ラブライブ!サンシャイン!!IF:黒澤家の兄がいた物語 作:高月 弾
それではどうぞ。
水の中では音を出すことが出来ない。
それゆえに話すときはハンドシグナルで話すか1度水面まで上がる必要がある。
3人の目的はもぐって魚を見ることではなく海の音を聴くこと。
そのため深くにもぐる必要はなく、会話を水面に出てから行っていた。
「聴こえた?」
千歌の問いに梨子は首を横にふる。
その反応を見た千歌と曜は梨子を連れて再び海の中へと潜る。
確かに音は聞こえる。
静かとはいえない波の音。
しかしそれだけしか聴こえてこない。
それ以上のなにかは全く感じることが出来なかった。
それが
だからこそ再び潜る。
もう一度潜る、それでも潜る。
何度も何度も繰り返していくがそれでも求める音は全く聴こえては来なかった。
そんな様子を船の上で見ながら、果南は空模様を確認する。
既に先程まで出ていた太陽は灰色の雲におおわれて、光を届けることが出来なくなっていた。
雲行きが怪しくなっている。
(状況によっては切り上げて戻らないと行けないかもしれないかな…。)
そんな考えを巡らせながら再び視線を3人に戻す。
すると3人がちょうど再び水面に上がってきていた。
「聴こえた?」
先程の千歌と同じ質問を曜が言うが、返答は先程と全く同じものだった。
梨子の顔が暗くなる。
梨子の頭のなかである考えが浮かんでくる。
(やっぱり…
心に浮かんできた
辛い、止めたい、逃げたい、苦しい、そんな思いをしたくない。
彼女の心を様々な感情が現れては飲み込んでいく。
そんな中突然彼女の耳になにかが響いてくる。
「ねえ!あれ見て!」
千歌の声だった。
彼女の声を生きて振り返ると千歌はどこかに向けて指を指し示していた。
その方向を見ると本のわずかに日の光が降り注いでいる場所があった。
「行ってみようよ!」
曜もその場所を見つけるとそこめがけて泳ぎ始める。
梨子もその光を見た瞬間、考えるよりもさきに体が動き出していた。
いま見えるそのわずかな光を求めて。
そこにたどり着く頃にはわずかに差し込んでいた木漏れ日は消え去ってしまっていた。
わずかに見えた光、その光にすがるような思いでたどり着いたさきには既に消え去った景色。
そんな絶望にいよいよ梨子の心は音を立てて崩れ去る。
「もう…いいよ…。」
付き合ってくれた二人に言葉を伝えようと口にするもその言葉はあまりにもか細く波の音にかき消されて届くことはなかった。
「もう一度!」
「行こうよ!」
千歌と曜から大きな掛け声が聞こえてくる。
彼女たちは再び海の中へと潜ろうと準備を整える。
梨子にはそれが理解できなかった。
なぜここまでやってくれるのか、なぜ自分以上に海の音を聴くことに真剣になってくれるのか。
だが、そんな二人につられて彼女ももう1度だけ潜る準備を整える。
(これで聴こえなかったらもう…。)
そう思った。
これがどんな結果であれこれで最後にする。
そう思う梨子とまだ諦める気配の全く見えない2人は海の中へと潜り込んでいった。
【暗い】
日の光が差し込まずに、暗い海の中がそこには広がっていた。
耳を澄ませども梨子の求めているものはなにも聴こえてこない。
影すら見ることは叶わなかった。
それを理解できると梨子は静かに目を閉じる。
(そういう…ことなのね…。きっと私にはもう…続ける意味がないのかもしれない…。)
無駄だったと。
抱いた希望、藁にすがる思いで求めた物に手は届かない。
それが彼女に突きつけられた現実だった。
不思議と涙はでなかった。
辛く、苦しいはずのその心にはある種の安心感が潜んでいた。
(もう、下手に期待する必要もない…。下手な期待に裏切られることも、踊らされることも…。)
そう思いながら少し前を泳ぐ二人に視線を向ける。
2人はまだなにかを探すように回りを見渡しながら泳いでいた。
(あぁ、2人には無意味なことに付き合わせちゃった…。後でちゃんと謝らないと…。)
そう思いながら2人へと追い付こうと少しだけ速度を上げる。
2人に追い付いて2人の肩を叩く。
そしてハンドシグナルで上昇しようと話すが2人がそれに反応することはなかった。
梨子はなぜ反応しないのかはじめは分からなかったが、やがて2人の視線が同じ場所に向いていることに気がつく。
梨子がその視線の方向に振り向こうとした瞬間梨子に【何か】が聴こえてくる。
目を見開いて即座に振り返るとそこには先程までなかったはずの光のカーテンが出現していた。
海の中を照らす、泡沫のようなその光の幕は彼女たちの目の前を明るく染め上げていた。
3人はその光に誘われるようにその中へと進んでいく。
景色に目を奪われているのもそうだがそれ以上に彼女たちを惹き付けてしまうものがあった。
【~】
何かは分からない。
正確なことは一切分からないがそれでも彼女たちが確かに聴いていた…いや、感じていた音があった。
耳から聴こえてくるわけではない。
だが確かにその音は
その景色と音に梨子は自然と手を伸ばす。
すると左右にいた2人も同じことを感じたようで光のカーテンに向かって手を伸ばす。
そこまで長くない時間のはずだったが3人にとってはその時間がとても長く感じた。
いや、正確には自分の時の流れがゆっくりになっているような感覚になっていた。
(千歌たち…遅いな。まだ見つけられないのかな?)
そう思いながら海を見つめていると太陽の木漏れ日が降り注ぐ場所から3人が上がってきた。
その光景はまるで木漏れ日を浴びる3人の人魚のようにすら見えてしまうほどに幻想的に見えた。
(…。)
そんな光景に思わず果南も見惚れてしまう。
するとその木漏れ日から彼女たちが興奮しながら話している声が聞こえてきた。
「聴こえた!?」
「うん!!」
「聴こえた!!!」
どうやら彼女たちの目的は達成されたようだった。それを見たかなんは安心したような笑みを浮かべながら千歌たちに声をかける。
「ほらー、そろそろ戻るから船に乗っちゃってよー!」
「あ、はーい!!」
千歌が大きな声で返事を返すとそれに合わせて3人は船に向かって泳いで行き、乗り込んだ。
船の上に上がった瞬間に千歌が果南に向かって大きな声を上げる。
「聴こえたんだよ!果南ちゃん!!」
「うわぁ!ちょっと千歌~。驚くからあんまり大きな声を出さないでよ。それで、聴こえたって何が?」
「海の音だよ!海の音!!」
「はい!確かに聴こえたんです!!」
曜と落ち着いた雰囲気を持っていたはずの梨子も興奮して話していた。
どうやら彼女たちが求めていたものは見つかったのだろうとすぐに果南にも理解できた。
「そっか、千歌たちも海の音が聴こえたんだ。」
「え?【私たち】も?ってことは!果南ちゃんも聴いたことあるの?」
「うん、もちろん。私は浦女の中だったら一番海に潜る経験が豊富だって自信を持ってるよ。3人が聴いたものと同じかは分からないけれど、私も海の音は聴いたことがあるよ。」
その言葉に3人のテンションはさらに上がる。
船が引き返し、ダイビングショップへ戻るまで海の音について4人は語り合っていた。
やがて船はダイビングショップへとたどり着くそこには既に琥珀が入口付近にたって4人の帰りを待っていた。
「遅くなっちゃってごめんね琥珀。時間は大丈夫そう?」
「大丈夫だよ。それに予定の時刻よりも早いですよ。」
そう言いながら道具を受けとる準備を整える。
果南もそれに合わせて船から降りるとすぐに千歌と曜の前に立って道具の受け取りをしようとする。
「松浦さん。僕が2人分やりますよ。松浦さんは自身のものもあるじゃないですか。」
そう言いながら2人から道具を受けとる。
重そうな道具は1つずつになってしまうがそれでもやはり男と言うこともあって1度に運べる量は果南に遜色ないかそれ以上であった。
「琥珀は私の分を持ってくれるんじゃないの?」
笑みを浮かべながら琥珀に問うが、琥珀はそんな果南を完全に無視をして荷物の片付けを始める。
そんな琥珀を睨み付けながら不機嫌そうな顔をするがすぐさま梨子に視線を戻すと道具を受け取って片付けを始める。
「ねえねえ!琥珀さん!聴こえたんだよ!海の音!!」
「うん!すっごくはっきりと聴こえたんですよ!!」
千歌と曜は興奮しながら琥珀に先程の出来事を話していく。
琥珀は自らが体験したことのない話に興味を引かれながらも片付けを終わらせて果南のことを待った。
「それで、日の壁みたいなのが出来たときにね!聴こえたんだよ!」
「へぇ、それはとても幻想的ですね。是非見てみたかったです。」
そんな会話をしていると果南と梨子が片付けを終えて受付の前まで戻ってくる。
「3人ともお待たせ。」
「大丈夫ですよ、僕たちもさっき来たばかりですから。」
「あの、琥珀さん。松浦さん。」
突然の梨子の切り出しに果南と琥珀の2人は目を丸くして梨子に視線を向ける。
梨子は興奮している自身を1度落ち着けるために小さく深呼吸をする。
そして、自分が伝えたい言葉を口にする。
「今日は無理を言ってごめんなさい。けれど、琥珀さんと松浦さんのお陰で海の音を聴くことが出来ました。本当にありがとうございます!」
深々と頭を下げる。
そんな様子に琥珀と果南は顔を見合わせる。
そして少し笑い合うと視線を梨子へと戻して話し始める。
「別に大したことはしてないよ。桜内さんが自分で見つけたんじゃん。私はただその場所を提供しただけだよ。」
「僕もそう思いますよ。それこそ僕はなにもしてませんからね。」
「いいえ!松浦さんがダイビングをやらせてくれなかったら聴こえませんでしたし、琥珀さんが海の音のヒントをくれなかったらきっと気づけませんでした。」
「ヒント?けれどあれは桜内さんが求める音ではなかったのでは?」
「はい、けれど。海の音が…色々な音が海にはあるって教えてくれたから私の聴きたかった音が聴こえてきたんだと思います。」
そういうと再び2人を正面から見て深々と頭を下げた。
2人はあまりに感謝を伝えられたためそれをむげにすることも出来ずに素直に受けとることにした。
3人は覚めやまぬ興奮で先程の様子を未だに語り合い続けていた。
「でも、桜内さんが求める音が聴こえて本当によかった。」
「そうだね。海の中の音、私と同じかは分からないけど同じようなものは私も聴いたことがあるよ。」
「そうなの?松浦さんも聴いたことがあるんだ。俺は全くないなぁ…。いつか聴いてみたいかな。」
「あはは、琥珀ならきっと聴けるよ。」
そんな談笑をしていると島から戻るための船がやってくる。
千歌たち3人と琥珀はその船に乗り込む。
やがてその船が出発すると果南は手を大きく降って4人を見送る。
4人はそれぞれ思い思いの振り方で返す。
「琥珀さん!本当に綺麗な!なんかこう…魅力的すぎる音だったんだよ!!」
千歌は感情をさらけ出して琥珀にそう告げる。
先程も聴いた話だが琥珀は優しい笑みを浮かべながらその話を聞いていた。
千歌は自分の感動を伝えるだけの言葉がうまく選び出せなかったが、それでも彼女のその喜びや感情の爆発を見ていれば彼女が梨子以上にその音に感動しているのは安易に想像することが出来た。
「…ふふ。なんか高海さんと琥珀さん。本当の
「そうだね。琥珀さんと話してる千歌ちゃん、すごく楽しそう。」
琥珀は聞き上手だ。
相手の話を聞くことに非常に長けており、時おり相談に乗ったりしているくらいである。
だからこそ言葉足らずの千歌の話であろうと相手が満足できるように相づちを打ったり話を聞いたりすることが出来るのだ。
さらに千歌は姉妹のなかで末っ子であり、琥珀は長男だった。
それも大きかったのだろう。
そんな2人の会話をみていると時間はいつのまにか過ぎ去っており、気づけば港へとたどり着いていた。
3人はそれぞれの帰路へと着く。
土日はバスの本数が減っているため乗り遅れたら最後途方もない道のりを歩くことになってしまう。
それだけは避けるために少し早めに戻ってきていたため、まだ空は茜色にすら染まってはいなかった。
「曜ちゃん!じゃあまた明日ね!」
「うん!じゃあ明日ね!」
そういうと千歌と梨子とは逆の方向に曜は走っていった。
琥珀はというと千歌たちと同じ方向へと歩き始める。
「あれ?琥珀さんもこっちなんですか?」
千歌の質問にはいと答えると静かに歩き始める。
千歌と梨子も琥珀に合わせて歩く。
道中千歌の感想や琥珀に対する質問などで話が途切れることはなかった。
そんな様子を見ていた梨子は思わず笑みをこぼす。
「む、梨子ちゃんなんで笑うの~?」
千歌の言葉に琥珀も振り返る。
すると確かに千歌と琥珀を見てクスッと笑みを見せている梨子の姿が目に映る。
すると梨子は慌てて両手を横に振りながらこう答えた。
「ご、ごめんなさい。からかっているつもりとかじゃなくって本当に兄妹みたいだなって。」
「けいまい?」
「兄と妹ってことですよ。」
「えっ!そうかな?エヘヘ~、本当に琥珀さんみたいなお兄ちゃん欲しかったなぁ。」
そう言われた千歌は満更でもなさそうに照れ始める。
その様子に琥珀はついつい苦笑いする。
どういう反応を示せばいいか迷っていると再び千歌が話し始める。
「私の回りにお兄ちゃんがいる人ってあんまりいないんだよね~。弟くんはいる人もいるんだけどお兄ちゃんはほとんどいないから琥珀さんみたいなお兄ちゃんすごく新鮮だったんだよ!」
そう言いながらキラキラ輝かせた目を琥珀に向ける。
そのあまりの眩しさに思わず目を背ける。
だが千歌は続けてこう言う。
「それに琥珀さんは優しいし物知りだし、家のお姉ちゃんたちとは大違いだよ。」
千歌のお姉ちゃんという言葉に琥珀も反応する。
千歌のお姉さんがどんな人物なのかついつい気になって聞いてしまうと、千歌の口からはダイヤの時のような文句がたくさんこぼれてきた。
ほとんど美渡姉と呼ばれていたお姉さんの文句だったが。
どうやらもう一人のお姉さんとは仲良くやれているようであるが、そんな文句を言うなかでも本気でいやがっているところもあればどこか楽しんでいるところがあることを感じとることが出来た。
だからこそ琥珀はその言葉にこう答える。
「仲のいい姉妹なんですね。千歌さんたちは。」
いたってシンプルだ。
それを聞いた千歌は笑みを浮かべた直ぐ後にまた美渡姉の愚痴を言うが、それが照れ隠しであるのは直ぐに分かった。
時間がたちやがて琥珀と千歌たちは別れを告げると琥珀は家の前へとたどり着く。
既に辺りは夕日の光に染められているような時間になっていた。
琥珀が家の門をくぐり自宅へと帰ると家の中から元気な声が聞こえてくる。
「おかえり!お兄ちゃん!」
そう言いながら元気に駆け寄ってくる。
琥珀はそんなルビィの頭を撫でながら返答を返す。
「ただいま、ルビィ。」
それに対してルビィは身を任せて兄のナデナデを堪能する。
「お帰りなさい。お兄様。」
今度はその後ろから声が聞こえてくる。
「ただいま、ダイヤ姉さん。」
声の主は一瞬で分かった。
彼女の名前をいい返事を返すと彼女は琥珀のもとへとやってくる。
「荷物を持ちましょうか?」
「いいや、そこまでしなくても大丈夫だよ。」
そんな会話をしながら琥珀は自分の部屋に戻って荷物を整理する。
そして机に向かって学習道具を並べる。
受験勉強だ。
彼は1度勉強を始めるとすさまじい集中力ですぐさまそのテキストに取り組む。
時間がどれだけたったかは分からないが既に日は沈んで辺りか暗くなっていた。
「ルビィ~。琥珀とダイヤにお夕飯か出来たわよって教えて上げてきて~。」
「は~い。」
ルビィは母にそう言われると、駆け足で階段を上って2人のそれぞれの部屋の前へと向かっていく。
2階へと上がるとまずはダイヤの部屋の前にたつ。
【コンコン】
部屋の扉をノックすると中から返事が返ってくる。
「お姉ちゃん。お夕飯が出来たって。」
「分かりましたわ。キリのいいところまでやったらすぐに行きますわ。」
そんな返答を聞くとルビィは返事をして扉をゆっくりと閉める。
次は琥珀の部屋の前に立ち、同じようにノックをする。
がダイヤの時とは異なり中から声が返ってくることはなかった。
ルビィはそれに疑問と不安を感じながらゆっくりと扉を開ける。
部屋の中を除くと琥珀は机に向かって座っているのが確認できた。
どうやらルビィのノックに気づいていない様子だった。
ルビィは静かに部屋にはいると琥珀の近くまで歩いていく。
そしてそばまで寄ると肩を軽く叩きながら琥珀の名前を呼ぶ。
「琥珀お兄ちゃん。」
「おぉ!?ってルビィか。部屋のノックぐらいしてくれよ。」
「むぅ、したよ~。でも琥珀お兄ちゃんが全然気がつかないんだもん!」
あらぬ疑いをかけられたルビィは顔を膨らませる。
琥珀は自分の失言に後悔しながら謝る。
「それは…ごめん。俺が悪かったよ。全然気がつかなかった。」
「むぅ~。」
(あぁ、これは完全に不機嫌になっちゃったかな?)
「呼んでくれてありがとう。すぐに行こうか。」
そう言うと勉強道具をそのままにリビングへと向かおうとする。
「あれ、お兄ちゃん?勉強は途中でやめても大丈夫なの?」
「あぁ、俺はキリのいいところまでやっちゃうと続きがうまく入れなくなっちゃうからね。」
「へ~、そう言う勉強方法もあるんだ。」
そんな会話をしながらルビィと琥珀は一足先にリビングへと向かっていった。
リビングにいくと今日は母が作ってくれた料理が並んでいた。
先に食卓に着いたルビィと琥珀だが食事に手を着けることはせずに、ダイヤが降りてくるまで待っていた。
やがてダイヤが降りてくると全員で挨拶を行ってから食事を食べ始めたのだった。
「梨子ちゃん…いまなんて…!?」
「私もスクールアイドルをやってみたいの。千歌ちゃん!」
久々の投稿です。
東京ドームのライブ素晴らしかったですね。
あのライブに感化されて小説を書くモチベが上がりました。
このモチベを維持できるといいのですが、もしよければ次回も是非見てください!