「一体どういう事ですかそれは⁉︎」
「そんな事聞かれても困るっつーの‼︎」
「言い争うのは後だよ二人とも!」
テトと和んでいた最中、突如施設全体に警報が鳴り響いた。
海外遠征していた下っ端達が今日帰国し、この本部に戻ってくるはずだったのだが、途中で何者かに襲撃を受けたらしい。
私達は状況を確認すべく、管理室へと向かった。
管理室とは、各戦闘員の戦闘状況をヘッドホンを介して把握、それを踏まえ命令する為の部屋。別名司令室とも言われている。普段は使われていないが、大規模な戦闘を行う際に使う。
そして、敵の奇襲によってその部屋が使われるのは今回が初めてだ。
「何でよりによって今なんだよ…。つーか攻撃してきたの誰だよ!」
ルコが走りながら憤りを露わにする。彼女の疑問は最もだ。「DIVA」とは現在停戦状態。ルカの事だから、誰かにその情報が行き届いていないという事は考えられない。
となると、考えられるのは一つ。
「『レジスタンス』…しか考えられないですね」
管理室の前に立つ。ドアの側の端末にカードをスライドさせる。すると端末が光り出し、ドアが開いた。
中に入って、それぞれ椅子に座る。この部屋はカードを認識した時点で、各機材の電源が入る仕組みになっていて、私達が座る頃には機材らは完全に立ち上がっていた。
どこかのアニメの戦艦の操縦席を彷彿とさせるこの席はオペレーションデスクと呼ばれ、その名の通り戦場にいる戦闘員への命令を行う。前方にある大きな液晶画面には、早くも戦っているであろう戦闘員の位置情報が示された。この時間に帰ってくるのは、第七班と第八班、そして第九班。総勢で100人ぐらい。その100人の位置情報が液晶画面に事細かに映っていた。
私は中央の総司令席に座り、残り二人は右と左に分かれて黙々とタイピングしている。早速私は机の横に掛かっていたUSBコードをヘッドホンに挿し、ヘッドホンとデスクを繋げた。そして素早くタイピングをし、今戦場にいる最も地位の高い戦闘員にコンタクトを取る。
「テステス…あー、聞こえますか?どうぞ」
『そ、その声は、唄音隊長!聞こえていますどうぞ!』
一人の男の声が部屋に響く。確かこの人はテトの部下だったような…。
「そちらの状況が掴めません。状況の説明をお願いします。どうぞ」
『えー、バスでの本部帰還中、突如前方から敵が作ったと思われる氷の壁により帰還を妨害され、そのまま敵と接触、戦闘を開始しました!敵は10人ほどですが、我々と同じ『ヘッドホン』のようなものを装備しており、その強さは隊長達に匹敵すると予測できます!』
「分かりました。では、こちらの方で指示を…」
『いえ!私にやらせてください!』
こちらから指示を出そうとした矢先、向こうから指揮を任してくれとの要求。
丁度すぐそこに彼の上司がいるので聞いてみると
「いいんじゃないの?今後のためにもやらせておいた方がいいと思うけど」
何だか適当に返された。けどまあ、上司がこう言うのだから大丈夫だろう。
「…分かりました。では指揮は貴方に任せます。くれぐれも周囲の目の引くことのないよう、注意してください。…健闘を祈ります」
『Yes,ma'am!』
威勢よく彼は返事をし、通信を切った。
一通り作業が終わった私は、椅子にもたれ込み画面をぼーっと見ながら呟いた。
「よりにもよって…文京区で戦闘とは…」
画面の右上には、映しているのはどこの地図なのかが表示されている。今回そこには「東京都文京区」と映っていた。
文京区は、かのJ.R.J学園があるところだ。文京区のおよそ4分の1を学園が占めているため、もしかすると騒動が学園の方へ行き渡る可能性があった。遠征隊の帰還ルートをなるべく学園から距離を置く努力はしたが、敵の様子から見て向こうは周囲などお構いなしの様。学園の方に情報がいくのは時間の問題だ。
一通り作業を終えたルコが私に話しかける。
「なぁ、学園の方は平気なのか?この様子じゃまずいんじゃねえの?」
私と同じ事を考えていたようだ。
そこで、私は二人に提案をした。
「そうですね…。では、付近にいる波音と健音に、現場へ向かわせるのはどうでしょう?」
「え、いるの?」
私は手元のディスプレイで画面に映っている地図の位置を操作した。
すると、現場から5kmほど離れた本屋の中に大きな反応が二つ映っていた。
そのマーカーにはしっかりと、「健音」と「波音」の文字が。
「何か、近くの本屋の中に反応がありますね。見た感じ騒動に気付いていないようですが」
「こんな時に仲良くデートかよ全く…」
「いいねぇ青春。私もたくさん青春し「俺は大賛成だ」「分かりました」って聞いてる二人とも⁉︎」
「早く答えてください」
「むぅ…賛成でーす」
話を聞いてくれないのに怒って、膨れっ面をした重音。そんな事して、若く見せてるつもりなのだろうか…。虚しい努力とはまさしくこの事である。
早速、さっきと同じ要領で二人にコンタクトを取ってみる事にした。
「あーあー、聞こえますか?健音、波音」
『ん?その声唄音さんですか?どうしました?』
『………その連絡回線、管理室から…何かあったの…?』
「…察しがいいですね。海外遠征から帰省していた部隊が途中何者かに襲撃されました」
『えっ⁉︎』
『っ…⁉︎』
やはり、二人とも驚きを隠せないようだ。襲撃するならともかく襲撃「される」というのは全く経験がないため、驚くのは当然と言えば当然だ。
「現在その部隊は交戦中で、ちょっと戦況がまずいので、加戦してもらえますか?」
『了解しました‼︎』
『…了解』
「ではそちらに戦場の位置情報と、詳細な戦場の状況を送ります。休暇中で申し訳ないですが…健闘を祈ります」
『はい!ボコボコにしてきますね!』
『…行ってくる』
二人の心強い言葉を聞いたところで、通信が切れた。直後、巨大なディスプレイにぽつんと映っている二人のマーカーは、物凄いスピードで戦場へと向かって行った。
とりあえず、ここ司令室で出来る事は全てやった。後は戦況がこちらに傾く事を祈るだけだ。
テトとルコもやれる事は全てやり、背もたれに寄りかかる。二人ともしばらく事務的な事をしていなかったのか、目を大袈裟にショボショボさせていた。
見かねた私は二人に休息を勧める。
「二人とも、疲れたのなら休んできていいですよ?もしもの時は呼びますので」
しかし、二人とも首を横に振った。
「いんや、気持ちだけにしておくよ。折角あの作戦のためにここまで準備してきたんだ。こんなところで中止になんてさせるかよ」
「ルコの言う通りだねー。いきなり現れた第三者なんかに邪魔されてたまるかっつーの!」
二人の目からは怒りに満ちていながらも、どこか自信に溢れているような、そんな目をしていた。
「…そうですね、ここで失敗するわけにはいきません。何としてでも、勝ちましょう」
現場には行けない。けれど、ここでしかやれない事がある。
私達は勝利の知らせが来るまで、黙々と画面と睨めっこしていた。
♪♫♬
襲われた、という現場に来てみても、イマイチ状況が分からずにいた。
唄音さんの連絡を受けて、私とりっちゃんはすぐさま戦場へと向かった。
「………何これ…」
そしてその現場に着いた私達は、驚きとともに少し焦りを感じた。
管理室から送られてきたデータの中に『氷の壁に阻まれた』という現場の最上級隊員の証言があった。
アニメとかで何もないとこから氷の壁がどーんみたいな、そんな事を想像しながら現場に来てみたが、実際は壁などという表現では当てはまらないほどだった。
「…氷山?」
現場はビルとビルの間で、ギリギリ車二台通れるかという狭い路地だった。
そしてその路地の一部が丸々氷で覆われていた。
「………いや、氷のドームみたい」
「こんな事できる人『レジスタンス』にいたんだなぁ…」
報告の中には『私達と同じようなヘッドホンを装備していた』というものあった。という事は、私達と同じヘッドホンを使って、あたかもアニメのような攻撃を仕掛けてくるという訳だ。
うーん…。得体の知れない敵10人に私達二人で挑むのは少々骨が折れるなぁ…。
「………スコッティ」
「ん?どうしたの?りっちゃん」
「………私が前衛やる。………いつも通り、後方支援、お願い」
「あ、うん、分かった」
「………じゃあ、突入」
突入の合図をぼそりと呟くと、りっちゃんは氷のドームに向けて手をかざした。
すると、ドームの頂上が突然きらめく粉となって空へと舞い始めた。上空でキラキラと光る氷の粒はまるで、気象現象の一つであるダイヤモンドダストのようだった。
「…」
「…」
綺麗…。初めて見たこんなの…。
「…」
「…」
……………はっ。
「…いや…ドームぶっ壊すだけなんだからあんな風に綺麗にしなくても…」
「………勿体ない」
「いや急いでね!?食べ物みたいに言わなくていいから!早くしないと全滅しちゃうよ!」
「………分かったよ…」
何だかがっかりした顔で、りっちゃんはドームに向けてかざしていた手を、思いっきりグーの形にした。
ドォォン‼︎
するとドームの頂上が突如爆発した。砕けた氷の粉が舞い、白い煙が辺りに散漫する。すると、煙の中から何やら声が聞こえてきた。
私達はすぐさま、その煙の中へと飛び込んだ。
「な、何だ!?」
「新たな敵か!?」
入ってすぐ聞こえてきたのは、下っ端達の不安そうな声。実際彼らの内のほとんどは、実戦で戦闘行為を行う事は初めてだ。おまけに経験がある人でも、襲撃されるのはそうそう無い。動揺を隠せないのは当然の事だった。
私達が現場に到着すると同時に、ヘッドホンから声が聞こえた。
『戦闘中の各員に告ぐ。たった今、波音前方支援隊隊長、健音後方支援隊隊長が到着した。負傷者は後方へ下り、応急手当を受けよ』
唄音さんが私達の到着と同時に的確な指示を出していた。周りはそれに従い、負傷者は奥へそうでない者は前線を維持していた。すかさず前線組へ加勢する。
「お待ちしてました…波音隊長、健音隊長」
前に立って私達に敬礼するのは、ここでのリーダーである男だった。
見た感じかなり疲労困憊しているようだ。
「………今の戦況は?」
隣にいるりっちゃんが、男に現在の戦況を尋ねる。が、男の顔は苦虫を噛み潰すような顔へと変わった。
「現在…敵は立て籠もっています」
「………立て籠もっている?」
それはどういう事だろうか。向こうが攻撃を仕掛けてきたのに立て籠もるとは、こちらの優勢ということなのだろうか?
「あれをご覧ください」
男に指を指された場所を見ると、氷のドームの壁にくっつくように、また小さなドームができていた。しかも微妙に穴がちらほら開いている。
「敵は、我々を襲撃しバスを破壊した後、あのようなドームを形成し、立て籠もりました。時々ドームから銃弾が放たれ…そのせいでかなりの数の負傷者が出ています」
「………どれくらいの数の負傷者が?」
「約…半分です」
男が悔しそうにそう言った。
管理室から送られてきたデータの中には、今回の帰省する班についても記されていた。そこには総勢約100人の数字。という事は、現在こちらの戦力は半減していて、向こうは未だ無傷。ましてや素性すら分からない。
戦況はかなり厳しいものになってるって事か…。
「………時々っていうのは、具体的にどれくらい?」
「約5分に一度です」
「その程度で戦力の半分を削られるなんて…向こうがすごいのかこっちが間抜けなのか…」
ドームと私達の間に障害物は何もなく、突拍子もなく弾丸が飛んできたら撃たれるのは必然的かもしれない。けど何かしら対策立てとけよ、とも思う。
「………管理室、聞こえてた?」
『はい、聞いてました』
りっちゃんがヘッドホンに向かって話しかけると、次に聞こえてきたのはウタさんの声。どうやらここまでの経緯をヘッドホンを通して聞いていたようだ。
そして、聞こえてきた声には若干の怒気が含まれていた。
『…先ほど指揮を任せろとか言っておいて、このやられっぷりは何なのですか』
「も、申し訳ありません!唄音隊長!」
こ、怖い…。いくら実戦経験がなかったとしても、指揮を自分からやっておいてできないのは無責任だけど…でもそこまで怒らなくても…。
『…テト、こいつの地位、後で一番下まで下げてもらっていいですか?』
なんと降格の話まで。相当ウタさんはお怒りのようだ。
『…降格はともかくとして…まず波音隊長と健音隊長以外、下がらせてください』
「は、はい…」
あからさまな落ち込み様。ここで敵を撃退できれば大手柄なこの場面。張り切って無理難題でもやろうとするのは誰しもが共感できるだろう。
けど相手が悪すぎた。情報によれば相手は…
『…ではここからは私が指揮を執ります』
ウタさんの凛とした声。それを聞くだけで、何故だか安心感と自信に満ち溢れた。
『まずはドームを壊すところから、ですね』
「………なら私が」
『いえ…波音さんは少し待機しててください』
りっちゃんの立候補を丁重に断るウタさん。さっきの外郭のドームではあんなに大胆に壊せたのに…。
「え、じゃあ私?」
『…いえ、ここは彼女にお願いします』
彼女?この場にもう味方は―――
ズゴォォオオオオン!!
頭が言葉の意味を考える前に、突然ドームの向こう側から青く輝く熱線が放たれた。私達二人のすぐ脇を通り、後方で待機している帰還兵の上を通過した。
パラパラと砕けた氷が上から落ちてくる。周囲はりっちゃんがドームを壊した時と同じように白い煙で包まれた。
「え、な、何今の!?」
「………びっくりした…」
私達は当然、周囲の隊員達も突然放たれたレーザービームに驚いている。
「な、何者だっ!?」
「みんな落ち着い、っ!?ぐわぁ!」
「おい!大丈、ぐはぁ!?」
ド派手に放たれた熱線に驚いていると、煙の向こう側で何やら音が聞こえてきた。これは金属と金属がぶつかる音…きっと援軍が白兵戦で攻撃を仕掛けたんだ。何と心強い。
けれど一体誰が…?
『健音さん、前方に薔薇の設置、お願いします』
「…あ、う、うん!了解!」
思考を張り巡らせているところにウタさんの命令。彼女の声は至って冷静。きっと向こうで戦っている人に指示を出したのも彼女だろう。
私は唄音さんの指示通り、前方に帯状に茨を設置した。
「終わったよ!」
『了解。ではまもなくそちら側に敵が現れるので、罠に引っかかったところで襲撃してください。なるべく生け捕りで』
「………了解」
「了解です!」
困惑する敵たち。まだ白い煙が周囲を覆っているが、少しずつ敵の影が見えてきた。敵の動く影から予想するにこちらに向かってきているのが分かる。
後少し…後少し来れば…茨を…
「うぉっ!?何だこれ」
「薔薇…?」
今だ!
「捕えろ!我が僕よ!」
地面に張り巡らされた薔薇は、私が送った合図に従い、蔓を的確に相手の四肢の動きを止めた。
「うおわっ!?」
「い、いったっ…!」
「た、助けてくれぇ!!」
いきなり植物の蔓で体の自由を奪われた彼ら。何とか逃げ出そうともがくが、彼らを拘束しているのは茨。蔓には無数の棘があるので、もがけはもがくほど、自分の体を傷つけることになる。
それを悟った敵は抵抗するのを止め、静かにこちらを睨んでいた。
『流石です、スコッティ。拘束した人々はそのままで待機していてください』
「了解ー」
作戦が上手くいき、唄音さんも安心しているようだ。
続いてやってくる敵も呆気なく薔薇の餌食になっている。捕まえたのは6人…残りは…
「あーぁ…派手にやってくれちゃったねぇ…こりゃ」
スパパパッ!
…え?
何が起こったのか分からなかった。向こうから女の人の声が聞こえたと思いきや、さっきまで敵を拘束していた茨が、一瞬にしてバラバラになっていた。
「まんまと…やられた…やられたのなら…やり返す…」
驚きは束の間、煙の向こうから三角柱状の巨大な氷の柱が飛んできた。
「り、りっちゃん!」
「………分かってる」
りっちゃんは柱に向けて手をかざす。そしてドームを壊した時と同じように手を思いっきり握った。
バァァン!
ドームと同じように、氷の柱は爆発し、粉々になった。
にしても突然茨が切られて氷の柱が飛んできて…この連携はあの二人しか考えられなかった。
「………最初から本気出したらどうなの?…『シリア』」
未だ立ち込める煙の中から現れたのは、鮮やかな緑色の髪をツインテールで纏めた少女。さっき茨を切り倒したのは彼女の仕業だろう。
「久しぶりー!りっちゃん!元気にしてた?」
「お姉ちゃん…戦闘中…向こう敵…馴れ馴れしい…」
「分かってるよー…」
もう一人煙の向こうから人が現れた。覚束ない口調と水色の長髪の少女。氷の柱、ドームを作り出したのは恐らく彼女だ。
「まさか本当に…『レジスタンス』の中にいるとは思いませんでしたよ…『アイス』さん、『シリア』さん」
「お、スコッティも久しぶり!スコッティは心配してないから何も言わないよ!」
「お姉ちゃん…うるさい…黙って…」
彼女達は姉妹。姉を『シリア』、妹を『アイス』という。
また彼女達は、「UTAU」のメンバーだった。