天鉢と共に雑草を引き抜き、それから伸びすぎた枝を切り落とす。土のめくれた芝は張り替え、崩れたブロックも敷き直していた。
「本気でやるのか?」
「何がだ」
うまくはまらないブロックを何度も蹴ってはめる叢夜は顔を上げようともしない。
「だから、あの無人のISと本気でやり合うつもりかって話だよ。別に俺たちが引き受けんでもどうにかなんだろ、ここなら」
「そうかもしれないな。ふん!」
思い切り踏みしめ、押し込むとブロックはピッタリと収まった。多少キツいくらいが丁度いい。砕けているものは猫車に乗せてまとめて片付ける。
「というかなんで俺達がこんなんやらなきゃならねぇんだよ。業者呼べ、業者」
「ISで十分だろ」
「災害救助なり土木建築業用のISぐらい作れよどっかの会社……」
愚痴を漏らしても仕事は進まない。黙って手を動かすことが最大の効率だ。
「足止めすることに文句言うわけじゃないけどな? 給料上乗せでもされない限りお断りだぞ、俺は」
「お前は何を言っているんだ」
「お前は何を考えてんだ!?」
「考えても見ろ。俺たち二人は、恐らく世界で初めて、公の場でISと戦う場所を用意された人間だぞ。名誉なことじゃないか。装備も用意してくれる。最終的にはISの支援も受けられる。その経験を活かせば軍用ISの発展にもなる」
「もしそれを本気で言ってるんだとしたら、イカれてるよ、お前」
「それに付き合う自分を棚に上げて欲しくないな」
「そうだった。あ、やべ」
前方不注意から縁に乗り上げた猫車を倒して乗せていた瓦礫をぶちまけてしまう。その様子を見ていた生徒達からクスクスと笑いが漏れていた。
「あーあー、やっちまった……」
「なにをしてるんだか」
「言うならお前が押せ。ったく、そもそもISの軍事利用は禁止だろ」
「それもそうだな。だが、それを投入された戦場が来ないとも限らない」
「そんときゃ全員くたばるだけだな」
「やられたら倍返しが基本だ」
余計な手間を踏んで、一服する。学園の敷地をざっと眺めただけでも利用できそうな場所は有り余っていた。
「それで、下準備するとなると……まず“目”からだな」
「“足”はどうする。そっちは相手がどう見えてるかにもよるが」
「ハイパーセンサーなんてとんでもねぇもん積んでるしなぁ」
あーでもない、こーでもない。どこに何を置く、どこから狙う等話しながら二人はIS学園の敷地を整備していく。
「こうして見るとどっからでも狙えそうなもんだが……相手が相手だしな」
「モスマン狙い撃つようなものだな」
「そこはスカイフィッシュにしろ。なんでモスマン選んだお前。そもそもUMAじゃねぇか!」
「戦闘機よりもそっちの方が近いと思った」
「お前、宇宙人とでも殴り合うつもりか?」
「俺の拳の射程距離に入れば」
「知ってたが言わせろ。バカ野郎」
他にかける言葉が見当たらない。
「…………」
そんな二人を観察する一人の少女、ルナリア。
「何してんの?」
そんな少女の後ろから現れる少女、鈴音。突然声をかけられて驚いたのか、慌ててメモ帳を落とした挙句お気に入りのペンを踏んづけた。土のついたペンを見て解せない表情のルナリアに、鈴音はなんと声をかけるか悩んだが、素直に謝る。
「で、なにしてんのよ。そんな角から覗き込んで」
『用務員観察』
「冬休みの課題にしては随分生々しいわよ……で、なんか分かったの?」
『とりあえず話題が物騒』
「あっそう。右手、使わないの?」
『メモ帳使いたい気分』
「あ、ああ……そう」
どうせなら筆談の方が慣れていた。便利なのはいいが、あまり頼るのも良くない。どちらかといえばルナリアは目立ちたくない方だ。
「…………」
「…………」
じー。
物陰からこっそりと用務員を見守る二人の少女。ルナリアと鈴音。
今のところは談笑しながら学園の整備を進めている用務員二名を観察する。両名共に体格は良いが、特に無愛想な方は頭一つ抜けていた。ラウラくらいなら肩に乗せていてもおかしくない。
その事を鈴音に伝え、二人で想像してみる。
「…………」
「…………」
笑いを堪えながら観察再開。
「……なにしてますの、お二人共?」
セシリアが見るからに怪しい二人の背後から声を掛ける。
『…………』
そして増える観察者。
「ところで、一体何が目的ですのこれ」
「なんかあの用務員二人が怪しいから監視しようってルナリアが」
「そうですわねぇ……今朝の襲撃があってもあの落ち着きよう。確かに何か怪しいですね」
落ち着いているどころか、新しく被害の出た場所が既に元通りにされていた。まだ放置されていた瓦礫の運搬と修繕作業にも取り組んでいる。用務員というよりはもはや建築業者のような立ち位置だ。今はペンキがどうだの砂鉄が必要という会話をしているが取り留めのない内容にあまり意味が見い出せない。そもそも砂鉄を持ち出してどこの整備に使う気をしてるのだろうか。
「織斑先生に聞いてみては」
「……山田先生で妥協しない?」
『職員室に忍び込んで二人の書類を盗む』
「発想が危ないからルナリアのは却下」
『学園のコンピューターハッキングは?』
「どうしてそうイチイチ考えが危ない方向なのよ!?」
『ふえぇ』
「ふえぇじゃないから。もうちょっとマシな考えはないの?」
「では仕方ありませんわね。山田先生に尋ねるとしましょうか」
「ごめんなさい。あの二人について、私の口からはちょっと」
あえなく玉砕した。
「時間を無駄にした気分だわ」
「私もです」
『同じく』
「言いだしっぺが何言ってんの!?」
「そうですわ!」
『ふえぇ』
「困った時にそれ書けばどうにかなるとか思ってないわよね!? あ、逃げた! 図星でしょ! ルナリアー、コラー!」
突然走り出したルナリアを追って鈴音が廊下を走り、それにセシリアが遅れてついていく。
「オルコット、廊下を走るな」
「私だけどうして……」
運悪く千冬に捕まったセシリアが後に半泣きで二人に追いついた。
「ひどいですわ二人共、私を置いていくなんて」
「遅かったじゃない」
「私だけ織斑先生に捕まって怒られましたのに!」
『お気の毒に』
「これもルナリアさんが逃げたのが原因ですわ! 逃がしませんわよ」
抱きつかれ、逃れようとするのをセシリアが捕まえるとおとなしくなる。心なしかルナリアの顔が少し赤くなっていた。決してそちら側の趣味があるかと聞かれれば、どうなのか。
「それにしても、思い出すだけで腹立つわ。あの赤い羊、人のこと小馬鹿にしたようなことして。当たらないったらありゃしないのよ?」
「私達が相手した黒い山羊のISも同じでしたわ。ブルー・ティアーズの攻撃を避けるというのは……」
「?」
「いえ、ルナリアさんは例外としておきましょうか」
ほぼ強行突破で攻略されたようなものだ。
「何か対策とか取れればいいんだけどねー」
「そうですわね。もう一機を連れて来る様なことも仰ってましたし」
「どうにかならない? ルナリア」
「どうにかできませんこと、ルナリアさん」
「!?」
なぜ解決策を自分に振るのか。突然言われても思い浮かばない上にセシリアに捕まったままでは筆談も難しい。首を右に左にと傾けて考えるが、射撃を封じられるとなると接近戦しか解決策がない。一夏か箒か鈴音の三人だろう。次点でラウラとシャルロットの二人だ。セシリアとルナリアは近接武器に乏しい。牽制しつつ一撃必殺。そうなれば白式のワンオフアビリティ『零落白夜』が頼みの綱になる。もしくはラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの切り札とも言える『盾殺し』か。
(それを打ち込める状況に持ち込むのが難しい話なんだけど……)
相手も近接寄りの機体ならばその状況を作るのは容易かもしれないが、一番の問題は当たるかどうかだ。シールドエネルギーが0になったとしても、機体を破壊しなければ相手は戦闘を継続する。無人機である以上は絶対防御など不要な機能だ。搭乗者の命の危険など最初からない。ISの弱点らしい弱点と言えば絶対防御の大幅なエネルギー減少くらいだ。――もっとも、その絶対防御すら機能しない非殺傷性の兵器が相手では何も意味はないが。
「なんか無いの? ほら、動き止めるとか」
(考えてるけど、それが出来そうなのが今は……)
『リリウス』でも持ち出せれば多少は違うかも知れない。電磁投射砲の構造からなる副産物としてEMPを発生させることができるかつての主兵装もスクラップだ。砲身の半数以上が欠損、機関部も大破しており修復は不可能な状態でルナリアの手元に残っている。今や立派なオブジェクトだ。
現状ではどうにもできない事を否定の意思で示すと、二人からため息が漏れる。
「どうにかなりますわ」
「そうね。どうにかするしかなさそうだし、為せば成るって言うからにはどうにかなるもんなのよ」
(そのどうにかをどうするか話してたような気がするんだけど)
「っていうかセシリア。アンタいつまでルナリアに抱きついてるつもりよ」
「抱き心地が良くて、つい。失礼しましたわ」
「そうなの? じゃあアタシも」
言われて興味が湧いたのか、鈴音がルナリアに抱きつこうとして躱された。
「ちょっと、なんでセシリアはよくてアタシからは逃げるのよ!」
スカッ。
「ルーナーリーアー!!」
鬼ごっこ、再開。
一難去って、はい日常! 今回は息抜き増です。
超長距離電磁投射狙撃砲『リリウス』:前作ISIB、ルナリアの愛機『トライアレンド』の主兵装。多層構造の機関部からの出力は絶大なもので地表より衛星軌道までが射程距離。排熱機構及び立ち上がりに難所を抱えている。通常形態だけでなく、強制速射状態と完全銃身展開(フルバレルオープン)と独自の形態を兼ね備えていた。
完全銃身展開状態でかかる銃身への過負荷によりスクラップ状態でIS学園へと送還され、現在はルナリアの元へ。