幻想郷日記 作:たんぺリング
「あら、起きたのね…おはよう、と言っておこうかしら?」
「え?あっはい、おはようございます…?」
ある朝、目が覚めたら俺は森の中にいた。
そして金髪美女の足の間で寝ていた。何を言っているか分からねえとは思うが俺も何を言っているのか分からねえ。何だこの状況。
「あら、ちゃんと挨拶できるのね」
「え、あ、はい」
今の状況を分かりやすく説明するとだ。足を開いた金髪美女の間に俺が寝そべっている状況だ。んで金髪美女は腰を曲げて俺を見下ろしている。手に持った日傘と、紫色の服、そして頭にかぶった変な形の帽子が特徴的だ。
それにしても服装が服装だと色々ときわどいものが見えていたかもしれない角度である。金髪美女の服装がロングスカートであることが残念で仕方がない所存でげふんげふん。
いやいやいや、本当、どういう状況だこれ?
っていうか、その前に俺どうしたんだっけ?
俺、確か雨の日、アパートの階段を上ってて。んで足を滑らせて落ちて…そっからの記憶が、全然ねえ。
つか、なんか今の俺身体が軽いっていうか、体重が一気に無くなったような感覚がする。
そう思って自分の身体を見てみた俺は…目を見開いた。
「なんっじゃこりゃああああ!」
劇的ビフォーアフターももっと自重してるぞごるぁ!?
俺は一般的な一人暮らししてる男だ。身長、体重も平均とそう変わらない、普通の男だったはずだ。
それが、めっちゃ身体が小さくなってる。腕が細いし身体も華奢。そして今気づいたんだが髪の毛が金色で長くなっている。具体的に言うとロングヘアだ。
なんだろう、まるで女になったみたいな…。
「…え?」
我ながら、情けないような声が出た。
おい待て。これってもしかして俺…。
「…あ、あの…俺、今どんな格好してます…?」
「…どうぞ?」
怪訝な顔を浮かべた美女だったが、虚空に穴を生み出してそこから手鏡を取り出した。俺は目の前の超常現象に白目になりながら黙って受け取った。
「あら、見ないのかしら?」
「あ、はい」
見るさ。見てやるとも。だが忘れるな、深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ(?)。だけどその前に深呼吸だ。気持ちの整理をしよう。
「すーはー…すーはー…」
見るぞ…俺は見るぞ、JOJOおおおおおお!
ちらっ…。
「…ぐふっ」
手鏡に映ったのは、可愛らしい少女だった。人形のような、と形容するのが最も適切だろう。女としての美しさというよりかは、少女としてのかわいらしさに全振りしたような見た目。それでいて今にも崩れそうなほど儚く、別種の美しさを内包している。
何故か白いワンピースを身に着けている。肩出しで防御力が薄そうだが、とてもおしゃれだ。腰から下は美女のロングスカートに隠されているのだ。
しかし俺は耐えきれずに、手だけをロングスカートの中に差し入れて下半身へと伸ばした。酷く長い時間だったように思う。しかしそれだけ俺にとっては衝撃的な事だった。
マイサンが…俺の息子が家出してるうううう!?
え…?なんで…?どうして?
20歳超えたのにまだ童貞卒業させてやれない情けない主人に愛想を尽かしたのか!?そんな、嘘だろ…帰ってきてくれよおおお!
なんで、なんでこうなった…!
「なんだか大変そうだけれど、そろそろいいかしら?」
「エ?アッハイ大丈夫れす」
「大丈夫そうには見えないけれど…まあいいでしょう」
さて、と美女は前置きをした。
「ようこそ、ここは幻想郷。忘れられた幻想が最後に集う終わりの楽園…あなたがどこから来たどんな妖怪なのかは知らないけれど、ここに来た以上受け入れられるのは確定しているわ…ふふ、これからよろしくね?」
「は?」
げ、幻想郷?幻想郷だって?
名前くらいは聞いたことがある。でも、それは都市伝説のようなものだ。何でもとある神社の鳥居は、異世界に繋がっている。その異世界の名前が幻想郷で、あらゆる怪異が存在している危険地帯なのだと。
「そんなまさか…冗談ですよね?」
「あら、面白い事を言う子ね。あなたも幻想郷を求めてここまでやってきたのでしょう?」
「…?」
どういう事?
「…ふーん、本当に知らないのね。偶然ここまで迷い込んできたと。まあ、そういう事もあるかしら」
少しだけ思案顔を浮かべたが、まあいいわ、と美女は一蹴した。
「あ、あのー…それで、ここって一体…?」
「知らないのなら、紹介しましょう。ここは幻想郷。あらゆる魑魅魍魎、人の世から忘れられてしまった幻想が、最後に集う楽園…あなたももしかしたら、人に忘れられてここまで来てしまったのかもしれないわね?」
「わ、忘れられたって…」
そんなまさか。友人も少ないがいるし、親だってまだ生きてるのに忘れられてる訳。確かに最近はあんまり会ってなかったけどそれも1年程だったし、連絡もメールとかで取り合ってたし…え?大丈夫だよね…?
いかんいかん、不安になってしまった。多分忘れられたから来た、っていうのは違うと思う。体の変化とかの説明にならんし。
「あ、あの…俺、どうしてこんな場所に…?っていうか、そもそも俺って?」
「…そう、あなた自分の事が分からないのね。でも大丈夫。ここだったら時間だけなら余るほどある。いくらでも悩めるわ」
「は、はあ」
ダメだ。答える気はないらしい。
「でも強いて言うなら、あなたは酷く不安定だという事よ。身体は妖怪だけれど、魂は人のソレに近い…ここまで矛盾した存在を見るのは、私をしても初めてだわ」
「はあ…」
「まあ、幻想郷はすべてを受け入れるわ。たとえ貴方のような存在も、ね」
「…」
暗に他の場所だと受け入れられないと言われたようで、ちょっと居心地が悪い。
っていうか、この人いつまでマウント取ってるんだ。そろそろ上からどいてほしい。
そもそもこの美女何者なんだ?まるで幻想郷を自分の庭のように語っているけど。
そんな俺の思考を読み取ったのか、美女は足をどかして俺に背を向け、顔だけをこちらに向けた。見返り美人、ってやつだろうか。容姿は洋風なのに、やけに様になっている。
「それじゃあ、もう説明も終わったし後は好きに生きるといいわ。私はもう行くわね」
「ま、待ってください。結局あなたは一体誰なんですか?」
「私は八雲紫…この幻想郷の…まあ、管理者のようなもの」
それじゃあ、今度こそ。そう言い残して、彼女は軽く手を振ってまた空間に穴を生み出して中に消えていった。
っていうか空間に穴を生み出して、って言っているけど、合ってるのだろうか。漫画的にはそうとしか思えない見た目と能力だ。
っていうか、あんなことができるのだから多分あの人…八雲さんも妖怪なのかもしれない。いや、幻想郷の管理者って言っていたし、もしかしたら神様なのかも。
「…って、俺、これからどうすりゃいいんだ…」
突然見知らぬ土地に放り出され、俺は目をぱちくりとさせて今は何もない空間を眺め続けたのだった。
―――――――――――
さて、この身体になってから、俺は自分の身体がもう人間じゃないのだと何度も何度も思い知らされた。
まず馬力が違う。余裕の跳躍力だ。10mを一気に駆け上ったり、高い所から落ちても猫のように音もなくしゅたっと着地出来たり、岩を軽々持ち上げてぶん投げる事も出来た。
次は目。どんな遠いものでも見ることができる。具体的には300m先の木の葉っぱ一枚一枚を数えることができた。後、夜でも昼間のように見えたり、いくら素早く動いてもすべてがくっきり見えるような動体視力。
んで最後だけど…腹が減らない。どれだけ動いても体力が尽きない。それにトイレにもいかなくていいし、汗もかかないので風呂に行かなくてもいい。
質量保存の法則とかエネルギーがどうのこうのとか、摩訶不思議がいっぱいだ。やっぱり女の身体は神秘なのである。
んでだ。今は俺が目を覚ました森で過ごしている…っていうか、過ごさざるを得ない。出口が分からんのだ。軽く遭難中。
んで、初の遭難の感想なんだが。
この森ヤバい。この一言に尽きる。
いや、ぶっちゃけものを食わなくてもいいからサバイバルとかのアレは全くないんだが。
なんか、俺以上に摩訶不思議な奴らが大量にいる。多分、全部妖怪ってやつなんだろうが。
命を狙われて殴り倒したこともある。喧嘩なんてしたことなかったが、なんかこう…体が勝手に動いた。俺、突出した才能は無いけど呑み込みは早い器用貧乏タイプなんだよな。
まあ遭遇して戦う事になったのは一回だけだが、狙われて逃げて、ってのは結構多い。そりゃ避けれるのなら避けるけど…こうも数が多いと全部殴り倒したくなる。
ほら、今も前からがさがさと茂みが揺れている。人ほどの大きさだろうか。
今は夜。夜空には大きな満月が浮かんでいる。こんな時間にこんな森奥深くまでやってくる命知らずの人間は、存在しないだろう。
思わず構えて待ち構えていると、少ししてがさっとひときわ大きな音がして人影が俺の前に躍り出た。
「…むっ」
出てきたのは、女の人だ。頭に角の生えた美女。きりっと真面目そうな目元が特徴的だ。後頭堅そう。
しかし、いくら凄い美人な人だからとはいえ…相手は妖怪だ。ここにきて数日。俺も妖怪が漂わせてる邪気みたいなものを感じれる程度には成長したのさ。
「…あの百足妖怪の仲間か?攫った里の子供はどこにやった」
「は?」
よくわからんが、何か勘違いをしているらしい。
「…里の子供…人が近くに住んでるのか?」
っていうか、里の子供を攫った妖怪…言い草からして、人の集落が近くにあって、そこの子供が妖怪に攫われたのか。
それで、こいつは妖怪だ。攫われた子どもを横からかっさろうとしているのかもしれない。悪い奴だ。
「攫われた子どもに何の用だ?おこぼれにあずかろうってか?やっぱり妖怪って人食うんだな」
「何を馬鹿なことを。何故私が人間を襲わなければならない。良いから子供の場所を教えろ」
「…?」
なんだ、こいつ人を襲わないのか?
いや、まあ、妖怪や幽霊の話でも、人間に好意的な妖怪の話って結構あるし、その可能性もあるのか?
「お前悪い妖怪じゃないの?」
「さっきから、お前は一体何を…?」
怪訝な顔を美女が浮かべた、その時だった。
「きゃあああああああああ!」
と、森の中に甲高い悲鳴が響き渡った。
どうやら子供が攫われていたっていうのは本当だったらしい。俺はその方向へとだっと走り出していた。
そして美女も同じように走り出していた。並走状態だ。走りながら器用にこちらに顔を向けて、唾を飛ばしてくる。
「おい、お前まで何故来る!?」
「いや、本当に子どもが攫われてたら助けなきゃだし…」
「…本当に妖怪か?まあいい、ちょうどいいから手を貸せ、妖怪!」
「お前も妖怪だろうが!」
「細かい事は良い!いいか、相手は―――」
と、作戦の説明を受けながらしばらく走っていると、木々の少ない広場に出た。そして、そんな広場の真ん中には――――巨大な百足と、ソイツの長い体に肢体を縛られた少女の姿があった。
角の女がばっと飛び出した。
「貴様…その子を放せ!」
『ゲゲゲ…人里の守護者か…煩わしい…!』
百足が喋った。やっぱりおかしいよこの世界。
『動くな…動いたらこの小娘の首を掻っ切るぞ…』
「…!貴様ぁ!」
『ゲゲゲ…生きたまま食らうが一番だが…死んだ身体も子供ならば旨かろう…』
「くっ…」
にやりと百足の表情が歪んだ気がした。百足の表情なんてわからないから、勘だが。
『次いでだ、まずはお前を食って、その後で小娘も食ってやる…『たった1人』で儂に向かってきた報いよ…』
ずるりと身体を伸ばして、百足が顔を寄せた。
よっしゃ、今だな。俺は拳にぺっと唾を吐きかけて、そんで百足の背後から飛び出して子供に巻き付いていた部位を思いっきりぶん殴った。
『ぐぎゃ!?』
うげっ!?
殴られたところがぶじゅる、と溶け出して、俺は思わず手を引き…かけて、すんでのところで子供の腕をつかんで引き寄せてジャンプ。何とか子供を救い出す事に成功した。
『ぐっ…貴様陽動だったのか…?!ひっ…ま、待て、命だけは…!』
「ふっ!」
角の女は自分の周囲に邪気を集めたエネルギー弾を生成し、それを一斉に百足にぶつけた。って、何それ凄い。どうやったのか教えてほしい。
ふう、説明は要らないだろう。これが作戦だ。角が陽動、俺が奇襲ってね。相手は大百足という、俺でも知ってる有名な妖怪だ。弱点は唾液。
「お姉ちゃん…先生…かっこいい…」
攫われていた女の子はぼんやりした表情でそう呟いた後、すやっと眠りについてしまった。規則正しい呼吸が腕の中で感じられる。
「よしよし、頑張ったな…」
「…変わったな妖怪だな、君は」
「ん、もう終わったんだ。強かったんだなお前」
多分、俺の数倍は強い。喧嘩売らないで良かった。
「助かったよ。私の名前は上白沢慧音…人里で寺小屋の教師をやっている者だ。この子は私の教え子だ。この子に何かあったかと思うと…君には、本当に助けられた」
「別にいいよ、多分俺がいなくても大丈夫だっただろうし…上白沢さん。えっと、俺の名前は…」
あー、なんて名乗ろうかね。前世の名前はぶっちゃけ男らしすぎて違和感あるし、まず俺の男としての名前をこの女の身体で名乗りたくない。
まあ、無いなら無いでいいか。
「…名前はまだ決めかねてるんだけど…まあ、好きに呼んでくれ」
「何だ、名前がないのか?実力から考えても下級妖怪という訳でもあるまいに、少し以外だな」
「いやぁ、まあ、ちょっと前までの…あー…記憶がないもんで。多分つい最近生まれたんじゃないかなって」
嘘は言ってない。と思いたい。
「そうか…まあいい。さて、手を貸してもらったんだ。何か礼をしたいんだが…」
「うーん…その前に、人里ってなんなんだ?」
俺はかねてより気になっていたワードについて尋ねた。
「ふむ…と言ってもな。人が住んでいる里だ。言葉の通りさ」
「マジか。人いたのか…」
ずっと森の中をさまよって、もしかしたら幻想郷って全部森なのではないかと危惧していたのだ。
「じゃあ人里に行きたい」
「それは遊びに行きたいと言っているのか?」
「いや、そろそろこのサバイバル生活を終わらせたい。どこか住める場所紹介してくれねえか?」
「さば…?何を馬鹿なことを。人里に妖怪を住まわせれる訳ないだろう」
「あー、やっぱり?」
やはり人と妖怪とじゃ壁があるらしい。そりゃそうか。当たり前だよな。
「お礼したいって言ってただろ?ダメか?」
「むむ…悪い奴には見えんが…上の連中は絶対に認めんだろうしな…」
上層部ってやつか。まあ、人を守るためなのだから仕方ないんだろう。
「まあ、無理言って悪かったよ…」
「…いや待て。このまま放るのも目覚めが悪い。そうだな…人里の近くに、今は使われていない空き家がある。森が近くにあり、妖怪が襲撃してくるからと捨てられたものだ。そこなら掃除をすれば十分住める環境になると思うぞ」
「えっ。良いのか?」
人里の中ではないとはいえ、近くに妖怪を住まわせるのってだいぶ問題なのではないだろうか。
「人に迷惑をかけるようなら私が直々に追い出すさ」
まあ…実力的には俺はなすすべないだろうな。
いや、まず迷惑なんてかけないようにするけどな!
「案内は明日しよう。まずはこの子を親の下へ送る。今日は私の家に泊まっていくと良い…とはいえ、作業中だった故少し散らかっているかもしれんが」
「泊めてくれるだけありがたい」
ここ数日、木の上や洞で寝てたりしてたからな…現代人にあんな生活、きつすぎる。地べたに寝るっていうのもだが、虫が…虫がね…。
「よし、そうと決まったら早速出発だ」
「了解」
俺は上白沢さんと一緒に、女の子を背負って歩き出した。
―――――――――――――――――――――
人里について子供を返した後、子供の親に涙ながらにお礼と称して食料の入った籠を持たされて全力で困惑している上白沢さんを遠目に眺めながら、俺はぼんやりとしていた。
凄いな、あの人。妖怪なのに人と問題なく関わってるなんて。もしかしたら人と妖怪の壁って意外と薄いのかもしれない。
それとも、あの人が凄いのか?そういや寺小屋の教師してるって言ってたし。だとすると、あの人の努力の成果なのかも。
「待たせたな…すまない、流石に私以外の妖怪がいたら、不安がってしまうのでな」
「いや良いよ。気にしてないない」
「だが、君も力を貸してくれただろう。礼は君にも尽くされるべきなんだが…」
「いや、本当気にしてないんで…」
難しい顔を浮かべる上白沢さんに対して、俺は苦笑いを浮かべた。頭堅そうな人だとは思っていたが、当たっていたのかもしれない。
「ここが私の家だ」
「おじゃましまーす」
なんというか、初めて訪れる人里は、時代劇の舞台のような場所だった。和風な建築物がずらりと並ぶ昔ながらの町の風景だ。
田んぼが広がってたり畑にかかしがあったりと、ノスタルジーを感じる場所である。
んで、もうちょっと人里の中心に入った所に上白沢さんの家はあった。普通の木製の平屋だ。かなり大きい。ちょっとした屋敷だ。何でも寺小屋と自分の家を併設しているのだと。
中に入ると…そこは、中々に悲惨な状況だった。
なんというか、紙が大量に散らばっている。手に取ってみると日本語だが…昔の字体だ。時間をかけないと読めない。
これは歴史かな?いつに何が起こったのかとかを書き記していた。と、読んでいると、それを横からひったくられる。
「さ、作業の途中だったんだ。いつもならもっと綺麗なんだが…」
「ほんとかなぁ」
「何だその声色…!」
恥ずかしがる上白沢さん。しかしこの人の頭の固さは先ほどので露呈済み。茶化すのはこの辺で終わっといた方が良いだろう。
「ご飯は食べたか?というか君は何を食べる妖怪だ?」
「ん?…うーん、今まで一度もものを食べた事ないから分からん」
「なんだそれは。妖怪といえど、物を食わねば死ぬだろう」
「事実だし…まあ、多分何でも食えると思う。多分だけど」
「ふむ…では鍋にしよう。ちょうど具材も貰った事だしな」
そういって上機嫌に籠を少し持ち上げてみせる。
「久しぶりの料理…いいね!」
相変わらず腹は減らないが、食欲は普通にあるらしい。
その後作るのを簡単に手伝って、二人で鍋をたくさん食べた。その時色々と話しをした。
どうやら上白沢さんは妖怪と人間のハーフであり、普通は人間の姿をしているが、今日のような満月の日は妖怪になってしまうのだそう。
で、その能力は…詳しくは教えてくれなかったが、歴史に影響をもたらす力なんだとか。何それ壮大。本人は『歴史を隠す程度の能力さ』と言っていたが、程度の使い方が間違っていると俺は思う。
今日の部屋の惨状は、妖怪になった時は自分の血を鎮めるために歴史の編纂作業をしているらしい。妖怪と人間の歴史の双方を記して、のちの為に役立てれたら良いなぁ、とのこと。この人聖人か何かなのかな?
今日は大丈夫なのかと尋ねたら、子供を助けに行った時点で今日の作業が終わらないのは明白だったから、もう諦めている、との事。それでいいのか。
後は、この幻想郷の説明とか作られた経緯の噂。後は人里の説明とか、周辺にいる大妖怪の情報とかを教わった。人里、住むのはNGだが中に入って買い物をする程度なら妖怪でも認められているらしく、割とフランクなんだな、と思った。
鍋の中身が少し減ってきた時。
「本当は妹紅がいるときだけ開けているものなのだが…まあいいだろう」
そういって、日本酒を持ってきて開けた。俺も嬉々としてご相伴に与った。飲んだことのない味だが、やはり現代の酒と幻想郷の酒とでは造り方も色々と代わったりするのだろう。現代人としては強すぎだと感じたが、身体が変わったお陰か人間だった頃よりかは酔わないようだ。
調子に乗って上白沢さんと肩を組んでお酒を飲み交わすのだった。
後々、酒を飲ませずにすぐに寝るんだったと後悔する事になるとは知らずに…。
「お前なぁ…女の子が男口調は良く無いぞぉ!折角こんなに可愛いのに、そんな可愛げのない口調だと勿体ない!まったく、妹紅の奴もそうだけど、なんで私の周りには可愛いくせに自分に無頓着な奴が多いんだ!」
「…いや、そんな事言われましても…妹紅って誰だし…」
「口答えするなぁ!今日からはちゃんと女の子口調でしゃべりなさい!ほら、教えてやるから!」
「ひぇぇ!」
どうやら酔わせたらダメな人種だったらしい。見た事もないが妹紅さんとやらに同情しつつ、俺はその夜延々と上白沢さんの…いや、慧音に口調を矯正させられ、さらに慧音の愚痴を聞くマシーンと化し、最後は慧音の抱き枕として一日を終える事となった。
どうしてこうなったし。いや楽しかったけどさ。