みんな幸せになってほしいだけの短編集 作:RoW
土日に悩み抜いて投稿休んだ挙句この低クオリティ。
アンケートRoseliaとアフグロの二強やなぁ。
あ、あと日刊ランキング15位だってね!読者様方、ありがとう!
あれから、直人と友希那は校外でちょくちょく会う仲になった。
といっても友希那が直人の働いている猫カフェに頻繁に訪れるからではあるのだが。
それでも、二人が仲良くなったことは瞬く間に校内に知れ渡った。
孤高の歌姫湊友希那が、あの人を寄せ付けなかった友希那が昼食を男子と共にしている。二人でカフェに入って行くのを見た、という噂が広まったのだ。
愛想が良くなくとも、美人で可愛くて声が綺麗な友希那は男女ともに一定の好意を寄せられていた。それが急に男子と親密になったとなれば噂も広まるのも仕方のないことではある。
「友希那さん、見て、猫のキャラ弁」
「……にゃー」
「ちょっと頑張って作って見たんだよね」
「流石ね、直人。ちょっと写真だけ撮らせてくれるかしら」
ばしゃしゃしゃしゃしゃ。まさかの連写である。
「そういえば、直人の家にはいつお邪魔させてもらえるのかしら」
教室がざわついた。
それはもうざわついた。教室内の人の耳が二人の会話に向いた。
「あ、それ本気で言ってた?」
「もちろんよ」
「うーん、学校帰りでいい?」
「いえ、休日にしましょう。その方が長い時間いられるでしょう?」
「あはは、友希那さん好きだね」
「ええ、好きよ。いつまでも触れていられるもの」
本人たちにとってはなんてことのない会話だったのだが、耳を傾けている生徒たちにとってはかなり意味深な会話である。
ーーあの湊さんが好きって言ったぞ!?あの二人付き合ってたの!?
話題の中心人物は自分たちのことを話題にされているなどとは知る由もなく、直人の家いつ行けばいいか、とか、猫におやつは持って行ったほうがいいかしら?とか、のんきに話していた。
こうして、土曜日、友希那は約束通り昼下がりから直人の家に訪れた。その際、直人の両親が、直人に春が!?とか外に出てるから親の目は気にしないでね!とか避妊はしっかりね、とかいったことによって二人は揃って顔を赤らめた。
「ごめんね友希那さん、うちの両親が変なこと言って」
「いえ、気にしてないわ……そんなことより」
「あぁ、うん。この時間ならチョモは僕の部屋かな」
二階へ上がってすぐの扉を開けると、茶の猫が直人に向かって飛び込んできた。
それを直人は柔らかく受け止め、そのまま抱きかかえた。
「チョモちゃんという名前なのかしら」
「うん、特に理由はなかった気がするけどね。んーと、適当なところに座って。はい、クッション」
さすがに女の子を自分のベッドに座らせることはできす、クッションを敷いて床に座ってもらうことにした。
「チョモ、降りて」
直人が声をかけるとすぐにチョモは直人の腕の中から跳びだした。
腕からは降りたがそのまま胡坐をかいている直人の足の中に納まった。
「前から思っていたのだけど、直人、猫と会話できるのかしら」
「いやいや、そんなすごいもんじゃないよ。猫に好かれる体質なだけ。あとちょっと猫に僕の気持ちが伝わりやすいのかな」
「うらやましいわ」
「あはは、この体質のおかげで猫カフェのバイトの時給も上がったんだよね」
「わかるわ、直人の猫統率力は非常に高いもの」
会話の最中もチョモは直人のそばを離れず、ごろごろとうなりながら頭を直人に擦り付けている。
「そっちに行っていいかしら。今チョモちゃんを離すのは忍びないわ」
チョモは今直人の足の中にいる。そのチョモを撫でるために友希那が直人との距離を埋めるということは、二人の肩が触れ合ってしまうほどの距離感になっていしまうということに他ならない。
両親在宅していない男の家の男の部屋でそんな距離感でいるということは女子としては一定以上の覚悟が求められる。果たして、友希那が覚悟をもって距離を詰めたのか、はたまた天然か。どちらにせよ直人の心臓にはよろしくはなかった。
「さらさらね」
「ブラッシングは嫌がらない子だからね。たのしくなっちゃって」
「とても直人になついているのね」
「そうだね、いつも僕の帰りを迎えてくれるくらいには」
「うらやましいわ」「僕だけじゃなくて、家族も迎えに行ってるから、仲のいい人は迎えに行くんじゃないかな」
「つまり、私もチョモちゃんと仲良くなればいいのね」
チョモに迎えられるほど仲を深めるということはつまりそれだけの回数直人に家に通うということを意味している。
「そんなに、僕の家に通う気?」
「だめかしら?」
「ダメじゃないけど、そんなにチョモのこと気に入ったの?」
「ええ、この毛並み、甘え方、スリムさ。完璧よ」
「猫に気に入られるって結構大変だよ?猫はツンデレだから甘えてくれるまで時間かかるし」
「私はあきらめないわよ」
そういった友希那の目には強い意志が宿っていた。
しかし、直人は別のことを危惧していた。
「友希那さん音楽の方は大丈夫なの?」
友希那が音楽に傾倒しているということは有名である。
そんな友希那が頻繁に直人の家に訪れるということはそれだけ歌の練習の時間が削られているということである。
直人は友希那と共に過ごす時間を非常に気に入っているが、友希那の邪魔になることは嫌なのだ。
友希那の足を引っ張るのが嫌なのだ。友希那がどれだけ音楽に懸けているかを知っている。
友希那と直人は猫の話ばかりしているわけではない。
聞き上手な直人は友希那から様々な情報を引き出している。その中には友希那にとって音楽がどれだけ重いものであるかも知っている。
「当然よ。私はこの程度では止まらないもの」
「そっか、安心した。友希那さんと離れなきゃいけなくなるかと思った」
「……どうして?」
「友希那さんの邪魔はしたくはないからね」
「あなたは邪魔なんかじゃないわ」
友希那が不器用な人間であることを知っているから、友希那のこの言葉が心からの言葉であることはよくわかった。
「ありがとう。友希那さん」
少ししんみりとした空気になってしまったため、その空気を換えようと、直人はチョモを友希那に預け、部屋を漁った。すると何かを手に再び座った。
「にゃおと、です」
直人が取り出したのは猫耳カチューシャ。自分の頭につけて自己紹介。
「かわいいわにゃおと」
「友希那さんもほら」
にゃおとは強引に友希那の頭に猫耳を取り付けた。
直人の部屋に新たに二匹の猫が爆誕した。
「似合ってるよ、ゆきにゃさん」
「ありがとう。あなたも似合ってるわよにゃおと」
「そろそろお暇させていいただくわ」
時刻は夕暮れごろ。本当に昼から夕方ごろまで猫やとりとめのない話で二人は非常に盛り上がった。
ここまで、とても楽しかった直人だが友希那に言っておきたいことがいくつかあった。
「友希那さん」
「なにかしら?」
「男の部屋に入るときはもっと慎重に、警戒心を持ったほうがいいですよ」
「……直人なら警戒なんてしないで大丈夫でしょう」
その直人を異性としてみていないような友希那の口ぶりに直人は少しむっとして口を開く。
「僕だって男なんだから、友希那さんを部屋で押し倒しちゃうかもでしょ!……その、時々友希那さん無防備で、下着とか見えてたし」
「直人にそんな勇気があるのなら構わないわ。……下着は気をつけるわ」
直人を信用しての言葉か甘く見ての言葉か。どちらにしても直人はよりムカッとした。
だから、少し脅かすくらいのつもりで友希那の腕をつかんで引いた。
想定外だったのは、友希那が無抵抗だったこと。
友希那は直人の腕の中に倒れこむようにとびこみ、勢いあまって二人は直人のベッドに倒れこんだ。
ちょうど、直人が友希那を押し倒すような体勢で。
「ほら、こうなるよ」
直人にはこんなことをするつもりなんて全くなかった。ただ、引くに引けなくなったのだ。
「いったでしょう直人。あなたにその気があるのなら構わないわ」
「……どういう意味?」
「そのままの意味よ。私は、あなたになら押し倒されても構わない。あなたといると、私はしがらみを忘れられる。なにも背負わない私でいられる。あなたになら全てをさらけ出しても構わない」
「……僕のことが好きってこと?」
「ええ、その認識で構わないわ」
「こんなことしたのに?」
「こんなことされても、よ。不快感なんてない。この気持ちのまま歌えたならどれだけの歌を歌えるのでしょうね」
「僕は君の足かせにはなりたくない。僕が君を好きで側に居たくても、君の邪魔になるなら僕はそれは嫌だよ」
直人が友希那と出会えて仲良くなることができたのは偶然で、きっと本来なら近づくことのない二人だったのだろう。だから、直人はここで立ち止まった。これ以上進んでしまえば、友希那の邪魔をしてしまうから。
「直人、好きよ。あなたが私のことを考えてくれているのは分かったわ。だから一定の距離を保ちたいのも。だけど、私はあなたに側にいて欲しい」
「……僕も好きだよ」
「直人、明日このスタジオに来て」
「……わかった」
「あなたが見てくれているならきっと最高以上のパフォーマンスができる。それで、判断して。あなたが、私の枷になっているかどうかを」
スタジオ主催のライブ。様々なアマチュアバンドが集まって客の前でパフォーマンスを行う。たったそれだけのなんともないありふれたライブであるはずなのに、すでに満員。
「湊友希那です。一曲目、行きます」
スタジオ全体が熱狂の渦に包まれた。
友希那のその歌声はすべての人を魅了した。
そして、人々は口にする。
ーー友希那、また歌うまくなった?
ーー感情の乗せ方が前とは段違いじゃない?
直人は友希那の前の姿を知らない。
でも、これは自分が友希那に関わったからこそ聞ける歌声であることはすぐにわかった。
これは、自分のために歌ってくれているのだと。
そして、直人にだけ向けられたはずのその歌で全ての人を魅了しているのだと理解した。
そして、直人の心は決まった。
「どうだったかしら」
「最高だったよ」
「じゃあ、もう一度言うわね。あなたが好きよ直人」
「僕も好きだよ、友希那さん」
「私のそばにいなさい」
「うん」
「……あと、これまで通りにゃーちゃんも」
「分かってるよ。ゆきにゃさん」
なんかシリアスになった。ごめん。
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