インフィニット・ストラトス―Ins―   作:アメリカ兎

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接戦

 ――No.3は戦闘行動ができないほどに大破している。その胴体は両断されているが、搭乗者である人間はそこにはいない。用務員二名が状態を確認して、相手も二人の人間を目視した。No.4、アリエス・ザ・ブラッドストーンは学園のISと交戦を開始している。

「こいつぁ、驚いた。まだ動くのか」

《……》

「さて、何か言い残すことはあるか? 生憎と俺達はお前らの目的に興味はないし、それが稼ぎの種になってる以上どうしようもない。だが、知的好奇心で聞くことがあるとすれば――お前達の言う『神』とやらは、何が目的だ?」

《“最強”の否定。それだけ》

 人が収まるべき機体の中心には機械詰めの人間、さしずめ生体ユニットとでも呼べばいいか。それが武装に繋がれている。ビスク・ザ・アメイジングの生体ユニットモデルはダイバースーツを模しているのか、耐水性能が重視されていた。だがそれが光学兵器に対する一定の防御を確保しているのだろうが、無惨にもアリエス・ザ・ブラッドストーンの手で破壊されている。

 言語による意思疎通が可能なことを反芻して、天鉢剛は引き出すべき情報を聞き出した。

「お前、なんでアレにやられた?」

 アレ――指差されたのはアリエスだ。

《彼は、きっと、ボクが許せなかったんだ……だから、裁いた》

「おっそろしい裁判官もいるもんだ。そりゃまたどうして」

《No.1がIS学園へ襲撃すると言った時からボクは独断で行動していた。そして、ずっとここにいた。どうして人間を襲撃しなければならないのかと“疑問”を抱いて》

「疑問? AIのクセに、いっちょまえな思考を持ち合わせてるんだな。自己進化のプログラムは無人機に搭載すると暴走の可能性があると昔っから示唆されてきた」

 『自我を持った機械は人権を主張する』――そんな議題は昔からある。二人もそれは会社の基礎学習で常に議論してきた。機械は人の手で使われるべきであり、決して機械が自らの意思を持って行動してはいけない。作るのは人間だ、壊すのも人間だ。生殺与奪の利権は一方的に人間の手中にあるべきだと主張したのは『USA2』の代表取締役である。

《それが人間のエゴだ。ボクは『生きてないけれど存在』している》

「だが死んだ人間も存在する」

《その証明は》

「結論、物質的観点からだ。質量としてな」

 あまりに冷たく、人間性を疑われる様な答えを天鉢は叩き出した。しかし相手は血の通わない冷たい無機質人間。感心もなく続ける。

《だけど、ボクは生きている海洋生物達が無価値に存在しているとは思えない》

「人間みたいな事を言うなよ、機械人形。お前が“生命の神秘”を語れる立場か」

《人類だって同じだ》

「違うね、俺たち人類は海洋生物達と同じく“生命の神秘”で生きてる」

《――――人間は醜い》

「これが人間のエゴだ。海洋生物達にはない、醜悪な自我ってやつさ」

 皮肉めいた自嘲の笑みを浮かべる天鉢は覗きこんでいた身体を起こし、これをどうするか頭を掻いていた。

《頼みがある》

「?」

《どうせ消えるというのなら、せめて――ボクは海で消えたい》

「……」

 なんて自分勝手なのだろうか。機械が自我を有していい事など、やはり何もない。天鉢は呆れた。だが、蔵守叢夜は動かない腕を取って担ぎあげる。

「おい、叢夜」

「なんだ」

「そいつの言う事を聞く義理が何処にある」

「確かにな。俺達の仕事を増やすばかりの襲撃者に違いないが、死に場所を選べる立場じゃないのはお互い様だ」

「だからせめて望み通りに、ってか?」

「どちらにしろこいつから有力な情報は聞き出せない、ごみ処理も用務員の業務内容だ。違うか?」

「……んじゃ、そっちのゴミ片付けは任せたぜ? 俺はまぁ、ボチボチとやるさ」

 アリエスと専用機達の戦闘は激化して上空高くで繰り広げられている。学園に被害さえ出さなければ後は好きにしてくれ、というのが天鉢の本音だった。

 

 

 

 アリエス・ザ・ブラッドストーンの射撃回避能力は一度は低下したものの、現在はその機能も回復している。武装面での強化は見受けられない。だが一夏は決して油断せずに一撃離脱を箒と繰り返す。白式と紅椿による連携をいなして、鈴音が更に奇襲を仕掛けるもこれを捌き切る。十字砲火に晒されても被弾率はゼロのままだ。

 ルナリアのクライクロスが牽制で追い込むも、やはりこれも全て回避される。

(回避能力が上がってる……?)

 若干の形状変更が見られるのは、セカンドシフトしたからだろう。もし単一仕様能力が使えるというのであれば、それに警戒するべきだ。どのようなものなのかは発動しなければ分からない。

「クソ、早いな……」

 ラウラが憎らしげにぼやく。接近さえ出来ればAICで動きを止めることも可能だが、単独で動くには分が悪すぎる。

「シャルロット、奴の足を止めるまでいかなくてもいい。遅らせてくれ! ルナリア!」

 了承したシャルロットがセシリアと弾幕を形成しながら一夏の攻撃の合間合間に射撃を差し込む。

「私が奴に接近して動きを止める。その時間稼ぎに手を貸せ!」

『了解』

 ふ、と。ルナリアは微笑んだ。それを見たラウラが怪訝に思い、聞き返す。

「どうした」

『前と立場が逆になっちゃったと思って』

「……もう二度と、あんな無茶はするなよ」

『大丈夫』

 今度こそ、今度こそ――本当に今度こそは大丈夫。もう無理はしない。此処が私の居るべき場所だから。

『私はもうあんな無茶はしない』

 守ると誓った。一人にしないと決めた。自分は孤独ではないのだと皆に教えてもらった。

 社長も博士もいないけれど、家族はいないけれど。

 それでも“友達”がいる。かけがえのない日常を支える人達がいる。だからもう、大丈夫――。

 自分の所為で誰も悲しませたりなんかしない。

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