黒、それは始まりの色
ボクが、ヒーローのことを聞いた日のこと、覚えてる?
ボクの個性が暴走した、明くる日のこと。
まるで小さな子どもの、何故なにどうして。
遅くやって来た、質問攻撃期。
ヒーローってなに?
「母さんのことだよ」
「うふふ、お父さんのことよ」
ヒーローってなにをしてるの?
「悪い人と闘ったり、困っている人を助けたりしているんだよ」
「本当に大切なものを守っているのよ」
ヒーローってどうやってなるの?
「誰かの為に行動しなさい」
「自分の為に行動しなさい」
ヒーローにどうしてなったの?
「…大切なものを守るためだよ」
「困っている人を助けたかったからよ」
ヒーローってすごいんだね!
「母さんには内緒だよ」
「お父さんには内緒よ」
困った顔して、でも嬉しそうに話してくれたよね。
ボクにしては珍しい行動だったんだろうなぁ。
子どもらしいその行動に安心したのかな。
自分達が誇れるものに興味を持ったことが嬉しかったのかな。
思えば、全く父の、母の仕事に興味を持つことがなかった。
それどころか、両親自体にも意識が向かうことはなかった。
大人しく、人見知り、引っ込み思案で、親子なのに距離が遠かった。
人間として、何か欠けているかの様で。
両親の不安はどれ程のものであったか。
その日から、急激に距離が縮まった。
突如として芽生えた
そして、終わりがやって来た。
両親が殺された。
動機は、復讐。
以前、捕まえられたから、ただそれだけだった。
ボクは独りぼっちになった。
ボクには祖父母はいない。
両親とボクはソックリだ。
容姿も、境遇も。
呪われた血筋とでも言えばいいのか。
ほざけ。
ボクの一族はボクで最後。
親戚すら見つからない始末。
施設送りは嫌だ、この家だけが、ボクの居場所。
両親の遺産がボクの生命線。
ボクが暮らす町は雨に包まれた。
土砂降りの雨。
ここ数日、止む気配も無く、ニュースでも、ヒーロー連続殺人に次いで話題だ。
どうせ外に出ないから、関係無い。
とはいかない、もう食べ物が無い。
生きるために、買いに行かなくちゃ。
…何故、生きる必要があるの?
もう誰も帰ってこないよ。
もう、何も残ってないよ。
思い出は全て火の中だ。
辛かった。
苦しかった。
今は、とても穏やかだ。
…もう生きなくても、いいよね?
真っ暗だ
前後上下左右全部、黒一色
夢?それとも現実?
何処?何故?何?
あ
ここが死後の世界なのかな?
ゾッとする程、冷たくて
家族の様な、親しみがあって
なんだか、懐かしい
…
あぁ、そっか
あの日と同じ
ボクを置いてきぼりにして、
また、ボクは
いつも、こうだ
誰か止めてよ、お父さんみたいに
誰か助けてよ、お母さんみたいに
この
この
誰か、教えてよ…
どれくらい、時間が経っただろう。
突然、暗闇に人が生えた。
ボクと同い年くらいの子ども。
ボクはソレを知っていた。
大切なものを全て奪ったソレ。
逃亡中だった犯人。
あぁ、そっか、そうだよね。
これって
じゃあ、殺すしかないよね。
仕方ないよね。
だって、個性の暴走を止めるために必要なことだもんね。
…でも、人ってどうやって殺すの?
そんなの誰も教えてくれなかった。
でも、分からないことは聞きなさいって教わった。
「どうやったら君を殺せるの?」
吃驚、したんだろう。
無表情に、見開いた目が此方を見詰める。
かと思えば、口だけで笑った。
「は い これ」
ナイフを一本くれた。
「手 出して」
ヴィランはボクの指先を首に当てた。
「分か る?これ が 鼓動」
「うん」
「ここ を それで 切る」
ヴィランは指で首を撫でた。
「ありがとう」
「ど いたしま して」
照れたのかな。
目を少しだけ、逸らした。
普通だ。
余りにも、普通。
復讐者と仇の会話としては、異常だ。
予想外に、人間的。
予想通りの、非常識性。
でも、問わずにはいられない。
「どうして教えてくれたの?」
「聞いた のは あなた」
「殺されるんだよ?」
「そうだ よ?」
「死にたく、ないでしょ?」
「ううん 別 に」
「なんで」
「だ て何も 無い」
「…え?」
「復讐 終わ た」
「…」
「もう 生きて る 必要 無い」
似ている
「…なんで、ボクの家族を、殺したの」
「だって 家族
何も特別なことじゃない
「か、ぞく」
「おと さんも お義母 さんも お義兄ちゃ んも、お 義姉ちゃんも み んな ヒーロ が
「わた しだけ 可哀想 な子ど もなんだ て」
「なにそ、れ」
「なん でみんな のとこ 行っちゃ ダメ?」
「なんで 死んじゃ ダ メ?」
「わ たし いっぱい 殺した」
「みんな と 一緒」
「ずっと 一緒」
「だから 死のう と 思ってた ら」
「あなたが 来た」
「わたし あなた の気 持ち 分かる」
「あなたは わたし が 憎い」
「わ たしを 殺したい」
「わたしと 一緒」
「あな たは 間違 てない」
「殺して いいよ」
感情的に、理性的に、本能的に、殺したい。
そう思ったから、殺しただけ。
ただ、それだけ。
そんなこと、がどれ程、重要な意味を持つか。
ボクは、理解できるから。
ボクとヴィランには、理由たり得たから。
異常者は、全てが
ただ、ほんの少しだけ、規定未満だったり、超過するだけ。
哀しいね
悲しいね
かなしいね
ピチャッ
水音で目が覚めた。
頬に触れてみれば、濡れている。
瞼を開けば、青空が見えた。
気付けば、朝が来ていた。
何処とも知れない、路地裏に一人、倒れていた。
呆然の中、顔に影が差す。
「私が、来た」
そう言って、ぼくを抱え起こす
「…ヒーローらしい、登場ですね」
空を見詰めたまま、言葉を投げた。
「…救出が遅れてしまって、すまなかった」
「救出?補導、もしくは確保、の方が適切じゃないですか?」
「いいや、合っているさ」
「ボクが原因でも?」
「…なるほど、確かに、君の個性が暴走した結果が現状だ」
「はい」
「だが、周りを見て欲しい」
何かの建物の壁が見えるだけ。
「壁しかないって思っただろうけどね、これはつまり君の個性の物理的な無害性を意味している」
あの闇は何も壊せないらしい。
「それに加えて、ここに辿り着くまでに発見した救助者達は皆、昏睡状態ではあったものの全員無傷で生存確認が取れた、つまり人体への無害性も証明されている」
ただ、包み込むだけ。
「精神作用型の個性なのは間違いないだろう、その辺りは救助者達の証言によるが…」
「私が、あの闇に触れて感じたのは、君の感情だった」
「闇からのアプローチ、あるいはただ垂れ流しているだけだったのかは分からない」
「だが私には助けを求めている様に思えた」
「だから私は君を救い出さなければならなかった」
「しかし君は自分で暴走を食い止めてしまった」
「それの、何がダメなんですか?」
「駄目じゃない、むしろ喜ばしいことだろう、普通なら」
「普通なら」
そうだね、ワタシ達は異常だね。
「君が自身で乗り越えたのなら、それで良い」
「だが、君が何かを犠牲にしたのだとしたら、私は…」
とんだ加害妄想。
勝手に人の気持ちを決めつけて。
勝手に救おうとして。
勝手に悲しんで。
これが
なんて
「…ボクは何も犠牲にしてませんよ」
「本当に?」
「嘘を吐く意味は無いですね」
嘘は吐いていない。
犠牲にするようなものは何も、無いのだから。
そう、オレ達が勝手にやったことだから。
「…一つ聞いても良いですか、ヒーローさん」
「え?…あ、あぁ良いとも」
「ヒーローって、なんですか?」
お父さん、お母さん。
ボクはヒーローを目指そうと思うんだ。
お父さんとお母さんみたいに、立派な理由じゃないけれど。
成れたら良いな、ヒーローに。
そしたら、行けるかな?
あの
個性「
混ぜ合わせる個性。
補足:
あるいは、
どのような個性を以てしても混合物は
対象に制限は無い。
「俺達の幸せを勝手に決め付けるんじゃねぇよ」