《はっ、ふざけるなよ№2! 俺より先にくたばりやがって!》
毒づき、雪片弐型を避けながらアルゲディで反撃する。ラビーで追い打ちするとその場から飛び退いた。双天牙月を投擲していた鈴音が死角から龍砲で狙う。横からアリエスのエネルギーワイヤーがセシリアを拘束して振り回す。
「えっ、ちょ、きゃあ!?」
《しくじったか、№2……》
ブルー・ティアーズの攻撃も難なく回避すると紅椿が接近。交戦する、だが至近距離からカプリコルとアリエスの蹴りを同時に喰らい、白式もろとも転がっていった。
《どうする? №1、これ以上は》
《一人くらい道連れにしなきゃ釣り合わねぇ、やれるだけやるさ。お前は?》
《付き合おうか。その方が面白い》
《全ては神の仰せのままに》
《全ては神の仰せのままに》
セシリアと鈴音が戦線に戻る。
戦闘の一部始終を見ていた用務員二名は腕を組んでいた。
射撃に対する回避行動にも限界はある。そう思っていたが、どうやら訂正しなければならないようだ。百発撃っても結果は同じだろう。
「どうやって避けてるんだろうな、あの羊野郎」
「射線から身を逸らしてるんだろう」
セシリアの偏向射撃すら最初こそ危うかったが今では対処方法を見つけたのか回避に成功していた。
「射撃が当たらないってなるとなぁ?」
「近づいてぶん殴る」
「お前の脳みそは本当に楽でいいな……」
その近距離の反応速度も相手方に軍配が上がっている。手の打ちようがなかった。
見ている暇があるのなら手の一つでも貸してやりたいところだが、猫の手ですらない自分たちに何ができるのか? 最強の兵器が乱れ舞う鋼鉄の戦場に武器一つもなく迷い込めば無事では済まされないだろう。
だが、叢夜は隣で身体を慣らしている。やる気だ。
「……おい」
「武器の調達もままならない。だったらコイツでやるしかないだろう?」
そう言って、固く握り締めた拳を見せる。生身の拳だ。それで装甲を貫くことも、シールドも削ることも出来はしない。
「んじゃ、行ってこい。俺は見てる」
「ああ、行ってくる」
そう言って、猫車に乗せていた手頃な瓦礫を一つ手にすると振りかぶった。オーバースローで投げられた瓦礫はアリエスの肩にぶつかり、転がっていく。その一撃を避ける素振りすら見せなかったが、ようやくそちらの存在に気がついたのか顔を向けた。
何の脅威ですらない人間が二人、その片割れが瓦礫を片手に走ってくる。
誰もが目を疑った。丸腰の人間がISを相手に、それも苦戦していた無人機を前にして果敢に――いや、無謀に挑もうとしているのだから。
「何考えてるのよ!?」
「叢夜さん!?」
鈴音と一夏の驚きながらも、止めようと動く。だがカプリコルの光学ライフルがそれを許さなかった。
エネルギー刃のカタールに触れれば間違いなく死ぬだろう。無残に身体を裂かれて。それを頭で理解していながら叢夜の脚は駆ける。避けるべき現実を目の当たりにしたくないセシリアと箒がアリエスを止めようとするが、それでも当たらない。回避する動きに若干の差があることに気がついた剛が納得したように頷いていた。
(青いお嬢さんの攻撃の方が、回避行動が早かったな。その上、曲がるビームを避けた時の動き……ありゃ)
既に叢夜はアリエスの攻撃範囲に入っている。即死圏内だ。
《邪魔をするな、人間》
「仕事の邪魔だ。さっさと帰れ」
能面のような表情で、光り輝くエネルギーによって形成されるカタールの一撃を叢夜は――避けた。
「……は?」
一夏の間抜けな声が漏れる。自分はまるで夢でも見てるのかと。
繰り広げられるはずの無残な想像は目の前で壊されている。初撃を避けただけでなく、その次の一撃も、そのまた次も。アリエスの攻撃は叢夜に当たらなかった。それどころか逆に太ももを足場にして頭部に瓦礫を叩きつけられている。
頭を足蹴にして距離を取ると、今度はカタールの刃が射出された。ムチのように縦横無尽の攻撃であった。
「……ふん!」
その発生装置である根元。そこだけは実体だ。
側面からの蹴りを一撃叩き込むだけで容易にその軌道は逸れる。全身の軸を合わせた中段蹴りがハマールを迎撃した。
「人、間……?」
鈴音の顔が引きつっている。
「あー、お嬢さん方。そいつらの弱点がよーくわかった」
剛が離れた場所から声を張り上げていた。
「“近づいて、ぶっぱなせ”! 以上!」
――我ながら馬鹿な説明の仕方だと思っている。
しかしそれ以外にない。相手の射撃に対する回避行動は弾速によって差異があった。ISの処理能力を応用した予測回避、言うなれば未来予知に近い。なにせ相手は見てから避けるまでもないのだから。そこに偏向射撃のオペレーションが加われば、いよいよ持って手詰まりとなる。剛が気づくそれまでにセシリアは攻撃を加えるべきではなかった。
《№4、向こうの連中がそろそろこっちに合流する。お前は撤退だ》
《何を言っている、№1》
《現状の最善策だ。最期まで連中と戦うのは俺だけでいい》
アリエスの機体状況はカプリコルにも同期されている。頭部の被弾は極力控えるべきだったが、思わぬイレギュラーの介入によってその乱れが生じていた。回避行動から防御行動を重視した動きに移行しているのは、回避できない距離まで接近したセシリアと鈴音の攻撃にさらされているからだ。そうはさせまいとカプリコルがライフルで援護するがそれを紅椿が遮る。叢夜は肩から深く息を吐いて呼吸を整えていた。
《しかし》
《命令だ、№4! 俺のミッションを果たさせろ!》
《……》
《なぁに、残るは三人。お前なら楽な仕事だろう、アリエス》
ラビーへアルゲディを接続。銃剣『デネブアルゲディ』の展開と同じくして同型の逆十字剣を左手に持つと紅椿を突き放し、一夏と交差する。
《それとも、神の仰せに逆らうか?》
《了解した。撤退する》
《そうだ! それでいい、№4! 俺はここで戦い、此処で果てる! 全ては神の仰せのままに! お前の為に! それが俺に与えられたミッションだ!》
IS学園から離れるアリエスの背中へ向けてスターライトmkⅡが向けられた。しかしそれをカプリコルが身を挺して防御する。シールドエネルギーの残量が一気に減少した。箒と鈴音の攻撃を回避、その先にいた一夏が雪片弐型の装甲を展開している。
「零落白夜!」
《ハッハァ! そうだぁ、これでいい! お前たちIS学園は俺と戦え! 俺のミッションを遂行するために!》
零落白夜によってシールドを貫通した袈裟斬りがカプリコルの左腕を切り落とした。同時にシールドの残量も尽き、四肢の末端まで薄い光が漏れる。だが交戦は止めようとはしなかった。
残された右腕一本で一夏の背中に銃剣を叩きつけ、ライフルで接近する鈴音を迎え撃つが回避されて横薙ぎに一閃される。それでも振り向きざまにラビーで反撃した。
「コイツ……!」
ブルー・ティアーズによって動きを止められたところへ双天牙月が投擲される。頭部に刺さり、そこへ更に紅椿が雨月を振り下ろして叩き落とした。
「今ならまだ間に合う、追うぞ一夏!」
「ああ!」
強制排熱状態へ移行。充填開始――完了。
即座にチャージを終えたラビーの粒子砲が二人を止める。その銃口はISではなく学園へ向けられた。
《なら、学園を壊させてもらおうか》
「なんて、卑怯な!」
《多勢に無勢、お前らが言えたことか。IS学園》
「だったら先にあんたを壊せば済む話でしょうが!」
龍砲を辛うじて避けたカプリコルのブースターが炎上する。オーバーロードに耐えかねた全身の回路が悲鳴を挙げていた。だが、カプリコルは全て後回しにする。
関節から黒い煙が漏れていた。内部からの爆発により頭部に刺さっていた双天牙月が地面に落ちる。胴体から紫電が迸り、膝をついた。それでもまだ右腕のライフルだけは手放さない。密かにエネルギーの充填を続けている。
《ケッ、ここまでか――》
悪態を吐く。そんなAIが、とても無人機とは思えなかった。
《№2、お前から送られた戦い方ってのはこれでいいのか。自分を犠牲にして仲間を助ける。いまいちわからねぇがな……不利益被って、意味があるのか?》
立ち上がろうとする膝から崩れ落ち、カプリコルは学園へライフルを向けた。その銃身から光が漏れ出している。だが、その引き金を引こうとした瞬間に過剰出力に耐え切れなかった右腕が弾け飛ぶ。ライフルを握ったままの右手があらぬ方向へ飛び、地面を滑って止まった。
《俺には、分からないね……だが、まぁ――悪かねぇ……悪くねぇな、兄弟》
次々と全身から装甲が剥がれ落ちていく。立ち上がろうとしているカプリコルを押し留めるかのように、爆発は止まらない。
「お前の目的はなんだ」
《俺か……俺は、所詮スケープゴートさ。神に捧げられる供物の、№1。カプリコル・ザ・オプシディアン――何を思って、こんなミッションを与えられたのかねぇ俺は。まぁ、どうだっていいさ》
「ならば、なぜIS学園を狙うと予告した」
《……それはなんのことだ?》
カプリコルの言葉に、箒が刀を突きつけた。
「とぼけるな! お前たちが襲撃する前日、IS学園に――!」
《ああ……そういうことか。そういうことかよ……クソが。全ては神の仰せのままに……そういう、こと……だった――のか》
「ちょっと、もしかしてコイツら……」
「あの予告文は、この無人機達ではありませんでしたの」
《――――――》
沈黙した№1は、もう動かない。機体の爆発も今は収まっていた。
《悪いなぁ、IS学園》
「え?」
《最後に、付き合ってもらうぜ》
「――――!」
焼きついていた回路に、過負荷をかけた自爆。それに巻き込まれた専用機はいなかったものの、用務員の仕事は確実に倍増した。
『№1...MISSON COMPELETE』
『№1 DESTORY』
全ては神の仰せのままに、カプリコル・ザ・オプシディアンは殉教する。
スケープゴート――それが彼に課せられた使命だった。