ラブライブ!サンシャイン!!IF:黒澤家の兄がいた物語   作:高月 弾

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アニメ本編とは少しずつ流れや内容が異なりますがご了承ください。


第4話 転校生を追いかけろ!

「今日は転校生の紹介からやっていくよ~。」

 

先生の言葉に教室がざわつく。

転校生が来るというイベントは在校生にとってはまさに貴重であり、大変興味のあるものだろう。

どんな子が来るのか、可愛いのか、カッコいいのか、仲良くなれるのか、と色々な疑問が生徒達の頭を駆け巡る。

それはもちろん千歌と曜も同じだった。

どんな子が来るのかワクワクしながら待っていると、先生がついに教室の中へと転校生を呼ぶ。

扉を開けて入ってきたのは長い髪をなびかせた女の子だった。

教室はその美しい容姿に目を奪われるが、千歌だけは同じく目を丸くしていたが違う感情を抱いていた。

自己紹介をしようとする前に小さなくしゃみが女の子から聞こえてくる。

風邪でも引いているのか?その疑問の答えを知る者はこの場では本人と千歌だけであろう。

 

「東京から転校してきました。桜内梨子です。よろしくお願いします。」

 

そう。

浦の星女学院に転校してきたのはつい最近千歌がであった人物、桜内梨子だった。

思わず千歌は立ち上がり手を梨子に向かって伸ばす。

 

「奇跡だよ!!!」

 

思わずそう叫ぶと、梨子はそれに気づいて目を丸くする。

この教室で本来初対面であるはずの二人が、互いの顔を見て驚く。

まるで以前にも…つい最近にでもであったかのように。

もちろんこの後クラスメイトからの質問ラッシュが桜内さんを襲うのだが、その中には千歌との関係を迫られる物もあり千歌自身が質問攻めにも遭うような状況になっていた。

 

「ねぇねぇ千歌ちゃん。あの転校生の子と知り合いなの?」

 

曜ももちろん千歌と転校生の子との関係を不思議に思った一人である。

千歌と曜は幼なじみで小さい頃からよく一緒にいた。

だが曜は転校生である桜内梨子のことが全く記憶にはなかったため、不思議で仕方なかった。

 

「え、えっと…実は昨日たまたま海辺で梨子ちゃんと会ったんだ。まさか浦の星に来るとは思ってなかったけど。」

 

どういう経緯でであったのかを説明するのはあえて避けた。

まぁ、梨子の最初の状況はインパクトもありすぎるし言うべきではないと判断したのだろう。

その後、1時間目が終わって休憩時間に千歌は梨子に話しかけようとするも、あまりの人の大群にとても話しかけられるような状況ではなかった。

この調子だととても梨子に話しかけることなど出来ないが、3限目まで話せなかった千歌はとうとう爆発する。

 

「梨子ちゃーーーーーん!!!!」

 

授業が終わると同時に千歌は大きな声を上げながら梨子に迫ってくる。

あまりの大きさの声と突然な出来事に梨子は目を丸くし、クラスメート達の驚いて声の方を見るが、それが千歌であると分かるとまるで見慣れたかのようなため息をつく。

 

「スクールアイドルをやろうよ!!!」

 

「…え?」

 

千歌のセリフに梨子の思考は完全に停止する。

周りのクラスメート達は最近千歌がスクールアイドルにハマっていたことこそ知っていたもののまさか本人がそれをやりたいと言い出すとは思ってもみなかったためか、クラスメート達の目も丸くなっていた。

返答が返ってこない梨子の顔をのぞき込む千歌。

それに気づくとだんだんと頭が回るようになっていく。

それを確認できた千歌ももう一度さっきのセリフを言う。

 

「スクールアイドルを…やろうよ!!!!」

 

「…ごめんなさい。」

 

割と即答であった。

返答までに少しの間があったがそれはスクールアイドルをやることへの迷いではなく、千歌の言葉の意味を考えている時間だったことは誰が見ても明白だった。

 

「ええ!?」

 

千歌は大げさとも思えるくらいに驚くが普通の人から見たら断られるのが当たり前である。

梨子は現在もピアノを続けている根っからのピアノの奏者だ。

そんな彼女だが、スクールアイドルを知ったのは昨日の千歌の話を聞いてからであるのにそれをすぐにやろうとは思わないであろう。

ましてや、転校してきたばかりならなおさらすぐに部活動(スクールアイドル活動はまだ部活ではないのだが…)を決めるとはないだろう。

なんとか梨子ちゃんを説得しようと奮闘しようとするもその前にクラスメート達が梨子の周りに集まってきてしまいとても出来る物では無くなってしまった。

 

「千歌ちゃん…。」

 

その様子を曜は少し離れた距離から見つめていた。

千歌の顔が若干暗くなってしまったのを曜は見逃さなかった。

その後も何回か梨子にアタックをするも丁重にお断りされてしまいその日の授業は終わってしまった。

その放課後に千歌と曜、そして何人かのクラスメート達は梨子に校舎を案内してあげたが、その時千歌はスクールアイドルへの勧誘を行うことはなかった。

そのまま帰るのかと思っていたが梨子はすこし部活動の様子も見たいと言って学校に残っていった。

千歌と曜は家へ帰ろうと学校の最寄りのバス停でバスを待っていた。

他のクラスメート達もこのバス停を使うのだが、部活動を行っていることも多く帰る時間帯が結構ばらばらなのだ。

いま千歌といる曜も水泳部に所属しているのだが、今日は練習が休みなので千歌と一緒に帰ることが出来ているのである。

千歌は黙ったまま、いまだに一人分の名前しか書かれていない部活動の申請用紙を見つめる。

そんな時、彼女の肩を誰か叩く。

すぐに振り返るが後ろには誰の姿も見えない。

次の瞬間、千歌の手元から何かによって部活動の申請用紙が取られてしまう。

千歌は驚いて手元を確認するが、紙は既に手元には無かった。

もちろんこんなことが出来る犯人はいま千歌と一緒にいる一人の人物にしか出来ない。

 

「ちょっと!曜ちゃん!?」

 

すぐさま取り返そうと曜に振り返り、飛びつこうとするがあっさりと躱されてしまう。

もう一度振り返ろうとするがそれよりも先に曜が千歌の背中に寄りかかってくる。

 

「本気なんだよね、千歌ちゃん。」

 

「曜ちゃん?」

 

曜に対しては千歌は自分がどれだけ本気か何度も言葉にしてきた。

だからこそなぜ今改めて言われたのかが理解できなかった。

なんでそんなことを言うのかを聞こうとするがそれよりも先に曜が話し始める。

 

「私ね、ずっと千歌ちゃんとなにかを…一緒にやってみたかったったんだ。なにかを一緒に…一生懸命。」

 

曜が気持ちを話し始めると、千歌は黙って聞き始めた。

 

「だから…!」

 

そう言うと曜がいきなり寄り添うのをやめて立ち上がる。

いきなりのことで千歌は倒れそうになるがすぐにバランスを整えて曜へと振り返る。

すると曜の手元には先ほどの紙があり、こちらに向けて渡されていた。

そして眩い笑顔で、

 

「水泳部と兼部だけど!」

 

そう言った。

すると千歌の顔に満面の笑みが広がっていく。

そして思わず曜に飛びつき抱きつく。

曜はバランスを崩さないように千歌を受け止めると、何度もお礼を言う千歌を同じように抱きしめながらまんざらでもないかのように頬を掻く。

そんな二人だけの空間に一つの音が響く。

 

【ポチャン】

 

「「ん?」」

 

二人はその音が何なのかと思い下を向く。

すると足下には水たまりとその中に今にもふやけそうな部活動の申請用紙があった。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」」

 

二人の叫び声が誰もいないバス停に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんですか?これは?」

 

「これで部活動としての活動を認めてください!!!」

 

少し時間がたったのだが、なぜか生徒会長であるダイヤと千歌は再び対立していた。

しかし今度は曜が扉の外ではなく、自らも生徒会長の前に立って交渉の場に参加している。

 

「一人が二人になっただけではありませんか。部活動の申請には最低でも5人必要だと言ったはずです。ましてやこんなふにゃふにゃになった用紙なんて…。」

 

ダイヤは呆れたように手渡された紙をひらひらと揺らす。

先ほど水たまりに落ちてしまったせいで紙はふやけ、文字も滲んでとても読みづらくなっていた。

本来ならばこんな状態の書類など取り扱っては貰えないだろうが千歌の最初の勧誘を見て彼女がかなりぶっ飛んでいるのを把握しているダイヤは深いため息を吐くだけでとりわけ驚いているようにも見えなかった。

 

「あの時何度持ってきてもダメだと申しましたはずですが。」

 

「すぐに5人にします!!だから…!!!」

 

「そもそも曲は作れるのですか?」

 

「曲?」

 

いきなりの問いに千歌は頭に疑問符しか浮かばなくなる。

その様子を見たダイヤは再び大きなため息をつく。

 

(そんなことも知らずに…)

 

そう声に出そうなのを必死にこらえる。

以前千歌を問い詰めたときにスクールアイドルの話になったときにダイヤはボロを出してしまった。

そんな過ちは二度も繰り返さないと自分の感情を一度落ち着かせる。

 

「…いいですか?ラブライブの参加条件にはオリジナルの楽曲でなければならないという物があります。スクールアイドルをやる以上はラブライブを目指すと言うこと。ならば千歌さん、又は曜さんのどちらかが作詞作曲が出来ると言うことですわよね?」

 

「そ、それは…。」

 

千歌はたじろぐ。

当たり前だ、普通に生活しているのならば作詞作曲をする機会などないに等しく、出来る者などそれこそ音楽に流通している者くらいだろう。

それでも何かを言い返そうとする千歌を遮ってダイヤは話を続ける。

 

「それに渡辺さんは、水泳部の有力選手であると聞いています。私の偏見を押しつけるのはあまり良くないとは思いますが、スクールアイドル部などに力を貸していてもよろしいのですか?出来るかも分からない不安定な部活動に協力するくらいなら、本職であるとも言える水泳に力を入れた方がよろしいのでは?」

 

生徒会長の言葉を聞いた瞬間千歌の肩が震える。

そうだ。

渡辺曜は幼少期からずっと飛び込みの練習をしてきているまさに熟練の選手とも言える人物である。

幼少期からずっと水の中を泳いできただけあって、曜自身の泳ぎはとても早く、水泳部の中でもトップクラスに速い。

それは生徒会長(ダイヤ)に言われなくても、千歌は充分に…いや、生徒会長以上に理解していた。

だからこそ、この言葉に千歌は不安を抱いてしまう。

曜のスゴい才能があればずっと水泳を続けていくことで全国でだって引けを取らないほどの選手となり、一番の輝きを手に入れることだって狙えるかもしれない。

その可能性をスクールアイドルに誘うことで摘んでしまうかもしれない。

そしてそれは、曜ちゃん自身の本来の夢から遠ざかってしまうのではないか、本来の望みではないのではないかと。

千歌は不安な気持ちを抱きながら曜の方へと視線を向ける。

が、次の瞬間思いもよらない答えが曜から聞こえてくる。

 

「私は、私の意思でスクールアイドル部に入ることに決めました。他の誰かに何か言われる筋合いはないと思います!!」

 

千歌は目を丸くして曜を見つめる。

それに気がついた曜は少しだけ千歌の方を見て微笑む。

すぐに生徒会長へと向き直り真剣な眼差しで続けた。

 

「それに、どっちかをやるからどっちかが疎かになるとかそんなことはないと思います!どちらも全力で取り組む…それは出来ると思います!」

 

曜の力強い言葉に千歌は心を奪われる。

生徒会長(ダイヤ)もそこまではっきりと意思を示されると思っていなかったため、一瞬目を丸くするがすぐに真剣な眼差しへと戻り再び曜に対して攻めの姿勢を作る。

 

「では水泳でも成績を残し、なおかつスクールアイドルとしても実績を残すことが貴方にならば出来る…と?」

 

その言葉の重さ、凄み、鋭さに曜は一瞬怯んでしまう。

生徒会長の鋭い視線、そしてその言葉の込められた意味が曜に対して重さとなって降りかかる。

【プレッシャー】

試合やテストなどの際に感じる重圧。

まさにそれが今曜へと降りかかる。

生徒会長をするだけあって生徒会長(ダイヤ)のカリスマ性、迫力は十二分だ。

が、曜が怯むのはほんの一時であった。

 

「出来ます。」

 

真っ直ぐな言葉。

それは逃げてるわけでもなく、やけを起こしているのでもなく、理想を語っているのでもなく、ただただ現実を見据えて放たれた言葉であったことをダイヤはすぐに把握することが出来た。

だからこそ、ダイヤは攻めの姿勢を崩す。

 

「そうですか…。どちらにせよ最低でも5人集めること、この条件を満たさない限りは部活動の申請は認められません。私もまだ仕事が残っていますので、またの機会にどうぞ。」

 

そう言って2人を生徒会室から出るように促す。

千歌と曜はそれにあらがうことはなく素直に生徒会室を出て行った。

2人の出て行った後の生徒会室ではダイヤが大きなため息をつきながら机に突っ伏していることは誰もしらなかった。

その後、再びバス停まで戻ってきた千歌達だがそのタイミングでバスが到着しており先ほどの会話の緊張感をリセットする間もなく搭乗していった。

バスの座席に腰を下ろした瞬間2人は大きなため息をつく。

先ほどの生徒会長との会話の緊張感からやっと解放され、今のため息と一緒に力も抜けていくのが千歌達には容易に分かった。

そして2人で顔を見合わせる。

正面には幼なじみの疲れ切った顔が見えた。

二人は思わず笑い出すがそんな二人の笑いもどこか力のない様子だったのは言うまでもないだろう。

 

「千歌ちゃん!!」

 

いきなりの声に千歌は驚いて声の主である曜の方を凝視する。

しかし、曜の顔を見た瞬間千歌の表情にも力がこもる。

それを見たよう自身の顔もさらに力が湧いているのが見て取れた。

 

「やろう!!千歌の家の前の砂浜で練習しよう!!曲はまだ作れないかも知れないけど…!!」

 

「ステップの練習やダンスの練習はμ'sの曲で練習できる!!!」

 

そう叫ぶ二人の目には闘志が宿っていた。

あれだけ、プレッシャーを当てられたのにも関わらず二人は微塵も諦めてはいなかった。

いや、むしろ見返してやろうと闘志の炎を燃やしていた。

その日の練習は曜が家へ帰るための最後のバスの時間ギリギリまで続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りましたわ…。」

 

「お帰りなさ~い。」

 

ダイヤが家に帰宅すると母の声が家の中から返ってきた。

その直後に(琥珀)の声も聞こえてきた。

どうやら今日は兄の方が先に帰ってきているようだった。

 

「お兄さま。今日は早いのですわね。」

 

リビングへと歩いて行くと、琥珀が母の隣で料理を手伝っていた。

とは言えほとんど準備も終えていたため、琥珀自身も大した手伝いはしていなかった。

 

「いや、俺が早いんじゃなくて姉さんが遅いんだよ…。今日はやけに時間がかかったね。どうかしたの?」

 

「…色々あったのですわ。」

 

そう言って自分の部屋へと歩いて行く。

その様子を少し不安そうに琥珀は眺めていた。

すると隣で作業していた母が琥珀に話しかけてきた。

 

「あら、確かに琥珀の言っていた通りどこか元気がない…疲れた感じだったわね。」

 

それに琥珀は「うん。」と返事をするがそれは心のこもらない形だけの返事のようだった。

その様子を見れば琥珀がダイヤの心配をしているのは火を見るより明らかであった。

が、母はその事にはあえて一切触れずに料理をテーブルへと並べ始める。

そして準備が終わると、ダイヤとルビィを食卓に呼んだ。

 

「「「「いただきます。」」」」

 

四人が食卓に並んだところで、夕ご飯を食べ始める。

今日は父が遅くなるようなので家族四人で夕飯を食べることになった。

食卓にはおいしそうな料理が並ぶがその中で一つダイヤの目を引く物があった。

卵焼きである。

ルビィは既に手を着けておいしそうに食べている。

ダイヤが卵焼きを眺めているのを見た母が微笑みながらこう話した。

 

「今日の卵焼きは甘めに作ったのよ。琥珀のリクエストがそれだったのよ~。」

 

それを聞いたダイヤが少し驚きながら琥珀を見つめる。

琥珀はご飯をほおばって食べていたがダイヤの視線に気づくとすぐに飲み込んで、

 

「そういう気分だったんだよ。疲れてるときは甘い物が必要だろ?」

 

そう言いながらすぐに食事に戻る。

ダイヤは卵焼きを取りながら、小さな声で琥珀にお礼を言う。

そんなダイヤをルビィは不安そうな様子で眺めていた。

それぞれが食べ終わって、部屋へと戻る。

琥珀が一番に食べ終わったのため部屋に戻ろうとするが、そのタイミングでダイヤが琥珀にもう一度お礼を言う。

黒澤家で作る卵焼きには砂糖を多めに使ったものと、出汁に気を使っただし巻き卵の二つが存在する。

作る頻度としては半分より少し甘い卵焼きが多いくらいである。

それは、ダイヤとルビィが甘い卵焼きの方が好きで、琥珀がだし巻き卵の方が好きだというものだからである。

それをダイヤも知っていたからこそお礼をもう一度言ったのだ。

琥珀にその意思が伝わったかは分からないが、それに軽く頷いて返すと部屋に戻っていった。

続けてダイヤが部屋戻ろうとすると母から予想外の言葉が聞こえてきた。

 

「あぁ、そう言えば小原さんが帰ってきたみたいよ。」

 

「え?」

 




今回も本作品を閲覧していただきありがとうございます。
あれ?タイトルほど転校生を追いかけていないのでは?
次回
第5話 好きだからこそ
次回もよろしくお願いします。

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