この小説はボーカロイド、あとUTAUが何故か戦う小説です
苦手な方はreturn願います
プロローグ:全てはどこから
2000年代初頭。
アメリカで「キング・オブ・ポップ」と呼ばれたアーティストが急死した。
原因は、彼の主治医のミスや覚醒剤の大量投与など様々な説が挙がっているが、真実は明らかにされていない。
そして突飛で、尚且つあまりに理不尽なその死は、世界中に悲しみをもたらした。
しかし、全てはそこから始まった。
その日を境に世界中で著名なアーティスト、バンドグループ、アイドルなど音楽で成功を成した人々が次々に死亡するという不可解な出来事が起きていた。
しかし、死に方は人それぞれで、殺人もあれば不慮の事故、はたまた持病が急に悪化し死亡したなど様々だった。
各国の警察はこれらを一つの組織が行っているとして共同で捜査に乗り出したが、証拠は何一つとして出なかった。
いくつかの事件で犯人を逮捕したものもあったが、犯人らは皆「知らない人に雇われた」と口を揃えた。
裏で何かが動いているのは間違いなかったが、全てを同一の組織がやったと証拠付けるのは、不可能に近かった。
ましてやその組織すらどういうモノかも分かっていない。八方塞がりだった。
やがて未解決の殺人事件は時効を迎え始め、共同捜査は打ち切られた。
しかし、その後も度々それらは続いた。
ましてや、死ぬのが怖いから、という理由で音楽を引退する人まで現れた。
こうして世界中の音楽界は今日に至るまで、衰退の一途を辿る事となった。
しかしそんな中、あるジャンルが音楽界を独占していた。
「VOCALOID」である。
21世紀初頭から根強い人気はあったが、度重なる不幸は、まるでそれの為にあったかのように、年々人気を増していった。
歌っている本人は「死なない」上、ボカロPはほとんど顔を出さないので殺されるといった事はなかった。
またVOCALOIDが人気になるに連れ、VOCALOIDに関わるクリエイターが続々と出現し、ブームに拍車をかけた。
そうしてVOCALOIDは世界中に知れ渡り、「音楽といえばVOCALOID」とまで呼ばれるほどに人気を集めていった。
そんな中、VOCALOIDの生みの親であるYamahaから、とんでもない発表があった。
「VOCALOIDの技術を人体に埋め込み、トップアーティストを育成する」
それは世界中に衝撃を及ぼした。
音楽界が衰退する中、さらなる独占を謀るYamaha。
賛否両論があったものの、VOCALOIDで勝ち取った独占は信頼に値し、何事もなく開発は進められた。
そして2024年。ヤマハミュージックプロダクションから一人のアーティストがデビューした。
Yamahaはこうして生まれたアーティストを「DIVA」と名付けた。
♯♩♪
2052年3月9日。
プシューという音と共に目の前の扉が開く。電車との間にできた隙間に気を付けながら駅に足をつける。
私は人の流れに巻き込まれながら足を進めた。手にした切符を改札に入れ、ようやく人ごみから解放される。南口、とでかでかと表示されているディスプレイの下を通り、街に出る。
これまでずっと電車での長旅だったので、日光を浴びるのが久々な気がした。今日は絶好のお散歩日和。私はうきうきしながら目的地へと歩み始めた。
今私がいるこの島は、東京湾沖に浮かぶ人工島だ。名前は特に決まっていない。
この島が造られたのは今から四十年近く前。東日本大震災の復興の最中、震災で故郷を離れざるを得なくなった人々を招き入れ、快適に暮らせるように造られたらしい。ある意味この島全体を「施設」と捉えても間違いではないだろう。
しかしここが造られてから五年後、世界的な景気回復が起きた。日本もそんな国の一つ。それのお陰で復興に必要な技術が次々に革新され、復興は急激に進んだ。結果、被災者をこの島に編入する前に被災地の復興は完了され、故郷を離れた人々は本当の「家」へと帰る事となった。
一方、この島はというと、住民になるはずであった人々が居なくなってしまったため、一般に不動産を販売することにした。
その頃、首都圏の街々は人口の増加が深刻な問題になっており、多くの人がそこに移住、引っ越しをした。その為この島は都心に劣らないほどの活気に包まれている。
住宅街が広がるこの島の中央に、一つだけ飛び出ている大きなビルがある。今回私が訪れるのはそこだ。確か…Yamahaの都心支部だったっけ。あまり詳しい事は聞かされていないのでよく分からないけど、とりあえず行ってみよ。
私は高い高いビルを見上げながらそこを目標に歩いていった。
♭♪♩
「…こんにちわー…」
恐る恐るビルの中に入ってみる。警備員に睨まれつつも。
当然ながらロビーはすごーく広かった。床は大理石でピカピカ。何も知らないでここに来たらホテルだと間違えてしまいそうだ。人の行き交いはそこそこあり、人が動く度床はこつこつと音を鳴らす。
…入ってみたはいいけど、何をどうしたいいか分からない。とりあえずロビーの隅にあったソファーみ見つけ腰をかける。座り心地はとてつもなく気持ちよくて、座った瞬間眠気が襲ったほどだ。
小走りする人々を眺めながら、ただぼーっとしている私。何故か座っていると徐々に眠くなってきた。なにせ北海道からわざわざ長旅をしてここまできたのだ。いつの間に疲れが溜まっていたのかもしれない。
私はここがどこであるかもあやふやになりながら、ソファーで横になりそのまま眠りについた。
起床。ゆっくりと体を起こす。壁に掛けられていた時計をみると、寝ていたのは10分程度だったようだ。
「よく眠れたかい?」
「うわぁっ!?」
突然横から声がしたので、私は飛び跳ねてソファーの右端に逃げ込んだ。
ゆっくり声のした方を見ると、そこには眼鏡に白衣といういかにも研究者な人が無表情で座っていた。
「時間になっても来ないので少し心配した。疲れていたのかね?」
「ま、まぁ…」
なんか知らない人に心配された。
何だかよく分からない状況。彼はそのまま無言でこちらを見てくるので、私は肝心な事を聞いてみることにした。
「…あの…どちら様ですか?」
「おや…自己紹介がまだだったか。時原だ。VOCALOID及び『DIVA』の開発、研究するチームのリーダーをしている」
そう言うと握手を求められたので、恐る恐るそれに応じる。
「ど、どうも…」
「はは、そんなに緊張しなくてもいいさ。確かに私は君の上司にあたる事になるが、会う度そんなに怯えられたら申し訳なくなってしまう」
いやそれプレッシャー与えてるって…。
「…さて、まずは君に礼を言わなくてはな。この計画に協力してくれて、本当に感謝を述べたい」
「は、はぁ…」
計画?協力した?何の事だかちんぷんかんぷんだった。
それを察したのか、時原は質問した。
「…何の事だか分かっていないのか?手紙は読んだのだろう?」
「…読みましたけど…何の事だかさっぱり…」
ここに来る2週間前、私宛にある手紙が届いた。送り主はヤマハのVOCALOIDと「DIVA」の開発チームから。内容は難しいことばかりで、理解しようにも無理だった。
けど、文の中に度々埋め込まれていた「アイドルの育成」、そして「DIVA」。この時、私は「DIVA」がヤマハからの選出で決まるという都市伝説が本当であると確信した。
今の生活から逃げたかった私。「アイドルになれる」という、もう二度とないチャンスを手放すなんて事はできなかった。こうして、私はチームとコンタクトを取り、今ここにいる。
だから正直、難しい話をされても仕方ないとは思ったが私にはどうでもいいことと捉えていた。
「まぁ…詳しい事を知らないのであれば、後でルカに教わるといい」
「え……ルカって……」
「あぁ、そうだ。巡音ルカの事だ。何かおかしな事を言ったか?」
「…えぇ!?わわわわ私巡音ルカさんと会うんですか!?」
「…会うどころか、今後一緒に生活してもらうつもりなのだが」
「えぇ!?」
巡音ルカ。今世界で最も勢いのあるアーティスト。
7歳の時に「DIVA」になりデビュー。デビュー曲「Heart Beats」は150万枚の大ヒット。その後も次々と名曲を世に送り出し、今現在自身の最高ヒット曲は、彼女が12歳の時に発売した「星屑ユートピア」。世界中で販売され、今までの累計で2000万枚を超えた。その偉業は音楽だけに留まらす、14歳の時にドラマデビュー。その後数々の映画に出演し、挙げ句にはハリウッド映画から出演のオファーが来たほど。またそのハリウッド映画で主演女優部門でアカデミー賞を受賞し、また映画部門でゴールデングローブ賞を受賞。他にも、声優、作家、作曲家、モデル等様々な分野で活躍する。
しかし、個人情報については、全くと言っていいほど世間に公表しておらず、精々分かるのは、出身高校、19歳という年齢、性別…ぐらいしか分からない。ネット上ではそれをいい気に、ユーザー達の様々な妄想が行き交っている。かなりのゲーマーだとか、財閥の令嬢だとか、皇家の一員だとか、ドSだとか、年商100億だとか、それはもう幾多の仮説が世に出回っている。しかしそれらのどれが真実でどれが嘘なのかは本人しか知らない…。
「…そんな人と暮らすんですか!?」
「その通りだ」
何てこった…。同じ「DIVA」になるわけだから会うのは想像してたけどまさか同居とは…。
「…そんなに気に病むことか?」
「そりゃ病みますよ!だって世界的スターですよ!?そんな人が私と一つ屋根の下で寝るって!?うぎゃぁぁぁぁ!!!」
「…少しは落ち着いたらどうだね。そして周りの目線にも気を付けたまえ」
そう言われて周りを見渡すと、訝しげな目で周囲の人々は私を睨んでいた。
あ、やべ…。
「す…すみません…」
「別にいい。君がそういう行動を取るのは想定内だ」
いや想定内って…だったら未然に防げし……怒られる私が言えた身ではないが。
「…まぁ、茶番は置いておくとして…」
自覚あるんかい。
「君には、これからある場所に行ってもらいたい」
「場所…?」
「これから君が暮らすことになる寮だ。そこで巡音ルカは暮らしている」
そういうと、彼は手持ちの資料から一枚の紙を取り出した。よく見てみると、この島一帯の地図だった。そして、赤くマーキングされているのが例の寮だろう。丁寧にもその地図には寮までの道のりが矢印で分かりやすく書かれている。
「寮周辺は住宅地だ。非常に入り組んでいる。その地図を頼りに行ってくれ。君の事だから車でも用意したかったのだが…今我々は仕事に追われていてね…」
彼の顔を覗くと、明らかに疲れの色が表れていた。隈も酷い。今気付いたが、寝癖なのか髪も乱れている。
…巡音ルカさんに僕の事を任せっきりにするのが目に見えている。
「いえいえ!お気遣い無く!一人で大丈夫です」
というか、そんな大変な状況だというのにリーダー自らこういて赴いてくれた事に申し訳なさを覚えた。見た目はこんなんでも、中身はいい人なんだなぁ。
私は彼から地図を受け取り、軽く四つ折りにしてポケットにしまった。
「では私はこれで失礼するよ…。またいずれ会おう」
そう言うと私からの言葉を受け取らずに、そそくさと去ってしまった。
「…どうしよう…」
♪♬♫
「これ絶対迷った…」
案の定の結果だった。私は極度の方向音痴なのだ。
確かに地図を見ながら進んできた。しかし何度も同じ場所に戻ってくる。自分の頭の中ではもう着いているはずなのに…。
こんな事になるんだったら、無理を承知で車なりなんなり用意してもらえばよかった…。あーどこに寮はあるんだー…。
あ、そうだ!この島の住民に聞いてみればいいんだ!近くの人に話を聞いて、寮がどこらへんにあるのか教えてもらおう!
そうと分かれば早速人探しだー!
いない…。
数十分歩いたというのに通行人に一人も会わなかった。何故なんだ…。
ここは都市部の過密なんちゃらかんちゃらで人が多いんじゃなかったのかよー…。おまけに車も通らないとは…。これは流石にお手上げだ。
途方に暮れ、アテもなく歩く。人を探して気付いたら住宅街の路地にポツンといたので、地図で自分がどこにいるかも分からなくなった。…元から分かっていないのも同然なのだが。
どうしようか…。いくら辺りを見渡しても、あるのはビルやアパートなどの建造物とその背後にある海だけ。どれま言葉を発さないため、助けを求めようにも無理だ。幸いなのが、スタート地点がどこにあるかがすぐ分かる事。もう諦めて助けを求めに帰った方がいいや…。
そう思った矢先の事だった。
ヴヴヴゥゥゥ…
何やら音が聞こえてきた。さっきまで波の音しか聞こえなかったこの閑静な住宅街で。
振り返る。音は徐々に近づいてくる。よーく聞いてみるとこれは車のエンジンの音だ。しかし、何故か喜ぶ気になれない。何故だろう?
よく考えてみよう。私は誰でもいいから人を探していた。車に乗っていようと止めさせて話を聞こうと思っていた。そして今、遠くから聞こえてくる地響きのようなこの音は間違いなく車のエンジン音だ。でも喜べない。いや、むしろ何だか怖くなってきた。確かに過去には交通事故を起こしかけたりとかして、車に対してそんないい思い出はなかったけど、でもかといって嫌いだったり、怖かったりというわけでもない。
キィィィ…
だから今ここでそんな事を思うのはおかしいんだ。
あ、ほら、車が見えたじゃないか。赤い車だ。
さぁ、予定通り話を聞くために止めてもら…
「ってなんかこっち来てるぅぅぅ!?」
急いで荷物を持って猛ダッシュ。何やら尋常じゃないスピードでこちらに車が来ている。確かに来るのは望んでたけど何でこんなんなのぉ!?やばいよやばいよ、アイドルになる前に車に跳ねられて即死とか嫌だよやだよ。ここはなんとしても生き残らなくてはぁ!!
よく昔のドラマとかじゃ電柱に抱きついてやり過ごしてたりとかあるけどもう電線とかほとんど地中の中だし!塀の上登るにも今の塀は先端が丸いのが主流で上登れないし!
走りながらも振り返る。車はまだ遠くの方にあるが、どんどんスピードを上げている。やばい、マジでやばい。このままだと轢かれる。途中でどっかに曲がってくれぇ!!
…曲がる?……そうだ!
あんなにスピードを出してたら曲がろうとしても曲がれないし、曲がるにはスピードを落とす必要がある!これだっ!
早速次の十字路で左に曲がる。これで少しは時間かせg
「うぎゃっ」
しかし、持っていた荷物の重さでバランスを崩し、思いっきり転んでしまった。その拍子に荷物が鞄から飛び出す。やばいやばいやばいやばい。
私はすぐさま起き上がり、飛び散った荷物―ゲームやら漫画やら―をかき集め、鞄に詰め込む。
ヴヴヴゥゥゥ!
あーダメだ、音からしてもう近くやん。あー無理だー死んだー私ここで死ぬんだーあー。
キィィィィ
なんか曲がったよー、こっち来るよー、間違いなく轢くよー、もう私終了のおしr
「ねぇ、大丈夫?ミクさん」
そんな言葉と共に、一つの手が、私の前へやってきた。
俯いていた顔を上げる。そこには…
巡音ルカがいたんだ。
♪♫♬
「あの…また誰か来るんですか?」
「…そうみたいです」
「こんな豪邸に?」
「…そうみたいです」
「…ほんとこの寮、豪邸みたいですよね、凛さん」
「そうですね…」
「…」
「…」
「……なぁ、いつまでこんな調子なんだ?」
「…だって初対面じゃないですか…」
「いいじゃんか、これから暮らす仲なんだし」
「そうですけど…」
「顔も似てるんだし」
「そうですけど…」
「誕生日も一緒だし」
「そうですけど…」
「同い年なんだし」
「そうですけど…」
「今ゲームで戦ってる仲だし」
「そうですけど…」
「だったらいいじゃん」
「………」
「…ね?」
「…分かったよ…」
「ヤッター」
「何で棒読み…」
早く帰ってこないかなぁ…ルカさん…。