インフィニット・ストラトス―Ins―   作:アメリカ兎

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選定

 アリエス・ザ・ブラッドストーンの武装は近接戦闘に特化している。それはカプリコル・ザ・オプシディアンとの連携、№2アクリオス・ザ・ガーネットの援護があるからこそ真価を発揮できる設計だ。だが、単機であってもその強化型ハイパーセンサーによって得られる知覚情報の処理速度は両機を上回る。故に、アリエスには死角となるべき角度が存在しない。

 ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡとシュヴァルツェア・レーゲン、そして甲龍の集中砲火であってもだ。そのツインアイが捉えるのは怒涛に押し寄せてくる実弾。その軌道を計算、算出した角度から逃れる。曲がりでもしなければ射撃行動が当たることはない。そうでなければ、知覚できない光速を超えた速度でもなければだ。

 しかしそれには欠点が存在する。回避行動そのものに専念すれば当たることはないが、同時にこちらも近寄ることができないことだ。現状で保っている距離が接近できるギリギリのライン。これ以上接近するとなると、処理速度が間に合わなくなる。その距離を詰める為に攻防一体型のショルダーユニット『シェラタン』が搭載されているが、余分なエネルギー消費は控えたい。

 痺れを切らして甲龍が接近すれば自然と射撃の手も薄れる。そうなれば接近できるが、自在に操られる薙刀を掻い潜って射撃型の二体に接近することは至難の業だ。

 アリエスは思考する。――果たして、どう突破すべきかと。

《流石、と言うべきか》

 素直な賞賛の言葉が漏れる。それに驚いたのは鈴音以上にアリエス本人だった。

《選ばれただけはある。惜しくは、我ら兄弟の選定から外れたことか》

「なに、言ってんのよ!」

 至近距離から放たれる龍砲を、シェラタンを稼動させて前面へ展開し、防御する。

《“最強”か……その称号に、何の意味がある》

 双天牙月が連結、両刃となったそれから逃れてアリエスはエネルギーワイヤーを伸ばす。そこへ、突如として横槍が刺さった。

《№1、どうした》

《予定変更だ、№4。№3が予定外の行動に出やがった。№2が手を焼いている》

《ならば致し方あるまい。襲撃には成功している、そちらへ向かうか?》

《当然だ!》

 ラビーの銃身が開く。放熱を重視した強制冷却状態へ移行し、限界まで充填速度を上昇させたライフルの最大出力でシャルロットとラウラをなぎ払う。それを追って一夏達も合流するが目立った損傷は見られない。

《元より我ら兄弟が揃わねば、意味はない》

《そういうことだ。次に来るときは№2も連れて来てやる、楽しみに待ってろよIS学園!》

 海面へ向けて連射すると、蒸発した海水で目を眩ませて二機はIS学園から撤退していく。その無防備な背中を狙撃したセシリアだったが、速度を緩めないままにターンしたアリエスが防御する。

 気づけば日は昇り、始業のベルが鳴っていた。ISを起動させて迎撃に向かった専用機持ち各位は制服に着替えた後に職員室に呼び出されることとなる。

 

 

 

 早朝よりの襲撃に関して、いの一番に相手をしていたルナリアが一部始終を説明した。昨晩のメールに関しては教職員のパソコンにも送信されていたらしい。

 戦闘の被害は幸いにも少なく、校舎に損害はなかった。用務員の仕事が増えたくらいのものである。

「勝手に出撃したことに関して、今回は不問とする。予告もあったことだしな」

 職員室から退室する一夏達と入れ替わりで、用務員二人が呼び出された。

 今日は朝から雑草抜きとその他学園の手入れをしようかと思っていた矢先にである。天鉢はなんとなく呼び出される理由について心当たりがあった。隣の叢夜はあくびを噛み殺している。なんとも気楽なものだ。

「俺たち二人に何か?」

「用がなければ呼んでいません。今朝、IS学園を二機のISが襲撃してきたことに関しては」

「あんだけでかい音で戦闘されたら嫌でも起きます」

「交戦した生徒達の話では、無人機であるとか。それも、黒い山羊頭の」

 そんなことだろうと思っていた。しかし、それだけが呼び出された理由ではないだろう。IS委員会に雇われた身分としては何を言われても従うしかないのだが。

「黒山羊のISともう一機は?」

「赤い羊頭のISだそうですが、なにか?」

「我々を襲撃したISと一致しますね」

 叢夜は淡々と告げた。だからこそ頭を悩ませている天鉢をよそにして。

「ですが、それだけで俺たちを呼ぶとは思えませんが」

 黙らせようと天鉢がフックで顎下を狙うが、難なく躱されてカウンターの裏拳が鼻っ柱に激痛を走らせた。

「~~~~ッ!?」

「何故、IS委員会に雇われたか覚えていますか?」

「俺たちがISに襲撃されて、それでも生き延びたからですか」

「それなら他にもいるだろうが……」

 涙目になりながら口を挟む天鉢を横目で睨み、視線を戻す。

「というか今回で俺達が受けた仕事、ISに襲撃されたの何回目だ」

「四回」

「三回だバカ野郎」

「記憶にないな」

「喧嘩売ってんのか」

「買うぞ?」

「やめてくれ……」

 その話は知らなかったのか、千冬が多少驚いていた。IS委員会から二人が選ばれた理由はその生存率の高さだけかとばかり思っていたがそうでもないらしい。詳しく尋ねると、六年近く民間軍事会社に所属して、この一年の間に三回襲撃されている。

「冗談はともかくとして。俺達が所属していた民間軍事会社と何か関係が?」

 よほどの理由でもない限り、完全不干渉のIS学園へ派遣させるようなことはない。学園側から無関係の国家・企業の干渉を絶っている以上は、関係者として迎え入れる他になかった。

「二人は、対IS専門の訓練も受けていたと」

「正確には『対ISになりうる防御訓練』です。内容としては伏せさせていただきますが」

 ISを持たない、もしくは持つことが出来ない企業は有り触れるほどに存在している。それはごく当たり前に。そうなれば当然、自衛手段の用意も当然と言えた。だが世界最強の兵器を前に生身の人間は余りに無力である。なら、どうするか。襲撃された際にはどのようにして身を守るべきか。戦車や戦闘機などとは勝手が違う。相手は戦闘機以上の機動力に戦車以上の装甲を兼ね備え、歩兵以上に柔軟性に富んでいる。だが共通して、無力化できないことはない。どんな天才であろうとも人間が作ったのならば、必ずどこかに欠点はある。不完全な人間が作り得る物に完璧などという二文字は存在しない。二人の所属していた民間軍事会社はそれをスローガンにしていた。

「率直に尋ねますが。お二人でISを無力化させることは可能ですか」

「不可能です」

 叢夜は即答した。

「我々が受けていた訓練にISを無力化、又は鹵獲する物は存在しませんでした。あくまでも防衛手段として足を止めることなら可能です」

「なるほど」

 射撃に対する回避能力の高さから鑑みて、その足止めも可能かどうかすら怪しいところだが。今回は相手に想定外の事態が発生して撤退してくれたからいいものの、本格的に攻め込んでくれば苦戦は免れない。そうなれば学園の被害も増えるであろうし、相対的に考えて二人の仕事が更に増えるという事態に陥いる。それだけは勘弁願いたい叢夜としては全力で尽くす。

「もし、我々二人を用務員としてではなく“戦力”として見るというのであれば装備を調達して貰えれば尽力致します。見ての通り、丸腰ですので出来るのは避難誘導くらいのものです」

「ISに殴りかかってよく言――おぶぁ!?」

 今度は肘鉄がみぞおちを抉った。

「今、なんと?」

「妄言です。忘れてください」

「気にしませんが」

「装備の調達に関しては、IS学園から前会社の方へ話を通してくれれば可能かと」

 それに、千冬は眉を寄せる。最新鋭の装備でも何でも、IS委員会の方から話が通れば恐らくは取り寄せることは出来るだろう。

「その理由は?」

「使うのなら、手に馴染んだ愛用品の方が良いので。新品頼んで給料からさっぴかれるのはゴメンですね」

「できるだけ絞ってリストアップするんで、頼めますか」

「ええ。無理のない程度に」

「……それと最後に一つ」

「何か?」

「織斑先生、別に敬語でなくても結構ですよ。俺は気にしませんから」

「そういうことなら、これからは遠慮なく言わせてもらうとしよう」

「それでは、俺達は草木の手入れでもしてきます。失礼しました」

 終始、叢夜は無表情だった。




民間軍事会社『USA2』:『united soldier anti armor』の略称である叢夜と天鉢が所属していた会社。『装甲を攻略する為に団結した兵士達』の意訳通り、対機甲に重点を置いている。近年では対IS防御訓練も実施しており、その内容は『ISを前にして如何に生存し続けられるか』という物(生存していられる時間の計測なので、死ぬまでが訓練の一貫した主旨である)。あくまでも対機甲訓練の延長線上であるので本来の目的は、正規軍が機甲部隊との交戦において膠着状態に陥った際の状況打破であり、敵兵器の無力化。随伴歩兵の鎮圧。
会社のエンブレムは星条旗を持った二羽の兎である。本社はアメリカ合衆国。
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