みんな幸せになってほしいだけの短編集 作:RoW
というわけでモカちゃんです。
「凉さーんほんとにいいんですか~?」
「まあ、シフト変わってくれたお礼の一部だし、パンくらいならいくらでもいいよ」
「では、お言葉に甘えて~」
山吹ベーカリーというパン屋にて一組の男女がデートよろしく連れ添っていた。
「モカちゃんのパンへの愛をなめたらだめですよー」
「わかってるよ、モカがよく食べることは僕の中では有名だからね」
この青葉モカという少女は非常によく食べることで有名である。それなのに全く太らないということでも有名である。
「そー言えばあのバイトの鬼の凉さんがどーして休んだんですかー?」
「頼まれて柔道の大会に出てたんだ」
「……この前はサッカーの大会に出てましたよね~」
この霧島凉という男は近所では非常に有名なスーパーマンである。バイトは掛け持ち当たり前、高校においては生徒会副会長を務めながらも、運動部からは助っ人として大会に呼ばれることも多い。町の商店街にもボランティア活動的なこともしており、人気が非常に高い。
世の中の超人が裸足で逃げ出すほどの完璧超人なのである。
「うん、サッカーの方は準優勝だったけど、柔道の方はしっかり優勝してきたよ」
「サッカーの方も、得点王?とかで表彰されてましたねー。そのうち分身とかして仕事を同時にこなすなんてことも……」
「あはは、さすがに僕でも忍者じゃないんだから無理だよ」
「ちぇー、あたしの仕事を代わりにやってくれると思ったんだけどな~」
会話しながらも次々にお盆にパンをのせていくモカ。すでに十個どころではなく山のように積み重なっている。にもかかわらずまだ買おうとしている。
「チョココロネは外せないんですよ~」
「へー、じゃあ僕の分ものせといて」
「はーい」
山吹ベーカリーに居座ること十数分、山のように積まれたパンがレジにだされた。
「これで」
財布から取り出されたのは大量の山吹ベーカリーの割引券。
凉が大食いで有名なモカに好きなだけ買っていいといったのはこれがあったからである。
「むむむ、モカちゃんにも負けないパン愛!」
「ふっふっふ、僕の体の半分はパンでできているといっても過言ではないよ」
「あたしだって」
「あはは、凉さんもモカも常連ですからねー」とは山吹ベーカリー看板娘の談である。
「次はどこにつれてってもらおうかな~。シフト変わったお礼がデートだなんて凉さんは幸せ者ですな~」
「ん、そうだね。モカみたいな美少女後輩とデートできて僕はうれしいよ」
「あたしも先輩とデートできてうれしいですよ」
二人は特に交際関係にあるというわけではない。しかしながら、二人はお互いに恥ずかしがる様子もなく淡々とそんなセリフを吐く。
「あの、お店の中でイチャイチャしないでくれませんか?」
二人は恥ずかしくなくとも、見ている看板娘側は顔を赤くしていた。
時は遡って数時間前。
青葉モカは非常に特殊な女子である。花の女子高生ともあろうお方がオシャレに気を配らず、私服はパーカー一択。
加えて体型を全く気にせず山のようなパンを毎日食べまくっている。加えて、食事量に反して運動はあまりせず、睡眠を好むこのマイペース女子は所謂宝の持ち腐れというやつなのである。
故に、霧島凉は非常にモカのことを気にかける。
「磨けば絶対光るのにもったいない!」
この男、前述した通りになんでもできる天才なのだが、その中には美容やファッションに関するものまで知識を搭載している。
つまり、凉のリードでデートをするということは、ショッピングに重きを置くということである。
「別にあたしはパーカーでいいんですけどー」
「バカ、せっかくかわいいんだからおしゃれしなきゃもったいないだろ」
モカは自称する通りに美少女であるのだがいかんせん自分に無頓着なのである。
今でこそ普通にかわいい子レベルであるものの、おしゃれや化粧を覚えようものならば超絶美少女モカちゃんの誕生は間違いない。
「どんな感じのがいい?」
「ん~、思わず凉さんが見とれちゃうようなので~」
凉をからかうようにモカはにやけながらそう言った。しかし、この二人にとってからかい合いなどに異常茶飯事であるの。
「可愛すぎてお持ち帰りしたいくらいにしてあげるよ」
「きゃー、凉さんのけだもの~」
「棒読み!ちなみに今日はほんとにお持ち帰りするからね」
「へ?」
しれっとすごいことを言われたモカであるが、まぁ気にはしなかった。
モカは人を知ることが得意であるがゆえに、気にはしない。凉という男がどんな人間かを理解しているから。
「はい、ちょっとこれ着てみて」
「えー、こんなにー」
「今日のモカは僕の着せ替え人形だよ」
大量の服を渡されたモカは少しげんなりしながらも、しぶしぶ試着室へと入っていった。
「のぞいてもいいですよー」
にやりとからかうモカ。着せ替え人形にされることへの少々の抵抗であることは間違いなかった。
「じゃーん」
ジーンズにパンがプリントされたTシャツというモカの謎ファッションの上から一枚、編地がざっくりとした薄ピンクのカーディガンを羽織っただけのモカが。モカらしいゆったりとしたシルエットだがーー
「脱げ」
「凉さんのへんたーい」
「その!パンの!Tシャツ!」
せっかくオシャレをしようとしているのにモカのマイペースな色が強く残っている。
というかそんなTシャツどこに売っているというのか。
「凉さんがそこにいるのに下着姿になるのって緊張するんですよー」
「大丈夫、絶対覗かない。僕は見たかったら素直に言う男だ!」
「ふくざつー」
再びモカは試着室へと消えていった。
「まぁ、できることなら見たいけどな」
ぼそりとつぶやいたその一言は試着室の中のモカに聞こえたかは定かではないが、普段表情をあまり崩さないモカの頬が少しだけ赤くなっていたのは店内の暖房が原因かはたまた別の理由か。
「モカちゃんは自分がこわい」
自信満々に出てきたモカは紺色のニットに黒のロングスカート、ベージュのトレンチコートと普段のモカならば絶対に着ない服装である。
ニットの襟は深く、白い鎖骨が妙な色気を醸し出している。ロングスカートは清楚な雰囲気をもたせ、トレンチコートは流行りに乗っている感じがする。
「おぉ、かわいい」
「でしょ~」
「首元から胸元にワンポイント何かあってもいい気がするけど、とりあえず買いかな」
「おごってくれるんですか~?」
「うんいいよ」
「……冗談だったんですけど」
戻って現在。
一通りショッピングした後は、喫茶店で一休み。
モカの服装は先ほどの服装である。胸元にはきらりとネックレスが輝いていた。
「ネックレスまで買ってくれるなんて、感謝感謝~」
「またシフト変わってね」
「もち~。あ、つぐーちゅうもーん」
現在二人がいる喫茶店はモカの幼馴染の家が経営している喫茶店である。
「はーい、あれ、モカちゃんその恰好」
「へへー、デート~。買ってもらったんだ~」
「へ、ででで、デート!?」
「コーヒーとこのケーキで」
「モカちゃんはいつものー」
つぐと呼ばれた看板娘が動揺しているのもほったらかしのまま二人は注文。
看板娘はあわてて注文を取った。
「はい、少々お待ちください!あ、モカちゃん、かわいいよ!」
しっかりとかわいいと感想を言ってから仕事に戻るあたりつぐという女の子の性格の良さが見える。
「どう、みんなからの反応は」
「これで凉さんとカップルっぽく見えますか~」
「何を気にしてるんだよ」
二人は付き合っているということはないが、一応デートをしているので、女の子的には男の子に釣り合う女の子になりたいというのは自然なことなのだろう。
「凉さんはイケメンだしー、おしゃれだしー、モカちゃん浮いちゃうなーって」
「パンのTシャツとか着てるならまだしも今ならベストカップルだよ」
「照れますな~」
実際、ショッピングモールで二人が歩いていた時はかなり多くの視線にさらされた。
それも、二人のルックスに加えて、ファッションによるブーストがかかっているからである。
ベストかは置いておいて、十分カップルに見えることだろう。
「そーいえば、モカちゃん本当にお持ち帰りされちゃうんですか~」
「うん。モカを大人の女にしてあげるよ」
「…………………………ちょっとまだ心の準備ができてないからまた今度で」
「ダメ」
「モカちゃんごーいんなのも嫌いじゃないですけど~」
「ならいいでしょ」
「んん~」
モカはそのまま凉の家へとお持ち帰りされ、現在目をつむりながら体をよじらせてる。
「うごくな、痛くはしないから」
「……凉さんはほんと何でもできますね」
凉はモカに対して、化粧を施している真っ最中であった。
「やっぱ大人っぽさをだすなら化粧だよね」
「……ちょっと期待したモカちゃんがばかでした」
「なんで?期待してていいよ。完璧な美人にしてあげるから」
少し不貞腐れているモカをほったらかしに、凉は化粧を続ける。
大人っぽさを出すために目元に力を入れるということはつまり、モカの顔を近距離で見つめ続けるということ。
「モカ、きれいな顔してるね」
「でしょ~」
ブラウンのアイシャドウは横幅を意識して。アイラインは目じりから自然に少し吊り上げるイメージで。
目元だけじゃなく顔全体にもシェーディング。頬に軽くチークを施してーー
「どうよ、美少女モカちゃんの完成だぞ!」
「おぉ~。すごい…」
「これならどんな男だろうとイチコロ間違いなし!モカはきれいな唇してるから口紅じゃなくてリップにしといた」
「ほんとにイチコロですか~?」
「もち!」
モカはグイっと前傾姿勢になるようにして凉と顔の位置を近づける。
今のモカはコートを脱いで少し胸元の開いたニットを着ている。
「胸元、みえるよモカ」
「イチコロですか~?」
「え、うん。このままキスに持ち込めばモカならどんな男も惚れさせーー」
「……ん」
「も、もか」
「惚れちゃいました~?」
小悪魔のような笑顔でモカは凉の顔を見上げた。
イケメン完璧超人にもかかわらず色恋沙汰がささやかれなかったほど女っ気のなかった凉だったが、今ので当然のことながらーー
ーーイチコロだった。
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