「IS委員会より話は聞いています。織斑千冬です」
「俺は天鉢剛。こっちは蔵守叢夜。よろしく頼みます」
IS学園の職員室で自己紹介を一通り済ませ、その後二人はいくつかの注意点を改めて説明されていた。そのうちのいくつかはIS委員会から予め聞かされていた内容と一致する。
「――――こちらからは、以上です。質問は?」
「IS学園の防御機能は機能しているはずでは? それについて少し疑問が」
「シールドが機能しているなら自分達は不要だと、そう言いたいわけですか?」
「歯に衣着せなければ、そうなります」
叢夜の足をさりげなく天鉢が踏んでいた。着任早々にして無礼にも程がある。
「なるほど。確かに言いたいことは分かります。ですが、以前に比べてIS学園全体の機能が低下している状態です」
「よくわかりました。俺からの質問は以上です」
「失礼しました」
天鉢は職員室を出てから、叢夜の胸ぐらを掴んで激しく揺さぶる。
「お前は来てそうそう何考えてんだバカ野郎。相手見て物を言ってくれください頼むやめろぉああがががが!」
――が、素早く手を振りほどき頭部をがっしり掴むアイアンクローの前に屈服していた。
「相手を見ろ、と言われてもな」
「織斑千冬って名前。まさか知らないとは言わないよな?」
「興味ない」
「お前……」
問題行動は厳禁。生徒達とは極力接触を避けるように、と言われているが――既に完全包囲だ。無理もない。男性の職員が新しく二人も突然やってきたのだから。
「なぁ、叢夜」
「なんだ」
「早速注意事項の一つを破っている気がするんだが」
「不可抗力だな」
二人は逃げるという思考を諦めた。
「……?」
ルナリアは悩みながら学園内を彷徨いていたが、いつもよりにわかに騒がしい。丁度良く鈴音がいたので捕まえて話を聞いてみる。
「IS委員会から新しく用務員が二人来たみたいって騒いでるのよ。さっきちょこっと見てみたけど、普通だったわ。男だけど」
(男性職員……?)
その上IS委員会御用達ともなれば、何かあるのだろう。
「アンタ、あの二人怪しいとか思ってない?」
『なんでわかったの』
「顔見れば分かるわよ、なんとなく」
(嬉しいような、悔しいような……)
「大丈夫でしょ。今更普通の成人男性二人くらい。ISだらけの学園で何ができるってのよ」
(……本当に、普通の人ならいいんだけど)
“普通”ではない人間を何人か知っているルナリアからすればにわかに普通とは信じがたい。
「あ、そろそろチャイム鳴るわね。それじゃ」
鈴音の背中を見送って、まだ騒いでいる廊下を一瞥してからルナリアも教室へと急いだ。
それから放課後。ゴミを集めている二人を見かけたルナリアだったが、その時は無視してアリーナでシャルロットと射撃訓練をしていた。
スカー・オブ・グレイブの特性はラファール・リヴァイブ・カスタムⅡに近い。距離を選ばない射撃型のISだが、ルナリアのISはそれに秘匿性が加わる。闇討ち、奇襲、敵の視界外からの一撃が主な役割だ。とはいえ、ルナリア自身の射撃能力が高いからか単独で敵陣に切り込み、かく乱戦法も可能である。
ISを起動した状態でのみ開く右目の邪魔にならないように髪をヘアピンで留めていた。今までそういったオシャレには興味がなかったのだが、気にし始めると邪魔になって仕方ない。
右目と右腕は起動したISと問題なく同調している。むしろ生身の遅れが気になるほどだ。
「どうかした? やっぱり右手の調子悪いとか?」
首を横に振る。逆に調子が良すぎるくらいであることをアピールするように、クライクロスを太もものサイドアーマーから取り出すとターゲットを三つ撃ち抜いた。
そのクイックドロウが開けた穴は中心からややずれている。内心八十点くらいかと一人納得していた。
「え~と、問題なさそうだから一回テストしてみようか」
シャルロットに言われるまま、遠近両方のターゲットを設置する。その中央に向けてルナリアは飛び込み、クライクロスを2丁構えて可能な限り正確にかつ素早くトリガーを引く。結果は、左右で成績が違うものの撃ち漏らしはなかった。
「上々じゃないかな? これで不満があると言われても、ボクにはどうしようもないんだけど……」
「…………」
それはそうなのだが、折角なのでシャルロットにも同じトレーニングをやってもらう。結果は、ルナリアの方が射撃精度が上回っていた。
その様子をアリーナの掃除をしていた二人の用務員が眺めている。だが、すぐに作業に戻った。
「……」
「うーん、やっぱりルナリアの機体はボクと特性が似通ってるからね……ルナリア? どうしたの?」
『なんでもない』
両手が塞がった状態でもスカー・オブ・グレイブはハンドレスで音声通信が可能になっている。失声症も快復の傾向が若干見られるとはいえ、衰えた喉の筋肉から発せられる声は虫ほどにか細い。なので、それを拡大して伝えられるようになっている。
「でも、何が不満なの?」
『武装』
「一言でまとめられてもすごく困るよ……」
火力が足りない! ――と、声高らかに叫ぶほどではないにしろ、現在の武装ではどこか不安が残る。しかし、かといって武装を製造してくれるツテもなかった。
シャルロットを頼ってデュノア社に掛け合ってもらおうかとも思ったが、本人の気が進まないようなことをするのはルナリアも気が引ける。
「そうだ。以前霧島さんから渡された、コレとかどうかな」
IS専用対物質量ライフル《フェンリル》を呼び出したシャルロットだが、ルナリアは首を横に振るばかりだ。それは会社の遺品でもある。自分が使うわけにはいかない。
「うーん、そうなると頼れそうなIS企業……」
『あ』
「あ」
企業、ではないにしろ頼れそうな部隊を持っている部隊長が身近にいた。
シュヴァルツェア・レーゲンを起動してアリーナに降り立つ黒ウサギ隊の隊長ことラウラ・ボーデヴィッヒが仁王立ちしたまま二人の顔を見合わせる。
「む、なんだ。私の顔に何かついているのか? 射撃訓練をするなら一声掛けてくれても良かっただろう、ルナリア」
『ラウラー』
「うん? なんだ」
事情を説明すると「少し時間をくれ」と言ってラウラは自分の部隊へ連絡をとり始めた。
「……すまない、クラリッサに掛け合ってはみたが今月中は無理そうだ」
ガックリとうな垂れる。そうなると頼れそうなのは、セシリア――これも却下だ。そもそも頼るのではなく頼られる側になりたいのだから。しかしそうまで我を通すとなると、それこそ八方塞がりになる。どこかで妥協しなければならないのだが……。
「そもそもの話。ルナリアはどこの所属になるんだ?」
「そういえば……」
「よもや、無所属というわけにも行くまい」
とはいってもアメリカ側からは非公認だ。
『無国籍じゃダメ?』
「箒の二の舞になるぞ」
当然却下である。無所属無国籍のISはどこの企業も国も欲しいだろう。元企業に属していたISとはいえ、引き取り手もないままに会社がなくなってしまっては……ふと、そこで思い当たった。
無いのなら作ってしまえばいいのではないか、と。
『企業か国に所属してればいいんだよね』
「うん。そうだけど」
『じゃあ私、会社作る』
「突拍子もないな……本気か?」
ルナリアは頷き、クライクロスをターゲットに向けて連射し始める。実弾とエネルギーを交互に発射しながら一通り撃ち抜き、満足したように太もものアーマーに収納した。
「でも、どうやって」
『社長が言ってた。困った時には金で解決って』
「まともな事を言ってるようでそうでもないよ!?」
「だが実際その通りなのだがな……」
今すぐ、というわけにはいかない。ひとまずの問題を乗り越えた(?)だけだ。アリーナの掃除を続けている用務員二名は終わったのか、そそくさと退散する。それを横目で見送り、ルナリアは目を細めた。やはり少し怪しい。
(……後でちょっと調べてみようかな)
「とにかく、言えることは。今はその武装でどうにかするしかない」
「ラウラの言う通りだね。焦らずやってこうよ、ルナリア」
『そうする』
るなりー、社長になる(予定)決意。
IS専用対物質量ライフル『フェンリル』=前作ISIBラスト参照。当たれば強い。当たりさえすれば撃ち負けない(理論上)という化物アンチマテリアルライフル。装弾数八発。