ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第百二話です。




第百二話

 

 

「……ファラからの通信で貴様がこちらに向かっている事は把握していたが、随分と早い到着だな」

 

「いや、むしろ遅いくらいだ。 故に、遅れた分はこれからの働きで取り戻させてもらおう」

 

 窮地に陥った響を救った翼は、巨大な剣を消滅させ地面へと降り立つ。そして、響を守る様に剣を構えキャロルと対峙した。

 

「っ! 気を付けて下さい翼さん!今のキャロルちゃんは前よりずっと強いです!」

 

「それについては本部からの通信で把握している。 それと立花、お前の通信機の電源が切れて状況が把握できないと司令が困っていたぞ」

 

 実はキャロルとの戦いの事で頭が一杯になっていた響は、通信機の電源を切ったまま戦闘に突入してしまっていたのだ。故に司令室のメンバーは何の指示も出せず困り果てていたのである。

 

「――あっ、切ったまま忘れてました!すいませんすぐに電源入れます!」

 

「ああ、これで司令達も安心するだろう。 ……申し訳無いが、ここからは二対一でやらせてもらう」

 

 慌てている響の様子を微笑ましそうに見つめた後、翼はキャロルへと視線を移し宣戦布告を行う。しかし…。

 

「なに、気にすることは無い。 俺は貴様等全員を同時に相手しても構わぬのだが……救援に駆け付けられるのは貴様以外ではマリア・カデンツァヴナ・イヴくらいのものだろう?」

 

「っ? ど、どういう事……? もしかして、クリスちゃん達に何かあったの!?」

 

「落ち着け立花。 雪音、暁、月読の三名は現在……いや、 先程まで( ・・・・)病院で治療を受けていた」

 

 三人が病院から脱走した事を本部からの通信で翼は把握していた。クリスは足を、そして切歌と調は全身にダメージが残っているがこちらへとヘリで向かっているらしい。

 

「先程まで……? クッ、ククッ……成程、仲間の窮地を聞き付けたまらず飛び出したというわけか」

 

「飛び出した……ってみんなこっちに向かってるんですか!? で、でも怪我してるんですよね!?」

 

 そう、三人は決して軽くは無い怪我を負っている。だがそれにも関わらず、翼はどこか落ち着いた様子で三人の事を響へと伝えていたのである。その理由とは…。

 

「そうだ。だが、私が雪音達と同様の状態であればきっと同じ事をしたと思う……お前もそうだろう、立花?」

 

「うぅっ、確かにそうかもしれませんけど心配ですよぉ……!」

 

「なに、彼女達が到着する前に私達が勝利すれば問題は無い。 そうだろう、キャロル?」

 

 その理由は、翼自身が脱走した三人の気持ちを理解出来る事。そして、三人が到着する前に決着をつける事ができれば問題は無い、というものだった。

 

 

「……随分と大胆な挑発をしてくれるものだ。 最早呪いすら纏えぬ貴様等二人では、俺に勝てぬ事くらいは分かっているのだろう?」

 

 

「この程度の不利はこれまでに何度もあった。 だが、私達は諦めず力を合わせる事で、それを乗り越えて来たのだ! 風鳴翼、参る!」

 

 翼はファラとの戦闘でイグナイトモジュールを起動済みなため、響と同じく再使用は危険な状態である。故に響と翼はキャロルとの戦闘を通常状態のギアで行わなければならなかったのだ。

 

 しかしその絶望的な状況でも翼の闘志は微塵も衰える事無く、彼女はキャロルに向けて突撃を開始した。

 

 

「翼さん!」

 

 

「立花はしばらくそこで休んでいろ! それまでは私が相手を引き受ける!」

 

 

「……相手との力量差を理解し、友の為にその身を盾とするか。 ならば、数多の砲撃でその盾を躊躇無く粉砕してやろう」

 

 疲労が濃い響が回復する時間を稼ぐ為キャロルの相手を一人で努めようとする翼。しかし、無慈悲にもキャロルの砲撃が容赦無く襲い掛かり……。

 

 

 

「はぁっ! キャロル、覚悟!」

 

 

 

「――っ!? なんだと!?」

 

 

 翼はその砲撃をその身に掠らせるものの、全て紙一重で回避するという神業を見せた。そして、キャロルが気付いた時には目の前まで翼が迫っており…。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

「くっ……!(押し切れないどころか押し返されている! やはり、イグナイトモジュール無しでは……!)」

 

 

 キャロルはその衝撃に混乱しつつも、氷の剣を生成し翼の剣戟を左手で防御。更に空いた右手から全てを切り裂くダウルダブラの弦を翼に向け射出した。

 

 

「離れろっ……!」

 

 

「っ!? しま――」

 

 

 予想以上の実力差に驚愕したことで反応が一瞬遅れてしまった翼。彼女は慌てて回避行動に移ろうとするが既に弦は目の前にまで迫っており、翼はその身を……。

 

 

「翼さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

 

 切り裂かれる事は無かった。翼の身体に砲弾のような勢いで響が飛びつき、間一髪弦の軌道から翼の身体を引き離したのだ。これによりキャロルの弦は空を斬り裂くだけに留まったのである。

 

「立花……!?」

 

「ま、間に合ってよかったぁ~」

 

 

「……貴様が短期間でこれほどまでに成長していた事は予想外だった。 どうやら俺は貴様等を過小評価していたらしい」

 

 翼を抱えたまま地面を転がった後、響はふにゃっとした笑顔で翼へと笑顔を向ける。その一方、二人を見つめるキャロルは翼の実力が短期間で大幅に向上していた事に驚愕し、彼女の評価を上方修正していた。

 

「簡単に受け止め、更に迎撃までしておいて何を言う……!」

 

「これは俺の偽らざる本音だ。通常状態のシンフォギアで俺を驚かせる等、中々できる事ではない」

 

「そうですよ翼さん! 私なんて避けるのだけで精一杯だったんですから!」

 

「いや、攻撃を十五分以上回避し続けたお前の方が余程凄いと思うのだが……」

 

 響と翼、彼女達の成長はキャロルの目から見ても大したものだと思わせる程だった。しかし何処かの人形が余計な事をした所為で、彼女達がこれ程成長しているにも関わらず依然無理ゲーと化しているのである⦅遠い目⦆

 

「……砲撃の隙間を避ける、か。 では、これでどうだ?」

 

「っ、来るぞ立花!」

 

「はっ、はい!!」

 

 クソゲーのラスボスと化したキャロルが次に行った攻撃、それは…。

 

「なんだ、あの数は……」

 

「隙間を掻い潜られるのであれば、多少威力を減衰させそれを失くせばいい。 どうだ、簡単だろう?」

 

 それは数えるのも馬鹿らしいほどの光の弾幕……それがキャロルの背後に浮かんでいたのだ。

 

「っ!? 立花、私の後ろに!早くっ!!」

 

「つ、翼さん!?」

 

 その異様な光景を見た翼は回避は不可能と判断し、せめて響だけは傷つけまいと彼女の前に立ち塞がる。そして……。

 

 

「……友を守るため身を挺する、か。 それなら遠慮無く、まずは貴様の意識を奪わせてもらうとしよう」

 

 

 キャロルは躊躇無く翼に向け、背後に待機させていた弾幕の全てを射出した。

 

 

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「……(立花だけは、何があっても守って見せる……!)」

 

 響の前に立った翼は、衝撃に備え目を閉ざし歯を食いしばっていた。しかし…。

 

「……砲撃が、来ない?」

 

 数えきれない程翼に迫っていた砲撃は……一発として、翼に届く事は無かった。

 

「つ、翼さん……見て下さい!」

 

「っ? 一体、何が……?」

 

 困惑する翼に、響が嬉しそうな声でとある方向を指差していた。翼がそれに釣られ、響が指している方を向くと、そこに立っていたのは……。

 

 

 

「遅くなって悪かったわね。 ……貴方達、どうしてイグナイトモジュールを起動させずに戦っているの……?」

 

 

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ。仲間に牙を剥こうとしていた弾幕を全て叩き落とした戦姫が、黒色のシンフォギアを纏い参戦した。

 

 

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「貴様、何故呪いを身に纏っている? ……ガリィの馬鹿は、貴様にモジュールを起動させる事すらできずに敗北したという事か?⦅半ギレ⦆」

 

 翼と同じく救援に駆け付けたマリアだが、その姿は翼とは明らかに違っていた。そう、彼女の纏うシンフォギアは黒色に……呪いに染まっていたのである。

 

「? いいえ、ガリィとの戦闘でもモジュールは起動したわよ。あの子相手にそんな手加減をする余裕なんて無かったもの」

 

「……なんだと?」

 

 マリアが呪いを纏っている姿を見て、ガリィがまたやらかしたのかと不機嫌になるキャロル。しかしご存知の通り、マリアはガリィ戦でモジュールを起動している。つまりそれがどういう事なのかを理解したキャロルの表情は驚愕に染まっていた。

 

「マ、マリアさん! 体は大丈夫なんですか!?」

 

「立花の言う通りだ。 短時間でのモジュールの再使用は危険なはず……司令に許可は取ったのか?」

 

「大丈夫よ、響。 翼、司令には止められたけどなんだか大丈夫な気がしたし……それに、通常状態のシンフォギアで勝てる相手では無いでしょう?」

 

「いや、それは確かにお前の言う通りなのだが……」

 

「すごいですマリアさん! 翼さん、私達ももう一度やりましょう!」

 

 呆然とした様子のキャロルを余所に、何故か盛り上がっている装者達。中でも響はすぐにでもイグナイトモジュールを再使用しそうな勢いであり、翼がそれを必死で止めていた。

 

「…(奴の姿を見れば、呪いのフィードバックによる影響がほとんど無い事は見て分かる。他の装者と奴の違い……まさか……そんな事が)」

 

「……ねえ、あの子どうしたの? 真面目な顔で何かブツブツ呟いていて怖いのだけれど……」

 

「待て立花! マリアがそうだからと言って私達も同じだとは限らないだろう! だからまずは本部に連絡を――」

 

「大丈夫ですよ!⦅根拠の無い自信⦆ もし私達に何かあっても、きっとマリアさんが何とかしてくれます!」

 

「わ、私!?」

 

 考え込むキャロル、暴走する響、必死で止める翼、そして無茶振りされ狼狽えるマリア……場は更に混沌と化し、沈静化するには少し時間が必要なようだ。

 

 

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「ちょっと、本当になんなのよアイツ! モジュールの再使用は危険だってアンタ、ついさっき言ったわよね!?」

 

「は、はい……僕にも、何がなんだか」

 

(原作じゃここまでトンデモじゃなかった→ガリィが悪いよガリィが!)

(マリアさんが間違いなく一番やばい⦅確信⦆)

(ギアの強制解除機能が無かったら、マリアさんはどれだけあの状態でいれるんでしょうね……⦅白目⦆)

 

 我らが主人公、ガリィ・トゥーマーンは隣で双眼鏡を構える緒川慎次に当たり散らしていた。⦅呆れ⦆

 最初は一体で戦場を見渡していたガリィだったが気付けば隣にNINJAが立っており、そのまま流れるままに一緒に戦況を見守っていたのである。

 

「あの女、全然平気そうなんですけど! 何が呪いよ、全然大した事無いじゃない!」

 

「いえ、そんなはずは……⦅困惑⦆ ま、まぁこれでもキャロルさんが有利な状況は変わりませんし……」

 

(ガリィちゃんの所為でクソゲーになったんだから、これくらい許してあげなよ……⦅遠い目⦆)

(多分マリアさんに嫉妬してるだけだゾ)

(というかマリアさんはなんで呪いのフィードバックが無いんだろ? 原作ではそんな描写は一切無かったけど……)

 

 マリアの超絶パワーアップに憤慨するガリィだが、その原因の一端が自分にある事を理解しているのだろうか……。そして不機嫌なガリィに対し、緒川がフォローするのだが……。

 

 

「……まあそうね。 残り二人を合わせて、仮に三人が呪いを纏う事ができたとしてもマスターに勝てるわけがないもの。それこそ万が一……いえ、億の一もね」

 

「――っ……理由を聞かせて頂けませんか?」

 

(全部目の前の人形が原因だゾ)

(ガリィによる容赦の無い補給! キャロルはエネルギー使い放題になった!⦅白目⦆)

(まだキャロルちゃんには歌と獅子機が残っているという絶望⦅諦め⦆)

 

 次にガリィが発した言葉は、それまでとは違い平坦な声色で淡々としたものだった。ちなみにキャロルに勝てない理由の実に百パーセントがこの人形の所為である⦅白目⦆

 というかどの口でこんな事を言えるのだろうかこの人形は……しかも何故かドヤ顔である⦅呆れ⦆

 

「理由は秘密だけど、今のマスターには大量の想い出が蓄積されているの。だから実力で劣っているあの子達は絶対にマスターに勝てないというわけ♪ご理解頂けたかしら?」

 

「……成程、消耗戦に持ち込んでもこちらに勝機は無いという事ですか」

 

(理由を、言えよ⦅半ギレ⦆)

(言ったら間違いなく怒られるからね、仕方ないね⦅目逸らし⦆)

(どうせ後でバレるのに……⦅呆れ⦆)

 

 ガリィは自分が原因だという事を除き、キャロルの今の状態を適当に説明していた。まあ詳しく話せば何処かでボロが出るだろうし、きっとこれで正解なのだろう⦅遠い目⦆

 

「大当たり~♪ 通信機の向こうの皆さんも状況は理解できたかしら?」

 

「っ!? 気付かれていましたか……」

 

「もっちろん♪ だけどそのままにしておいて構わないわよ、なんなら司令室の皆さんの質問に答えてあげてもいいしね~☆」

 

(調子に乗っていますねこれは……⦅呆れ⦆)

(自分の仕事が終わったからっても~⦅ジト目⦆)

(司令室の皆さん! 質問タイムですよ!)

 

 なお、これから通信機越しにガリィによる質問タイムが開かれる模様。果たして、ガリィはボロを出さずにこの時間を乗り越える事ができるのか…!⦅迫真⦆

 

 

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「だーかーら! その理由を説明して欲しいと、ボクは何度も言っているんです!!!⦅憤怒⦆」

 

『だーかーらぁ~、ひ・み・つ♪』

 

「落ち着けエルフナイン君、ガリィ君のペースにまんまと乗せられているぞ!」

 

 S.O.N.G.司令室に響き渡る程の怒声……その声の主はなんと、エルフナインであった。彼女はガリィに、キャロルの想い出についての質問を繰り返していたのだが……。

 

「そんな事は分かっています!! いくら錬金術師とはいえキャロルは人間です!だから外部から想い出を補給するなんて事、できるはずがないんです!!! ガリィ、答えて下さい!!」

 

「エ、エルフナインちゃん……ちょっと落ち着こう、ねっ?」

 

『未来ちゃん……おねーさんの言う通りよ。アンタ、何一人で興奮してるのよバッカじゃないの?』

 

「これが落ち着いていられますか! ガリィが言っている事はいわば世界の法則に反するもの!これがどれだけの大事なのかが皆さんには分からないのですか!?⦅全ギレ⦆」

 

 ガリィが何度も煽った甲斐もあり、エルフナインの頭は完全に沸騰していた。その迫力には弦十郎と未来も困惑するばかりである。

 

『あっ、動き出したわね。 ふぅん、あの二人も呪いを纏う気なのね……それじゃ、アタシは忙しいからこの辺で失礼するわね☆ さよ~なら~♪』

 

「なっ!? ガリィ、ボクの話はまだ終わっていません!! この卑怯者!逃げるな!!!⦅大噴火⦆」

 

 なお、質問タイムはエルフナインが大噴火するだけで終わった模様⦅悲しみ⦆ そして……。

 

「駄目だよエルフナインちゃん、そんな汚い言葉を言ったらいくらガリィちゃんでも悲しむよ?」

 

「ですが!!――――――あっ……」

 

 エルフナインは気付いた。司令室の皆の視線が全て自分に向けられている事を……そして、先程まで自分が何を口走っていたかを……⦅手遅れ⦆

 

「ごごごごごごめごめんなさい未来さん!! それに弦十郎さんも申し訳ありません!!!」

 

「い、いや、気にするな。 なんというか、その……珍しいものを見せてもらったしな⦅精一杯のフォロー⦆」

 

「私も気にしてないよ。 だから落ち着いて響達を見守ろう、ねっ?」

 

「……は、はい⦅赤面⦆」

 

 結論:赤面したエルフナインちゃんは可愛い⦅謎理論⦆

 

 

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「跳ね除けた者と受け入れた者の違いか……ガリィの言っていた通り貴様は異質だな、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

「受け入れた……? 私が呪いの影響を受けなかったのはそれが理由なの?」

 

「恐らく貴様は呪いを掌握し、完全に制御下に置いているのだろう。 聖遺物由来の呪いを制御するなど、にわかには信じられぬ事だがな」

 

 ガリィとエルフナインが親睦を深め⦅強弁⦆ている間に、現場ではキャロルによる見解が語られていた。どうやら呪いを凌駕する際、マリアだけが他と違っている事が原因だとキャロルは推測しているようだが……。

 

「つまり、私には制限時間が無いという事かしら?」

 

「いや、完全に制御下に置いていたとしても影響はゼロでは無いはず。 だがそうだな……俺の見立てでは、最低一時間程度は稼働し続ける事ができるだろう」

 

 もしもキャロルの見解が当たっていた場合、マリアは最低一時間以上イグナイトモジュールを稼働し続ける事ができるらしい。残念ながら、ガリィとの差は開く一方なようだ⦅悲しみ⦆

 

 

「本部からの許可を無理矢……こほん、司令から快く許可が出た! 行くぞ、立花」

 

「つっ、翼さん!? あの、司令とすごく揉めていたような気が――」

 

「行くぞ、立花⦅SAKIMORIの眼光⦆」

 

「はっ、はいぃ! 立花響、行きます!」

 

 そんな中、どうやらイグナイトモジュール再使用の許可が本部から下りたらしい。そして、二人はギアペンダントに手を掛け…。

 

 

 

「「イグナイトモジュール、抜剣!!!」」

 

 

 

「……(短時間での再使用などを行えば、例え成功したとしても精神への負荷は相当なものになるはず……だが、もしもこの二人が奴と同様に呪いを制御できるとすれば話は別だ)」

 

 

 キャロルが静かに見つめる中、再び呪いを身に纏うための言葉を響かせた。

 

 

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「はっ、はあっ……!(なんとか成功はしたが、恐らく次は無い……つまり、この十六分余りの時間が私達にとって最後の時間というわけか……!)」

 

「……あ、危なかったぁ……」

 

「ちょっと貴方達、大丈夫なの!?」

 

 

「……(疲弊しているとはいえ、俺が思っていたよりも影響は少ない……つまり、この二人もマリア・カデンツァヴナ・イヴ程では無いにしろ呪いの影響を軽減しているという事か)」

 

 キャロルの視線の先……そこには黒色のシンフォギアを纏った三人の装者が立っていた。そう、響と翼はモジュールの起動をなんとか成功させていたのである。

 

「正直に言うと辛いものがあるが、それよりも時間が惜しい。 すぐに攻撃を仕掛けなければ……!」

 

「ちょっと落ち着きなさいよ。 まずは息を整えるのが先に決まっているでしょう?」

 

「そうですよ翼さん! そんな状態じゃキャロルちゃんにやられちゃいますから!」

 

「くっ……だが!」

 

 制限時間が迫る中、焦る翼がキャロルへと攻撃を仕掛けるため一歩前に出る。しかし、それは残る二人によって制止されてしまう。それでも翼は食い下がり、前に出ようとするのだが……。

 

 

 

「……一つ、貴様等に提案がある」

 

 

 

「提案、だと?」

 

「な、何かなキャロルちゃん?」

 

 次の瞬間、キャロルが放った言葉は翼を硬直させた。彼女の言う提案の内容とは…。

 

「このまま戦闘を開始しても、マリア・カデンツァヴナ・イヴ以外は恐らく数分しか持たぬだろう。 故に、貴様等は息を整えた後に最大の攻撃を俺にぶつければ良い。俺もそれを全力で迎撃しよう」

 

「最大の、一撃ですって……?」

 

「ああ、立花響が核となり繰り出す一撃……それが貴様等にはあるのだろう?」

 

「立花を核に……? それは、まさか……!」

 

 キャロルの提案……それはお互いに大技を繰り出し、決着をつけるというものだった。そして、キャロルが言う装者達の最大の一撃とは……。

 

 

「それって、S2CAの事……?」

 

 

「然り。呪いを纏った状態で装者三人の絶唱を束ねれば、流石に俺も本気を出して迎撃せざるを得ないというわけだが……どうする、歌女達よ」

 

 そう、キャロルの言う一撃とはS2CAトライバースト……装者三人の絶唱を響が束ね、強大な一撃を繰り出す超弩級の大技である。

 

「余程自信があるようだが……あの技に手加減などというものは無い。 下手をすればお前は死ぬ事になると分かっているのか?」

 

「そ、そうだよキャロルちゃん! しかも今はモジュールを起動してるんだし、私達にもどうなるか分からないんだよ!?」

 

 S2CAを撃てというキャロルに対し、翼と響が即座にその危険性を説明する。しかし……。

 

 

 

「……だから俺も本気を出すと言っている。 こんな風にな――」

 

 

 

 装者達は一つ勘違いをしていた。そう、彼女達に対しキャロルはこれまで全く本気など出していなかったのである。そして、この戦闘で初めて彼女は本気の一端を見せる事にしたのだ。

 

 

 

「~♪」

 

 

 

「っ!? 歌、だと……? 馬鹿な!これではまるで、私達と同じ……!?」

 

 

 キャロルの本気……それは歌と錬金術を融合した時に初めて発揮されるのだ。そして今のキャロルは想い出の消費を気にする事無く力に変える事ができる。それはつまり、今までの彼女とは比べものにならない程の力を発揮する事ができるという事である。

 

 

「なによ、これは……!! こんなの出鱈目じゃない!!」

 

 

「キャロルちゃんも歌を……? も、もしかしてキャロルちゃんはシンフォギア装者だったの!?」

 

 

 キャロルの周囲は暴風が吹き荒れ、凄まじい程のエネルギーが渦巻いていた。そして、その光景を目の当たりにさせられた三人の装者はそれに驚愕……いや、響だけは別の意味で驚愕していたようだが、とにかくその光景に圧倒されていたのだった。

 

「違うわ馬鹿者! これは本来であれば呪われた旋律を乗せ、世界を壊す歌として振る舞うはずだったもの……だが、結果的に計画を修正したため、その不足分を想い出で補強した不完全なものに過ぎぬ」

 

 本来であれば世界を壊す歌を奏でるはずだったが今の彼女に世界を破壊するつもりは無く、オートスコアラーが全機健在であるため呪われた旋律も回収できていない。

 

 故に彼女はその不足分を想い出の消費で補い、そして彼女の心に渦巻く行き場の無い怒りを歌に乗せ力と変えていたのである。

 

「これが不完全なものだと……!?」

 

「二人とも、これはもうどうにもならない! アレを……S2CAを撃つしか勝機はないわよ!」

 

「はっ、はいっ……分かりました!!」

 

 その凄まじい力を前に、三人はS2CAを放つ事を決意した……いや、させられたのだった。

 

「そうだ、それでいい……! クク、ハハハハハ!最初は余り乗り気では無かったが、思っていたよりも愉快なものだな戦いというのは!」

 

 三人が手を繋いでいく光景を見つめながら、キャロルは愉快そうに笑っていた。目的も何も無く戦うなど彼女には初めての事で、それが思っていたよりも楽しかったようだ。そして……。

 

 

「行きます! S2CAトライバースト!!」

 

 

「スパーブソング!」

 

 

「コンビネーションアーツ!」

 

 

「来るか……! ~♪」

 

 

 装者三人によるS2CA……強大な一撃が繰り出されようとしていた。それを見たキャロルも再び歌を奏で始め、周囲には二つの力により暴風が吹き荒れ始めていた。

 

 

「セット!ハーモニクス!!」

 

 

 そして遂に、装者三人分の絶唱が響のガングニールに集約され、彼女はキャロルへと向かい一直線に駆け出す。

 

 

「来い……立花響っ!」

 

 

 それを迎え撃つのは、数百年を生きる錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイム。彼女は想い出を加速的に消費しながら、自身に迫る超弩級の大技を迎え撃つ姿勢を取る。そして……。

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

「クッ、ククッ!! ハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 

 

 大地を揺るがす程に強大な二つのエネルギーが激突し、周囲は破壊と暴風の渦に包まれた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「響、翼さん、マリアさん! 誰か返事をして!!」

 

「三人のバイタル、衝撃の影響により検知できません!」

 

「緒川、無事か!?」

 

 キャロルの全力とS2CAによる激突の後……S.O.N.G.司令室のメンバーは装者達の安否確認を全力で行っていた。

 

『……こちらはガリィさんに防御して頂いたお陰で無事です。 しかし、僕達も状況は把握できていません』

 

『何よあれ怪獣大決戦は余所でやりなさいよ余所で!!⦅憤怒⦆』

 

 どうやらガリィとNINJAは無事なようだ。しかし、依然三人の安否は分からないままだが……。

 

 

 

『聞こえるか、S.O.N.G.に所属する者達よ』

 

 

 

「っ! 司令、響ちゃんの通信機から反応が……ですが、この声は……!」

 

 その時、響の通信機から司令室へと連絡が入る。しかしその音声は明らかに響のものでは無く……。

 

 

「キャロル……ですか?」

 

 

『その通りだエルフナイン。 歌女どもは気を失っている故、俺が代理で貴様等に現状を伝える』

 

 

 その音声はキャロルのもの。つまり、それが示す結果は……。

 

 

「三人は、敗北したという事か……!」

 

 

『いや、俺の不完全な歌では奴等の一撃を相殺するので精一杯……つまり結果は相打ちだった。 しかしそれにより発生した衝撃で歌女どもは気を失い、こうして俺が貴様等に現状を伝えているというわけだ』

 

 

 S2CAとキャロルの力が激突した結果は……相打ちだった。しかし激突により生じた衝撃に晒された装者達は気絶してしまい、戦場に立っているのはキャロルだけのようだ。

 

 

「相打ち……響達は無事なの!?」

 

 

『医療に関しては専門外であるが故、下手な事は言えぬが……出血している者はおらず、外傷も特に無さそうだ。恐らく無事だろう』

 

 

「ほ、本当!?よかったぁ……」

 

 

 響達に目立った外傷が無い事を安心する未来。しかし他の面々は、この状況が示す事実に既に気付いていた。

 

 

「……ですが、この状況は……」

 

 

「ああ、俺達の敗北……そして、キャロル君の勝利という事になるな」

 

 

『……どうやらそのようだな』

 

 

 そう、戦場に立っているのがキャロル一人である以上、これはS.O.N.G.陣営の敗北と言っていいだろう。

 

 

「……決着はついた。 友里、藤尭……現場に医療班を向かわせ響君達の救護を行う」

 

「……はい」

 

「了解、しました……」

 

 そして、敗北を受け入れた弦十郎は三人を救護する為に医療班の派遣を命じた。これで、戦闘は完全に終わ――

 

 

 

『っ!? 貴様、何を――!?』

 

 

 

 終わると思われた瞬間、キャロルの慌てたような音声が司令室に流れ、そして……。

 

 

 

『まだ……私は戦えます! こんなの平気、へっちゃらですっ!!』

 

 

 

 司令室にいる誰もが敗北を受け入れる中、ただ一人……立花響だけは勝利を諦めず、再び闘志を燃やしていた。

 

 





まだ獅子機が残ってるゾ⦅満面の笑み⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。


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