ノースティリスの冒険者が冒険するのは間違ってない 作:二つ名:火の宿命
「ッ!」
「プギャッ!?」
迫り来る怪物の攻撃を回避し、撃退しつつ……彼女は少年の足取りを追っていた。
彼女の見立てだと、あの少年は冒険者になったばかりの若者であろう。
そして無謀にも、この
この事から考えられることは二つ。一つはあの少年が帰還の巻物を使わずに走り去ったと言うことは、ここはまだ浅い階層の筈。
もう一つは、この迷宮に出現する怪物の種類から危険度を予測できること、だ。
彼女が迷宮探索を初めてからおおよそ、一時間。ここまで出会った怪物はというと、コボルトにゴブリン、それに蜥蜴のような怪物だけだ。
どれも彼女が剣を振るえば、軽く肉片と化し、死体すら残らない。
ただ……ドロップ品を落とさないのは正直、わざわざ拾わなくて済むのでありがたいが……死体どころか、血肉すら溶けてるように消えるのは奇妙だ。
自分の知るコボルトもゴブリンも、そのような性質は持ってない。
そういう特性を持つモンスターを産み出す
「?」
「あっ……」
そんなこんなで迷宮を探索していると……彼女は一人の少女と青年に出会った。
青年は奇妙な獣のような耳をつけた兜?と尻尾と腰当を纏った、まるで御伽噺に出てくる獣人のようなイェルス。
少女の方は長い金髪を靡かせるイェルス……いや、その身に纏う雰囲気はイェルスのものではない。
恐らくはローランだろう。
「……あの、この辺にミノタウロス来ませんでしたか?」
沈黙が辛かったのか、それとも元々それを聞く為に来たのか、ローランの少女が話しかけてくる。
「牛人確認、撃破完了。証拠、我、身体。血反吐、濡」
「はぁ?」
イェルスの青年は奇妙なものを見るような目で彼女を見つめる。
何しろ、見掛けてないかと聞いたら、妙な言葉で返してきたのだ。
恐らくはミノタウロスは自分が撃破した……と、言っているのだろうが、圧縮言語が過ぎるためか、何を言っているのか全く理解できない。
「本当?……ごめんなさい、わざわざ危険な目に会わせて」
「えっ!?アイズ、こいつが何を言ってるのか理解できるのか!?」
「え?ベートさん、分からないの?スッゴク、分かりやすかったと思うんですが」
「分かるかぁ!?寧ろ、分かるお前の方が凄いわ」
「私、言葉、理解、簡単。理解、無理、君、不能。再度」
「だから分かんねーんだよ!分かりやすいように喋れ、雑魚が!」
「むっ……ベートさんが理解できないからって、そんな言い草は許せない。ベートさんだって私の大切な仲間」
「だからなんでお前はあれで分かんだ!?俺、こいつに何て言われてるの!?」
ローランの少女アイズとイェルスの青年ベートの漫才を聞きつつ……彼女は一つ、質問を投げ掛けることにした。
自分も一つ、質問を答えたのだろう。それくらいの権利はある筈だ。
「質問。迷宮、何層?付近、街、方角?」
「あー……っと、迷宮の何層かって質問してるのか?」
「理解、感謝」
アイズとこいつに無視されて話を進められるのもムカつくので、何とか自分でも理解できる部分を答えてみる。
どうやらあっているようで、彼女は嬉しそうな笑顔を見せる。
「(……雰囲気からして、そこら辺の雑魚とは違ぇな。間違いなく第二級冒険者。ミノタウロスをぶっ倒したのも間違いなく事実だろう。だけど、何でそんなやつが階層が何処か聞くんだ?)」
「ここは迷宮の第五階層。貴方は……これからダンジョン探索に出掛けるんですか?」
「否、帰還、最中。一度、自宅、休息」
「家に戻る最中だったんですか?なら、私達と一緒に行きます?ダンジョンを出れば、すぐに街に着きますし」
「おいアイズ、他のファミリアの奴を誘うような真似は──」
「不要。私、己、力、帰還。心、感謝」
「あー……と、ほら?こいつもこう言ってることだし戻ろうぜ。連中も心配してるだろうしな」
「分かりました。それじゃあ……また」
わざわざこの女から逃げるような感じになるが……ベート自身、これでいいと判断する。
何故なら彼の直感が、この女に対して危険信号を放っていたからだ。
それは勝てないから逃げろ……等ではなく、こいつと関わっていると自分が疲れるだけ、という信号だ。
なら本格的に面倒くさくなる前に仲間の下へ戻るだけだ。
「あっ……そういえば、貴方の名前は?」
「私、名前?我、名──」
・・・
「もうっ!なんで君は私の言いつけ、守らないかな?ただでさえソロでの迷宮探索なんて危険なのに……いつも言ってるでしょ?冒険者は冒険しちゃいけない、って」
「ご……ごめんなさい……」
ギルド本部のロビー受け付けにて……ベルは自身の担当官であるエイナからお説教を受けていた。
その内容はただ一つ。自分の判断で五階層まで足を運んだこと、だ。
ダンジョンにおいては何が起こるかは、誰にも分からない。常に安全策をとって慎重に攻略していくことで冒険者は成長できるのだ。
わざわざ冒険して……いや、危険を犯して死んでしまったら、元も子もない。
この命はたった一つしかないのだから。
「……それで君を助けてくれた冒険者について、だっけ?」
「はいっ!あの、僕あの人にお礼も……名前も聞けてないんです!だから是非、情報をお願いします!名前とか、所属ファミリアとか……後出来れば好きなものとか!」
「……えと、確か透明色の髪の毛でそれをポニーテールに一つに纏めている。瞳は真っ黒で、普通の服みたいな防具に武器は……」
「長剣です!身の丈くらいあって、瞳と同じく真っ黒な刀身で……しかも、その、何て言うんでしょう?……そう!大地を揺るがすくらいの重量感があってですね!それを簡単に持ち上げて──」
「分かった分かったっ!感動したのは十分分かったから落ち着きなさい!」
エイナは少し考える。ベルの話を聞く限りだと、その彼女とやらはミノタウロスを一撃で御せる程度の実力を持っている実力者だ。
だが……エイナには心当たりは全くない。そんな実力者がいるのなら、噂の一つや二つ、聞いていても可笑しくないのだが……。
「……死にかけた君が見た夢、とかじゃないよね?」
「夢じゃないです!あんなに綺麗な人見たことありませんもん!」
「だから、そんなに綺麗な人を見た夢……いや、そうなると君が生きてること自体が不自然になるか」
ダンジョンで、しかも一人で無防備に睡眠を取っているだなんて、自殺もいいところだ。
恐らく、ベルは本当にその透明色の少女と出会い、助けてもらったのだろう。
「(……闇派閥に所属してる冒険者?いや、ないか。そしたら、ベル君を助ける理由なんてまずないし)」
「(でも……そうなると、そんなに強い冒険者が名前すら聞かないのはなんで?)」
そう、エイナが思考を巡らせていると……つん、とした血の臭いが鼻に着く。
ベルがきちんと体を洗わなかったのだろうか?また一つ、お説教……と言うか、女性としてアドヴァイスを与えなければ。
「……ベル君?きちんと、清潔にしてないと女の子にモテないわよ?君が助けられた子だって清潔な子の方が──」
「え……エイナさんエイナさんっ!見てください、あれ!」
ふと、ベルは酷く興奮した様子で自分の袖を引っ張ってきた。
いったい、なんだ?と視線を向けると──そこには先程のベルと同じように全身を真っ赤に染めた女性が一人いた。
女性の背中には剥き出しの、その瞳と同じ真っ黒な刀身が光輝く……そう、ベルが評した通り、まるで大地を揺るがすような威圧感と重量感を持つ長剣。
そしてよく見れば、その見た目もベルが言っていた通りので防具はこの世ならざる雰囲気を醸し出し、ただ者ではない……と感じさせる。
「質問。身体、清掃、流水」
「えっ!?あ、はい……貸しシャワーを使いたい、と?」
こくりっ、と小さく首を縦に振る。
どうやらあっていたようで、エイナはほっと息を吐いた。
何しろ、彼女はミノタウロスを一撃で撃破する冒険者だという。
冒険者というのは腕っ節だけで食っていく為か、何分 扱いづらい性格をしているものも多い。
下手に機嫌を損ねるのはよくないだろう。
「シャワールームの使用費は50ヴァリスになります。一回の使用で何分でも使用できるので、満足行くまでお使いください」
左手でシャワールームに誘導しつつ、彼女の顔色を伺う。
出来るだけ、彼女の機嫌を損ねないように……と、エイナはとあることに気がついた。
「……あの、顔色が優れないようですが、どうかしましたか?」
「……金銭、皆無。他、水、身体、清掃、何処?」
「えっ!?」
まさかの返答であった。
どうやら彼女、既に自分の所属するファミリアに上納金を渡してきた為か、何らかの理由で手持ちの金が無いようだ。
どうするべきか、と頭を悩ましていると……。
「あ……あの!それなら僕が出します!さっきダンジョンで助けてくれたお礼です!」
「……君、迷宮、私、救助?」
「はい!貴方に助けてもらった……僕、ベル・クラネルって言います。……その、よければ貴方のお名前とか、所属ファミリアとか教えてくれませんか?」
「……名前。今日、二度。稀」
何とか少しでも彼女の情報を得ようとベルは必死になって食らいつく。
何しろ、エイナでも知らない完全に謎の人物だ。今ここでチャンスを逃したら、二度とチャンスはない……そんな予感がした。
「……すぅ、名前はイルミア。エレアのクレイモア。所属ファミリア……分からない。意味、教授、希望」
「へっ?」「はっ?」
その嘘を言っているようには思えない仕草と事実にベルとエイナは、それが事実であると理解した。
こんなこと、想像もしていなかった。本当ならば……彼女は神の恩恵を得た冒険者ですらないのだから。