今後二週間ごとにやろうかなと思います
さてぇ…今回は謎の男が奮闘します
こうご期待!…はしないでください
「ぐぅっ…な、なぜ貴様がここにいる!?」
俺が見ている光景は、予想外のものだった。
「UTAU」の中でも指折りの武闘派である「ミルキーウェイ」を圧倒的に凌ぐ剣捌き。どう見ても押されている。それが俺の中では到底ありえなかった。あいつはあんなに強かったのか…?ここ数年剣を握っていなかったとしても、あの戦いぶりからは拉致される前から相当扱いなれてたという事か。
しかし「ミルキーウェイ」の言う通り、なぜ奴がここにいる?奴は俺らのアジトで幽閉されてたんじゃないのか?まさか抜け出してきたのか?あんな厳重な警備の中で?
いや…もしそうなら本部から何かしら連絡がある。6人もいるのだから本部に戻そうと思えば戻せる。
ルカが負傷している今は。
「ルカ姉っ!起きてよルカ姉!!」
5人に取り囲まれている、負傷の歌姫。煙が晴れた時にはすでに彼女は傷だらけで倒れていた。
どうやら先程の爆発は、彼女にとって捨て身だったようだ。彼女を中心として、床が抉れ土が剥き出しになっている事から、恐らく地中に「星屑」を隠し彼女の真下で爆発させたのだろう。なんてむちゃくちゃな手を使ってくるんだまったく…。
ともかく、相手の主戦力は戦闘不能。作戦の成功は目に見えてきた…と思っていたらこいつだ。
てか逃亡したなら何故何も連絡が来ない?テトは一体何をしてるんだ?
と思ったその時、ポケットの携帯が鳴った。
「もしもし?」
『あ、ルコ?やっほーい。テトだよーん』
噂をすれば。
「…何の用だ?今戦闘中なんだが…」
『あ、ごめーん。もうとっくに終わってると思ったわ』
彼女の言いたい事は、分かってる。
『それでね、一つ報告があるんだけど…』
「…何?」
『奴がとうぼ…』
プツッ
そんなの分かっている。何せその「奴」が目の前で剣を振るっているのだから。
未だに響く、槍と刀がぶつかる音。瓦礫の上で二人はまるで舞っているかのように戦っている。
「くっ…うざってえんだよぉ!!」
いきなり叫んだ「ミルキーウェイ」は、槍を空へ掲げた。そして懐からBSIPカードを一枚取り出した。
もしかして…あれをするつもりか…?
カードをヘッドホンに差し込むと、途端に槍が光を放ち始める。そしてスライムのようにふにゃふにゃと形を変えていく。やがて槍は輪郭を見せ、変形が止んだ。
無骨な鉄の槍から、彼女の槍は神々しいとも思えるほど周りに重圧を与える、「聖槍デルタフォース」へと姿を変えた。
「…星よ、我に力を!」
次の瞬間、奴が吹っ飛んだ。彼女の槍が放ったビームはもろに奴に当たり、そのまま吹っ飛ばされた。
そして彼女は容赦なく「星」の速さで奴の懐に入り、床に叩きつけた。
「ぐ、はぁ…!」
「あははは!!この『StargazeR』に敵う者などおらんわぁぁ!!」
三角形の形をした三又の矛先を奴の喉に向け、突いた。しかし間一髪でかわし、素早く立ち上がって剣を彼女に向けた。
奴は今の攻撃で相当なダメージを受けた。一方「ミルキーウェイ」は無傷だ。このまま行けば間違いなく奴は殺されるが、非常に惜しくもある。万が一の時の
しかし今はそんな悠長な事は言ってられない。奴が剣を向ける今、もはや奴はこちらの脅威でしかない。今ここで仕留めるのが得策と言えよう。
今の私にできることは隙あらば攻撃する事。幸い私の周囲は天井の瓦礫が山高く積もってる。ここに身を潜め、このライフルで奴の脳天を狙おう。
ならば早速準備をして…
「させねえよ」
異様な殺気を背後から感じた。私としたことが…すっかり忘れていた…。
5人中3人は戦えることを…!
***
俺は走っていた。だだっ広い閑静な住宅街を。
こんな所ではタクシーもろくに来ないし、そもそも島の北に行かなければこの島自体出られない。
目指す場所は文京区。もし車を捉まえて駅に着いたとしても、俺は引き籠られてた身。路線図なんて覚えてるわけないし、そもそも刀を持っている以上あまり公共の場には顔を出したくない。
第一例えそれで行ったとしても、俺の予想からして間に合うかどうか…。
どうする…考えろ俺…。思考を止めるな、諦めるな!
大切な人が危険な目に遭っているんだ。見過ごすわけにはいかない!
何か…何か手は…ん?
ふとポケットに手を突っ込んだ。何か固い感触がある。そして薄い。取り出すと、それはメモリースティックによく似た記憶媒体だった。さらにそれには白い文字でこう書かれてあった。
「『ヴェノマニア公の狂気』…?」
よく分からないが、何かの題名らしき単語がそこにあった。
そういえば…これはルカがくれたものだな。有事の時はこれをヘッドホンに挿せ…と。
詳しいことは何も聞かされていないので、これをヘッドホンに挿すとどうなるか不安で不安でしょうがない。しかし、この状況で頼れるモノは他になかった。
俺は手を微かに震えさせながら、慎重に記憶媒体をヘッドホンに差し込んだ。
すると━━━━
俺は不思議な空間に飛ばされていた。
周りは紫色で、そこら彼処に白い螺旋状の何かがいくつも連なっている。
やがてその螺旋状の何かは俺を包み込み始めた。
そしてまた閑静な住宅街へ戻ってきた。辺りを見渡すが何の変わりもない。
自分の背中に翼が生えた事以外は。
「…何だこれ…」
背中から伝わる異様な違和感。恐る恐る後ろを見ると、やはり自分の背中からコウモリのような翼が生えていた。しかしそれだけではない。爪も長く鋭利になり、軽く人を殺せるほど。歯も、まるでライオンのように犬歯が牙と化していた。さらに視力も常人では不可能な距離も見えるようになっていた。
まさしく「悪魔」。今の俺の姿はそう呼ぶにふさわしかった。
「…これでルカの所まで行けるか…?」
しかし今はこんな事で動揺している場合ではない。翼が生えたのなら好都合。人の目に付くのはすこし心配な点だが、これなら直線距離で文京区に行ける。
事は急ぐ緊急事態。手段など選ぶ暇はない。かと言って日陰者の俺にとってはあまり人目に付きたくないのだが…無論そんな事言ってる暇も、よくよく考えてみればなかった。
早速翼を羽ばたかせる。するとふわりと体が宙に浮き、もう一度羽ばたくとさらに高度を上げた。
気付けばさっきまで静かにそこに建っていた家々が、今やとても小さく見える。もう少し高度を上げれば灰色の雲が掴めそう。空気は当然薄くなったが、何ら支障はない。これくらい高度を上げれば少なくとも移動中は人目に付く事はないだろう。
「うぉわっ!?」
突然後ろから突風が吹いた。それに対応できず、風に飛ばされながら落ちていく。
ぐるぐる回る視界。灰色の雲と地上の景色が高速で入れ替わっていった。一瞬慌てたが俺は風でたたまれた翼をばさっと広げた。途端に翼は上昇気流を受け止め、落ちる前の高度まで上がっていく。この悪天候が功を奏したようだ。「低気圧が起こす上昇気流」というのは文章でしか知らなかったが、よもやこんなところでそれを体感する事になろうとは。これだけ風が強けりゃ雲ができるのも納得ができる。
さて…思い更けるのもここまでにして彼女のところへ向かわなければ。
目を凝らし、眼下にある東京23区をくまなく探す。
そして俺はそのまま滑空状態で俺は彼女のいる文京区まで飛んでいった。
♩♭♯
「ぐ…はぁっ……」
目の前の彼女は体中から血を吹き出しながら倒れていく。手に持つ特殊な槍も、彼女の血で赤く染まっていく。倒れる瞬間僅かに私を睨み、彼女は気を失うと同時に倒れた。
刀についた血を指で払う。そこらの偽物とは違い、この刀は正真正銘の本物の刀で、水分が付くと当然錆びてしまう。また気温や湿気にも敏感で少しでも扱いを間違えると使い物にならなくなる。繊細な物であるがその分切れ味は他の刃物とは比べ物にならない。人の体など、彼女のように容易く斬れる。やろうと思えば、体を真っ二つにする事だって可能だ。
だが俺は約束したんだ。もう人を殺さないって。
この刀で彼女…人を殺すなんて事はもう、しない。
一方俺の目の前では新たな戦いが始まっていた。さっきまで瓦礫の影で隠れていたルコと新しい金髪の男の子が戦っている。見たところまだ年端もいかぬ少年なのに…。
しかし彼の目は本気だった。
「おらぁ!どうしたそれで終わりかぁ!?」
豪快かつ俊敏な剣捌き。ルコはそれを何とか防ぐ事しかできなかった。
端から見るとただ剣を振り回しているようにしか見えないが、彼が斬ろうとしている場所は全て急所を突いている。首筋、目、肩、手首、足首、そして心臓…。その的確さは俺から見ても、すごいとしか言いようがなかった。
だがしかし、それだからこそ防がれている。急所だからこそルコはどこを斬りに来るか予測ができる。
ならどうしてルコが優勢にならないのか。それは彼女の持っている武器がアサルトライフルだからである。
少年は目を狙う。しかしきっちり銃身で防がれる。その為、剣は一旦引かれた…と思いきや素早い動きで右肩を狙ってきた。がこれも弾かれた。これでもめげない少年は、弾かれた反動を生かし、そのまま回転しながら左目を横から狙ってきた。
「ちっ…」
この攻撃も、案の定きっちりと防がれている。こんな戦い方ではらちがあかないと思ったのか、少年はルコと少し距離を置いた。しかし、その行為はある意味自殺行為である。
「お前…俺の持ってる武器が何なのか見えなかったのか?」
「あぁ?そんなのただのライフルだろ?お前から離れて撃たれたらどうするってか?」
妙に余裕だった。今の距離だと二発ぐらいしか撃てないが、ルコの腕前は一流だ。こんな所で外すなどというヘマはするはずがない。そうなると、状況は一気にルコの優勢となったと言える。
それだと言うのにあの余裕は一体何だ?何か隠し玉でも持っているというのか…?
「…甘いんだよ」
そう吐き捨てた途端、少年はルコに向かった一直線に走り始めた。
すかさずルコはライフルを構え、圧倒的なスピードで弾を装填した。
そしてトリガーに指をかける。
パァン!
一瞬の内に彼女のライフルから弾丸が放たれた。
焦っていたのか、彼女は弾を装填してから1秒も経たない内に引き金を引いた。
そのスピードはまさしくそれを使い慣れていることを表していた。
しかし、弾丸を放っても誰も倒れない。声を上げることもない。
驚くべき点は、彼女の射撃の速さではなかった。
「な、何だよそれ…」
彼女の前に現れた、紫色の、蝶の形をした大きなシールド。放たれた弾丸はそれを貫くことなく跳ね返り、瓦礫の中へ消えた。
少年は俺が「ヴェノマニア公の狂気」とやらを挿した時と同じような変化を遂げた。
服は一瞬にして、白を基調とする制服からパンクロックを主題とした黒い革の厳つい服へ変わり、背中にち紫の蝶の羽が生えている。彼は横を向き、右肩を前に突き出している。よく見ると彼の右肩にはこれまた紫色の蝶のタトゥーがあった。
…何なんだあれは?あいつらも俺の「カード」と同類の物を持っているというのか?
少年は右肩を引き、正面を向く。その時、発動されたシールドは右肩に納まった。
「くっ…貴様等までBSIPカードを持っているとは…!」
BSIPカード?もしかしてルカから渡されたカードの事か?
色々頭の中で整理をしていると、ルコは俺を指指した。
「おまけに何であいつがいる!お前ら…あいつと内通してたっていうのか!?」
「俺あんな人知らねぇよ?まぁルカ姉を助けてくれたって事は、少なからず俺らの味方なんだろうけど」
そう。俺は新しい「DIVA」達を知らない。単に嫌な予感がしてここに来た。案の定俺が来ていなければ、ルカは間違いなく殺されていた。第一内通はおろか外出すらされないのに、誰かとコンタクトを取る事などできるはずがない。
「じゃあ何故あいつはここにいる!?」
「知らねえよ!てかあの人誰だよ答えろよ!」
「敵にそんな情報教えるわけねえだろ!」
何か、戦いを忘れてお互いの意見をぶつけている。何がしたいんだこいつら…。
俺は刀を鞘に収め、辺りを見渡した。すると瓦礫の中でぽつんと人集りができていた。そしてその人達は真っ直ぐ俺の方を見ていた。
「…大丈夫か?」
随分怯えている様子だった。話しかけてみると、小さい声でこう返してきた。
「…ル、ルカ姉が…」
4人の少女は、未だに意識が戻らない彼女を心配そうに見つめている。血は止まっているようだが、所々痣ができている。恐らく爆発によって飛ばされた瓦礫が当たったのだろうか。そう考えると骨折している可能性がある。もしそうならば、無理に動かせない。まだ敵が潜んでいるというのにここから動けないのは、ある意味ピンチである。
彼女らの為、そして何よりルカの為、この状況は一刻も打破しなければならなかった。
♬♪♭
奴の反応が消えていく。
俺は白い羽根をいじりながらそんな事を気にしていた。
別に彼女が死んでもそれは「死んだ」とは言わない。
まぁ、どの道俺には関係ない話だけどね。
因みに分かりづらいと思っていいますが
ルコの一人称は「俺」です
レン君も「俺」です
…以上です