インフィニット・ストラトス―Ins―   作:アメリカ兎

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諜報

 

 ――襲撃より一日、また一日と流れ、いつまた無人機が来るとも知れない緊張感が解れつつあるIS学園の休日。

 その日も朝からルナリアは自分のISと睨めっこしていた。積載武装が決まらない。どうにもならないモヤモヤに本日三本目のゼリー飲料を空にする。ふと、それで買い置きがなくなった事に気がついた。都合よく本日は休みなのでショッピングモールに出かけようと思い、早速行動に移す。

 その途中で用務員二人がベンチに腰掛けて話し込んでいたので聞き耳をたてて隠れる。朝から仕事をサボっているのかそれとも休みなのか。どちらにしろ学園の整備は進めて貰いたい。

「――んで、リストアップした結果がこんだけか? いくらなんでも無理だろこれ」

「お前よりは安いはずだが」

「そりゃそうだろうよ! カラースプレーとカラーボールなんて売ってんだろ。つうか何に使うんだよこれ」

「戦闘以外で防犯にも使える」

「自腹で買ってこい」

「それを言ったら剛。お前はどうなんだ。このAS50とM24は」

「実用性で選んだ。ボルトアクションは趣味だ。お前だってM79注文してんじゃねぇか」

「比較的安い」

「叢夜、お前スーパーで投げ売りされてる商品とか買い込む人間だろ」

「安心と信頼と実績のお前がいる分、俺はそれぐらいで間に合う。頼りにしてるぞ」

「……人の仕事増やしやがって」

 話を聞いている限りでは、銃器の申請を進めているようだ。しかしそれが生徒用とは思いにくい。自分達で使うのだろうが、IS委員会から派遣された用務員が話す内容にしては過激すぎる。

「ん? ……今の話、聞いてたか」

「……」

 姿を現しても、特に驚いた風もなく天鉢はベンチ越しに振り返る。その問いに、正直に頷いた。それから、何かを考えこむ素振りをしてから叢夜が話を続ける。ルナリアはメモ帳とペンを取り出した。

「この間の無人機。あれが俺たちをどう見てるかわかるか? ……ああ、正確には視界がどうなっているかという意味だが」

 ISに搭乗している状態でも、ハイパーセンサーの補助があるとはいえ知覚できる情報には限りがある。それは人間の脳の処理速度と反応が追いつくかどうかだ。その点を取り払った無人機の視界がどうなっているか。恐らく、それは普通の人間であれば想像だにできないだろう。工業学校のロボットなどではなく、ISという兵器が見る世界。

 それに一番近い感覚を持っているのは、他でもなくルナリア自身がよく知っている。今は閉じられている右眼も、スカー・オブ・グレイブを起動さえすればハイパーセンサーと同期して『ISの視界』を確保できる。まだ不慣れな点はこれから徐々に慣れていけばいいが、そんな余裕も今はない。

『多分』

 不確定要素が多い分、確証は得られないルナリアはそう書いた。

「……無いよりマシだな」

「情報は何者にも勝るってな、良かったらそいつを教えて貰いたい。今後の対策を含めて」

『条件が一つ』

『あなた達の正体は?』

 続けざまにそう書いて、二人が顔を見合わせる。

「知っての通りだとは思うが、IS委員会から派遣された用務員だ。ちょっとしたいざこざから雇われた身分だけどな」

『信頼に足る情報が欲しい』

「信用してないってか。こりゃ手厳しい」

「なら、交換条件だ。こちらはそちらから得られた情報を元に無人機の対策をする。そちらはそれで敵を撃破する。お互いに利用してくれればいい」

「そうだな、そいつが一番だ。余計な交流は避けるようにとも言われてるし。お嬢さんが嫌ならそれでいいさ、俺達がどうにでもする」

「……しかし、どうする。そうなると昔のツテを片っ端から聞いて回るか」

「IS企業たって、どうせ委員会の方から検閲入るだろ。そう簡単に情報仕入れられたら苦労しねぇ。実状じゃ俺たちはIS委員会に目をつけられて此処にいるわけだしな」

 どうあっても二人が仕入れたい情報らしい。しかしIS企業の知り合いがいると聞いてルナリアが食いついた。

『IS企業に知り合いが?』

「仕事の関係上、顔と名前は知られてるな」

「おい、叢夜。普通の企業ならまだしも俺達の知ってるIS企業は……まぁ、ワケありだ。すまないがこれ以上は止めておこう、互いの為にならん」

「俺は一向に構わん」

『私は一向に構わない』

「お前仕事の重要性知らねぇからそういうこと言えるんだよ!」

 結局、その時は話をうやむやにされてしまった。

 

 

 

 ショッピングモールで買い物をしていて、ふと見つけた本屋へ立ち寄る。目的は男性向け情報誌、毎月発売しているモデルガンのカタログだ。この数ヶ月ほど読む機会はなかったが、久々に思い立って手にする。

 パラパラとページを捲り、やはり片目では私生活がやや不便に感じた。日常生活で使うには持て余す性能の右目をどうにかできないかと思いながらもページを捲る手を休めることはない。一通り読み終えてから棚に戻す。購入しようかと思ったが、今月号では手を出すほどの内容ではないと判断した。代わりに、ある情報が載っていたので店内を探す。

 そして、それはほどなくして見つかった。会計をする際の男性店員の微妙に苦い表情が気になったが、品揃えの良い店であることにルナリアは上機嫌で店を後にする。

「ルナリアー」

 店を出た直後に、シャルロットとラウラに声をかけられた。二人もこれから店に向かうようだ。

「奇遇だな、こんなところで会うとは」

「何買ったの?」

 手に持っている袋の中身が気になるのか、ルナリアは封を開けて中身を取り出して見せる。タイトルを見たシャルロットとラウラが微妙な表情をしていた。

「……『現代翻訳版・男を魅せる45口径百選』」

「ま、まぁ趣味はそれぞれだからな……」

 世界各地で好評発売中に伴い、日本語版も先月発行されたばかりらしい。

『二人は?』

「え? えーっと、ボクとラウラは……」

「む、シャルロット。急がないとそろそろ開店時間だ」

「ホントだ! ゴメンねルナリア、後で説明するから!」

「?」

 慌てて走り出す二人を見て、それから目に付いた張り紙の内容に納得した。

『本日限定出店! 今話題のあのクレープ屋さんがやってくる!』

(どのクレープ屋さん?)

 デザート等は確かに魅力的ではある。ルナリアだって女の子だ。興味はある。しかし、どうしても自分が手にしてしまうのは気づくと買い物袋の中にあるゼリー飲料。手軽に摂取できて尚且つコストもカロリーも余り気にならない。

(今度セシリアを誘ってみよう。好きそうだし)

 そうだ、そうしよう。決して一人で行くのが恥ずかしいとかそういうわけではない。これは違う、犠牲者を増やそうとかではないのだ。ルナリアが自分にそう言い聞かせていると、右腕に違和感が走る。周囲を見渡して、それから人気のない場所へ向かった。とはいえショッピングモールで人気の少ない場所はあれど、人のいない場所は限りなく少ない。その結果、トイレの個室へ走り込む結果となった。

 空間を撫でてモニターを展開する。そこには暗号通信、秘匿回線で篠ノ之束が『sound only』にデフォルメされたウサギのアバターで映りこんでいた。ルナリアはそれに肩を落とす。

『やっほー、束さんだよ。調子はどうだい? ああ、言わなくても分かるよ。順調みたいだね。慣れない所はあると思うけど、そのうち慣れるでしょ』

『用件は?』

 こちらからは音声を伝える事が出来ないのでチャットで返答する以外にない。

『IS学園にまた新しい脅威が迫ってると思って、君に聞こうかなって。ちーちゃんに聞こうかと思ったけど、忙しそうだし? 年末だもんねー。それで束さんが調べた結果なんだけど』

(もう調査済みなんだ……)

『妙なんだよねぇ。ISコア・ネットワークには何も異常なし、それどころか成長を促されている所を見るに束さんもお手上げ。バンバンザーイ、なんちて。そこで思ったんだけど、別に問題がないなら放置しておいていいよ。情報共有による成長促進なら私も興味はあることだからね。手に負えない程の相手でもないみたいだし、ちょうどいいくらいの敵なんじゃないかな』

 束の喜びを表現しているのか、ウサギのアバターが両手を挙げて身体を揺らしている。あの無人機が世界をどうかき回しても知ったことではないようだ。

『あなたがそう言うなら、私もそれでいいと思う』

『別に同意は求めてないよ』

『IS委員会に雇われた男性二人について情報は?』

『あるよ。教えてあげてもいいけど……どーしよっかなー』

 もったいぶるアバターの素振りに、ルナリアは若干苛立ちながら次の言葉を待つ。

『……ん。ちょうどいいかな。じゃあ条件を一つ』

『なに?』

『今、ちょーど束さん特製レーダーが反応を捉えました! 数は三つ、うち一つはそっちに向かってるね。残りの二つは学園まっしぐら。撃退できたら教えてあげるよー。じゃあね』

 一方的に映像を切られ、ルナリアは舌打ちした。

(反応が三つ、前の無人機しかいない。だとすると……)

 考えるまでもなく、外から人々の悲鳴が挙がっている。既に襲撃は始まっているようだ。

(言うのが遅いし、来るのが早すぎる!)

 誰に言うでもない文句は銃弾に込めるとして、ルナリアは撃退に向かった。

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