今回からちょっと頑張ろうと思います
終わりそうになさそうなのでね…
「ねぇ、ミク姉」
「ん?」
「あの人達一体何なの…?」
「さぁ…。少なくともキチガイなのは変わりないと思うよ」
帰りの電車の中、歩き疲れた僕はガラガラの車内の中で大きく溜息をついた。今の時刻はお昼時。今日は事件後初の登校日で、学校は生徒を危険な目に遭わせてはならないと、今日からしばらくの間昼で学校を終わりにするという対処を行った。
まぁ当然と言えば当然だが、その他に体育館の修理の為に人払いする為とも言っていた。
普通の生徒からすればこの上ない待遇だろう。毎日退屈な学校生活が早く終わる。これ以上の幸福はないはずだ。勿論私もそう思う。
ただ、私には少しでも学校に慣れたいという気持ちの方が強かった。
少し変な人達でも、みんなと一緒に演奏して、歌って、楽しく暮らしてたい。それは過去の私が喉から手が出るほど欲していたモノだった。門限は厳しく、家に帰ってもただひたすら家事。今思うと、学生らしい生活は一秒たりともしていなかった。
改めて私はここに来てよかったと思う。たくさん友達が出来て、「家族」が出来て、そして何より、何にも縛られず歌えるのが何よりの幸せだった。だからこんなにも早く友達と「また明日」と別れを告げなければならないのは少し寂しかった。
でも
「ねぇねぇミク姉」
「んー?なぁに?」
「…今日は何事も起きなくてよかったね」
「そうだね…」
「でも今度何か起こったら私がミク姉守ってあげる!」
今は守るべき「家族」の方が大きかった。
満面の笑みを見せるリンちゃん。いつまでもこんな生活が続いたらいいなと思うほど、尚更守らなくちゃと思うようになった。決戦日の8月まで襲撃しないとはいえ、嘘である可能性はないわけではないし、また前みたいに奇襲が起きないとも限らない。ましてや学校ですら被害を及ばせたんだ。少し強欲なのかもしれないけど、全部守りたい。学校も、友達も、「家族」も。
みんなで幸せに暮らす為に。
ぼーっと思い耽ってた私の肩に、何かがぽんと置かれる感触があった。少しびっくりしたが、肩に乗ったのはリンちゃんの頭だった。さっきまでミク姉を守るとか言ってたのに、すやすやと寝ちゃって…。
…可愛いなぁ。キs
「ミク姉、分かってるよな?」
「え、な、何が?わ、私何もやましいこと考えてないし!」
「考えてたのかよ…」
「か、考えてねえし!」
むぅ…、私女の子好きなのにぃ。これ以上の苦痛はないよ…。
それにしても、昼頃で学校が終わったのにもう寝ちゃうなんて、相当疲れてたのかな…。まぁかく言う私も身体中痛いのだけど。
「ミク姉さ」
「ん?」
「疲れてないの?」
「いやいや滅茶苦茶疲れてるよー…。早くお家に帰って寝たい…」
「春休みずっと寝っ転がってゲームばっかしてるからだよ…」
「だってモモちゃんが攻略できないんだもん!」
「ギャルゲーかよ…」
現在あるギャルゲーのラスボスを攻略中。家帰って一眠りしたら最後の追い討ちをかける予定です。
「…ギャルゲーって何ですかぁ?」
「グミ姉は知らない方がいいよ、知るべきじゃない事だよ、うん」
「えーそんな事言わないでよ、面白いよ?ギャルゲー」
「…ミク姉がやってるギャルゲーって大抵18禁ギリギリだよね」
「18禁ってなんd」
「グミ姉は知らなくていいから!穢れ無き天使でいてくれればそれでいいから!」
「…レンくん、本人にそれを言うのもどうかと思うよ」
彼女に「穢れ無き天使」と言っても何の事だか分からないだろうけど。
けど見た感じみんな疲れているのは同じなようだった。
その理由としては学校が大き過ぎて歩き疲れた事や、みんなテレビでよく見る有名人…だとは思うので、たくさんの人に囲まれて大変だったんだろう。私もそうでした。
テレビに出始めて初めてプライベートで外に出たので、それなりに人が集まってくるとは予想してたけど、あんなに質問責めされたのは正直ビックリした。「どこ住んでるの?」「趣味は何?」「次はどんな曲?」プライベートとは一体なんだったのか、と言いたくなるほど、たくさんの人達に囲まれた。
でも、これはこれだけの人達に「私」という存在を知ってもらえているという事。そう考えると、私は少し嬉しかった。
私の歌で、色んな人が元気になる。まるで空を掴むように、私にはまだ実感が無い。昔みたいに聞いてくれる人が目に見えないのは、一ヶ月近く経つ今でもまだ慣れなかった。有名なアーティストみたいに大規模なコンサートとか、ライブとかやれば実際に観客がいて、歓声を送ってくれて、みんな笑ってくれる。まだそれをしたことが無いから、いつもそれを想像しながらテレビに出ていた。
今は出ていないけど、それでも私の歌を聴いてくれてる人がいる。純粋に嬉しかった。やはり目に見えるのはいい。そこに不安は生まれないから。
もしかしたら、私の目標もすぐ達成するかもしれない。いや達成しているのかもしれない。
きっと見ていてくれてるのかな。
***
レジスタンス———日本語で「抵抗」という意味を持つ。オームの法則ではRと表記されていたが、恐らく「Resistance」の頭文字を取っているのだろう。本当かは知らないが。
よくアニメや小説などでは、ある組織に「抵抗」する組織の事を「レジスタンス」と呼び登場させる作品がある。現実世界にそう呼称する組織があるかは定かでは無いが、ニュースなどで時々見かけるテロ組織は、社会に「抵抗」するが為、テロを行っている。ある意味、それを「レジスタンス」と呼ぶに相応しいのかもしれない。二次元の方の「レジスタンス」は大抵正義の方で、「抵抗」を受ける組織が悪役というのが普通。でも現実では、そういう風にいくわけが無い。
もっと言ってしまえば、どっちが悪でどっちが善か、という判断すらままならないケースだってある。歴史的な出来事で言えば、9.11がそれに値する。
飛行機をハイジャックし、世界貿易センターを崩壊させたテロ組織、アルカイダ。そしてそれに対して怒り、反撃を仕掛けたアメリカ政府。一見、アルカイダの方が確実に悪いだろうと思うのが普通である。けど端から見れば、それは意地悪をされた幼い子供が、意地悪をした子供に仕返しをするようにしか見えない。最初にやった方が悪い。そんなの子供の言い訳に過ぎない。
どこかの漫画にこんな事が書かれてあった。
「復讐は、更なる復讐の芽を生む」
その通りだ。復讐は復讐を呼ぶ。だから必ずその負の連鎖を誰かが我慢し、引き千切らなければならない。
ところが、この世界に人間は幾千もいて、それぞれが別々に考え行動する。誰しもそれをするなんて事はない。むしろ、やり返すと思うのが普通だろう。やり返さず、ただひたすら我慢するなんて人は、俺はまだ一人しか見たことが無い。
だから「レジスタンス」やテロ組織がこの世に存在するというのは、それはこの世界が正常に動いていると言い換えられる。
別の物に例えてみよう。「抵抗」というのは電気の世界でも存在する。それは抵抗器と呼ばれる部品の事で、この世のあらゆる電気製品に必ず付けられている。その主な役割は、電気の供給源(コンセントなど)から送られる電気を制限する事。電気の事について全く知らない人から見れば「電気をもらえる分だけ使えないのは勿体無い」と思うかもしれない。しかし、この抵抗器がないと電気製品に過剰な電気が流れてしまい、作動しなかったり、故障の原因になったりする。要は「抵抗」が無いと電気製品として成り立たない事を意味する。
これに置いて電気製品を「世界」、抵抗器を「レジスタンス」と置き換えると、まさしくその通りになる。「レジスタンス」がある=この世界が正常に動いているという事、この世の人達がそれぞれの生き方をして、それぞれ誇りを持って生きているという事だ。
だが、その「レジスタンス」があまりに強過ぎると、機械に電気が流れなくなってしまう。さっきの9.11の例はそれに値する。あまりに抵抗が強過ぎて機械から外されてしまった。外す事が正しいかどうかは定かでは無いが、道を踏み外した行動をするとこうなってしまう。建物を破壊したり、占領したり、人を殺したり。
いくら抵抗するとはいえ、当然の事ながらやっていい事の限度がある。それは三次元だろうと二次元だろうと同じことだ。
だからこそ、裏でこそこそと悪事を働いているあいつらが許せない。
あいつらがこの世界に置いて一体何なのかは知らないし、知りたいとは思わない。「レジスタンス」なのかもしれないし、ただの不純物なのかもしれないし、精巧に作られた電気回路の一部なのかもしれない。
はたまた俺達が悪人って事もあり得る。
けど、昔からそんなに頭は良くないので、難しい事は考えないようにしている。物事は何事も単純の方がいい。
俺があいつらを絶つ目的はただ一つ。
彼女を救う為。
***
「…失敗…ねぇ」
「…申し訳ありません」
彼はまた暗闇の中、私の手渡した資料を読んでいる。今回の作戦の結果について、私はとりあえず謝ったが、彼の声から怒気は感じられなかった。
無論、彼が放った言葉は私の意表を突くものだった。
「まぁ…いいだろう、別に。それよりも負傷者の手当てに専念させろ」
「わ、分かりました…」
正直、こうなるだろうとは思っていた。これまでも何回か作戦が失敗したことがあったが、「master」は怒るということを全くしなかった。どんな失敗でも、怒ることはなかった。
私達をそれだけ過小評価し「仕方ない」で済ませているのか、あるいは自分の命じた作戦を元からしょうもないと思っているのか、それともただ余裕なだけなのか。私は人の心を読むというのは、暗殺者のくせにそれほど得意ではない。おまけに今この部屋は真っ暗。彼の姿は勿論見えないわけで、声だけで彼の心を読むなど私には無理だ。
しかし、彼も同じ状況なのに、それを平気でやってのける。
「…納得いかない、といった感じだな」
単に私がポーカーフェイスが下手なだけなのかもしれないが、彼はよく私の心を読み当ててくる。
彼に嘘を言っても絶対にバレると思うので、こうなったら本心を打ち明けるしかない。
「…一つ質問してもいいでしょうか?」
「あぁ、言ってみろ」
「何故…怒らないのですか?」
すると、彼はしばらく黙った。私も答えが来るまで黙っていた。彼がいるであろう暗闇をただ見つめながら。
そして彼は資料をまた見始めた。ページをめくりながら、彼は沈黙を破った。
「今回、作戦が失敗した一番の理由は何だ?」
「…巡音ルカが乱入してきたことかと」
「だから怒らないのだ」
「…巡音ルカの実力を認めている、ということですか?」
「お前たちでは適うはずがない。だから憤怒の感情は捨てているのだ。お前達の実力は相当なものだとは、俺も充分に知っている。恐らく米軍に匹敵するかもしれない。ただ…」
珍しく、彼から賞賛の言葉が零れた。今まで褒めてもらった事はなかった為、今の言葉は少し嬉しく思いながらも、気持ち悪くも感じた。
そして彼は言葉を続ける。
「…ただ彼女は別格なのだ。これまで失敗してきた作戦は、全て彼女がその場にいたから失敗している。お前達を過小評価したり、俺の作った作戦に自信がないわけではない。彼女の存在が、あまりに大き過ぎるのだ」
それは実戦に身を投じてる私にも、充分実感している事だ。言われてみれば、確かに今まで失敗してきた作戦は、その場に彼女がいたから、というのが失敗の原因になっている。だが、それは逆にウィークポイントでもある。
「だが、逆に彼女だけを抑えれば、奴らは壊滅する…と」
「その為に準備しているのだ。前にも言ったが、我々は次の作戦に懸けている。そこでは勿論、失敗は許されないからな」
「承知しております」
そう。全ては8月13日…、「第二次歌姫狩り」で決まる。
どういう戦術にすれば、彼女と「DIVA」を引き剥がし、倒すことができるのか。またその日まで時間がある以上、向こうもどう出てくるかは予想ができない。早くに作戦を実行したいが、それでは今まで通り彼女が邪魔になり失敗する。
今までの二の舞にはさせない。「第一次歌姫狩り」のような猪突猛進な考え方も捨てた。
幾重にもシュミレーションを重ね、戦術を練り、隊員を万全の状態にし、技術を磨く。
全ては、「DIVA」を打ち滅ぼす為に。