アリエス・ザ・ブラッドストーンの相殺能力――『サイレンス・ランブル』による防御機能は両肩部のシェラタンでも起動するのか、アリエスの突進を止めようとしたセシリアが吹き飛ばされる。だが再形成までのタイムラグを見て、天鉢が目を細めた。
(……さっきに比べて再形成が遅いな)
それは、前線にいる蔵守も同じく気づいたのか、二人が笑う。
「こんな状況で何を笑っているんだ、あの二人……」
ラウラの訝しむ視線も、すぐに驚愕に変わった。
「叢夜、もう仕方ねぇ! “ぶちかませ”!」
「――そいつを待ってた」
シャルロットとセシリアの迎撃で落ちてくるアリエスは各部の損傷が見られる。相殺能力を扱う以上、シールドエネルギーの消耗は著しいのか、それともエネルギー部位以外にその能力が機能しないのか。
蔵守はその着地地点で拳を固めて待ち構えている。
《生身の一撃など、たかが知れている》
「そうか」
次の一撃が、果たして本当に生身の人間によるものなのか――アリエスは頭部センサーが弾き出した測定不能の数値をデータとして処理する。だが既に演算防御プログラムが破壊されていた。
地面を転がり、壁に叩きつけられて止まる。
「……そうか。今のが、生身の拳だ」
「散々削られて、お前のシールドエネルギーは底を尽きかけてる。ま、遅かれ早かれ……こうなるわな」
天鉢が肩をすくめてみせた。その呆れが、果たしてアリエス自身の未熟か、それとも向こう見ずな蔵守の行動からなのかは分からない。
「おーい、専用機諸君。今ならアイツぶっ壊せるぞ、派手にやったれ」
砕けた調子の天鉢が手を振る。事態をまだ飲み込めていない鈴音達だったが、立ち上がろうとするアリエスに集中砲火を浴びせるのは、ルナリアのスカー・オブ・グレイブ。蔵守の一撃で既にエネルギー残量は尽き、転倒の衝撃で頭部が破損した状態からの回避はハイパーセンサー頼みになる。
肩部損傷――『シェラタン』起動困難。
脚部損傷――機動力低下。
左腕部損傷、頭部大破。
《反撃は至難、か……》
右腕部損傷。
《だが、良い……これで良いのだ――後は任せたぞ、兄弟》
コア損傷――機能障害発生。
「――――!」
「ルナリア……」
まるでそれが、自分の仇敵であるかのように、怨敵であるかのように。スカー・オブ・グレイブから弾丸が撃ち込まれていく。
《……――》
それが、ようやく物言わぬ鉄屑となって……ルナリアは肩で息を整えながら汗を拭う。
『№4…Mission Complete』
『№4…destroy』・・・・・・faze2 Start.
その場にいた全員が、空を見上げた。なぜかは分からない。ただ、そんな予感がした。青空に似つかわしくない流星が降り注ぐ。
その日観測された落下物は、八つ。それぞれが世界各地にバラ撒かれ、そのうちの三つはIS学園に落下していた。
空中で分解したそれは、まるでカプセルのように割れる。中から姿を現したのは、またもIS達だった。いずれも無人機であることは容易に想像できる。しかし、彼らは空からやってきたのだ。
何もないはずの、青空から。
自らの周囲を覆うほどの巨大な物理シールドが四枚。超重量型のISがアリエス・ザ・ブラッドストーンの付近へ着地する。
続けて、両腕にライフルを二挺、背中にも保持した機体。そして、流線型のフォルムを持つ水色の機体。
《――先立つ我が兄弟よ。仕事は見届けた》
《後は我らに任せよ》
《神の仰せのままに》
《神の仰せのままに》
《神の仰せのままに》
それは、異様な光景だった。機械達が黙祷を捧げ、祈祷し、そして亡骸を前にした超重量型ISが巨碗を振り上げて――コアもろともに粉砕する。
《……私は、№5。タウルス・ザ・ダイアモンド》
《ジェイド・ザ・エメラルド》
《キャンサー・ザ・ムーンストーン》
「……嘘だろ、新手かよ!」
《そう危惧するな、人間。我々は、兄弟の行く末……アリエス・ザ・ブラッドストーンの最期を見届けに来たのだ。今は争うつもりはない》
《より調査が必要だ。この世界の。人間の》
《神より仰せつかった使命の為に我らは行動する》
飛び立つ姿を制止する者は、誰一人いなかった。ワンオフアビリティを発動した無人IS一機を相手にここまでの苦戦を強いられた。それが三機ともなると、全滅の可能性だってある。
「……ヒュー、行ってくれたか。一難去って、また一難か。さぁてどうすっかねぇ、こっちの後始末」
「お前に任せる、剛」
「分かってら」
生徒達の安全もそうだが、何よりもまず今は――。
「……そう睨まないでくれよ。ちゃんと説明するさ」
専用機持ちの生徒達から投げかけられる、猜疑の視線。誤解も何もないのだが、説明くらいは必要だろう。
どうせこれから先の道に後戻りなど出来ないのだから。