インフィニット・ストラトス―Ins―   作:アメリカ兎

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相殺

 ラウラの指示に従ってルナリアが持ち前の機動力で食らいつく。離脱と同時にセシリアのブルー・ティアーズで一寸、アリエスの足を止め、そこへラウラが突貫する。振り上げたエネルギー手刀はあくまでも囮だ。

 エネルギー同士の衝突、反発で弾かれる。先に体勢を持ち直したのはアリエスだ。それに一手遅れてラウラが手をかざす。停止結界――動きを止めさえすれば一夏の零落白夜で仕留められる。

 AICの起動。アリエスのカタールが触れた瞬間、完全に動きが止まった。

「これまでだな、自動人形」

《そうだと思うか?》

 機体の各所から漏れるエネルギー光が一瞬、光を失う。

《お前達に俺の歩みは、我らの進化は止められん!》

 そして、AICが消失した。同時にアリエスのハマールからも刃が消えているが再形成するのに一秒もかからない。

 ラウラは無防備なまま手をかざして、直撃を受ける。次いで二度、三度と追撃を受けて蹴り落とされた。空中できりもみ状態からどうにか体勢を直すが、地上に激突する直前だった。

(バカな……私の停止結界を)

 シュヴァルツェア・レーゲンの全システムに異常はない。不具合も無く、何らかの方法で突破された。

「おい」

 突然声を掛けられて、ラウラが顔を向けると上半身を担いだ用務員が景気の悪い顔で立ち止まっている。

「危ないだろうが」

 ISの上半身を担いでいる所為かその足取りは重い……そういうことではない。ラウラが頭痛に襲われた。

「待て。それをどうするつもりだ」

「海に捨てる」

 不法投棄という冗談でもない事をしでかすつもりだと言う用務員が上空を見上げて、アリエスと目が合うと舌打ちする。ラウラもそれには気づいていた。制止しようとする一夏達を振り払ってアリエスは肩部ユニットのブースターで急降下する。

「投げ捨てるがいいか」

《構わない。海で消えることが出来るなら》

 叢夜は一も二もなく腕を掴んでビスク・ザ・アメイジングを放り投げた。それを仕留めようとしたのだろう、だがその進路をラウラが妨げる。ブリッツを最小限の動きで回避して刃を射出すると絡め取り、引き寄せながら蹴り飛ばした。無防備な人間一人だけが今は対峙している。

 忌々しくも、自分の攻撃を看破した人間だ。他の人間と何一つ変化のないはずの人間一人との交戦記録が忌々しい。

《お前はつくづく俺の邪魔を……!》

「お前達は俺の仕事の邪魔ばかりだ」

 呆れた態度に鋼鉄の殺意だけが突き刺さる。

 

 ――たった、一撃。ほんの僅かにでもエネルギー刃が触れればたちまち激痛で苦しみ悶えるだけの人間一人。

 その一撃が遥かに遠い。

 至近距離であって尚も叢夜は落ち着いている。

 薙ぎ払い。斬り上げ。袈裟斬り。その三手全てを生身の人間は避けた。距離を取った相手に対してブレードを射出しても更に避けられ、ワイヤーを引っ掛けようとするもそれすらも読まれている。人間一人に手玉に取られている現実が理解出来なかった。

《貴様……!》

「以前は加減したがな、今回ばかりはそうもいかんぞ」

 懐に飛び込んでの拳がアリエスを打つ。それがどうしたというのか、微動だにするはずもない。だがわずかにエネルギーの減少が見受けられた。

《貴様――何者だ……!?》

「用務員だ」

 振り払おうとする腕を足場に、頭部へ向けて踵落とし。着地から足を払い、起き上がりと同時に胴体へ掌底を更に打ち込むとアリエスの身体が後方へ飛んだ。残心。叢夜は自らの拳を握り、開いた。

(まぁ、生身じゃこんなものか……)

 本来ならば制式装備が欲しい理由はこれだ。精々吹き飛ばすくらいの時間稼ぎぐらいしか出来ない。これ以上の成果が必要ならば企業から装備の支援が必要になる。それが受けられないから“もどかしい”のだ。

 果たして自分の全力がどこまで通用するのかと。

 倒れたまま射出されるワイヤーが自分ではなく、上空への迎撃に向けられたと気づいた叢夜がその場を離れる。既に専用機各位が高度を下げてきていた。

 戻った叢夜を待っていたのは学園のゴミ袋をまとめた天鉢の怪訝な視線。

「これで言い逃れ出来ないな……」

「それが?」

「今後、お前に「後先考えろ」という言葉は無意味だと記憶しとく」

「そうしてくれ」

 

 鈴音がアリエスの先制を避けて双天牙月を振り下ろす。肩部のエネルギーシールドで防御と同時に弾き、離脱した。横滑りの姿勢から更にルナリアとシャルロットの追撃を避け、その先にラウラのブリッツが刺さる。箒が持ち直すアリエスを蹴り飛ばした。

「今だ、一夏!」

 零落白夜の発動。雪片弐型が展開し、エネルギー刃が形成。一撃必殺にして諸刃の剣、外す道理がない。防ぐ事も出来ないその一撃を迎撃しようとアリエスが両腕のカタールにエネルギーを通す。

「これで、終いだぁぁぁっ!」

 この距離ならば外すはずがなかった。だからこそ迎え撃とうとしているのだ――その構えにラウラは一抹の不安を覚える。

(以前にも、似たことがあった……が、あれは――)

 黒武者――霧島深崎との激闘。シールドエネルギーを吸収し、自らの攻撃力へ変換する装置を搭載した“ISもどき”もまた、零落白夜と同等の能力を用いてAICを突破した。だが、アリエスの攻撃に“触れていた”AICが消えた……自分の考えが正しければ、一夏が隙だらけになる。

「一夏、そいつのワンオフアビリティは“相殺能力”だ!」

 

 零落白夜が“相殺”され――無防備な白式に、更にもう一撃。残った片手のハマールを受けた瞬間に白式のエネルギー残量が底をついた。

 両肩部のシェラタンが起動する。至近距離からのチャージを喰らえば一溜まりもない。

 雪片弐型で咄嗟に防御しようとする一夏の視界を覆う複合型防御兵装《スケイスコート》がアリエスの一撃を鈍らせた。

「ルナリア!?」

 スカー・オブ・グレイブの左脚が掠めたのか、体勢を崩すも一夏を箒に預ける。そのルナリアを、今度は鈴音が受け止めた。

『ナイスフォロー』

「アンタこそ」

 互いにサムズアップで応え、視界の端でセシリアがむくれているのが見える。

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