来襲
自分の存在に疑問を抱いたことなど一度もない。そんなことは神が望んでいないからだ。故に、彼らはただ動く。
そうしなけれならない、神からの啓示が時折直接頭の中に流れ込んでくるからだ。それはいつだって兄弟たちと同じタイミングで。
今回もそうだ。それに従うだけ。
《目標確認。行くぞ、№1》
《ハッハァ、遅れるなよ№4!》
目標に向けて彼らは降下する。
――全ては神の仰せのままに。
IS学園のシールドが破られる。侵入者は二機のIS、敷地内に着地すると周辺の索敵を行う。だがセンサーに反応はない。
《№2は連れてこなくて良かったのか、№1》
《№3と他の兄弟を迎えに行かせた。俺達二人で作戦は十分遂行できる。暴れるぞ、№4!》
《そうこなくてはな。やるぞ》
二機が武装を展開して構えた直後、接近する反応を確認。対象はIS、その数――たった一機。
早朝よりアリーナで射撃訓練を行っていたルナリアだ。
(まさか、こんな朝から襲撃してくるなんて……)
予告の通りだが、早すぎる襲撃に対策も何もない。
《一人で我らを相手にするか。どうする、№1》
《好きにやらせてもらうぜ、№4!》
黒い山羊頭のISは右手の大型ライフルにエネルギーを充填する片手間に、左手の逆十字を模した実体剣をルナリアへ向けて振るう。朝日を受けて閃く斬撃の間合いから離れながらルナリアはクライクロスを連射する。
もう一機、№4と呼ばれていたISは動かない。両腕のカタールを構えたまま、傍観するつもりのようだ。特徴的なのはその脚部、二機とも逆関節だが細部が違う。しかし、どこか似通ったフォルムから同系統であることが分かる。
地上で戦闘するにはISの特性を活かせない。ルナリアは壁を蹴った反動で黒山羊を足場代わりにしてそのまま上昇する。
《踏み台にしやがったな!》
《落ち着け、№1》
《感情がない俺に指図か、№4!》
大腿部の補助ブースターを起動と同時に跳躍、一息で上昇すると脚部を収納してルナリアを追い、学園の上空で戦闘を継続した。流れ弾が校舎に行かないように気を遣ってはいるが、何分相手の機動力が高い。
《けっ、チマチマとしゃらくせぇ》
右手の大型ライフルが閃光を吐き出す。掠めたスケイスコートが黒く焦げ付き、若干ではあるがシールドエネルギーの減少も確認された。大出力ではあるが連射は効かないようだ。
(当たらなければ……)
《だから時代遅れってんだよ、人間風情が》
黒山羊のISは既に距離を詰めると同時に再充填を開始している。だが、左手の逆十字剣が刀身をスライドさせて投てき。さながらブーメランのように宙を裂いて迫っていた。回避に成功するが、威力を落としたレーザーが直撃する。シールドそのものに影響はないが姿勢が僅かに崩れたルナリアを見下ろして黒山羊のISが脚部を展開した。先ほどの仕返しのつもりか、蹴り落とされたところへ戻ってくる逆十字剣が追撃する。
迫る地面に体勢を整えて着地するが、ハイパーセンサーが警告を知らせていた。もう一機、傍観していた赤いISが突撃している。
クライクロスの連射をものともせず、ショルダーのアーマーを展開、エネルギーシールドを構成するとルナリアに肉迫してエネルギー刃のカタールで一閃した。それを有効打としなかったのか、追い討ちとばかりに蹴り飛ばす。
《獲物を横取りする気か、№4》
《手を焼いているようだからな。潰すぞ》
二機の間を突き抜ける閃光の束に、回避行動へ移った。
ブルー・ティアーズを駆るセシリアが騒ぎを聞きつけて我先にと到着する。BT兵器の攻撃を難なく回避した相手は追撃の手を止めて回避に専念していた。
「ルナリアさん、大丈夫ですの!」
『余裕』
スケイスコートのおかげでまだ大事には至っていない。とはいえ、敵の戦闘能力は決して低くなかった。
《新手か》
《望み通りだ》
「なんなんですの、貴方達は! 名を名乗りなさい!」
スターライトmkⅡを向けながらセシリアの元にブル-・ティアーズが戻ってくる。
《我らが何か、と存在を問われれば我らも知らぬ》
《そいつを知るために、俺達兄弟はここに来た。目的は達成されている》
「なんですって!?」
《ただ我らは神命に従ったのみ。IS学園を襲撃せよ、と》
《後のことは知ったことか。好きにやらせてもらうだけだ》
黒山羊のISが右手の大型ライフル『ラビー』のエネルギー充填を終えて地面をなぎ払う。土を焼き、抉り、荒らしただけの無意味な破壊行動。
《人間、名を名乗れと言ったな! それは俺たちの個体名か》
《もしそうであるならば。№4、アリエス・ザ・ブラッドストーン》
《№1、カプリコル・ザ・オプシディアン。記憶してもらうまでないがな》
目的はただ、IS学園を襲撃すること。たったそれだけのことだ。他には何もない。
他の専用機持ちのメンバーも続々と到着してくる。
それだけの数に囲まれてなお、二機のISは微動だにしなかった。数の不利さえものともしていない。
スケイスコートを翻して、ルナリアは『ラストレイション』を構える。二条の閃光を難なく避けたカプリコルとアリエスを分断し、それを追って一夏、箒、鈴音、シャルロット、ラウラが交戦を開始した。
「ラウラ。どう思う?」
「どうとは?」
今、シャルロットとラウラが追うのは赤いIS、アリエス・ザ・ブラッドストーン。自らを№4と名乗った。独特なシルエットをしている脚部に、両手のカタール。両肩と両腕にはシールド発生装置。頭部は羊を模しているのか渦巻き状のアモン角型強化ハイパーセンサーを搭載している。鈴音が衝撃砲を背後から撃ってもかすりもしない。戦闘する場所を変えて、海面上で反転する。
《ここならば、お前たちも存分に戦えるだろう》
「ふん。気を遣ったところで手加減などしないがな!」
「行くよ、二人共」
「勿論。乙女の安眠を邪魔する奴は、馬に蹴られて何とやらよ!」
《馬はここにいないようだが?》
ジョークともとれない電子音声に鈴音が双天牙月を振り下ろした。それを捌いてアリエスはシャルロットのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡからの射撃を回避する。足を止めればラウラのシュヴァルツェア・レーゲンがブリッツを発射して反撃の手を許さない。しかし、それがどうしたとでも言わんばかりにアリエスは回避行動を続ける。攻撃が当たらないのを察したのか、シャルロットは射撃の手を休めてラウラの隣に降りた。
「シャルロット。さっきの質問はどういう意味だ」
「あのIS……何か妙じゃない?」
「今は戦闘に集中するべきだが……」
果たして、交戦する意思があるのかどうかすら怪しい。IS学園を襲撃する、それだけが目的のようだが、学園に危害を加えようともせず今は鈴音に追われて近接戦闘で互角に火花を散らしていた。二人は蚊帳の外の扱いをされている。
「ボク達の攻撃を見向きもしないで全部避けてた。いくらハイパーセンサーでもあれは……」
「私も死角から狙ってはみたが、確かに何か妙だ」
『ちょっと、話してないで手伝いなさいってば! こいつ結構すばしっこいんだから!』
「鈴に怒られちゃうね」
「そうだな。後にするぞ、シャルロット」
鈴音はそんな怒りを飛ばしながら、当たらない双天牙月に苛立ちを覚えていた。瞬発力が高い逆関節だからか、一度は詰めた距離を跳躍で離されては追いかける。小馬鹿にされているような機動に龍砲を連射しても水飛沫が上がるだけで当たらない。
カタールの刃だけが射出されて双天牙月に絡まる。エネルギーワイヤーを巻き取りながらショルダータックルで甲龍に衝突すると、さらに引き寄せて蹴り飛ばして離脱。その後を追ってワイヤーブレードがアリエスを狙う。
《邪魔をしなければいいものを》
カタールで弾き、柱にワイヤーを伸ばして避ける。水上を滑りながらデザートフォックスから逃れ、アリエス・ザ・ブラッドストーンはレールの上に着地した。
「ダメだ、全然当たらない」
「なら、当たるまで撃つぞ」
「勿論!」
「二人共、アタシには当てないでよ?」
《無駄なことを……だが、それでいい。そうでなくては我らの意味がない》
全ては神の仰せのままに。なぜならば自分達はその為に存在している。
『黒山羊』
№1 カプリコル・ザ・オプシディアン
逆十字剣『アルゲディ』
光学ライフル『ラビー』
バランス型の武装を持つ山羊頭のIS。目的は『IS学園の襲撃』のみであり交戦は意図していない。本来であれば他の『兄弟』を迎えに行かなければならなかったが『神の啓示』に従ってIS学園へと襲撃する。
『赤羊』
№4 アリエス・ザ・ブラッドストーン
カタール『ハマール』
攻防一体型ショルダーユニット『シェラタン』
エネルギーシールド『メサルティム』
接近戦と防御能力に重点が置かれた武装のIS。№1同様に『IS学園の襲撃』そのものが目的であり、交戦は意図していない。両機は本来であれば№2も含めた三機で行動を行っていたが、№1と共に『神の啓示』を優先して行動した。