問 以下の問いに答えなさい
紫式部が執筆したとされる全54帖からなる長編物語は何か。
相澤 鈴の答え
「源氏物語」
先生のコメント
「正解です。しかし最初の数問だけ解いて、あとは白紙ですが何かありましたか?」
山内 一の答え
「ゴルゴ13」
先生のコメント
「政治を扱っていて、性的な描写がある長い作品という点で正解かもしれません」
加賀 恭介の答え
「雲隠は面白かったです」
先生のコメント
「少しそのことについて話を聞かないといけないかもしれません」
6年前に開校された長月高校では学力至上主義を掲げており、文月学園で取り入れられたシステムを採用している。その一つが学力によるクラス分けであり、試験の結果が良い順にAからFまでの6クラスに振り分けられる。そして上位のクラスほど設備が良くなっていく。AクラスとFクラスでは雲泥の差だ。
学力至上主義といってもこの学園はそれ以外は生徒の自主性を尊重するという勉強に対して消極的な方針でいるが、このシステムだけでも十分に学力の向上が見られている。例年 —と言ってもここ4、5年のことだが— 2年生の頃には学力が入学時よりも有意に上昇している。一昨年は入学時に偏差値50を越えるか越えないかのとある生徒が、期末試験ごろには偏差値65を叩き出した。他の生徒も学校の消極的な方針に対して、十分以上の上がり方を見せている。競争を煽ることはそれほどまでに効果的なのだ。
しかしこのシステムには欠陥がある。高い点数を取るには実力が必要だが、低い点数は誰でも取れる。そう、クラス分けを操作することは生徒の側から十分可能なのだ。無論自己採点と教師の採点の差異や他の生徒の学力把握が困難で細かく操作する事は不可能と言ってもよく、集団で行くとしたらFクラス行きになるだろう。
しかし、もう一つのシステムの存在から、加賀恭介は集団によるFクラス行きを計画した。
8時を少し過ぎた頃に加賀恭介が率いている20名近い集団 —明日にはまとまりを無くすだろう— がFクラスの教室にたどり着いた。
ちゃぶ台に座布団、窓枠は木、むしろ金属製のものを探す方が大変な教室だ。最低限、健康への配慮はしているがそれだけだ。
廃屋の様な教室に加賀は元気よく、若干不真面目に入っていく。
「おはようございまーす!」
叫んでいるわけではないが十分に大きな声により既に来ていたもの達の注目を集める。流石に加賀は既に来ていた生徒達の話題になったようだ。
「確かFクラスは席が自由らしいぞ」
加賀は連れている集団に向けてそのことを告げると、皆好きな所に座り始めた。そもそも個人で管理するほどちゃぶ台にキャパシティはなく、勉強道具を置いておくにもちゃぶ台の上と、間違えようも整理のしようもない。自由であるのも宜なるかなといった感じだ。
加賀はFクラスに行く計画に最初に誘った常森道夫と並んで座った。
「で、いつ頃始めるんだ、加賀」
「今日の放課後に得意教科だけ補充して、次の日からEクラスから順番に、かな」
「そういやみんな0点取っているのか」
「まあどうせEクラス戦は2、3人の補充で足りるだろうけどな」
Fクラスにいることがなんでもない事かのように談笑していると、叫ぶような声で一人の女子が入って来た。
「おはよう!」
中峰葵、学年でトップクラスの学力を持つ人物である。加賀の記憶には計画に誘った覚えがない。
中峰は教室の入り口で中を見回すと、加賀の所にやってきた。
「面白そうなこと黙ってるなんていい度胸してるじゃない」
「そういうところだよ」
相性が悪いと言わんばかりに不機嫌そうになり、適当に答える。
「なんでFクラスに来れた?」
「音楽バカの鈴ちゃんにテスト前日に大量の楽譜渡してるの見ると何かあると思うわよ、あんた人を蹴落とすことはしないし、Fクラスに行かせる理由がある事は分かるわ」
「相澤からバレたのか」
相澤は得意教科が偏っていて、試験1日目に集中していたため、新しい楽譜を渡すことによって寝不足にさせる、という冗談みたいな作戦が通用した。徹夜したせいで試験中に寝ていたらしい。音楽バカにもほどがある。
そのため計画のことを知らず、集団の中にいなかった相澤は先に教室で楽譜をいじっていた。音楽以外はどうでも良いのか、加賀に恨みを持ってるわけでもなく、加賀が来た時も無反応だったが。
その時、遠山先生が教室に入って来て、自分の席に座るように促した。
「知っていると思うが、遠山修一だ、2-Fの担任をすることになった」
補修担当が担任をすることはあまりなく、教室がざわめき始めた。
「静かに、とりあえず一時間目はホームルームだ。皆に軽く自己紹介をしてもらう。まず窓側の席から」
皆全く知らないというわけでもなく、名前と趣味程度の軽い自己紹介で回っていった。時々、Fクラスにいるはずのない生徒に対してざわめきが生じる。
加賀の番となり、簡単に自己紹介をしたが、流石に限界なのか質問が飛んでくる。
「なんでFクラスにいるんですか?」
当然の質問だ。去年加賀は学年主席かどうかのレベルの学力だったのだ、Fクラスにいる方がおかしい。
「その質問に関してはこう答えておこう。試召戦争のためだ」
教室がざわめき始める。遠山先生は顔を覆った。
「他にも居るはずのない奴がいると思うが、俺が誘った、詳細については放課後話す」
流石に我慢できなかったのか遠山先生が口を挟む。
「こいつが問題を更に問題を起こす前に止めるために、Fクラスの担任になったんだ」
その言葉に力はなかった。
その後、多少雰囲気が落ち着かないものの、自己紹介は終わった。遠山先生が時間割を配ったり、注意事項を通達してそのまま学校は始業日は終了となった。
その後加賀がクラス全員を引き止めて、説明を行なった。
「俺はわざとFクラスに来た。その為に回答用紙に適当な答えを書いて0点を取って来た。そして何人も誘って同じことをした。だからこんないびつな構成だ。」
クラスを見回すと、各教科でトップクラスの成績を取っている生徒が十数人いる。他の教科が出来ずに元からFクラス相当な人物もいるが。
「Aクラスに試召戦争を挑む、それが出来るだけの戦力を集めたつもりだ。」
試験召喚戦争、それはこの学園の基礎を成していると言っても過言ではないシステムだ。テストの点によって強さが決まる召喚獣を用いて、文字通り戦争を行う。無論人間が傷つかないようになっているし、勝敗も分かりやすくクラス代表の召喚獣が倒された時、となっている。
教室が大きくざわめく。当然だ、今言ったことはAクラスの教室を奪うと言ったことと殆ど同義だからだ。勝ったクラスは負けたクラスと教室設備を交換できる。それがモチベーションとなり、皆が切磋琢磨する環境となっている。
そんな中、クラス代表の山内一がめんどくさそうに言った。
「試召戦争本当にすんの?代表として働くの最小限にしたいんだけど」
教室のざわめきがさらに大きくなる。代表の協力無くして試召戦争は出来ない。代表が手伝わないということはAクラスの教室を奪えないということと同義になる。加賀が説得する。
「お前は基本的に置物でいいし、試召戦争も教室で篭っててくれればいい。めんどくさいことは俺が好き好んでやるし、試召戦争もそれで勝てる戦力を集めた。無論お前がやる気なら勉強を教えて、戦えるようにするがな」
その言葉に山内は安心したかのように深く頷く。
「明日、Eクラスに戦争を仕掛ける。その後も順番に全てのクラスと戦争する。戦争慣れと敗北時の試召戦争布告禁止期間のためだ。今日は補充試験を受ける日とする。0点組でやる気あるやつは得意教科だけでも受けておいてくれ。」
加賀は皆に通告する。
試召戦争で参照される点数は召喚獣の戦闘で消耗される。その点数を新しく試験の結果で上書きすることができる。半分弱が0点を取ってFクラスに来たため、それを本来の点数に上書きするのだ。無論試験を受けたことは他のクラスにも多少なりとも伝わり、警戒されるだろう。他のクラスが対策を取るのが先か、Aクラスを奪うのが先か。