みんな幸せになってほしいだけの短編集 作:RoW
ゆきなと、あこはそのうちやります。
あと、感想は返信こそしないもののしっかり読ませていただいてます。だからもっとください
まるで自然の産物かのようにピアノの旋律が自然と朝の清々しい空気に溶け込んで生徒の少ない校舎の中に響く。その音色は優しく爽やかで雲ひとつない青空を思わせる綺麗な音色だ。空もその旋律に誘われてか綺麗な空色をこれでもかと主張する。
花咲川合唱祭というイベントのために、生徒たちは練習を積む。
団結して一つの音楽を作り上げると言う面では体育祭以上にクラス全体の団結力が試されると言っても過言ではない。
そして、そんなイベントには朝練というものはつきもの。そして、その朝練のため、異様に早く来てしまう人もまたいる。
今この音色を奏でているのは朝練に早くきすぎた馬鹿真面目な内気な女生徒、白金燐子だった。
普段から自己主張という言葉は縁遠く、会話することも苦手とする燐子だが、特技とするピアノでの自己表現は苦手ではなかった。
一つ一つの鍵盤を燐子はその自らの白く細い折れてしまいそうな指で流れるように叩いていく。目を閉じ、ピアノが奏でるその音に全ての神経を傾けている。
だから、燐子がピアノを弾き始めた時には誰もいなかった教室に人が増えていても気がつかなかった。
やがて、曲が終わる。
ふぅ、と一息ついてピアノの片付けを始めようとしたそのとき、ぱちぱちぱち、と控えめな拍手が燐子とその演奏に送られた。
燐子の肩がびくっと驚きで震えた。恐る恐ると言った風に燐子か振り向いたその先には同じクラスの男子が手を叩いていた。
「ご、ごめんなさい」
なぜか反射的に燐子は謝っていた。
その謝罪に困惑する男子ーー田村空もなぜか「こ、こちらこそごめんなさい」と謝罪の言葉を口にしていた。
何を隠そうこの田村空もコミュ障である。
「あ、あの、綺麗な、音色でした」
「へ?あ、ありがとうございます」
先程あれほど表現力豊かにピアノを弾いていた燐子はどこへ行ったのか、口からは陳腐な言葉しか出てこない。
一方で空の方も口をモゴモゴさせて何かを伝えようとしてるが踏ん切りがつかない様子。
会話が苦手な二人が二人きりで対面しても会話など弾まないのは当然である。モゴモゴさせる空、何か言わなきゃとは思うものの何を話せば、とあたふたする燐子。
「ぴっ」
覚悟を決めて口を開いた空だったが、盛大に声が裏返っている。しかし、そんなことになど頭が回らないほどに緊張している空にとっては関係のない事だった。
「ピアノ、一緒に弾きませんか?」
だんだんと声を小さくしながらも、最後まで言い切った空。
顔を赤く染め苦手な会話をしてまで空は燐子の音に惹かれたのだ。
「は、はい。私でよければ」
ぱあっと空の顔はわかりやすく喜びを表現する。
ぺこりと燐子に頭を下げると、音楽室の生徒机のイスをピアノの前に置いて腰掛ける。それを見た燐子も再びピアノ椅子へ腰掛ける。
空は先ほどの燐子の演奏を聴いていたが、燐子は空のピアノの実力を知らない。だから今度は燐子が「何を弾きますか?」と問いかけようとした瞬間、
ーー音が弾けた
眼が覚めるような、力強く、先ほどのコミュ障の空はどこへ行ったのかと言うような音を奏でるため激しく鍵盤を叩く。この激しい音に燐子は面食らって指が動かない。そしてこの一瞬で空もまた燐子に劣らぬピアニストであることを理解した。
ハッとして自分が曲になるタイミングを探し始めたのは前奏が丁度終わった時だった。
ーーどうしたの?
少し音量の落ちた音色は未だに乗ってこない燐子へとメッセージを投げかけた。
(これ、私たちの歌う課題曲だ)
空が弾いていたのは音楽祭での一年生の課題曲。それを伴奏者でもない空が弾いていた。力強く、なだらかに。
(でも、アレンジされてる?)
楽譜を暗記しているわけでもない空は一度聞いただけの曲のメロディを自らの音で表現していた。
(なら、私ならこうかな)
優しく、空の力強い曲調を飾るように、支えるように燐子は音を奏で始めた。主旋律を食うことない絶妙なタッチで力強い曲調を力強いだけじゃない作曲者の意図したメッセージを二人で作り上げていく。
ーーいいね、ならこれは?
サビへ入ったとき、空はテンポを変えた。
明るく、軽やかに。空の指も燐子のように流れるように軽々と次々に鍵盤を叩く。ピアノを弾くことを楽しみ、作曲者の意図を表現する、空もまた一人のピアニストなのだ。
ーーまだいけますよね?
その転調に合わせて燐子も音を変え、挑戦的に空の音へ自分の音をぶつけた。内気な二人が自分の音をバチバチにぶつけ合いそれでいて一つの曲として完成させている。燐子の音が主張を強くすれば空は一度引き主旋律を燐子に譲り、自分はサポートに徹する。それに伴い曲の音程自体がガラリと変わるが二人は気に留めない。自分たちが弾きたいように、楽しいように、曲の意味を解釈して弾いていくだけだ。
互いにあまり喋ったことのない二人は今この曲の中でコミュニケーションを交わしていた。どんな音が得意で苦手で、二重奏なんてやったことないから拙くて、それでもピアニストとしての維持は曲を成り立たないものにすることを許さなくて。そんな演奏から互いの性格なんかも二人はうっすらと理解する。
やがて、曲の終盤。曲の終わりに向けて曲は一層盛り上がっていく。
二人の気づかぬうちに音楽室の中にはクラスメイト、曲を聞きつけた教師陣がかなりの数駆けつけており、曲が終わってしまう事を悔やんでいる。
だが、二人の舞台は終わらない。一曲目の余韻から今度はなだらかに燐子が二曲目の、クラスの自由曲へと入った。空もそれに戸惑うことなく乗っかっていく。
ーー朝の演奏会はまだ終わらない。
「「ふぅ」」
二人が鍵盤から指を離したその瞬間、ぱちぱちぱちと最初に空が燐子に送った拍手とは比べるまでもないほどの盛大な拍手が音楽室で巻き起こった。その拍手に二人してびくっ、と体を跳ね上げる。
「凄かった、感動した!」「音楽祭はもらったな」「燐子ちゃんカッコいい!」「田村ってピアノ弾けたんだな」「アレンジバージョンの方が好きだな」
様々な好意的感想が二人に投げかけられた二人は互いに顔を見合わせると、顔を赤くしながらも笑顔でぺこりと礼をした。
空は燐子とともにピアノを弾くことに、燐子レベルのピアニストだからこそできる事に喜びを覚えた。
燐子も一人で弾くピアノよりも誰かとともに弾くピアノに楽しさを感じた。
そんな二人は朝練が始まるまでの短い間ではあるが共にピアノを弾く仲になった。「おはよう」と告げるや否や二人はピアノの前に腰かけ、どちらからともなくピアノを弾く。
毎回似たような曲ばかり弾いているからと、互いの知ってる曲をシェアして弾くために昼休みに一緒にご飯を食べながら語り合ったりもした。
「田村君は…ピアノを弾く時、人が変わるよね」
「そ、それは白金さんにも言えると、思うけど」
「…わ、私が変わるのは田村くんと弾く時だけ、だから」
「そっ、それを言ったら僕だって」
クラスでそんな話をしながら弁当を食べる。そんなカップルまがいのことをしていれば噂も立つ。「あの二人メッチャ可愛いんだけど」「初々しいよね」「燐子ちゃんが敬語使ってないとこ初めて見るんだけど」「知ってるか、あれで付き合ってないんだぜ?」「この前CDショップで二人を見たよ」などなどである。
「あの、たまにはクラッシック以外にも弾いて見ない?」
「僕、あんま他の曲聞かないからわかんないんだけど。ご、ごめんね」
「あの、えと、ゲームミュージックなら家にあるから、今度どうかな?」
「新しく、開拓するのも一つの楽しみだよね。うん、今度聞かせてよ」
多少吃りながらも、二人はコミュ障設定はどこへ言ったと言わんばかりに二人は饒舌に話を進める。
「あの、じゃあ、き、今日とかどう、かな?」
顔を赤く染めながら燐子はそう話を切り出した。空としては特に用事はなく断る理由はなかったので「いいよ」と軽く返事をした。
「じゃあ、わっ、私の家、来てくださいっ」
顔を真っ赤にして勇気を振り絞った様子で燐子はそう口にした。
「へっ」
突然、燐子の家に行くことになった空。
あまりに自然にそういうことになったからか、口からは素っ頓狂な声が漏れた、
顔を赤くする燐子。口をパクパクと開閉を繰り返す空。可愛らしく控えめに二人は今の状況に反応を示していた。しかし、その場に居合わせたクラスメイトたちが
『ええぇぇぇぇ!!??』
空の気持ちを代弁するかのように驚きを示した。
綺麗でそこそこに大きな一軒家。もしや白金さんはお嬢様!?などと勝手に空は脳内で暴走を始める。
「えと、いらっしゃい」
「お、お邪魔します」
誰かを家に招くことも珍しい燐子、誰かの家に行くことが珍しい空にとって異性を家に招く、家に招待されるなどということは緊張するなんてレベルのものではなかった。
手土産は?服装は?髪整えてないよ!?と一度家に帰って戦闘準備をしたかった空に対し、燐子は「そんなの大丈夫だからっ」と学校からそのまま白金家へと招待した。
「えと、ご家族の方は?」
「今日はいない、かな?」
ずがしゃぁぁん。空の心に雷が落ちた。空の心の空模様は大荒れ、嵐である。
「え、ええ、と、とりあえずどうすればよろしくて、です?」
口調は安定することを知らず、目線は常にキョロキョロと動き、鼻はぴくぴくと小刻みに揺れる。
「わ、私の部屋に、案内するね?」
「へっ?」
いい匂い、近い、心臓の音うるさい。
もはやいろんな感情が混在しており片耳から聞こえる音楽などほとんど入ってきていない。
(二人で一つのイヤホン使う意味なくないかな!?近い!いい匂い!肩とか触れちゃうよ!)
燐子の部屋に案内された空。早々に当初の目的であるゲームミュージックを聞いているのだが、なぜかイヤホン共有状態で聞いているのである。スマホから音楽を流しているのだからイヤホンなしで聞いてもいいものであるのに、わざわざ体が近くなってしまうイヤホン共有。空のない内心は大荒れである。一方の燐子というと自然な流れでイヤホンの片方を空に渡しミュージックを聞いているのだがその途中互いの肩が触れ合ったことによて今の状態を理解、耳と顔を真っ赤にして音楽を聴いている。
二人で音楽を聴いているのに二人とも音楽が耳に入っていないという謎の状態である。
「あ、あの」
「ひゃいっ」
気まずすぎる状態に耐えかねた空が話を切り出す。
「ちっ、近くないかな?」
「…ご、ごめんね。嫌、だった、よね」
「いやじゃない!…けど、その、離れてくれると助かります」
純情ボーイである空としては今の状態がうれしいものであるが喜んで受け入れられるほどのメンタルは持ち合わせていなかった。
「あの、この曲、NFOの挿入歌だよね」
気まずい空気を少しでも和ませるために、イヤホンから流れる曲へと話題を向けた。
NFOとは今話題のオンラインのネトゲである。あまりゲームに強くない空ですら挿入歌を知っているほどにはゲームも曲も有名である。
「知ってるの!?」
そんなNFOにドはまりしている燐子は、数少ない友人である空がNFOのことを知っているという事実に目を輝かせ、ただでさえ二人の距離が近いというのに、さらに体を空のほうへと寄せた。
燐子は他の一般的な女性と比べてある部分が非常に大きく、体を近づけるとその柔らかな双丘が空へと触れてしまう。しかしながら興奮のあまり燐子は事態に気が付いていない。
「ひゃっ、ちょ、ちょっとだけ」
空も男の子。視線が燐子の顔と、自分の肩に触れている胸とを行ったり来たりしている。
「や、やったことはある?」
「な、ないかな」
「…わ、私と一緒に、やってくれない、かな?」
燐子は友人が非常に少なくNFOを共にプレイするフレンドは一人しかいない。それも二つも年下の女子中学生である。
そんななか同級生の友人がNFOのことを知っているとなればテンションも上がるというものである。できることなら一緒にプレイしたいと思うのもごく自然な流れである。より身を乗り出して空に胸を押し付けてしまっていたとしても自然な流れなのである。
「ああああ、わわわ、わかったからあああああ」
「あ、ありがとう」
こうして二人の仲はより近づいていくこととなる。
引っ込み思案ズは2を執筆中だけど、投稿は違う子を攻略しながら書くかも。
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