第九話です。
立花響は小さな女の子の手を引き、裏路地を駆け抜けようと走っていた。
「ハッ…ハッ…」
そしてようやく路地を抜けた、そこには。
「ウソ…」
大量のノイズが、待ち構えていた。
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≪ちょっと、散々待たせたんだからもっと頑張りなさいよ≫
(なんでや!ビッキー頑張って逃げてるやんけ!)
(女の子の手を引きながらノイズから逃げるなんて、なかなかできる事じゃないよ?)
ガリィ・トゥーマーンはイライラしていた。
その理由、原作開始時期が近づいたある日、謎の声達が『そういえばそろそろ原作始まるけど、何月何日に始まるか誰か詳しく分かる人いる?』と言い出したのが始まりであった。
(そういえば、詳しい日にちまでは分からないねぇ)
(これは盲点でしたね…)
≪はぁ?それじゃどうしようも無いじゃない≫
そう、謎の声達の中に誰一人として原作開始、つまりノイズが街を襲撃する日を知る者がいなかったのだ。
ガリィはイラっとした。まずはイライラゲージ一つ上昇である。
(張り込み…ですかね)
(ガリィ君!アンパンと牛乳の用意はいいかな?)
≪絶対イヤなんだけど⦅即答⦆≫
(だって…私達の知識通りに進むのか確認しなきゃいけないし…)
(どこかの人形が原作前に主人公に絡んだりしたからおかしくなってるかもしれないダルォォ!?⦅指摘⦆)
≪チッ…はいはい分かったわよ≫
ガリィのイライラゲージが上昇した。
(大丈夫大丈夫、すぐに始まるって!ガリィちゃん⦅希望的観測⦆)
(そうそう、案外二、三日で始まるかもよ?⦅根拠の無い予想⦆)
≪面倒臭…なんでガリィがこんな事≫
そうしてガリィ一行の企画第三弾「原作開始を見逃すな!ビルの上から要チェックや!」が開催される事となったのだった。
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一日目
≪ノイズってガリィ達にも襲い掛かって来るの?≫
(来ないんじゃね?人間絶対殺すマンだし)
(まぁ来ても返り討ちにできるし気にしなくていいんじゃない)
二日目
≪高校に入ったら無くなったのね、イジメ≫
(安心した?)
≪はぁ、つまんないわね≫
(えぇ…⦅困惑⦆)
三日目
≪今日始まらなかったらアンタの想い出全部ミカちゃんにぶち込むから≫
(エッ!?なにそれ聞いてないんですけど!)
(不用意な発言をした君がいけないのだよ…)
四日目
≪まだぶつぶつ呟いてるんですけど。病院にぶち込んだほうが良いんじゃないのアイツ…≫
(翼さん…)
五日目
≪…今日のマスターの夕食、どうしようかしら…≫
(…オムライス…とかでいいんじゃないですかね…)
≪…そうね…≫
十日目
≪…ココア…≫
(…アメノハバキリ…)
(…理科…)
≪…カタツムリ…≫
十五日目
≪…フィーネに会いに行っていい…?≫
(…やめて…)
≪うん…≫
そして二十日目
(ガリィちゃん、始まった!始まったよ!)
≪…そう…⦅無関心⦆≫
(目を覚ませ馬鹿人形!)
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そして現在、ガリィはノイズから逃げる立花響を追跡中である。
≪あらら、どうするの?これ≫
(大丈夫、まだ逃げ道は残ってるから)
路地から出た途端左右をノイズに塞がれ絶体絶命の響と少女。
だが響は、目の前の水路に躊躇無く飛び込み窮地を乗り切るのだった。
≪うわ、ばっちぃ≫
(もっと他にコメントあるでしょ!?)
(女の子抱えて立ち泳ぎとかビッキーすごくない?)
そしてそこからも響はひたすらに逃げ続ける。が、ノイズは振り切れない、延々と追いかけて来ていた。
途中からは女の子が疲れてしまったので、響は女の子を背負って走らなければならないのだった。
≪ねぇ、なんであの荷物捨てないのあの子、他人なんでしょ?≫
(うーん、この畜生)
(まぁ実際見捨てる人もいるだろうねぇあの状況なら…)
そしてとうとう限界が来たのか転んでしまう響。その息は絶え絶えで誰がどう見ても限界だった。
≪ま、よく頑張ったんじゃない。唯の人間にしては≫
(まだだ、まだ終わらんよ!)
(キミは立花響をまだ侮っているようだねぇ)
ガリィはここで助けが来て立花響は難を逃れると思っていた。
なぜならガリィから見ても、立花響はもう限界としか思えなかったからである。
だが、立花響は立ち上がり再び走り始めた。女の子の手を引いて。
≪…へぇ、まだ荷物を捨てないのね、あの子≫
(頑張れビッキー!)
走り出したのも意外だったがガリィがそれ以上に驚いたのは、女の子の手を再び引いて走り出した事だった。
あの少女は他人で、ここで見捨てても誰も見ていないし、もし見られていても響を責める事は難しいだろう。
それからも響は走る、走る、走り続ける。決して少女の手を離さずに。
≪…≫
(もうちょっと…もうちょっと…)
(そこを登れば…)
日が落ち辺りが暗くなった頃、響は発電施設へと辿り着いていた。
高い所なら安全かもしれないと思ったのだろうか、響は女の子を背負って長い鉄梯子をひたすら上っていくのであった。
≪高い所なら安全って…そんなわけないでしょうに≫
(もう限界なんだから仕方無いでしょ!)
(ノイズしつこすぎぃ!)
そしてとうとう施設の屋上に辿り着いた響と少女。周りにノイズの姿が見えないのを確認すると、安心したのかすぐに仰向けで大の字に倒れてしまう。
≪わぁ~おめでと~、パチパチパチパチ≫
(やめて⦅憤怒⦆)
しかし、体を起こした響が女の子を見て、そして後ろを向いたときだった。
ノイズの群れが、そこにいた。
≪なんてことなの~、たすかったとおもっていたのに~≫
(おまえが今すぐあのノイズ片づけてこいよ⦅全ギレ⦆)
(なんならビッキーにガングニールで殴られてしまえ)
テンションの上がる畜生とは対照的に絶望する響と少女。
女の子を守るように抱く響。ノイズはじりじりと距離を詰めて来ており、正に絶体絶命と言える状況であったがその瞬間、響の心臓が脈打ち、
「生きるのをあきらめないで!」
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
(キターーーーー!!)
(来いよノイズ!武器なんて捨ててかかって来い!)
(聖詠カッコイイタル~)
≪えぇ…何そのテンション、気持ち悪いんですけど…≫
その瞬間響の体から異形のモノが飛び出し、そして収束していく。
それが収まった時、そこにはガングニールのギアを纏った立花響がいた。
≪えっ、なにあれ…気持ち悪…≫
(もうヤダこの人形)
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「なんで!?私、どうなっちゃってるの!?」
「おねーちゃんかっこいー!」
ギアを纏っている自分に戸惑いを隠せない響。
だが少女にとってはそんな響の恰好は高評価だったようだ。
≪あのガキセンス無いわね、なんか破廉恥じゃないあの恰好?≫
(破廉恥てキミ…)
(動きやすいからいいでしょ!)
少女を見て決意したような表情を浮かべた響は、歌を歌い始めると女の子を抱きかかえ跳躍し、数十メートル下の地面に着地するのだった。
≪分かってたけど本当に歌いながら戦うのね、バカみたい≫
(シンフォギアを全否定するのやめてもらえませんかね?⦅半ギレ⦆)
(そのバカみたいなのに真っ二つにされるんやでキミは⦅SERE†NADE⦆)
歌いながら戦う響を見たガリィはバカみたいと思うと同時に、(風邪引いたときはどうすんの、あれ?)と思っていた。余計なお世話である。
窮地を逃れたように思えた響だったが、ノイズが上空から雨のように降り注いで来ているのに気付き間一髪回避に成功する。
それからも壁にぶつかりながらも必死に回避を続ける響であった。
≪ねぇ、なんか弱くない?あんなもんなの、シンフォギアって≫
(まぁ最初だからね、仕方無いね)
(キャロルちゃんと戦う頃にはエラい事になってるから大丈夫)
回避を続ける響であったが、大型ノイズが出現し響に襲い掛かる。
なんとか回避し退路を確認する響であったが、前方は大型ノイズが、後方はノイズの群れが道を塞ぎ、逃げ場の無い状況である。
そして後方にいたノイズの一体が襲い掛かると、響は右手で迎撃する事を選択する。
結果は響の右手に殴られたノイズがバラバラになる、というものだった。
≪触っただけでバラバラにされるとかどれだけひ弱なのよあいつら…≫
(あんなのでもOTONAに勝つ唯一の手段なんだよなぁ…)
(というかそろそろあの人が登場するのでは…?)
ノイズをバラバラにした事に響が驚愕していると、どこからかエンジン音が聞こえ後方のノイズが跳ね飛ばされていく。
その正体はバイクに乗った一人の女性だった。そう、風鳴翼である。
≪相変わらず目が据わっててガリィ怖いんだけど≫
(翼さんだぁ…)
(人手不足だから翼さんが行くしか無いんだよなぁ…)
この時点で特異災害対策機動部二課に所属しているシンフォギア装者は翼一人である。
ブラック企業ってレベルでは無いのだが、装者の数は簡単に増やせるものでは無いため仕方が無い。
天羽奏のような血反吐を吐く様な実験に耐え抜いて装者となった例外もあるが、基本的には先天的なものが必要なので今の様な状況になっている、というのが特異災害対策機動部二課の現状であった。
救援に駆け付けた翼はそのままバイクを大型ノイズにぶつけ跳躍する。
「Imyuteus amenohabakiri tron」
聖詠を唱えた翼は響に大人しくしているように警告し、ギアを纏い突撃する。
もちろんその目は据わっていた。怖い。
そこからは翼無双である。
翼が剣を振るう度ノイズがその数を減らしていき、それを見ていた響と少女は驚きで言葉が出ずただそれを見ていたのであった。
≪周りが見えて無いわよ、主人公さん≫
(いきなりあんな無双始められたらそりゃ口ポカーンになるよね)
(ビッキー、でかいノイズがそっち行ってるよ~!)
呆然としていた響と少女が気付いた頃には巨大ノイズは目前に迫っていた。
驚きで動きが止まる響だが次の瞬間上空から巨大な剣が落下し、ノイズを貫き消滅させるのだった。
≪あんな状態でよくやるわねぇ≫
(翼さん強いからねぇ)
(今日はここまでかな、ちゃんと私達の知識通りに進んでるよ~)
≪そう。それじゃ早く帰ってマスターの夕食作りましょ≫
(響ちゃんはどうだった?)
≪とんでもないバカ…と言いたい所だけどマスターもバカなんだからお似合いなんじゃない?≫
(えぇ…)
(ガリィちゃんなりに認めたって事でOK?)
≪はいはいそれでいいわよ。それじゃ帰りましょうか≫
そう言って転移結晶を掲げるガリィ。
こうして原作開始初日は、無事に想定通りに進んでいる事が確認できたのだった。
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「マスター、お待たせしましたぁ。ガリィが夕食を作りに帰って来ましたよ♪」
「別に貴様を待ってなどいないが」
「またまたぁ、ガリィの料理が恋しくて首を長くして待ってたんじゃないんですかぁ、このこのぉ」
「そんな事は無いと言って(グゥ~)……」
(何か…聞こえましたね…)
(せ、生理現象だから、不可抗力だから!)
「あら?あらあらあらあら。マスター、すぐに作りますからも~ちょっとだけ!待ってて下さいね☆」
「~~っ!!部屋に戻る!」
「はぁ~い、できたら呼びますから大人しく待っていて下さいね」
「……フンっ…」
(かわいい)
(こうしてると見た目相応に見えるんだけどなぁ…)
こうして夜は更けて行く。今はまだ平和なキャロル陣営であった。(なお、主人公陣営はエラい事になる模様)
次回 あんなのガリィの知ってる人間じゃない に続く
次回も読んで頂けたら嬉しいです。