ショッピングモールの騒動は人々の喧騒だけだった。破壊活動を行うでもなく、そのISはただ逃げ惑う人々を眺めている。
赤と黄色のツートンカラーは人目を惹くが、その色合いが凶悪性を際田させていた。黒山羊でもなく、赤羊でもない未確認のIS――恐らくは№2と呼ばれる新手だ。ルナリアは即座にスカー・オブ・グレイブを起動させる。それでも、相手は動こうとはしなかった。
《今しばらく、お待ちを》
「……?」
待っている暇はない。が、相手は武装を構えるでもなければただじっと何かを待っていた。やがて、人ごみを掻き分けてシャルロットとラウラが走ってくる。口の端にクリームが付いているが気づいていないようだ。
「ルナリア!」
「私達もやるぞ、シャルロット!」
「うん! ……ラウラ、口の端にクリーム付いてるよ」
「シャルロットこそ」
『……食べてきたんだ、クレープ』
ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ起動。シュヴァルツェア・レーゲン起動。三人を前にしても、現れたISは戦闘の意思を見せなかった。まだ何かを待っている。
《……了解しました、№1。こちらもミッションを開始します》
そこで、ようやく。人気がなくなった頃合を見て武装を展開した。両腕部にレーザーブレード、そして背面に背負った大型エネルギーランチャーが左肩から前方に砲塔を向ける。
《私は№2、アクリオス・ザ・ガーネット。お初にお目にかかります》
「あの無人機の仲間か」
《肯定です。私の任務はIS学園の襲撃ですが、あなた方の足止めでもあります。もっとも、本来であれば残りの兄弟を迎えに行くべきでしたが……№1にも困ったものです。神の仰せに逆らうとは》
「ボク達の足止め……? それじゃあ」
《現在、学園の方へ№1と№4の両名が挑戦していることでしょう。ですが、あなた方を行かせるわけには行きません。それが私のミッションです》
「破壊する以外に、ないってこと」
《肯定します。それが可能であれば》
あの二機とはまた違う性格に、少々やりにくさを覚える。だが、敵である事に違いはない。
《あなた方にとって、被害を広めることは不本意であると存じますが?》
「……」
クライクロスを向けたルナリアの手が止まった。相手はそれを見越して、上空へと移動する。
「なんか、やりにくい相手だね」
「だが敵だ。やるぞ!」
『相手の能力は未知数。気をつけて』
アクリオス・ザ・ガーネットの武装はラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに類似していた。さすがにAICまでは搭載していないとは思いつつ、両腕部のレーザーブレードには注意する。つかず離れず、中距離を保って戦闘を続けることが出来れば勝機はあるだろう。問題は回避能力だ。№4同様に射撃回避能力が高かった場合、一気に勝算は薄れる。
《なるほど。いい連携です》
ブレード発生装置は実弾に対する盾にもなるのか、クライクロスの実弾を防御していた。だが、エネルギー防御が薄いのか回避行動も交えて攻撃から逃れている。それをシャルロットが追い、更にラウラが畳み掛けていた。相手も左肩のランチャーを狙う暇がないのか黙っている。
「ふん、余裕ぶっていられるのも今のうちだ!」
《そのようですね》
大型の砲塔はそれだけで動きを制限する。だが代わりに一撃の火力が重い。
《シェアト》
ランチャー側面の装甲がスライドして現れたサイドブースターを吹かして射線から一瞬で逃れる。しかしルナリアは照準に収めて、クライクロスを向けた。次の瞬間、クイックドロウがスカー・オブ・グレイブの防御兵装を抜いてシールドにダメージを与える。シールドの減少に面食らっている間にシャルロットも同じような一撃を食らい、不意を打たれて距離を離した。
その右腕に握られていたのは、三点保持のリボルバー。バズーカを片手に収めたような口径が硝煙を漂わせている。
「まずい、避けろ!」
左肩のランチャー『シェアト』が青白い光を漏らしていた。その射線から逃れるのを見越してか、アクリオスは二人が避けた瞬間に砲塔を展開する。バレルを切り離したその中身は、小型の砲台が集合して出来上がる連装型ランチャーだった。
拡散する光条が逃げ場を塞ぐ。足を止めればマグナムリボルバーが銃弾とも砲弾とも取れない弾丸で正確に狙ってくる。その流れ弾はショッピングモールに当たらないようにしているのか、位置取りを変えていた。
ブリッツとシェアトが衝突し、爆風に煽られてガラス張りの天井が震える。
《極力、被害は抑えたいものですが》
「それでお前に何の得があるというのだ」
《単純にそちらの都合を考慮しているだけです》
「随分な余裕だな」
《ただの破壊に意味はありません。興味も。……私は、私達が作られた意味が知りたい。その理由を知るためにあなた達との交戦を望んでいます。全ては神の仰せのままに》
「それが、本当に正しいことだと思っているの」
《もし、それが誤っているのならそれだけのこと。“正しい”と思えることをあなた達が証明すればいい。違いますか、IS学園》
大口径拳銃の弾が切れたのか、中折れに開いたリボルバーから薬莢を廃棄する。同時に冷却装置を兼ねたイジェクターロッドも突き出し、排熱。左腕のスピードローダーにシリンダーを押し込み、装填を完了する。
《私達は、私達に与えられたミッションを遂行する》
「いい迷惑だ」
《それは大変な失礼を》
再三、ブリッツとシェアトが相殺しては空気を震わせた。その横からルナリアとシャルロットが十字砲火を浴びせるが、左半面は展開したエネルギーランチャーの拡散砲撃がカバーする。右側はマグナムリボルバーによる射撃が待っていた。多方向へ向けた同時攻撃は接近戦が主体の№4、№1両名にとって短所を補うだけの性能がある。救いは三機が同時に攻めて来なかったことか。しかし、射撃機体であるシャルロット、ルナリアに加えて砲撃型のラウラが押さえられている。
「貴様の言う神とやらは、一体何が狙いだ!」
《定かではありません。最強の兵器たるIS。それを否定することに、何の意味があるのかも》
ラウラは砲撃では埒があかないと見たのか、ワイヤーブレードを射出。それと同時に接近した。
《しかし、私達はその為に存在している。№1をはじめ、№3も。№4も……いずれ、選ばれた兄弟達が神の意思を暴くでしょう》
シェアトの放つエネルギーが弾け、青空を白く焼く。その視界のブレが次に捉えたシュヴァルツェア・レーゲンの手にはスケイスコートが握られていた。複合防御兵装である柔軟な外套は所々が焼け焦げているが、ラウラが接近するまでの時間を稼ぎ、持ちこたえてみせる。振り払い、エネルギー手刀がアクリオスのブレードと相互干渉を起こし、反発し合って鍔迫り合う。
《なぜ、私達にこのような試練をお与えになるのか、いずれは分かることです》
スケイスコートを脱ぎ捨て、ラウラへ渡したルナリアはパンツァー・ゲヴェーアを展開して既にアクリオスに向けて発射していた。拳銃で撃ち抜かれて二発とも迎撃される。
『シャルロット!』
「この距離で避けられたら、大したものだよ!」
――天狼がその顎を開いていた。
ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの両腕に展開されたライフルのパーツを接続。ISの全長を超える『フェンリル』がシャルロットの両腕を拘束している。
装填数八発。盾殺しを発射するような口径がアクリオスの左肩、シェアトを狙っていた。天狼が吼える。
サイドブースターを吹かせて回避行動をしようとする装甲をワイヤーブレードが締めつけた。
「逃がすものか!」
一発、二発と立て続けに撃ち込まれた装甲を貫通し、僅かに開いている隙間にクライクロスを差し込み連射する。
アクリオスは止むなくシェアトを廃棄。誘爆に巻き込まれる前にラウラが放り捨てた。それはやがて、何もない海上で爆発して落ちていく。
《精神の爆発力。侮れませんね。人間の持つ感情は実に興味深い》
主武装を失っても、その声に変わりはない。作られた男性の電子音声。だが不思議と耳障りとは思えない抑揚のない声は、それでも冷静に自分の不利を認めていた。
《先ほどの連携もそうです。私には理解が及びません。仲間を危険に晒すなど》
『人間舐めんあ』
「ルナリア、噛んでるぞ」
《参考にさせていただきましょう》
「そっちの不利は、もう決定的だと思うけど?」
《構いません。私の戦闘行動に支障はないようです。この身体が動く限り、ミッションは継続します》
『清水瓶』
№2 アクリオス・ザ・ガーネット
レーザーブレード『サダルメリク&サダルスウド』:両腕部に備え付けられているブレード。内部にマグナムリボルバー『サダクビア』を内蔵している。
大口径拳銃『サダクビア』:装弾数五発。55口径。中折れ式リボルバーでありバレルを三点保持している。イジェクターロッドは冷却装置であり、リロードの際は排熱も兼ねている。
大型エネルギーランチャー『シェアト』:左肩に担ぐ形で構えられる円筒の砲台。その内部は小型のキャノンが密集・連結されている。装甲を展開した際は拡散型の砲撃として弾幕の形成も可能。側面にブースターを持つ。
№3と共に他の兄弟達を迎えに行っていたが№1、№4に連れられてIS学園へ。本来であれば自ら戦闘を仕掛ける事はない。