第九十八話です。
- とある山の中腹、開けた場所 -
「はっ、随分と面倒な場所を指定してくれた…っていうか遠いんだよ!なんでこんな所を選んだんだバカ!」
「…来たか、雪音クリス。 この場所を選んだ理由はお互いに被害を気にせず戦えるからだ…だが距離については失念していた、すまない⦅クソ真面目な返答⦆」
「いや、それは分かってるんだが…ホントにお前、クッソ真面目で堅い奴だな…⦅げんなり⦆」
「そうか」
「『そうか』じゃねーよバカ! 反応がいちいち薄いからやりにくいんだよ!⦅半ギレ⦆」
「…それはガリィのような反応をしろ、という事か? なら不可能だな⦅断言⦆」
「ちげーよバカ! なんで突然極端な方に行くんだよお前はっ!!!⦅全ギレ⦆」
「地味な冗談だ」
「…は?⦅威圧⦆」
雪音クリスとレイア・ダラーヒム…戦闘前にも関わらず両者は激しく火花を散らしていた。⦅強弁⦆ しかしこうしている間にも時間は過ぎており早く響の下に駆け付けるためにもクリスには怒りを抑えてほしいところである。
「…それよりも、早く戦闘を開始しなくていいのか? 仲間…立花響の救援に向かいたいのだろう?」
「お前に心配されなくても分かってるっつーの!⦅憤怒⦆ ああもう!イグナイトモジュール、抜剣っ!!⦅投げやり⦆」
どうにも噛み合わない両者だが、こうして戦闘は開始された。果たしてクリスはレイアを退け響の救援に向かう事ができるのだろうか…。
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「シッ!」
「(今度は槍かよ面倒臭えっ!)」
クリスとレイアの戦闘が開始されて数分…その戦況は両者共にクリーンヒット無し、という状況だった。
「同じ得物を継続して使えばお前に動きを読まれる。だが逆に言えば、同じ得物を使わなければ読まれる可能性は低いという事だ(私が雪音クリスに勝っているものは経験値のみ…数多の武器を試し、結局はトンファーを主要武器とした私だが他のものを使えぬわけでは無いのだ)」
「っ!(クソっ!早く行ってやらねーとあの馬鹿がやばいってのに!)」
優れた目を持つクリスへの対抗策…それは自身の持つ武器を僅かな時間で切り替え、クリスに動きを読ませない事だった。そしてその目論見は今のところは成功しており、レイアは数分の時間を稼ぐ事ができていた。
「…(雪音クリスが呪いを纏った事による恩恵は威力と弾速、それに武装の展開数と展開速度の上昇…ギアの耐久力も向上していると見るべきか。…つまり遠距離での撃ち合いで勝機は皆無、私の勝機は接近戦しか無いというわけだ)」
「っ!? ヌンチャクって…なんでそんなもんまで使えるんだよお前!?(クソッ!集中できねぇ!)」
「…ガリィが持ち帰ったDVDに収録されていた映画を見た後、地味に鍛錬し覚えたのだ。世の中何が役に立つか分からないものだな」
「ま た あ い つ が 原 因 か よ!!!⦅憤怒⦆」
レイアにペースを乱され歌う事をやめてしまったクリス。更にその原因がガリィだと知れば彼女が噴火するのは確定的に明らかである⦅遠い目⦆
「お前には悪いが、このまま私との戦闘に付き合ってもらう」
「そんな事は…お断りだっ!(あの馬鹿人形は後でぶん殴る!⦅全ギレ⦆ それよりも今はコイツを引き剥がす方法を考えるのが先だ!)」
「そうか、では無理矢理にでも付き合ってもらうとしよう!(徐々に動きが見切られ始めている、か…ならば、完全に読み切られる前に派手な一撃を叩き込む事に集中するまでだ)」
それからしばらく、レイアとクリスはお互いクリーンヒットを許す事無く一進一退の攻防を続けていた。しかし…。
「(…仕方ない、この手で行くしかねーか…!)」
攻防を続ける中クリスが策を思い付いた事、そしてそれをすぐさま実行した事で状況は変化する。その策とは…。
「~♪」
「っ!?(この距離でミサイルだと!? そんなもの、当たるはずが…)」
クリスはレイアとの攻防の最中…僅かな隙に歌を奏で、多数の小型ミサイルが搭載されたミサイルポッドを両足に展開。それを…。
「っ!!!(あたしはなぁ…痛いのには慣れてるんだよっ!!!)」
「まさか、自爆――」
躊躇無く自身の前方の地面…レイアと自身の中間位置に全弾射出した。
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「…まさか、自爆してまで距離を稼ぎにかかるとはな…!」
「あの馬鹿があたし達を待ってるんだ…お前に時間を掛けてる余裕は無いんだよ…!(流石に無傷とはいかねーか…ま、足の一本で済んだのはマシな方だな)」
クリスの発射したミサイルの爆発の直撃を被った二人は…両者共に健在だった。しかし、痛みを感じる人間であるクリスは片足を負傷し大きな痛みを感じていた。
「…(上半身のダメージはそうでもないが、右足は…完全に破壊されている。退避する瞬間、雪音クリスに足を踏みつけられた所為で逃げ切れなかったか…相手も負傷しているようだが、これは私の敗北だな)」
対するレイアの右足は逃げ遅れた事が原因で完全に破壊されており、この段階で彼女は自身の敗北を確信していた。
何故レイアが自身の敗北を確信しているのか…その理由は彼女自身の機能にあった。レイアという人形はトータルスペックに優れているが、逆に言えば特殊な機能が…ガリィの水上移動能力や、ミカの推進力を利用しての移動能力などが搭載されていないという事である。
つまり…片足を失いクリスとの距離を引き離されたレイアは最早、クリスと撃ち合うしか選択肢が残っていないのだ。故に敗北は必至である事を彼女は悟っていたのである。
「…人間であるお前が、あれほどの爆発に巻き込まれながらその程度の被害…マスターはどうやらエルフナインにとんでもないものを渡してしまっていたようだな」
「ああ、そのお陰であたしはまだ戦えるってわけだ」
「ふっ…最早、私に残された道は派手な撃ち合いで勝利するのみだが…それも地味に悪くない」
「お前まだやる気なのかよ…まっ、あたしも一発くらいは派手に撃ちたいしな、少しだけ付き合ってやるよ」
自身の敗北を悟ったレイアだが、その闘志はまだ衰えていなかったようだ。そして、自身の得物をコインへと変えた彼女の姿を見たクリスも応戦の構えを取り…両者は同時に攻撃を開始した。
「シッ!!!」
「~♪(オラオラオラァッ!!! 閻魔様のお通りだぁっ!!!)」
それはこれまでの接近戦とは違い、弾幕が飛び交う派手な撃ち合いであった。両者共に機動力を失っている故に、彼女達はその場を一歩も動く事無く射撃のみに集中していたのだ。
「っ…!(威力では遥かに劣る私が対抗するには地味に手数を増やすしかない…だが、それでも不利か!)」
「(やるじゃねーか! そうこなくっちゃなぁ!!!)」
この時点で、レイアはよく持ち堪えていた方だろう。しかし、彼女自身が敗北を悟っていた通り…これより何度かの攻防の後、遂に敗北の時は訪れた。
「これで、終わりだぁぁぁぁっ!!!!」
「っ!?(派手に崩された…!? これは回避できない、か…)」
被弾し、態勢を崩したレイアを見たクリスが発射した巨大ミサイル…レイアはそれを避けられない事に気付き、静かに目を閉じた。そして…。
「…あたしの、勝ちだ」
レイアが立つ場所の
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「情けまで掛けられてはどうしようもあるまい…私の敗北を認めよう、そして…お前の勝利だ、雪音クリス」
「そーかよ、ありがたいこった。 っと、それよりおっさんに連絡しねーと…終わったぞおっさん」
レイアが敗北を認めた事で勝負は決着し、クリスの勝利という形で終わった。しかしクリスも無傷とはいかず、片足の負傷というハンデを背負ってしまっていたのである。
『そうか、よくやってくれた。既に翼とマリア君が響君の救援に向かっている、クリス君も休息を取った後、響君の下に向かってもらいたいのだが…行けるか?』
「あー、悪い…少しヘマして足を怪我しちまったんだよ。だからヘリを向かわせてほし――」
『馬鹿者っ! 何故それを早く言わん!友里、すぐに待機させている医療班をクリス君の下に向かわせろ、大至急だ!』
『はい!』
「えっと…おっさん? あたしは早くあの馬鹿の所に行きたいんだけど…」
『却下だ!⦅憤怒⦆ クリス君はまずは治療を優先しろ、これは命令だ…い・い・な?』
「ええ、マジかよぉ…」
なお、そんな状態で駆け付けるのを弦十郎が許すはずが無かった模様⦅当然⦆ これによりクリスは治療を受けた後、響の救援に駆け付ける事になったのである。
「――はいはい分かった分かった大人しく待ってりゃいいんだろ! じゃーな!」
「…やはり足を負傷していたか。 威力が派手に高すぎるのも考えものだな、雪音クリス」
「ちっ、お前が面倒臭い事するからだろーが…」
「ふっ、それは褒め言葉として受け取って置こう」
弦十郎との通信を終え、その場に座り込み治療班を待つクリスの隣にレイアも腰を下ろし言葉を交わす。それから治療班が駆け付けるまでの間、二人は雑談に興じていた。
クリスVSレイアは一度やったので短め。そしてさらっと余所の結果をネタバレしていくスタイル。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。