ノースティリスの冒険者が冒険するのは間違ってない 作:二つ名:火の宿命
……それは彼女がとある
迷宮の主であるミノタウロスの戦士を打ち倒し、戦利品の確認していると……とある巻物を見つけた。
それは迷宮の主が落とす帰還の巻物だが……何か、違和感を覚えた。
その違和感を解消する為、鑑定の魔法を使用したが、鑑定の魔法は普通の帰還の巻物としか示さない。
本来ならこんな奇妙な帰還の巻物を使うつもりなどないが……。
「……皆無」
やってしまった。
用意したつもりだったが、帰還の巻物を持ってくるのを忘れたようだ。
帰還の巻物を使わずにネフィアを降りることも考えたが……流石に面倒くさい。
ここは多少は奇妙でもこの巻物を使うのが得策だろう。
まぁ幾ら奇妙と言っても、最悪このノースティリスの何処かに吹き飛ばされるだけで済むはず。
それならば多少の時間さえかければ自宅に帰れるはずだ。
そう判断した彼女は……帰還の巻物を紐解き、それを発動させた。
それが間違いだとは知らずに。
「っ!」
奇妙な光に包まれつつ、彼女は帰還の巻物特有の浮遊感に身を委ねる。
眩い光が収まり目を開ける。……そこは今までいた
「……何処?」
そこは不思議な雰囲気を漂わせる迷宮であった。
彼女の知っている迷宮とは他者を受け入れ、試練を与えて、自ら攻略をされるのを望む存在である。
だが、この迷宮は違う。他者を拒み、攻略されるのを望まず、排斥する……そのような雰囲気をその身で感じる。
「……探索」
だが、迷宮に来たのならばやることは一つしかない。
迷宮を制覇して、帰還の巻物を手に入れ、自宅に帰還する。
それが今、彼女にできる唯一のことだった。
幸い、食料には余裕がある。時間は掛かるかもしれないが……攻略する分には問題ないだろう。
「……不安」
だが、生憎……彼女は冒険者としての力量は低い。
夢で得た宝の地図を読み取り、装備は充実しているが……流石に自身の力量よりも上のダンジョンを攻略する自信はない。
今まで、税金を払うようになってからは一度も死んだことなかったのが、彼女の自慢であるが……流石に今回は厳しいかもしれない。
這い上がることも視野に入れつつ、彼女はダンジョンを歩み始め。
「うわあぁあああぁっ!?」
「ッ!!」
同時にダンジョン内に響く少年のものとして思わし声と怪物の咆哮。
それを聞いた彼女は真っ先に声の下へ駆け出した。
彼女にとって、それは“仕事”の合図。怪物を殺し、蹂躙するその使命を果たす時──!
「──ゼリャァッ!!」
「ブォッ!?」
その手に持つ長剣を握り締め、怪物に振り下ろす!
白髪の少年に襲い掛かろうとしていた、牛のような怪物ミノタウロスはギリギリの所で回避する。
「っ、反応良好。戦闘、億劫」
「あ……あ……っ!」
「……大丈夫。安心。私、君、救助」
「ぶもぉっ」
自分のことを無視する少女のことをゆっくりと観察する。
その瞳と髪の色は少年に似た白髪……いや、透明色の長い髪の毛を一つに纏めている闇色の瞳を持つ少女。
その装備で特徴的なのはこの世ならざる雰囲気を纏った法衣のようなものと外套、そしてその両手に持つ長剣は異様な雰囲気を纏っている。
「フゴッ……」
「警戒?怪物、希有」
少女の雰囲気は武器だけなら先程の階層で出会った金髪の少女に引けを取らない……だが。
その身はか細く、装備もかなり薄い。一撃さえ与えられれば、いとも簡単に砕けるだろう。
勝機は彼女達を相手するよりは十分ある、ミノタウロスはそう確信し、彼女に襲い掛かった!
「(鈍足、回避、可能)」
だが、その攻撃はあまりにも遅すぎる。
数多くの怪物と対峙して、たった一撃でその身を砕くだろう攻撃を回避してきた彼女にとって、それは飛んできた紙飛行機を避ける行為に等しい。
だが。
「危ないっ!!」
「ッ!?」
少女の身を案じてか、白髪の少年はその身を、荒れ狂う暴威にその身を投げ合った。
そんな自らの命を捨てるような真似を何故?這い上がるとしても、自分なんかを助ける理由がある筈ない。
こんな嫌われ者の半人半妖のエレアなど、君が助ける価値などないのに。
・・・
我ながらやってしまった、そう少年ことベル・クラネルは後悔していた。
憧れの冒険者になってはや一ヶ月、彼はダンジョンを潜りつつ、魔石をかき集めて帰っては……担当官であるエイナや主神であるヘスティアとダンジョンの探索計画を練るという代わり映えのない毎日を過ごしていた。
それに不満があった訳ではない。寧ろ、その毎日はベルの人生の中で最も、充実していたとも言える。
毎日毎日……少しずつ、ダンジョンを攻略して日々、稼ぐ金銭も始めた頃の倍にまで膨らんでいた。
別にお金をどんどん稼げるのが嬉しいわけではない。この金銭は自分が成長した証であると、ベルは思っている。
始めた頃はこの半分しか稼げなかった金銭も今では倍になった。つまりは……自分は倍強くなったのでは?そう、過信してしまった。
そして……簡単に言えば調子に乗り、自分の判断で、まだ足を運んだことない五階層に足を踏み入れ──。
「ブモォオオオオォォッ!」
「うわあぁあああぁっ!?」
不運にも……本来なら十五階層から出現する怪物、ミノタウロスと遭遇してしまった。
迫り来る蹄を紙一重で回避しつつ、ベルは考える。
「(ど……どうしてミノタウロスがこんなところに!?いや、そうじゃない……!今はそんなことよりも──)」
どうすれば生き残れるか、そう考えるのが先決だ。
ミノタウロスはレベル2冒険者ならパーティを組めば何とか御せる程度の強さだ。
つまりはレベル1冒険者であり一人であるベルに勝ち目はない、死あるのみ。
「(……っ!何が死あるのみ、だ!まだだ……まだ僕は……諦めてない!何とかして、この場を切り抜け……生き残ればきっと!)」
きっとまた……
いや、帰れる筈じゃない。
「……帰るんだ!」
短剣を握り締め、ミノタウロスに対峙する。
だが、ミノタウロスはベルのことを驚異とすら思ってもいないらしく……呑気に欠伸を欠いていた。
そしてその手を大きく振り上げ──。
「──ゼリャァッ!!」
「ブォッ!?」
突然の一撃が、ミノタウロスを襲った。
いったい、なんだとベルが視線を向けると、そこには短めの……だが、明らかに自分とは違う長い耳を持つ透明色の少女が一人。
その装備は冒険者というよりは司祭やシスターに近く、その手には身の丈ほどの長剣が握られている。
「(エルフの年齢はよく分かんないけど……僕と同じくらい?いや、待てよ?と言うことは──)」
……自分と同じ、冒険者になったばかりの初心者?そんな予感が頭を過る。
ならば何故、自分なんかを助ける?ダンジョンでは基本的に冒険者はお互いに非干渉が鉄則だ。
例え、モンスターに殺される者がいるような状況でも冒険者は決して手を貸さない。
何故なら、同じ冒険者は同じダンジョン内の魔物を狩り、魔石を得る謂わば商売敵だ。
そのような存在を助ける理由も価値はない。
だけど何故?その答えは……彼女が答えてくれた。
「……大丈夫。安心。私、君、救助」
「……ッ!」
途切れ途切れでよく分からないが……恐らくは「大丈夫だ、安心して。私が君を守る」とでも言っているのだろう。
……自分と同じレベル1冒険者が自分のことを命を懸けて守ろうとしてくれている。
しかも、その相手は女の子で恐らくはハーフエルフの少女。
近接戦闘が苦手な筈なのに……わざわざ自分を守るために身を投げ合って、助けようとしてくれている。
それが分かった瞬間、ベルは唐突な自己嫌悪に陥った。
彼女が自分のことを守ろうとしてくれているのに自分は何もしていない。
そんなの、自分が憧れている英雄がすることではない──ッ!!
「危ないっ!!」
「ッ!?」
高速で振り下ろされるミノタウロスの拳にしがみつき、何とか攻撃を反らした。
今のうちに……っと、ベルは少女に振り向き。
「早く逃げて!こいつは僕が押さえるから……君は地上に!」
「ルォ、ルボォオオッ!!」
ミノタウロスは不快そうに手を大きく振る。
だが、拳にしがみついているベルは決して離そうとせず、寧ろ余計に拘束がキツくなった気がした。
「君」
「良いから僕のことは気にしないで!早く逃げて……こいつが僕を殺す前に早く!」
「……ふふふっ」
「へっ?」
こんな状況だというのに……ハーフエルフの彼女は笑っていた。
まるで面白いものに出会ったかのように可憐に、花のような笑顔をベルに見せる。
「君、勇敢。己、力量、理解。無謀、否、勇敢」
「……はっ?」
先程は何とか少女の言葉を理解できたベルであったが……先程の言葉は全くできなかった。
何しろ、状況が状況だ。必死にミノタウロスの腕に抱きつき、正直な話……話を聞く余裕などない。
だが……次の言葉、いや単語だけは理解できた。
「救出」
「へっ……!?どうして、僕のことなんてどうでも良いから逃げ──」
──次の瞬間、ミノタウロスの首と胴体がずるりっ、と地面に落ちる。
少しして漸く、首が無いことに気がついたのか、胴体から雨の如く、真っ赤な血がダンジョンに降り注いだ。
剣を掲げる少女を目の前に……ベルは唖然とした表情で見つめるしかなかった。
「大丈夫?」
「へっ?えっ?あっ?へっ!?」
剣を鞘にしまうと、血の雨に打たれながら少女は真っ赤になった手を、同じように真っ赤になったベルに伸ばした。
そして……漸く、ベルは自分の勘違いに気がつく。
この少女は自分と同じレベル1冒険者等ではなく、間違いなく──。
「う……うわぁああぁぁああっ!?」
「疾走?何故?出口?」
自分の勘違いに真っ赤になった顔を更に赤く染めながら……ベルは地上へと走る。
間違いない、彼女は自分なんかでは遠く及ばない存在、上位冒険者なのだろう。
少女の強さと美しさ、一瞬だけ見せてくれた笑顔を胸の内にしまい……ベルはエイナに彼女のことを聞く決意をするのであった。