主兵装を失ってもアクリオスの電子音声は平静そのものだった。恐怖もなければ敗北の二文字が迫っている緊張もなしに。その身体を動かす原動力は神命のみ。
サダクビアのみとなった遠距離武器だが、その威力は決して防御できるものではなかった。五発を撃ち切ると即座に排莢する。
――弾種選択。強装弾。
弾頭の赤いスピードローダーを選択して目にも止まらぬ速さでリロードを済ませると、もっとも距離の近いルナリアに向けて引き金を引いた。通常より増加されている火薬の放つ破壊力は先ほどまで撃っていた通常弾とは比べ物にならない。その内部にこもる熱量もまた同じだ。連射は出来ず、イジェクターロッドでの冷却を考慮すれば最短でも五秒から十秒を必要とする。
シャルロット達はカプリコル達をただの無人機だとばかり思っていた。しかし、IS学園を襲撃するゴーレムと目の前のISは違う。
「どうして……」
言葉が漏れる。黒煙を上げながら墜落していく№2、アクリオス・ザ・ガーネットは機体を制御し、モールを避けて着地する。
左腕はブレード発生装置が損壊し、サダクビアのリロードのみ機能していた。既にシールドエネルギーも底を尽いているのか全身を紫電が駆け抜ける。
《……やれやれ、といったところですか》
身体の不調を確かめるように、損傷を確かめていた。
「あれはもう、私とシャルロットだけで十分なようだな……ルナリア、先に学園へ戻れ。恐らく一夏達は苦戦しているだろう」
そのルナリアの鼻先をサダクビアが通る。真っ赤なイジェクターロッドは既に溶解寸前となっていた。
《どちらへ? 私はまだ動きますよ。先ほど貴方達に申した通り、私のミッションは足止めです》
『そっちの都合は知らない』
《人間は、傲慢ですね。いえ、私達も同じですか。今しばらくの辛抱を》
「どうして、そんなになってまで」
シールドエネルギーは尽き、勝算もない戦いを継続するつもりのアクリオスを何とか止められないか。シャルロットは銃を下ろす。しかし、引き金にかけた指は離さない。もし、説得が無理なようであればこの場で破壊するつもりだ。
《私は知りたいのです。何故、私達が作られたのか。何故、私達を神は必要としたのかが……兄弟達を全て迎えることができれば、それが叶うと――残りは三人ですか》
「これ以上の交戦は無意味だと思うけれど」
《無意味? いいえ、その可能性は否定します。貴方達の戦いは実に興味深い。私達では到底至らないコンビネーションをしている》
右腕のサダルメリクを起動させる。
《ご教授願います。この身で学び、兄弟達へ教えることができれば私の戦いに意味はあるのですから》
「お前の言い分は尤もだ。ここから、生きて帰ることが出来るのならばだがな」
《私は、生きてなどいません。存在しているだけです。そして、帰る場所もない――正確には帰る気がない、でしょうか。この星は実に魅力的だ》
「この星……?」
「まるで自分が他の星から来たような。そんな言い方をするのか」
《地球だけが、こんなにも恵まれている。私はそれが不思議でならない。この青い星にこれだけのものが存在する》
ブリッツの砲弾を左腕のサダルスウドで両断して強行突破、だがその進行をルナリアが阻んだ。クライクロスの連射からラストレイションを至近距離で撃ち込み、右足が吹き飛ぶ。それでもアクリオスは止まらない。
サダクビアの残弾は三発。全て強装弾だ。それを頭部に向けて寸分違わず発射する。一発、二発と防ぐこともできず撃ち込まれたルナリアが離れようとして三発目をクライクロスで防御した。
ブリッツを迎撃した左腕の出力が落ちている。唯一の遠距離武装となったサダクビアの通常弾を装填、ラウラへ向けて発砲するがAICに止められた。これ以上の接近は危険と判断して目標をルナリアに変更したアクリオスの正面にシャルロットが割り込み、レイン・オブ・サタデイが直撃する。左腕がちぎれ飛ぼうともその動きが止まることはない。
しかし、ルナリアに横から蹴り飛ばされてアクリオスは落下していく。
もはや自立することも出来ず、仰向けに倒れたまま動かない。
「ルナリア、行け!」
ラウラの声に頷き、IS学園へと一足先に飛ぶ。
《……ミッションは失敗ですね》
「――まだ、動くのか」
右腕で上体を起こすアクリオスはまだ戦闘を継続するつもりなのか、上昇し始めていた。その途中で全身の至る箇所から小さな爆発が起き、破損が増えていたとしても。右肩の追加装甲が爆発し、身体がふらつこうとも顔だけは二人を視界に収めていた。
「そうまでして、なぜ戦う」
《――――った、はずです。私のミッションは》
機体を浮上させているだけでも徐々に損傷が増えていく。
《貴方達の足止め――から、それを完遂するまでのこと。一人、逃がしてしまいましたが。まぁ、良しとしましょう》
電子音声にもノイズが混じっていた。それでもアクリオスは戦闘を止めようとはしない。全ては神の仰せのままに。全ては――。
《――神の仰せのままに。私は、戦闘が不可能になるまで動くだけです》
「展開している武装の全てが動かなくれば、戦いを止める?」
《有り得ません。訂正します。私が存在する限り、私は戦うでしょう》
「……シャルロット、完膚なきまでに破壊するぞ」
「うん。分かった……」
《それでいいのです、貴方達へ、私から……望むことは》
残弾の尽きたサダクビアを捨てて、サダルメリクだけとなった。せめてもの情けか、ラウラはエネルギー手刀で対抗する。シャルロットは再びフェンリルを呼び出していた。ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの両腕を拘束する超大型ライフルの部品を接続して、その場で銃を完成させた。
頭部を貫かれ、それでも残った左足でシュヴァルツェア・レーゲンを蹴飛ばす。その直後にフェンリルがアクリオスの右腕を肩ごと吹っ飛ばした。
《ここまでですか……申し訳ありませんね、№1。先に――》
二発目が胴体を貫通し、三発目がその胸部装甲を全壊させて地面に叩きつける。
《神よ、どうして――私達にこのような試練を……》
焦点の合わないカメラのピントを合わせて、自分を見下ろす二人の姿を確認した。集音しても会話は聞き取れない。だが、互いが互いを気遣い、支え合っている。
なるほど、と思った。
《貴方は、残酷だ……私達に与えたミッションは……》
『№2...MISSON COMPLETE――』
『№2...DESTROY.』
アクリオス・ザ・ガーネットは自分達に与えられた全てを理解して、爆炎に包まれる。残されたのは鉄の塊だった。辛うじて、人の姿を留めている。
「……最期まで、本当に戦い続けるなんて」
「所詮機械だ。痛みを感じて戦いをやめることはないだろう。こうする以外になかったんだ、諦めろシャルロット」
「そうだね。僕たちもIS学園に戻ろう。一夏達が心配だ」
――全ては神の仰せのままに。