インフィニット・ストラトス―Ins―   作:アメリカ兎

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序章

 

 ――崩壊しつつある自我の中で、亡霊は思った。思考し、答えを探した。

 作られたプログラムであるが故に形作られた心が求めた返答は“死”。それを理解した。自己の消失こそが“死”であるのだと。

 崩壊していく肉体ではあったが、それでも内に秘めた願望は戦闘を継続した。頭部の衝撃砲の出力を調整し、圧縮して射出する。

《――――》

 そのノイズ混じりの照準に自ら身を投げる敵機を確認。右腕部に接続されている武装からは膨大なエネルギーが確認された。暴発寸前のそれを叩きつける腹積もりなのだろう。しかし、敵機も限界寸前なのは見て取れる。

 ならば、何を躊躇う必要があるのか。共に戦い、共に朽ちるのもまた戦場の常だ。

 最初で最期はそれで飾るのも一興。

 暗闇に包まれる視界とシステムダウンは同時に起こり、それゆえに刹那が永遠にも感じた。

 果たして、もし、自分が。――“規格外/イレギュラー”であった存在ならば。

 また別な結末も有り得たのだろうか。それは零と壱の電脳空間に生まれた些細な疑問。天文学的な数値による可能性の示準は、然し。

《――――》

 “それ”が二つのISコアによる相乗効果によって生じた物かは誰も知る由はない。

 亡霊は再び冥府へ戻るだけだ。一人の少女の覚悟と共に。

 事件の幕は降りた。その時は。

 

 しかし、それからひと月もしない内に事件が起きた。

 製造途中であったISが突如として起動、暴走を始めたという。初めは一機。また一機と世界各地で度々起きていた。合計十二体の暴走、そのうちの四機は消息不明となったという。現在もその行方は確認されていない――。

 

 

 

 ルナリア・ポードレットは帰ってきた。三ヶ月の月日を跨ぎ、その年も終わりに近づいた頃に。あの戦いの弊害か、右目は閉じられたまま開かれることはない。右腕も決して無事とは言える状態ではなかったものの、今は完治している。

 IS学園ではルナリアの帰還で一時期大騒動が起きていた。今はもう落ち着いているが、それでもどこか浮き足立った雰囲気が学園内に漂っているのはやはり、年末に向けてのものだろう。

 食堂でハンバーガーを頬張りながら、以前と同じようにみんなとテーブルを囲む。髪は伸ばしっぱなしだが、こちらに戻ってからはキチンと手入れをしている。前髪は右目を隠すように伸ばしてはいるが、まだ瞼に毛先が届くかどうかというところだ。

「それにしても――」

「?」

 箸を止めて、IS学園唯一の男性パイロットである織斑一夏が口を開いた。

「またこうしてルナリアを含めて、皆で食事できるなんてな」

「…………」

 黙々と食事を続けるルナリアだが、一夏の言葉には全員が同意している。

「そうよ。あの時なんて本当に死んだかと思ったんだから」

 凰鈴音が真っ先に言葉を続けた。それに後を追う形でセシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒが口々に責め立てる。しかしルナリアもそれは反省してるのか、反論の一つ返そうともせずポテトを食べていた。失声症の為、筆談で会話をするしかないのだが。

 手についた油を拭き取り、ルナリアが手をかざした。汚れを拭き取るように空間を撫でると、浮かび上がったモニターを片手で叩く。文字の入力を終えてから、ルナリアは再びポテトに手を伸ばす。

『ごめんなしあ』

「……!」

 入力ミスをしていたことに気づいたのか慌てて再入力し直した。

『ごめんなさい』

 赤くなった顔を隠すように俯いて黙々と食べ続けているが、それも残り少ない。しかし、一夏達が驚いているのは入力ミスではなく、むしろ浮かび上がっているモニターの方だ。ルナリアがもう一度手をかざすと、それはすぐに消える。

「なんか、魔法みたいだね」

 シャルロットの何気ない一言で篠ノ之箒の頭に思い浮かんだのは自分の姉のことだった。

「ルナリア。もしやとは思って聞いてもいいか?」

「?」

「怪我を治したのは、まさか」

 声を大にして言うことは出来ないが、それを察したのだろう。ルナリアは静かに頷く。暗く、冷たい水底に沈みゆく身体を救ったのは確かに篠ノ之束だ。

 それ以上言及するようなことはなかったが、納得したような空気が流れる。

 IS学園の食堂ではそれぞれのグループで各々話題で盛り上がっているようだ。

 黒武者――エクスペリエンス01は残骸として発見され、搭乗者であった霧島深崎の死亡も公表されている。一夏も直接的にではないとはいえ手を掛けた精神的負担から一時期は白式の起動を躊躇っていた。それも今は面影もなく今まで通りの生活を送っている。

 ルナリアはそれを覚悟していたが、それ以上に衝撃を受けていたのはスミスの死だった。声もなく涙を流して、一日中ベッドに倒れ込んでいた時はセシリアも焦ったが、翌日には何事もなかったように生活を始めている。

 これが日常。

 何もない、平和な日々の時間。ルナリアにとっては新鮮で、ようやく帰って来れた場所。

 楽しい学園生活を送って、それから卒業したらセシリアと一緒に居よう。彼女を守る為に。銃を手にするのは自分の役目だから。

 何を思って、篠ノ之束が自分を助けたのかは分からない。でも朦朧とする意識の中で聞いた言葉だけはハッキリと覚えている。

 ――“私は、アイツの発明を認めない”

 チョーカーとして待機形態をとっている『トライアレンド』改め『スカー・オブ・グレイブ』はルナリアの専用ISとして再調整が施されている。だがあくまでも装甲の定着化だけを行われており、内部に関しては手を加えなかったようだ。展開可能武装の数は大幅に上がっており、現在は拡張領域の穴埋め作業中である。全て埋める必要はないがお世辞にも使い勝手が良いとは言えないトライアレンドを使用していた反動からだろうか、ルナリアは楽しそうに搭載する武器を考えていた。

 今は束特製の義手を付けているが、これがまた驚くべきことに――相手が相手なだけに納得もしてしまうが――全く違和感がない。それどころか以前よりも調子が良いくらいだ。加えて、ラボを出る際には使用方法を軽くレクチャーされた。

 開かない右目も日常面では多少不便に思うことがあるが、戦闘面においては問題ない。今更生活が一つ二つ不便になったところで苦にならなかった。

 ポテトにケチャップをつけながら食べる。昼食を終えて、それから午後の授業を過ぎれば後は寮に戻って自由時間だ。時間は限られているが。

 現在も各国で進められている復興は遅々として進み、無差別な大破壊を癒していた。同時に起きている治安の悪化に対してもある程度の改善策が導入され、多少はマシになったとはいえまだまだ問題は山積みである。

 IS学園の機能も八割方復旧してはいるものの、校舎も一部がまだそのままとなっていた。中立の立場を取っている学園としては仕方ないが、世界各国の支援を元に成り立っているだけに優先的に復旧活動が進められている。その見積りも年末までを目処にされていた。

(早く来年にならないかなー)

 年末商戦だの何だのはルナリアにとってはどうでもいい。クリスマスも特に期待するようなこともない。そう思うと自分は少し女の子としてどうなのか、ということも考えるがこんな自分に惹かれる異性もいないだろう。

 談笑している輪の中にいてもルナリアは今いち実感が湧いていない。平和なのはいいことだと思っている。だがそれとこれとは違う。

(……ま、いいや。みんな楽しそうだし)

 ポテトに手を伸ばして、中身が空になっていることに気がついた。残りの時間をどうするか考え、ルナリアは席を立つ。まだスカー・オブ・グレイブは完全ではないし、時間を無駄にしたくない。

「あら、ルナリアさん。どちらへ?」

「…………」

 トン、トン――とチョーカーをノックする。そのサインでセシリアは理解したのか、頷いた。

「分かりましたわ」

 トレイを片付けて、食堂から去っていく背中を見送ると箒達が間抜けな顔をしている。

「なんですの?」

「いや、ルナリア……何をしに行ったんだ?」

「あら、分かりませんでした? ISの調整に行くようですわ」

「よく分かるね、セシリア」

「まったくだ。あれだけでは我々に分からん」

「……まるで私がおかしいみたいな言い方ですのね、もう」

 

 

 

 IS学園の敷地は広いが、歩き回って昼休みが潰れるほどではない。まっすぐ目的地に向かえば余裕はある。

 スカー・オブ・グレイブを起動。プラグを接続し、データを端末に表示させて一通りのチェックを済ませる。IS学園に戻ってきてから機動訓練はしていたが、戦闘は行っていない。

「……」

 右手をかざし、空間を撫でる。

 ISコア・ネットワークと同調開始。データリンク終了と同時に表示される展開可能武装の一覧。

 複合防御兵装『スケイスコート』――耐エネルギー防御に重点を置き、機体を覆う外套は外部からの情報共有を遮断。ステルス機能も保有している。敵味方問わず秘匿性によるかく乱が可能だ。

 端子兵装『クライクロス』――十字架をモチーフにした、実弾とエネルギーを発射可能な主兵装は背面のブースター兼ランチャーに接続することが出来る。実弾砲撃兵装『パンツァー・ゲヴェーア』、エネルギーランチャー『ラストレイション』はクライクロスの接続があって威力を発揮できるが、無論単体でも使用可能だ。

 現時点ではその程度、まだいくつか武装の案はあるが、その装備を開発する企業のツテがない。……かつてはあった。だがそれも全て奪われてしまった。

(……社長も博士も、もういない)

 一人だけど、孤独ではない。今はセシリア達がいる。胸の隙間を埋めるにはまだ少し足りないけれど、今はそれだけでよかった。

 前を向いて歩かなければ、社長も博士も浮かばれない。

「……?」

 ルナリアがスカー・オブ・グレイブのプログラムを書き換えていると、強制的にデータが送信されてきた。それは一通のメッセージで、短く一文だけが記されている。

 

《我々は、“最強”を否定する――》

 

 それを閲覧してから、ルナリアは削除した。どこの誰かは知らないが、また戦争を始める気らしい。

(失うばかりで、何も得られないのに……また馬鹿な連中か)

 冷たく吐き捨てて、舌打ちした。

 敵ならば、撃ち抜くだけだ。




 前略。ISIBよりただいま。新たにISを書いていきますのでよろしくお願いします。今作は割と短め?になる予定ではありますが予定は白紙ですのでどうなるかは分かりません
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