ノースティリスの冒険者が冒険するのは間違ってない 作:二つ名:火の宿命
彼女は今……
今宵の探索も実に順調に進み、ネフィアのボスである怪物をこの手で打ち倒し、宝物を手に入れ……街に凱旋してきたのだが、いつも通り……パルミアの町の人々は彼女のことを受け入れてくれない。
人々が彼女に向けるは畏怖の視線。
エーテル風の原因であるエレアであり、人ではない化け物クレイモアである彼女に対しての恐怖、侮蔑……そして僅かな憎悪の視線。
いつも通りのことだ、気にせずに早く宿に戻って……と思った瞬間、彼女の頭に何か投げ付けられた。
それは石畳を転がり、いったい何か……と思っていると、それは子供の掌くらいの大きさの石だ。
「この化け物!とっとと俺達の街から出てけ!お前がパルミアを壊そうとしてるの、皆知ってるんだぞ!」
どうやら下手人の正体は、まだ幼さが残る少年のようだ。
自分がどういう存在なのか知ってか知らぬか……賢い少年だ。
石を投げられたのなら、多くの冒険者は多少の
だが、彼女は違う。
「……そうだそうだ!出ていきやがれ!テメェがいると飯が不味くなるってんだ!」
「テメェ見てぇな辛気臭い奴がいると街の空気が悪くてしょうがねぇ!とっとと消えろ!」
「死ねっ!このクソエレアが!テメェラが住む森に帰って、一生人間様の街に顔出すな!」
少年の攻撃を機に周りの人間達も、彼女に向かって石を投げつけ始める。
それにより彼女の顔は傷つき、少なからずのダメージも食らう。
だが、彼女はそれでも反撃はせずに……本日の宿まで足を運ぶが……どすりっ、とその瞳に向かって、大きめの石が投げ付けられた。
「(……っ、掟、守護、絶対)」
瞳から、ぽたぽたと血を流しながらも、彼女は足を止めない。
……クレイモアには一つ、掟がある。それは人間を殺してはいけないという絶対の掟であり、怪物から人間を守る彼女達からしたら絶対の命題。
ダンジョンが産み出す人間擬きなら、容赦なくこの刃を振るっていただろうが……街の人々に彼女の刃を振るうことは出来ない。
例え、石を投げられようとも、悪漢に無理矢理犯されようとも、彼女が人の命を奪うことはできないのだ。
石の雨をなんとか受け流しつつ、彼女は指定された宿屋にたどり着き……チェックインを済ませる。
きちんと鍵を閉め、部屋には彼女ただ一人。
内に存在するマナを練り上げ、四次元ポケットの魔法を発動させる。
四次元ポケットとは荷袋とは別に、物を入れておく空間を作り出す魔法だ。
それから取り出すは、ふかふかな見ているだけで眠気を誘ってくる幸せのベッド。
成人男性二人分の重さはあろう、それを簡単に持ち上げ、適当に置き……横になる。
「………苦痛」
ベッドの上で彼女が思い出すのは街の人々から石を投げられた時のこと。
……クレイモアになった時点で人々から迫害されることは覚悟していた。
とうの昔に、辛いと思うような心は捨ててきた……と思っていた。だが、何故かそれは彼女の心を痛め付ける。
家族の暖かさも、恋人の愛しさも、友の優しさも……全て捨てた筈なのに。
そのまま彼女はベッドの中で意識を失い──。
・・・
ふと、彼女は目を覚ました。
そこは昨日、案内された廃教会の地下に存在する隠し部屋。
ヘスティアとベルの性格ゆえか、丁寧に掃除が行き届いており、清潔感を感じさせる。
「……夢、稀」
どうやら久しぶりに夢を見ていたようだ。
神や運命が与えてくれる啓示等ではない。純粋な……人としての夢。
最後に見たのは、いつだったか?そんなことを思い巡らせながら……彼女は寝袋の片付けを始まる。
今日から新生活。クレイモアとして、冒険者としての新しい日々の始まりだ。
「んっ……あれ?今何時……うわっ!?」
日の光が届かない、教会の地下の部屋でベルは目を覚ます。
側に置いておいた時計は既に8時を示しており、それがベルの日課……日の出と共にダンジョン探索を行うから、大分過ぎていることを示していた。
……ベルは畑仕事をしていた時の習慣で、日の出と同時に起きてきた。
それ故、いつもはいち早く……他の冒険者より起き、朝食の当番の日なら朝食を作り、
だが、今日は随分と遅い時間に起きてしまったようだ。
……恐らくは昨日、彼女の歓迎会を開き、ヘスティアに進められて……一口だけ飲んだお酒が原因だろう。
「まずっ……早くご飯の用意しないとっ!」
しかも、よりにもよって今日はベルが朝食当番の日だ。
朝食を用意出来てないなど、いつも自分がダンジョンに潜っている間、仕事を頑張ってくれているヘスティアに申し訳なかった。
急いで着替えて、朝食を作ろうと地下室の隅……小さな通気孔と小さな魔石式コンロと幾つかの調理器具しかない、台所へ足を運ぼうとすると……そこから、良い臭いがしてきた。
それは冒険者になってから……いや、農民時代の時でも、あまり嗅いだことのない濃厚な肉を焼く香り。
もしかして神様が?と一瞬、考えが頭に過るが……それはないだろう。
昨日行われた小さなパーティで、昨日の臨時収入は半分ほど尽きている。
二日連続でそんな贅沢をするなんて、自分もそうだが、ヘスティアもそんなことしないだろう。
なら、心当たりは一つだけ。
「ベル、起床確認。朝食、完成完了。ヘスティア、呼起、食事」
「イルミアさんっ!すみません、わざわざありがとうございます。今日は僕の当番だったというのに……」
「大丈夫。私、最初、起床。暇、料理、作成」
「……えと、暇だからご飯作っただけだから気にするな……と?」
こくりっ、と小さく彼女は頷いた。
どうやらあっていたようで、ベルは小さく……ほっと、息を漏らした。
何しろ、ベルからしたら彼女は憧れの女性だ。
その女性が何を言っているのか分からないなど……男としてあってはいけない。
「ふわぁ、おはよーベル君、イルミア君。何だか随分と良い臭いがするけど……何を作っているんだい?」
「ステーキ、調理器具、勝手、使用」
「ステーキ!?こりゃまた、豪勢だね……。でも、材料なんて無かったと思うんだけど」
「私、用意」
「イルミアさんが用意してくれたんですか?でも……」
「まっ、良いじゃないか!もう出来上がってるなら、早くご飯にしようよ。しっかり食べないと……探索中に倒れちゃうかもよ?」
「……それもそうですね」
お金、なかった筈なのに……と、続けようとしたが、ヘスティアの言うことも確かだ。
まずはしっかりと食事を取って、後で材料の出所を聞けば良いだろう。
三人は用意された小皿に分けられたステーキ三枚と柔らかそうなサンドイッチを……小さなテーブルに起き、囲む。
全員に飲み物が行き渡っていることを確認するとベルとヘスティアは。
「「いただきます」」
と言ってから、食事を始めた。
彼女はそれを不思議そうに見つめつつ……二人を真似て。
「……い、ただき、ますっ」
同じように食事を始める。
「うわっ、このサンドイッチ凄い柔らかい……。それに挟まれてるこれって……干し肉ですか?干し肉なのに、そんなに固くなくて……ガツガツ食べれますっ!」
「ステーキも……んっ、少しだけ筋っぽいけど十分美味しいね。肉汁も噛めば噛むほど出てくるし……幾らでも食べられそうだ」
「っ♪」
二人の称賛の声に少しだけ照れながら……彼女も同じように食事を進める。
……二人の絶賛通り、このステーキは普段よりも上手く作れているようだ。
初めて他人……いや、ヘスティア曰く『家族』に作る食事だ。
いつもなら味など気にしないが……二人が美味しいと言ってくれて、何故か良かったと感じていた。
それにしても肉が腐らないようにクーラーボックスに入れていたが……これはダンジョンで取れた怪物の肉。何の特殊効果もなくて良かった。
「御馳走様でした、スッゴク美味しかったです!イルミアさんは良いお嫁さんになれますね」
「……むぅ、確かに美味しいけど……これくらい、僕だって作れるぜ?ベル君、明日は期待してくれよ?」
「本当ですか?神様が用意してくれるご飯、出来あい物ばっかりでしたので……楽しみにしてます!」
「あ……あぁ、期待してくれよ?」
二人の会話を横目に彼女は後片付けを開始する。
生憎、この教会には水道が通っていない為、外にある井戸まで行く必要がある。
まずは使った食器を、フライパンなどの調理器具と一緒に纏め……コンロとやらの代わりに使用したバーベキューセットを両手に持ち、己の内に存在するマナを練り上げる。
そして次元の扉《四次元ポケット》を開き、その中に放り込んだ。
これは彼女が元々、使用できる魔法の一つであり……冒険者として、神の恩恵の効果により、纏めて一つとなった物……【
ヘスティア曰く、魔導書に宿る魔力を自分の物として、使用できる回数に限りはあるが……本来、三つしか
彼女自身、魔法とはそういうものであると認識している為、何がどうレアなのか理解できなかったが……ヘスティアが言うくらいなんだし、そうなのだろうと納得した。
その為、あまり人前で使うなと言われているが……元々、攻撃系の魔法を使うのは敵に囲まれた時か、近接戦闘をしたくないスライム系の怪物等と戦うときだけだ。
人前で使うことなど、殆どないだろう。
・・・
そして片付けも終わり、三人は共にオラリオの街を歩いていた。
目的地はヘスティアとベル達とでは違うが……道は途中まで同じだ。
こうして共に歩くのも悪くないだろう。
「それじゃ、僕はここで失礼するね。二人共、死なないように気を付けて頑張りなよ?」
「勿論です!それに多分……暫くの間は死なないですよ。イルミアさんと一緒ですし」
「……まぁ、それもそうだね。イルミア君、凄い強いし……あっ!そうだ!イルミア君、ちょっといいかい?」
「?ヘスティア、用件、早急。時間、微少」
「大丈夫、すぐに終わるさ。……あのさ、君はレベル1冒険者より遥かに強いみたいだけど……無理しないようにね?」
「んっ」
「分かれば良いんだ。それじゃ、僕も頑張るから君達も頑張ってね!」
そういい、ヘスティアは二人のことを送り出す。
昨日まではベルが死なないか、心配で仕方なかったが……少なくとも、暫くの間は大丈夫だろう。
彼女といるのなら、ベルも無茶はしない筈だ。
「はい!行ってきます!行きましょ、イルミアさん」
「了解。他、冒険者、金銭、敗北」
「……えと、他の冒険者に稼ぎを取られる前に頑張ろう、と?」
小さく頷く彼女。
それを確認し、ベルは街案内も兼ねて……歩みを進める。
今日はまだ始まったばかり、ゆっくりと……二人っきりの時間を楽しもう。