ここ最近忙しくて…申し訳ありません
あと忙しかったせいで、話の内容がめちゃくちゃなのをご了承ください。
「…眠い…」
いつものようにがやがやと活気に溢れる教室。現在4月の末。学校にもようやく慣れてきた。…軽音部が「DIVA」になった今、また一騒ぎ起きそうだが。
机に突っ伏す私。昨日は新しく買ったギャルゲーの攻略で、ずーっとゲーム画面とにらめっこしていた。当然寝てる時間など一秒たりとも無かったわけで、今とてつもない睡魔に襲われている真っ最中である。
「まーた夜更かししたんですかぁ?」
隣のグミちゃんが呆れながらも話しかけてくる。
「ふわぁぁ…だって…結構面白くて…ふわぁぁ…」
「…今日一日音楽の実習ですよぉ?大丈夫なんですかぁ?」
「…あ、やべ…」
この音楽科には一週間に一度、一日全ての教科が音楽になる日がある。しかしみんながみんな同じ勉強をするわけではなく、歌を勉強したい人は歌、楽器をやりたい人は楽器、といった具合にいくつかのコースに分かれて勉強する。今はまだ音楽の基礎をみんなで習っているため、分かれてはいないけど。
しかし問題なのは、この音楽の実習において教える先生というのが、ルカ姉な訳で…。
「ルカさんにまたこてんぱんにされますよぉ?」
「うぅ…それは勘弁願いたい…」
先週今日と同じ理由で実習中居眠りをしていた私は、授業中にも関わらず、背中を思いっきり竹刀で叩かれたという痛い思いをした事がある。あれはマジで痛かった…。
暴力だ!と言い返したのだが「学校長の許可は受けている」と一蹴。まさかこんなところで学校長の権限を盾にしてくるとは…。もはや勝ち目は無いに等しかった。
「…うぅ…頑張って起きなきゃ…」
竹刀で叩かれる不安でいっぱいになりながらも、授業を受けるため音楽科棟へと向かった。
♬♪♪
「いったっ!?」
案の定、私の背中に竹刀が振り下ろされた。
「…授業中、いびきをかいて熟睡なんて言語道断よ、佐々木さん」
「だ、だからって竹刀はないよしな(バチンッ!)いったい!!」
「言葉遣いがなっていませんのでもう一発かましておきました」
周りは笑いが巻き起こっている。しかし唯一の被害者は、身体面、精神面共にボロボロなわけで。
確かに言葉遣いは、怒られて仕方ないと思う。スーパースターにタメ口で話しかけるなんて、このクラスには誰もいない。そんな中で私だけタメ口で話すとなると、当然の如く竹刀が振り下ろされるわけである。
「さて…授業に戻りますよ。というわけで、各国の音階表記にはこのような関係性であるので……」
まるで何事もなかったかのように授業を再開するルカ姉。そこまで扱いが雑だと流石に萎えてくる…。
授業も訳が分からないし、竹刀怖いし、ほんと憂鬱でしかない。私は暇をただただ持て余し、何の意味も無く外の景色を眺めていた。
「…あれ…?」
一瞬、講堂の三角柱状の屋根の上に人がいたような気がしたが、普通に考えてあんなところに人がいるわけがない。…私できちゃうけど。
きっとまだ寝ぼけてるんだな。そう思いつつ、夢現に身を寄せながらもまた竹刀で呼び戻されるのを延々繰り返した。
***
学校の教師…か。
確かにその方が効率がいい。あの子達を一番に思うのなら、有効な手段と言える。
むしろ、これをあっさりと認めたあの方の言動に一番驚かされた。
「…『master』。本当にこれでよかったのですか?」
「…」
返事が無い。きっと手渡した資料に目を通してるんだろう。暗闇の中で。
「master」の正体を知ってから、彼は少し無口になったような気がした。かの計画が最終調整に入っている今、組織全体が緊迫した雰囲気に包まれている。統治者である彼も、今まで以上に真剣な趣きになっているのはごく普通の事だろう。
しかし、私にはいまいち納得がいかない節がいくつもある。
「また…お前はそのような顔をするんだな」
「っ…、申し訳ありません…」
「いや、今のは戯言だ。忘れていい」
戯言と言っておきながら堂々と言ってくるその態度は一体…。
「まぁ、一番の側近であるお前の事だ。疑問に思う事など幾万とあるだろう。だが、これらは話す事はできない。むしろその目で見て確かめた方が、より分かりやすくより戦闘に置いて役に立つだろう」
その中で一番訳が分からないのが、自分をとにかく過小評価すること。
今はそうでもないが、彼の言動にはこれまでいくつも不審に思う点があった。その中でも、それは一番引っかかるもので、心の底から訳が分からなかった。
初めて彼が私達に姿を現した時もそうだった。あまりにネガティブな発言をするので、会議が終わった後「あんなボスで平気なのか?」と皆が口を揃えたほどだ。自身の部下を不安にさせる、というのは組織の統括者としてやってはならない事の一つだ。もしかしたら、そういう面があると自分で分かっていているからこそ、それまで私だけと接触してきたのかもしれない。
「…で、話を戻すが、この資料にある通り、『レジスタンス』に我ら『UTAU』の脱退者がいるというのは本当か?」
「まだ確定はしていませんが、そうである可能性が高いかと」
「そうか…」
私の返事に適当に答えた彼は、再び資料に目を通し始めた。そんな大した枚数ではないのに、どうしてそんな滅入るように見ているのだろう…。暗闇の中で。
数秒後、彼は沈黙を破った。
「もしそうなら、そうした原因は私にあるのかもな…」
お得意のネガティブ発言で。
「いや…そんな事は…」
「確かに…姿を全く見せない統括者なんて信用されないよな…」
始まっちゃったよ…「master」のネガティブモード…。
「…唄音はどう思う?組織のリーダーだということを一切感じさせない私を…」
「どうって言われても…私はただ『master』についていくだけですから…」
正直、彼は統括者のかけらもないが。
この前彼が初めて私たちに姿を見せた時も、ルコが彼の弱気な言動にしびれを切らし「お前、ボスとしての自覚があるのかよ!」と言い放ったことをきっかけに、今と同じネガティブモードになってしまった。その時の、彼の口からこぼれる自虐、戒め、弱音ときたら…。思い出すだけで腹が立つ。相手をしているこちらの身にもなれって言うんだ、まったく。
「…ともかく『レジスタンス』の概要についてはここまでしか調査できませんでした」
「いやいいんだ…私が悪いのだからな…」
「…では失礼します」
もう収拾がつかなくなっているので即座に撤収。あれ以上彼に構っても不満しか生まれない。私の銃が彼を殺す前にさっさと戻ろう…。
***
「UTAU」の中にある事務室。私はそこで機密資料の整理をしていた。今度の「作戦」に関わる情報が、私の手元の紙には事細かに書かれている。それをプリンターでスキャンし、文章をデータ化。そのデータを各戦闘員のヘッドホンに送り、任意でデータを閲覧できるようにする、というとても重要な仕事だ。
「master」はこういう情報を扱う仕事をいつも私だけにさせている。そのためか、この仕事をしている内に周りからのどんどん信頼が厚くなり、気付いたらナンバー2とまで呼ばれるようになってしまった。
周りからそういう風に言われるのは嫌ではない。が、心地よいものではなかった。
そもそも、それ以前も「あれ」の生存者という肩書きだけで、周りから期待の眼差しを受けていた。「生存したのに相応しい強さを持っている」だとか「あの戦闘で何人もの人を殺め、成果を上げた」だとか。
またその前…物心ついた時からもう、「天性の暗殺者」「幼き悪魔」だとか言われていた。
時々思う事がある。
私は何のために産まれてきたのかを。
どうして、普通の人のように生活できなかったのかを。
『帰らなくていい』
昨日、ルカに言われた、あの言葉。そして手を握られた、あの瞬間。
その真意を、私はまだ理解することはできない。
「あれ、ウタちゃんどうしたの?」
色々と思い耽っていると、背後から古い付き合いのあいつの声がした。
突然のことで少し驚いたが、顔には出さず冷静を装った。
「…別に何でもないですよ」
「怒ってる?」
「怒ってないです」
「やっぱり怒ってるじゃーん!」
「…こっち仕事中なので騒がないでください」
私には、仕事を熱心に取り組んでいる人に対しそんな軽々しく話しかけるという、彼女の思考も理解できない。どう考えても、邪魔しに来たという
とりあえず、彼女には適当に喋らせて、それを適当に流して拗ねさせよう。
「じ、冗談だよ…、ちゃんと話をしに来たんだよ」
「どんな用件で?」
「…昨日、ルカに会ったでしょ」
その言葉を聞いた瞬間、作業していた私の指が止まった。一瞬動揺したが、すぐ作業を再開した。私は黙ったまま、黙々と作業を進める。
私の様子を見て図星と思った彼女は、続けて質問をしてきた。
「何であそこに行ったのさ」
私は、あの人達とは敵対している組織の実質ナンバー2。そんな人が向こうの本拠地に行くなんて事はあってはならない。一人で行くなんて無謀だし、何より今は停戦状態。この事を「master」に伝えたら―――呆気なく許してもらえそうだけど―――許されないだろう。
けど、彼女、あるいは組織の誰かから、この話をされるのは想定内だった。行った次の日にバレてしまった事には少々面喰っているが大して問題にはならない。
「何でって…私の勝手じゃないですか。彼女たちには指一本触れてませんよ」
自分からは。
「…嘘ついてる」
「えっ…」
「もう…ウタちゃん嘘つく時いっつも目線が遠く見てるよね…」
うぐ…ここでポーカーフェイスという弱点が仇になるか…。
「いくら向こうから手を握ってきたってそれ…あ…」
「………」
向こうから手を握ってきた?私しか知りえない情報をなぜ彼女は知っているんだ?
どうやら、今回はポーカーフェイスが原因ではないらしい。
「…見てたんですね…」
「い、いや…たまたま通りかかっただけで…」
「…あなた、嘘つく時手を後ろに隠しますよね」
「うぐ…」
結局のところ、どっちもどっちなようだ。
「…ふふっ、考えている事は同じみたいだね」
「そうみたいですね」
そして私達は微笑み合った。
私は度々思う。いつか、ここにいる人達と「戦友」ではなく「友達」と呼べる日が来るのだろうか、と。もう戦争ばっかの日々にも飽きてきた。幼い頃からずっと戦ってきた私は、戦う意欲が無くなりつつあった。
戦う理由を見失ったわけではない。今までの戦いの中で、それは心の奥底にあった。みんなの心の中にもそれはある。
けどそれは過去の話だ。40年前の話だ。今の私達には関係ない。
もう、言われるがまま暗殺してきた幼い頃の私ではない。
私は、革命を起こす。