クズなフータロー君と恋に溺れる五つ子の日常   作:やマッチ

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原作最新話見ました。そして確信した。
ボート零奈=五月(四葉ちゃんとの共謀説)
京都零奈(最初)=四葉ちゃん
京都零奈(次の日)=一花さん
これでファイナルアンサーだ!



第十四話 : 彼は、夜空を見上げ『彼女』に問いかける。

   

「ジングルベェール、ジングルベェール、すずがぁ、なるぅ♪」

「今日わぁ、楽しい、ク・リ・ス・マ・ス♪」

 

「「イェーイ!」」

 

「四葉、らいはちゃん。あまり騒いではいけませんよ?せっかくの飾りつけがとれてしまいます」

「そんなことしてないもん。ね、らいはちゃん」

「うん、してないよ。ね、四葉お姉さん」

 

「「イェーイ!!」」

 

「え、ええ……ど、どうしましょう……?」

「はぁ……子供が二人いると大変だな」

「ふふふ、そんなこと言って。四葉に怒られちゃうよ、フータローくん」

 

 中野一花は隣に立つ彼──上杉風太郎の呆れたような呟きに、からかうように言葉を返した。一花の目の前では、妹である四女の四葉と彼の妹であるらいはちゃんが、クリスマスツリーの周りを歌いながら走り回っている。よっぽどクリスマスの飾り付けが楽しいようだ。そんな二人を、同じく妹である五女の五月がおろおろとしながら止めようとしている。

 

 ふと、台所を見ると、二乃と三玖の二人がてきぱきと動きながら料理を作っていた。二乃が主体となって指示を出し、三玖がその通りに動くという五つ子ならではのチームプレー。

 

 実は一花も料理を手伝おうと思ったのだが、二乃達から断られたのだ。二人曰く、昨日も仕事で一日出かけていたのだから、今日ぐらいゆっくり休めとのことであった。

 

 本当は、昨日は彼とクリスマスデートをしていたこともあり、何だか少し後ろめたい気持ちではあったが、まだ料理の腕も上がっていなかったので、お言葉に甘えて料理は妹達に任せ、彼らと一緒にクリスマスパーティーの飾り付けをしていたのであった。

 

「……何か変な気分だな」

「え、何が?」

 

 キャーキャーと楽しそうに騒ぐ四葉達を見ながら、彼がぽつりと漏らす。それを一花は不思議そうな顔で聞き返した。

 

「いや、いつもは親父とらいはと三人だったからな。こんなに大勢でクリスマスを祝うなんて初めてだ。それに、こんな本格的な飾り付けなんてしたことないし、さ」

「……そっか」

 

 リビングを見渡すと、壁のあちらこちらに色とりどりの飾り付けがされていた。そしてリビングの真ん中には、一際目立つクリスマスツリーがあった。四葉がどこからか借りてきたらしい。四葉曰く、「クリスマスにはこれが必要不可欠です」とのことだ。何とも四葉らしい。

 

「……上手くいえないけど、さ」

「……うん」

「何か、いいな……こういうの」

「……そうだね」

 

 チラリと彼を見ると、感慨深そうに四葉達を、いや、この光景を見ていた。二乃や三玖、四葉や五月に彼の妹のらいはちゃん。みんな楽しそうにクリスマスの準備をしていた。そこには確かに笑顔があった。幸せがあった。

 

 一花は思う。彼を譲るつもりは、渡すつもりはない。その決意に変わりはない。だが、一方でこうも思う。みんなと一緒に楽しく、幸せに過ごす日々。こういうのも悪くはない、と。

 

 

 

 

   ○

 

 

 

「はーい、お待ちどうさま。料理できたわよ」

「美味しそう!」

「すごーい、こんな豪華な料理初めて見ました」

「ほんとだね、さすが二乃。三玖も凄いね」

「……ほとんど二乃のおかげ。私は言われたとおりしただけだから」

「は、早く食べましょう。お腹が空きました!」

「……五月、落ち着け」

 

 中野二乃の目の前では、自分が作った料理を見て目を輝かせる姉妹達の姿があった。料理人にとっては、何とも嬉しいことである。その中の一人が目を輝かせるどころか、ギラギラさせているのは見なかったことにしよう。

 

「まだまだ、これで終わりじゃないわよ。ちょっと待ってなさい」

 

そう言って、台所へと向かう二乃。一度に運びきれなかった残りの料理がそこにはあった。皿を手に取り、運ぼうとする。が、

 

「二乃、手伝うよ。これ、運べばいいのか?」

「あ、フー君……うん、ありがと」

 

 二乃に声をかけたのは、自分の想い人である上杉風太郎。彼が自分を手伝いに来てくれたことに嬉しさが涌き出る一方で、彼とは顔を合わせずらいことも確かであった。その理由が──

 

「そう言えば、二乃。テスト勝負がどうとか言ってたな」

「え……あ、それは」

「合計で一番取れなかったら、何でも一つ言うこと聞くんだっけ?」

「っ!」

「さぁて、何を聞いてもらおうかなーっと」

「……何でもいいわよ。何でもするわよ」

 

 二乃は少し意地悪そうに言う彼を見ても、何も言い返すことはできなかった。何せ自分は負けたのだ。あれだけ彼に自信満々に、啖呵を切っておきながら、総合では五月に負け、姉妹達との勝負では四葉に負けた。情けないにも程がある。彼と合わす顔などなかった。

 

俯く二乃を見て、風太郎はじゃあと口を開く。

 

「年明けにでも、買い物付き合ってくれよ」

「……え?」

「服でも買おうと思ってな。せっかくだし、二乃に選んで欲しいかな」

 

 彼の口から出た予想外の言葉に驚く二乃。買い物に付き合う? 私が? そんなことでいいのだろうか?

 

「ど、どうして、私に?」

「二乃は五つ子の中で一番オシャレしてるじゃないか。だからその二乃に選んで欲しいんだよ。きっと二乃なら俺に似合う服を選んでくれると思ってな…………それじゃあ駄目か?」

「う、ううん、そんなことないわ!」

「そっか、よかった。楽しみにしてるよ」

「う、うん…………私も」

 

 照れながら返事を返す二乃を見て、風太郎は満足したように料理の皿を運んでいく。その背中に二乃も続く。リビングに現れた二乃達を待ち受けるのは、妹達の嬉しそうな声。

 

「うわぁ、すごーい。まだ料理あるんだぁ」

「ほんと、これも美味しそう」

「これは三玖が作ったのよ。自信作だって……ね、三玖?」

「う、うん」

「へー、そうなのか。それは楽しみだな」

「は、早く食べましょう。お腹が空きました!」

「……五月ちゃん、落ち着いて」

 

本当は、クリスマスはフー君と一緒に過ごしたいと思っていた。だからテスト勝負を持ちかけた。大好きな人と一緒にクリスマスを過ごす為に。

 

 だが、と二乃は思う。自分の作った料理を大切な姉妹達が、自分の大好きな人が美味しそうに食べてくれる。これ以上の幸せがあるだろうかと。みんなと一緒に楽しく、幸せに過ごす日々。こういうのも悪くはない、と。

 

 

 

   ○

 

 

 中野三玖は緊張した様子で目の前の光景を見ていた。心臓がドキドキと音を立てているのがわかる。もし失敗したらどうしよう、頭の中はそれで一杯であった。

 

「わー、すごーい!」

「ほんと、美味しそうだな」

「綺麗……これ、ほんとに三玖が作ったの?」

「ええ、そうよ。私も少しは手伝ったけど、ほとんど三玖が作ったわ……大したものね」

「は、早く食べましょう。お腹が空きました!」

「……五月、少し落ち着きなよ」

 

 目を輝かせる姉妹達の前にあるのは、クリスマス用の特製ケーキ。そう、三玖がこの日の為に用意したとっておきの一品である。

 

  元々ケーキ作りには挑戦していたが中々上手くできなかった。そこで二乃に教えてもらったりもして、ようやく食べられるレベルには上達した。加えてフータローのプレゼント賭けたテスト勝負が開始されたこともある。

 

 四葉から言われたのだ。勝負に勝ったら、フータローと一緒にクリスマスパーティーを開こう、と。その言葉を聞いてケーキ作りに一層の熱が入った。クリスマスまでに間に合うように、テスト勉強の合間もケーキ作りに時間を取ったりもした。

 

 もしかしたら、そのせいでテスト勝負に負けたのかもしれない。勝負が終わった後はひどく後悔したものだが、今、嬉しそうにしている姉妹達の顔を見ると間違ってなかったとも思えてくる。そして何よりも──

 

「じゃあ、頂こうか……三玖、いいか?」

「う、うん。どうぞ、フータロー」

 

 三玖はフータローがケーキを口に運ぶのを固唾を飲んで見守る。以前作ったお弁当は失敗した。だから今度こそ、その思いで再び挑戦したのだ。失敗は許されない。大丈夫、味は確認済みだ。二乃にも太鼓判を得ている、何の憂いもない筈だ。

 

「……うん、美味いな、これ」

「!! ほ、ほんとに、フータロー!?」

「ああ、メチャクチャ美味いぞ、な、らいは?」

「うん! すごく美味しいです、三玖さん!」

 

 フータローだけではなく彼の妹であるらいはちゃんもまた、三玖に賛辞を送る。そして姉妹達もまた。

 

「ほんとだ、美味しいよ、これ」

「うん、美味しい」

「ふむ、確かに美味ですね。ですが生地に少し違和感があります、卵とグラニュー糖の混ぜ具合いがまだまだ甘い気がします。改善の余地はありますね。まあ、これからの期待も込めて星4にしておきましょう」

「……五月、そのキャラ止めなさい」

 

 口々に感想を言い合う姉妹達。それぞれ言葉違えど、思いは共通のものであった。美味しい、と。

 

 それを聞いた三玖は思う。大切な姉妹達が、自分の好きな人が、自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる。それが堪らなく嬉しい。先程とは別の意味で胸がドキドキするのを感じる。

 

 自分が料理を頑張ろうと思ったのはフータローの為だ。自分の背中を押してくれたフータローに喜んでもらう為に、自分の成長を見せる為に頑張ってきた。それに偽りはない。

 

 でも一方でこうも思う。大切な姉妹達と、そして好きな人と一緒に楽しく、幸せに過ごす日々。こういうのも悪くはない、と。

 

 

 

   ○

 

 

 

 

「これで全部かな」

「ええ、そうですね。手伝って頂いて、ありがとうございました」

「いや、お礼を言われる筋合いはないさ。むしろこちらが俺を言う立場だ。今日一日世話になりっぱなしだ……ありがとな」

「……いえ」

 

 中野五月は、隣に立つ彼──上杉風太郎と共に流し台に立っていた。食事が終わった後の後片付け。その役目を自分が買って出たのだ。何せ、二乃と三玖にはとても手の込んだ料理を作ってもらった。その二人に後片付けまでさせるのは女がすたるというものである。決して今日一日を振り返り、何だか自分だけ食べているだけに思えて居たたまれない気持ちになったからではない。

 

 リビングからは楽しそうな声が聞こえてきた。姉達と彼の妹であるらいはちゃんが騒ぐ声。どうやら四葉が部屋から持ってきた人生ゲームをやっているようだ。何とも四葉らしい。

 

「……五月」

「はい? 何ですか、上杉くん」

 

 楽しそうな声をぼーっと聞いていると、隣から自分の名を呼ぶ声がした。隣を見ると彼が心配そうな顔で自分を見ていた。

 

「テストのこと何だが……もう平気か?」

「……ええ、大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました」

「そうか、ならいいんだ」

「…………」

 

 彼が安心したように息を吐く。どうやら相当心配をかけていたようだ。自分でもかなりショックを受けたと感じたのだから、周りにとってはそれ以上に心配されていたらしい。何せ食事が喉に通らないと思ったほどなのだから。いや、しっかりと食べはしたが。

 

「……私は少し自惚れていたのかもしれません。前回でも一番でしたし、姉達と違って私は大学を目指しているのですから負ける筈がない、と無意識の内に思っていたのでしょう。それがこの結果です」

「そんなことないさ。確かに勝負では負けたかもしれないが、合計点では勝ってただろ? あいつらが予想以上に頑張っただけだ」

「……だとしても情けないです。せっかく毎日のように、上杉くんに勉強教えていただいたのに……無駄にしてしまって」

 

五月は洗い終わったお皿を手に持ったまま俯く。彼に申し訳ない気持ちで胸が一杯だった。合わせる顔がない。

 

「……まあ、いい経験になったんじゃないか?」

「……え、どういうことですか?」

 

 彼の発した言葉の意味がわからず顔を上げる。すると彼はいたずらっぽい顔をして五月を見ていた。

 

「受験ともなれば周りの全てがライバルなんだ。みんな死物狂いで大学に合格する為に勉強してくる。それこそあいつら以上に、な」

「……そうですね」

「だったらお前も、負けないように今まで以上に頑張るだけさ。俺も今以上に頑張ってサポートするよ。だから五月も頑張れ。一緒に前に進んでいこう。何せ俺達は『パートナー』なんだからな」

「上杉くん…………ええ、そうですね…………これからも宜しくお願いしますね」

「ああ、こちらこそ宜しくな」

 

 風太郎は五月の返事に満足したように微笑む。それを見た五月もまた、ほっと安心したように息を吐いた。

 

 よかった、と思う、彼がいつもどおりの様子で。何せ彼はテスト前後、とても疲れた様子を見せていたのだ。まるで何日間も徹夜したように目に隈ができていた。それほど夜遅くまで勉強をしたのか、それともまさかバイトでも増やしたのだろうかとも思い彼に聞いてみたが、最近勉強をサボりがちだったので、取り戻すべくした結果らしい。何とも彼らしいことである。

 

「さて、洗い物も終わったし、俺達も遊ぼうぜ」

「ええ、そうですね」

 

風太郎の言葉に頷き返し、共にリビングへと向かう。するとすぐに様々な声が飛んでくる。

 

「二人ともやっと来た。遅いよー」

「お兄ちゃん、五月さん、早く早く!」

「フータローくん、ここどうぞ」

「フー君、ここ空いてるわよ」

「……フー君って何?」

 

 そこではみんながとても楽しそうに、幸せそうにしていた。姉達に、彼とらいはちゃん。みんな笑顔でいる。幸せそうにしている。それが五月の胸を熱くさせる。

 

 

願わくば、皆のこの笑顔が、幸せが、いつまでも続きますように。

 

五月は窓の外に浮かぶ月を見ながらそう祈った。

 

 

 

 

   ○

 

 

 

そこには確かにあった。

 

 

笑顔が、幸せが。

 

 

ここいる全ての者達の顔に、それが浮かんでいたのだ。

 

 

誰一人欠けることなく、みんなが笑顔で幸せに過ごす時間。過ごす日々。

 

 

それは確かにあった、この時にはまだ、ここに。

 

 

 

 

 

   ○

 

 

 

 

 

「さすがに冷えるな……時期も時期だし、時間も時間だから仕方ないが」

 

 

 上杉風太郎はベランダへと続くドアを開け、外に出た。途端に冷たい空気が彼の体を覆う。時刻はとっくに日付けを跨いでおり、そんな時間に外に出たら当然ではあるが。

 

 自分とは対照的に、今頃、彼女達は温かいベッドの中でぐっすり眠っていることであろう。そういえば、結局らいはは誰の部屋で眠ることになったのだろうか。彼女達がジャンケン勝負を始めて、二乃と五月が最後まで残ったことは覚えているのだが。まあどっちでもいいが。

 

 

 風太郎はベランダの手すりに手を当て、夜空を見上げる。そこには光があった。幾千万にも輝く星々の光が。その輝きを見ながら思う。

 

 人があの光を見る時の気持ち、それは『恋』なのだと。一方的で情熱的で刹那的で、相手の気持ちも分からずに勝手に思いを馳せ、名前まで付けてしまうその気持ちは、正しく恋そのものだと言っても過言ではない。

 

 例えばシリウス。あの地球上から見える最も明るい星は、その明るさにちなんで『焼き焦がすもの』『光輝くもの』という意味を持つ名を付けられた。

 

 もしそれをあの星が知ったらどう思うだろうか。喜ぶだろうか。誇りに思うだろうか。激怒するだろうか。悲しむだろうか。そんなこと分かるわけがない。

 

 そう、男が女を、女が男のことを真の意味で理解できないように、誰にもわからないのだ。彼あるいは彼女は自分ではないのだから、推測するしかない。だから興味を持つのだろう。だからこそ、その内心を知ってみたいと望むのだろう。

 

 

 風太郎は思う。五つ子の長女である一花のことを。半年前に出会った時、彼女は弱さを隠していた。普段はだらけながらも、要所要所で妹達を牽引するその姿に、長女としてのあるべき姿を感じた。

 

 一方で、彼女は誰よりも自由に、愛に餓えていた。長女であるが故に、遠慮をせざるをえない役割。個の強い妹達に配慮し、常に一歩引いたところで妹達を助けながらも、本当は自分の思いを、願いを叶えたいと思っていた。それは、彼女が役者の道を選んだことからも分かる。

 

 一花は、本質的には自由奔放な人となりなのだ。自分のしたい事をして、自由に生きる。それが彼女の生まれ持った性質、一花が最も輝ける瞬間。

 

 妹達を大事に思いながらも、本当は自分を一番に、自分だけを見て欲しいと願う歪んだ独占欲。それが彼女の心の奥底に溜まっていた。

 

 だからこそ、大事な人に自分が必要だと実感できた時、彼女はとても輝くことになった。自分が必要とされる事に彼女は喜びを、自分の存在価値を見いだしていた。彼女風に言えば『愛』に生きているといった方がいいか。

 

 とはいえ、まさかマンションを出て一人暮らしをしようなどと考えていたのは驚きではあったが。まあ、その思いも、自分に対する『愛』とやらに変わったのだから、結果的には問題はないだろう。

 

 『彼女』は言ったのだ。一花はとても幸せそうだと。今まで見た中で、一番生き生きとしている、と。実の妹がそう言うならばそうなのだろう。今のまま、愛を与え、与えられ続ける関係でいればいい。それが一花を一番笑顔にできる道なのだ。何も問題はない。

 

 

 一方で、次女である二乃は違う。出会った時から、自分が家庭教師をすることに唯一反対してきた彼女。そこに風太郎は彼女の姉妹に対する愛情を見た。同時に彼女が誰よりも寂しがりやであることも。

 

 攻撃的な性格も、自分を守る為の手段なのだ。内面は繊細で優しさに溢れている。風太郎にキツい態度をとった後に、少し気まずそうな表情を浮かべていたことから簡単に分かった。本質的には誰より優しい女の子なのである。

 

 だからこそ、彼女には慎重に接した。時には押し、時には引きながら、彼女の興味を失わせないようにした。結果、自分への興味が好意へと変わり、今、彼女は初めての恋に全ての情熱を燃やしている。輝いている。

 

 とはいえ、まさかあそこまで姉妹に対して遠慮をしないとは予想外ではあったが。

 

 『彼女』が言うことには、二乃はこうと決めたら一直線に向かうタイプらしい。いずれにせよ、あの直球勝負な女の子には下手な小細工は考えるだけ無駄であろう。今後も、扱いには気をつけなくてはなるまい。

 

 

 二乃とは反対なのが、三女の三玖だった。出会った時は口数の少ないミステリアスガールだと思ったが、以外にも表情豊かで驚いた。そして三玖は、五つ子の中で誰よりも劣等感を持っていた。

 

 自分に自信がない彼女。自分にできることは他の姉妹にもできると諦めたように言う彼女を見て、少し昔の自分に似ているとも思った。『彼女』と出会う前の自分に。

 

 だからこそ彼女には自信を与えた。努力することの大切さを。何かに向かって、一生懸命に励むことの偉大さを。結果、彼女は今、他の姉妹の誰よりも努力し、生き生きと楽しそうに、幸せそうにしている。

 

 『彼女』に聞くまでもなく、それは分かった。ならば今後も、あの頑張り屋さんな彼女の成長を促すだけだ。それでいい。何も問題はない。

 

 

 そしてある意味で、この半年間で最も成長したのは末っ子の五月であろう。将来を定め毎日努力をし、不器用ながらも真っ直ぐに歩くその姿は、とても好感の持てる姿であった。まるで五年前の自分だと思ったこともある。

 

 そういえば、いつだったか『彼女』が言っていた。自分と五月は似た者同士であると。なるほど、だからこれほど五月を応援したくなるのだろうか。彼女の行く道に光があることを願う。自分がそうであったように。

 

 

 風太郎は空を見上げる。マンションの最上階は下界とは切り離された空間。何者も邪魔をするものはいない。静寂に包まれたこの世界で聞こえるのは風太郎の息づかいのみ。

 

 だからこそ彼には分かった。聞こえていた。階段が軋む音が。誰かが二階から降りてくる足音が。半開きになったドアが開き、誰かがベランダへと出てきた。

 

 風太郎は振り向かなかった。何故なら分かっていたからだ。誰が来たかなど、彼には分かっていた。だから振り向く必要などなかった。

 

 『彼女』が隣に並び、同じように空を見上げた。二人の間に会話はない。今さら喋る必要などなかった。彼女の願いを自分は知っている、そして彼女もまた、自分の願いを知っている。故に喋ることなど何もない。

 

風太郎は思い出す。半年前のことを。『彼女』から依頼された言葉を。

 

あの日、『彼女』は自分の前に立ち、こう言ったのだ。

 

 

『お願いがあるんです』

 

『皆を笑顔に、幸せにして欲しいんです』

 

『私は、ずっと皆と一緒に笑顔でいたい。誰一人欠けることなく、ずっと笑顔で、幸せでいたいんです』

 

『私も協力します。だから……お願いします』

 

 

 そう言って頭を下げた『彼女』の協力を得ながら、自分は彼女達と縁を深めた。例えば、事前に彼女達の予定を教えてもらい、偶然を装ってデートをしたり。誰かと鉢合せないように、他の姉妹達を連れ出してもらったりした。結果として、『彼女』の願いは果たされたと言ってもいいだろう。

 

 今日の光景を思い出す。一花も二乃も三玖も五月も皆楽しそうに笑っていた。そこには笑顔があった。幸せがあった。確かにそこには『彼女』が望んだ光景が、明日が、未来があったのだ。何も不満はあるまい。

 

 だがそれとは別に、一つだけ、どうしても聞きたいことがあった。聞いておかなければ、いや、確認しておかなければならないことが。

 

 

 そう、『彼女』の言った『皆』とは、自分にとっては『彼女』のことも含まれているのだから。

 

 

「……一つだけ、聞きたい。いや確認したいんだ」

「……どうぞ」

 

 風太郎の問いに『彼女』は頷きながら促す。風太郎はそれを聞いて、ようやく彼女に向き直った。

 

 そこには予想したとおりの笑顔があった。普段どおりの、半年前の、五年前にも見た笑顔が。

 

 

 

「今、お前は────幸せか?」

 

 

 

 それを聞いた彼女は、一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔に変わる。

 

そう、周りの人を笑顔にする、向日葵のような笑顔に。

 

 

「もちろんです。一花も二乃も三玖も五月も、皆、楽しそうに、幸せそうにしてます。だから私も、今、とっても幸せです!」

 

 

 

そう言って彼女は──中野四葉はそっと微笑んだ。

 





とりあえずこの話でひと区切り、第一部終わりって感じです。続きは原作の進み具合を見ながら書きたいなーと思ってます。

というのも、この物語の設定として、四葉ちゃん=京都零奈という設定で書いていたので、もし違ったらこの物語の根幹が崩れることに……いやそれならそれでいいんですけど。

続きを書くまでは、不定期になりますが番外編みたいなものを書きたいと思います。1話開始前に起こったこと、例えばGWに一花さんが偶然会ったフータローくんとデートするお話とか、試験前のお泊まりで一花さんがフータローくんにいてこまされるお話とか、夏休みのプールで一花さんがフータローにラッキースケベされるお話とか。まあ一花さんの可愛いお話を書いていくつもりです。この物語を書き始めたのもそれが目的ですし。

最後になりますが、皆様の多くの感想や評価には大変勇気づけられました。また、お読みいただき本当にありがとうございました。
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