ラブライブ!サンシャイン!!IF:黒澤家の兄がいた物語   作:高月 弾

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大変お待たせしました。
そろそろ就職活動等を本格的に始めなければならないので、ストックの作ってない本小説の投稿スピードはすさまじく遅いです。


第5話 好きだからこそ

「スクールアイドルやろうよ!」

 

「…ごめんなさい。」 

 

浦の星女学院2年生のクラスの中ではこのやりとりが名物になりつつある。

火曜日に転校してきた少女に対してスクールアイドルの勧誘を行う。

火曜日こそそこまで酷くは無かった物のこの二日間の勧誘は凄まじい物だった。

ほぼ常に梨子の側にいてスクールアイドルの良さについて語り、是非とも入って欲しいと勧誘を続ける。

それこそストーカーのようにも思えてくるほどのモノだった。

周りはなぜそこまで勧誘をしつこく繰り返すのかよく分からない様子で見つめ、曜に問いかけたりしていたが曜はそれに対して苦笑いを返すことしか出来なかった。

それは授業中にも行われており…

 

「ごめんなさ~い!」

 

「まってy…わぁっぷ!?」

 

千歌が梨子を追いかけようとするが足が絡まって盛大にこける。

こけた千歌に対して同情の声をかけながら、「私語は慎め!」とお叱りを飛ばす先生から逃げるように再び走り出す。

そんな様子を曜の周りで笑いながら見学する友人達。

そんなこんなで千歌の勧誘人生は一日中続いた。

基本的に千歌と一緒にいることの多い曜なのだが、あまりにしつこい勧誘に曜自身もさすがに不安に思えてきていた。

昼休みの練習の時に千歌に勧誘の手応えを聞くと、千歌自身は大丈夫!もうすこし!と言うが話を聞く限りはどうもそうは思えなかった。

そんな練習の様子をダイヤは教室の窓から品定めでもするかのような視線で眺めていた。

午後に入っても千歌の勧誘はとどまることを知らず、ついに梨子は帰りのタイミングで、まるで逃げるかのように足早に帰ってしまった。

千歌はすぐに梨子を探すがもちろん梨子の姿はそこにはない。

いないことが分かると大きなため息をつきながら机に突っ伏す。

数日前のやる気がまるで嘘のようだと周りは苦笑いをするが、曜が近づいてなにかを千歌の耳元で囁く。

すると千歌は「やめない!」とまるで自分に活を入れるようにはっきりと言い放ちながら立ち上がる。

クラスメートは曜になにを言ったのかと問うが、曜が「いつものおまじない」と答えると周りは納得したかのように頷いた。

そして二人は、いつもの中庭でステップの練習を今日も始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、練習を終えて帰ろうとバスから降りるとそこには海を眺めている梨子の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌達が練習を始めた少し後の時間帯。

果南が店の作業を行っていると一隻の船がやってくる。

お客さんが来るかもしれないのでその船の様子を眺めていると、そこから降りてきたのは見覚えのある一人の青年だった。

その青年は果南の前まで来るとあいさつをする。

 

「おはよう、松浦さん。」

 

「お~、おはよ~琥珀。」

 

そう、以前にも手伝いをしていた黒澤琥珀である。

今日は以前に約束した木曜日であるために琥珀は学校が終わるとすぐに果南の手伝いにやってきたのだ。

琥珀は果南に会うとすぐにカバンを開いてなにかを探し始める。

すると果南の顔には明るい笑みが広がっていく。

琥珀が鞄の中から取りだした大きめの巾着袋を見ると更に目を輝かせる。

 

「はい、この前の約束の。」

 

そう言いながらその巾着袋を果南に手渡す。

すると果南は満面の笑みを浮かべながら琥珀にお礼を言う。

前回の約束とは、琥珀と果南が帰り際に交わした料理の約束のことである。

果南は琥珀に中華料理が食べたいとねだり、それを琥珀が作ってくると約束をしていたものだ。

果南は受け取った料理がなんなのかを問うが琥珀はそれを「実際に見てみてのお楽しみだよ。」と軽くいなす。

少しふくれ面になるがすぐに気を取り直して仕事のモードへと切り替える。

それを察した琥珀もすぐに荷物を置いてきて、仕事が出来る格好に着替える。

とは言っても軽い運動着である。

が、生憎仕事着と言える物はウエットスーツしか存在していない。

そして、それを常に琥珀に貸し出すわけにもいかず琥珀は自前の運動着で仕事を手伝っている。

今日のお客さんはそんなに多くなく、仕事がキツいと言うことはなかった。

まぁ平日であるから当然と言えば当然なのだが。

そのため表向きの仕事はほぼ全て琥珀が担当し、裏方や事務の仕事を果南が担当していた。

事務の仕事はさすがに関係者ではない琥珀が出来るはずもないため必然的にこのような割り振りになる。

今日は特に忙しくもなく、特に問題があるわけでもなく、なんとなく時間が過ぎていった。

琥珀もそつなく仕事をこなし、なんとなく時間を確認してみればもう19:00を回ろうとしていた。

果南もほとんど同じタイミングで気がついたようで琥珀の元に小走りで駆けていた。

 

「ゴメン琥珀。もうこんな時間になっちゃってたよ。」

 

「いや、気づかなかったオレも悪いし仕方ないよ。それに今から急いで帰る支度をすればギリギリ次の船に間に合うだろうしね。」

 

そう言いながら果南に仕事の引き継ぎが出来るかを聞こうとするがそれよりも早くに果南に仕事をさらわれる。

 

「時間ギリギリなんでしょ?早く行く!」

 

そう言いながら琥珀の肩を叩く。

それを受けた琥珀は少しすまなそうな顔をしながらも「ありがとう。」とお礼を言うと、すぐに着替えて船乗り場に走って行った。

その時後ろから、「来週もお願いね~!」と果南の声が聞こえてくる。

琥珀は最初は無視しようかとも考えたが、後が怖いと悟ると左手を挙げて返答した。

琥珀には見えていなかったが、果南は満面の笑みを浮かべていた。

琥珀自身にもきっと松浦さんは後ろで満足そうにしてるんだろう、と安易に予想がついていた。

そして、琥珀は呆れたようなため息をつきながら心のなかで呟く。

 

(今週の日曜日の午後にも手伝いに来ること約束してたはずなのに、多分忘れてるな。)

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻って千歌へと。

海を眺めている梨子を見ると千歌は少し小走りで梨子の元へと駆けていく。

そして梨子の後ろへ回り込むと…

 

「ひょっとしてまた飛び込もうとしてない~?」

 

なんとスカートをめくり上げたのだ。

本人はまた下に水着を着ていないかの確認のつもりなのだろうが端から見たらただの羨ましい変態の変質者である。

 

「もう!そんなんじゃないわよ!!!」

 

当然やられた本人は怒る。

すると本人は冗談交じりのような笑顔で「良かったぁ」とそう言った。

悪気はなかったらしくまるで無自覚変態である。

が、ならばなぜ梨子はこんなところで海を眺めていたのか?

もちろん千歌はそれを梨子に問いかける。

すると梨子から返ってきた答えは前に聞いた物と全く同じだった。

 

「海の音を聴きたいの…。」

 

あの時と同じ言葉をあの時と同じくらいか細い声で話す梨子。

そこにいたのは頑張ってみると笑顔で答えた美しい少女ではなく、不安そうな目で先を見据えているか弱い少女だった。

 

「梨子ちゃん…。」

 

そんな梨子の顔を見て千歌は心配そうに呟く。

そんな千歌を見た梨子の心からは不安が堰を切ったように溢れ出てくる。

 

「楽しくなくなったの…ピアノが…音楽が…音色が…。」

 

一度話し始めたらもう止めることなど出来ない。

千歌のことなど一切考えずに梨子はあふれ出てしまった不安を止めどなく吐き出し続ける。

 

「ピアノは好きなはずなのに…練習しても…練習しても上達しない!上手くなってる実感が湧かないの…。」

 

そんな梨子の叫びを千歌は黙って梨子の目を見ながら聞き続ける。

 

「もうどうしようも無く辛くて…辛くて辛くて!!もうやめたいのに好きで仕方なくて…でも辛くて!!ピアノが好きなのに弾くのが怖くて…。」

 

そこでようやく梨子の言葉が途切れる。

梨子は俯いたままそれ以上はなそうとはしなかった。

千歌はその言葉を最後まで聞き、梨子の言葉が詰まり止まったと理解できたところでようやく口を開く。

 

「…大丈夫だよ。」

 

そんな優しい言葉が千歌の方から聞こえてきた。

だれかを思いやっている、そんな優しい言葉だがその言葉をもう梨子は何度も言われ続けてきていた。

親から、ピアノの先生から、友達から、学校の先生から…だからこそ、もうその言葉を信用することができなくなっていた。

それどころか…

 

「適当なことを言わないでよ…っ!!!なにも知らないのに!そんなこと言わないですよ!!!」

 

梨子にとっては自分のことを考えずにただただ耳に流れ込んでくる同じような単語としかとらえられなくなっていた。

 

「大丈夫だよ!!」

 

冷たく良い放つ梨子に対して千歌はまた同じ言葉を紡ぐ。

何度でも紡がれる同じ言葉、その言葉が信用ならないと梨子は体験してきたはずなのにさらに語彙を強められたその言葉に思考が一時的に停止する。

が、すぐに千歌に対して睨みを効かせようとするが、そんな暇を与えないかのように千歌は続けてこうい言った。

 

「だって、そんなにピアノのことを大切に思ってる人初めてだもん!きっと梨子ちゃんにとってピアノはすごく輝いて見えるものなんでしょ?なら大丈夫だよ!!必ず!!!」

 

なんの確証もない言葉だ。

千歌の口から出てきた輝いて見えると言う台詞。

確かにそうかもしれないが今ピアノが輝いているようには梨子は感じられなかった。

なのに目の前の少女は今の梨子に対して大切に思ってる、輝きを感じていると言うのだ。

それが理解できずにいた。

半ば放心状態の梨子にまだ千歌が続けて話す。

 

「わがままかもしれないけど、そんなに梨子ちゃんがピアノを大切にしてて輝きを見ているなら、私は聴きたいんだ。梨子ちゃんのピアノを…そのために私にも手伝わせて欲しい!」

 

そう言いながら千歌は梨子に向かって手を伸ばす。

梨子はそのまっすぐな千歌の目を見つめながら、その伸ばされた手に自然と手を伸ばす。

 

「海の音を…一緒に聴きに行こう?」

 

今まで心ここにあらずとも言える状況だった梨子の顔つきが変わる。

突然に千歌な口から出てきた魅惑的な誘い。

もちろんそれほどまでに魅力的な言葉に乗らないという手はない。

それが普通であれば。

 

「…どうせ、聴かせる代わりにスクールアイドルをやれって言うんでしょ。」

 

そう、いまのこの状況ならば交換条件として提示されてると考えるのが普通だ。

梨子は千歌に対してそういいながら伸ばしかけた手を戻す。

その行為に少し罪悪感を感じながらも、千歌の方を見る。

千歌の顔には不満など一切存在しなかった。

 

「いいよ、スクールアイドルにならなくても。梨子ちゃんが困ってるなら助けたいし…千歌は梨子ちゃんのピアノが聴きたいんだよ。」

 

「梨子ちゃんだって、【ピアノを弾きたいんでしょ?】」

 

梨子の心にあったわだかまりは砕けたような気がした。

完全になくなったわけではない。

それは、その言葉はまるで心に指す一筋の光であるかのように梨子の心を照らし、暖めていく。

たった一文の言葉であるはずなのにそれほどまでに力強い言葉が、心強い言葉があるのか。

そう思わずにはいられなかった。

いつの間にか梨子は自然と千歌の手をとり握手を交わしていた。

 

「聴きたい…行きたい、海の音を…聴かせて欲しい!」

 

千歌をまっすぐに見つめてそう答える梨子に千歌自身も満面の笑みを浮かべながら

 

「もちろん!!」

 

と答えた。

2人は次の日曜日に海に潜るために幼馴染みのやっているダイビングショップへと向かう約束をした。

その後曜がこの千歌の取り付けた約束のなかに勝手にいるものとされていたことを知るのはもう少し先の話だった。

 

 

 




改めましてお久しぶりです。高月弾です。
次回、ついに琥珀と千歌たち二年生組とが接触します。
いま黒澤ダイヤ生徒会長に部活の申請が認められていない千歌たちは琥珀に対して一体何を語るのか?
この先の投稿もいつになるか分かりませんが是非ともよろしくお願いします。

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