンクしちゃいそうです」

「よく頑張ったな、四葉。よし、そろそろ休憩するか」

「やったー!上杉さん、大好きです!!」

「……四葉、離れなさい」

 

 風太郎の休憩を告げる声に、皆が歓喜の声を上げる。課題に取り組み始めてから、もう一時間が過ぎていた。さすがに集中力が切れそうだ。

 

「私、飲み物取ってくるね。五月ちゃん、手伝ってくれる?」

「……ええ、わかりました」

 

 そう言って一花と五月が飲み物を取りにいく。しまった、出遅れた。せっかく、フータローに飲み物を持っていくチャンスだったのに。

 

「これだけ勉強したんですから、点数アップ間違いないですよ!ね、上杉さん?」

「……そうであって欲しいね、いや、本当に」

「……大丈夫だよ、フータロー。私、今回自信あるから」

「おっ、頼もしいな三玖。期待してるぜ」

「う、うん」

 

 フータローの期待する瞳に思わず顔が熱くなる。そうだ、今回は何としても、姉妹の中で一番に成らなくては。前回は合計点で五月に負けてしまった。だからこそリベンジをする為に、歴史以外も頑張って勉強しているのだから。

 

「今回の試験も一番は五月かな?凄い成績伸びてるもんね」

「……まあ、順当にいけばそうだろうな」

「ですよね。五月、大学に進学する為に凄い頑張ってますから。今回も五月が一番に「いいえ、今回一番を取るのは私よ」……え、二乃?」

 

 二乃の言葉に驚く四葉。三玖も驚いた。二乃がそんなこと言うなんて。

 

「ちょうどいい機会だから宣言しておくわ。今回の試験で、私が一番いい点数を取るのから…………ね、フータロー?」

 

 二乃はそう宣言し、フータローの顔を見ながらウィンクするように片目を瞑る。それを見た三玖の心がざわつく。

 

……やっぱり二乃もそうなんだ。私と一緒で二乃もフータローのことを。

 

だったら──負けられない!

 

「……私だって負けないよ。私が一番になるから」

「……三玖」

 

 二乃は一瞬虚をつかれたような表情をしていたが、すぐに、上等じゃないと呟き、三玖に向けて不敵な笑みを浮かべる。三玖もまた負けじと二乃に向き直る。絶対に負けられない。

 

「はーい、お待たせ。飲み物だよー……はい、フータローくん」

「サンキュ、一花」

 

ちょうどその時、一花が手にお盆を乗せ、飲み物を運んできた。ピリピリしかけた空気を見計らったような、完璧なタイミング。おかけで空気が和らぐ。

 

「随分盛り上がっていたようですけど、何の話をしていたのですか?」

 

 続けて五月もお盆を手に持ち、首を傾げながら現れる。お盆の上には飲み物と……お菓子の数々。もうすぐお昼だというのに、我慢できなくなったようだ。五月らしい……と思っている暇はない。一番になる上で最大のライバルはこの末っ子の妹。ならば負けるわけにはいかない!

 

「五月、アンタ最近太ったんじゃない?ダイエットした方がいいわよ」

「……そうだよ、五月。控えた方がいいよ。そのお菓子、預かるから」

「え、ええ?そ、そんな私、太ってなんか……あ、ああ……ひ、酷いです」

 

 楽しみにしていたお菓子を没収され、絶望した表情になる五月。そんな五月を見ながら二乃と三玖は目を合わせ、互いに首肯く。これで五月はお腹が空いて集中力を欠き、勉強に集中できなくなる筈。

 

五月には悪いが仕方ない。可愛い妹であろうが、時に戦わなくてはならない時もある。

 

陶晴賢を破った毛利元就も言っていた。

 

『謀多きは勝ち、少なきは負ける』と。

 

戦いはもう既に始まっているのだ。

 

 

 沈みこむ五月を無視して、三玖と二乃は互いにアイコンタクトを交わす。一番手強い相手は押えた、後の敵は目の前の相手のみ。正々堂々(?)と一騎討ちだ。

 

 二人が無言でバチバチとやり合うなか、風太郎達はお菓子を摘まみながら、たわいもないお喋りに興じていたが、ふと、四葉が風太郎に向けて尋ねる。

 

「そういえば、もうすぐクリスマスですね……上杉さんは、お家でパーティとかするんですか?」

「……まあ、些細なもんだけどな。少し飾り付けして、ケーキ買ってきて、らいはが作る料理食べるくらいだ」

「……なるほど。らいはちゃんのお料理、いいですね。私も食べてみたいです」

 

 フータローと四葉の会話を聞きながら、三玖はハッとする。そうだ、試験があるせいで忘れていた。もうすぐクリスマス、フータローにプレゼントを用意しなくては!

 

 と、そこで、三玖の内心を知ってか知らずか、四葉が突然フータローに向けて口を開く。

 

「そうだ、上杉さん。今回の試験で、一番いい点数取った人は、上杉さんからクリスマスプレゼントを貰えるというのはいかがですか!?」

 

「「「え」」」

「………え」

「……何?」

 

突然の四葉の提案に、驚くフータローと姉妹達。

 

(……フータローからクリスマスプレゼントを貰える?……………欲しい!)

 

 好きな人からクリスマスプレゼントを貰えるなんて、これほど嬉しいことはない。顔を綻せ喜ぶ三玖。勿論、喜んでいるのは三玖だけではない。二乃もまた、頷きながら嬉しそうな顔をする。

 

「いいわね、それ。四葉、いいこと言うじゃない」

「ししし、でしょう?決まりですね、上杉さん!」

「……まあ、いいけどな。ちなみに俺は何をすればいいんだ?あんまり高い物は用意できないぞ?」

「平気よ、別に物買えって言うわけじゃないわ」

「……でしたら、何をさせるつもりなんですか、二乃?」

 

 五月が首を傾げて二乃に問いただす。それに対して二乃は一つ頷き…………何故か頬を染める。

 

「頑張ったご褒美として……………ほ、ホッペにチューとかどうかしら?」

「「「な!?」」」

 

「そんなの駄目だよ!」

 

「…………一花?」

 

 突然、大きな声を出し立ち上がったのは、五つ子の長女である一花。一花の顔を見た三玖は息をのんだ。その時一花が浮かべていた表情は、五つ子である三玖ですら見たことがないほど、険しい表情をしていた。

 

「……二乃、そういうの良くないと思うな。勝手にフータローくんのこと、景品にするなんて。」

「……ちょっとした冗談じゃない、そんなに怒ることないでしょ…………それとも、一花は何か思うところがあるのかしら?」

「……何か、って何?」

「それを聞いてるんだけど?」

「…………」

「…………」

「…………それに、合計点勝負なんて不公平だよ」

「どこがよ?」

「……だってほら、私、最近お仕事が忙しくて、中々勉強できなかったし……」

「それは私も同じよ。私だって、アルバイトしてるわ。それに加えて、料理当番もしてるんだから」

「……そう、だけど……」

「ふ、二人とも落ち着いてください。どうしたんですか?」

「そ、そうだよ。喧嘩はよくないよ。皆、仲良くしなきゃ駄目だよ」

 

 言い争う一花と二乃を見て、五月と四葉が慌てて仲裁に入る。三玖はそんな二人を見て、目を見開いた。

 

もしかして、二乃だけじゃなく一花も──

 

と、その時、困惑した表情を浮かべていた風太郎が、一つ大きな息を吐き、口を開く。

 

「わかった、じゃあこうしよう。国数英理社の五科目で、それぞれ一番になった教科が多い奴が優勝ってことで。これなら、それぞれ得意教科があるんだから公平だろ?前回も皆、一番だったんだし…………勿論、全員一つずつトップなら、全員にプレゼント用意してやるよ」

 

 ただし、赤点を一つでも取ったら権利なしだからな、とフータローは付け加える。

 

 フータローの言うとおり、私達はそれぞれ得意教科が違う。私は社会、一花は数学、二乃は英語、四葉は国語、五月は理科。確かにそれならば──公平だ。

 

「私は合計でもいいけど……まあ、別にいいわよ」

「はい!楽しみです!!」

「……うん、それならいいよ」

「私は参加するなんて言ってないのですが…………まあ、仕方ないですね。でも、私は仮にも教師を目指している身。負けませんよ」

「…………わかった」

 

 フータローの妥協案に同意する五つ子達。そっけなくしながらも、不敵な表情を浮かべる二乃。笑顔で元気よく返事をする四葉。静かに、穏やかに笑う一花。渋々返事をしながらも、自信満々に笑みを浮かべる五月。

 

 返事はバラバラながらも、その顔には皆一様に笑みが浮かんでいた。勝つのは自分だ、という自信にあふれた表情が。

 

三玖もまた、拳を強く握り決意する。

 

自分の成長を示す為にも、フータローのプレゼントをゲットする為にも負けられない、特に一花と二乃には絶対に!

 

普段のクールさはどこへやら、三玖はメラメラと闘志を燃やす。

 

 

だからこそ、気づかなかった。

 

三玖の側にいる『彼女』が、微笑みながらも一瞬、表情を消したことを。

 

その内心に秘めた想いを。

 

 

 

側にいたにもかかわらず──見過ごしてしまった。

 





次回は期末試験回。
果たして勝つのは誰なのか。

『五つ子の姉妹達は、それぞれの想いを胸に試験に臨む。』

後三話ぐらいでとりあえず一区切り、第一部完結です。
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