ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第百三話です。XV七話見ました。

や っ た ぜ (完全勝利)




第百三話

 

 

「……もういい、貴様は十分に健闘した。それは俺も認めよう」

 

「はっ……はぁっ……!!」

 

 響が拳を振るい、そして空を切る。

 

「最早呪いを纏う事もできず、疲労も濃い。そしていまだ現れぬ三人の装者は手負い……そのような戦力で俺に勝てるはずが無い事くらい、貴様も理解しているのだろう?」

 

「……それでも私は諦めない、諦めたくないっ!!!」

 

 響が繰り出した蹴りがキャロルを襲う……そして、空を切る。

 

「……何が貴様をそこまで突き動かしている? ここで負けを認めれば貴様は苦しみから解放され、何気無い日常に戻る事ができるというのに……」

 

「そう、かもしれない……だけどここで私が諦めたら、そこにはキャロルちゃん達がいないんだよ!!!」

 

 響の体当たりはあっさりと躱され、彼女は地面へと倒れ伏した。

 

「何故そこまで俺に構う、所詮は赤の他人でしかない俺に……」

 

「……私のガングニールは、誰かと手を繋ぐためのもの……ずっとそう思って今まで戦ってきたんだ」

 

 倒れ伏したまま響は語る。自身がキャロルに執着する理由を。

 

「ほう、それで?」

 

「でも私は弱くて、手を繋げなかった人がたくさんいて……その人達は二度と手を繋げない場所に行ってしまったんだ……」

 

 響は想う。櫻井了子、ナスターシャ教授、そして目の前でノイズに襲われ消えて行った人達を……。

 

「……余り死者に執着するのは止せ、俺の様になりたくなければな」

 

「うん、ありがとう。 でも大丈夫!私が手を繋ぎたいのはキャロルちゃん……今を生きている君だから!」

 

 そう語り終えると、響は立ち上がり再び拳を構えた。

 

「……ククッ、物好きな人間なのだな、お前は」

 

「なんと言われても私の気持ちは変わらないよ! 目指せ、完全無欠のハッピーエンド!エイ、エイ、オーッ!!」

 

 そして、若干緩んだ空気の中で二人は戦いの続きを……。

 

 

「っ!――盛り上がっているところに水を差すようで悪いが上を見ろ、立花響」

 

 

「――? 上?」

 

 

 再開しようとしたのだがキャロルがあるものを見付け、響にそれを伝える。その言葉に釣られ、響が上空へ視線を向けると……。

 

 

 

「響さーーーーーーん!!! 助けに来ましたーーーーーっ!!!」

 

 

「あたし達がいれば千人力……って翼さんとマリアが倒れているのデス!」

 

 

「おっさんが言ってただろーが、お前がヘリの中で暢気にぐーすか寝てる間に……」

 

 

 上空から降下する三つの人影……それは手傷を負いながらも戦場に駆け付けた、頼りになる仲間達であった。

 

 

「クリスちゃん…!? 切歌ちゃんと調ちゃんも!!」

 

 

「……次から次へと、ご苦労な事だ」

 

 

 声を弾ませ、仲間の到着を喜ぶ響。しかし相手は超絶クソゲーのラスボスである⦅白目⦆ 手負いの三人は果たして戦力となる事ができるのだろうか……。

 

 

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『でも私は弱くて、手を繋げなかった人がたくさんいて……その人達は二度と手を繋げない場所に行ってしまったんだ……』

 

 

(そうか……これまでの私達の戦いには、少なくない犠牲が生じていた。 故に立花は、今度こそ誰も失いたくないと……キャロルと手を繋ぎ、彼女の心を癒したいと考えていたのだな……)

 

 曖昧な意識の中、翼には響の声が聞こえていた。何故響が諦めずに戦い続けているのか……それを翼は理解したが、強烈な眠気に逆らえず再び目を――

 

 

『なんと言われても私の気持ちは変わらないよ! 目指せ、完全無欠のハッピーエンド!エイ、エイ、オーッ!!』

 

 

(私は馬鹿か! 後輩が……立花が一人で戦っているにも関わらず、暢気に寝ているだと!? それでは家族から目を逸らし、友を失った痛みにより現実から目を逸らしていた時のままではないか!)

 

 

 閉じようとした瞬間、再び聞こえた響の声で翼の意識は急激に覚醒して行く。

 

 

(私の背中には守るべき大切な友が、そして家族がいる! ならば……最早目を背け、恐れる必要はどこにも無い!!!)

 

 

 急激に覚醒して行く翼の意識……しかし無情にも、開き始めた彼女の視線が捉えたのは仲間を襲うキャロルの砲撃であった。

 

 

(起きろ、起きろ起きろ起きろ!! 仲間を、そして私を暗闇から救い出してくれた立花を守るために、力を貸してくれ――)

 

 

 翼はこれまでの死闘を共に戦い抜いて来た相棒に願う……力を貸してほしいと、そして友を守らせてほしいと……。

 

 

 

天羽々斬( アメノハバキリ)!!!」

 

 

 

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「つ、翼さん……?」

 

「な、ななななななっ!!!」

 

「すごい……!」

 

「なんだ、今の滅茶苦茶な動き……?」

 

 響達は信じられないものを見る様な目で翼の後ろ姿を眺めていた。そして……。

 

 

「俺の砲撃を受け止めた……? いや、切り裂いただと……?」

 

 

 それはキャロルも同じだったが、彼女達が驚くのも無理はない。何故なら響達に放った砲撃……それが装者達に命中する寸前、何かが間に割り込み砲撃を切り裂いたのだ。そして二つに切り裂かれたエネルギーは装者達の後方で爆発を起こし、装者達は難を逃れたのである。

 

 

「すまない、少しウトウトしていた。 だが問題は無い、ここからは私も復帰しよう」

 

 

 その離れ業を成し遂げたのは風鳴翼……友の苦難を切り払わんと、防人の剣が再び輝きを取り戻した。

 

 

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「翼さんの意識が回復……ですが、口元から流血しているようです!」

 

「内臓にダメージを受けている可能性があります! 司令、すぐに戦闘の中止命令を!」

 

 司令室のモニターには戦闘に復帰した翼が映っていた。ただし彼女の口元からは一筋の赤い糸が引いており、オペレーターの藤尭朔也が戦闘中止を進言するのだが……。

 

 

「いや、あれは自分で唇を噛んだのだろう。 恐らく、意識を強引に引き戻すために…!」

 

 

 その認識が間違っていると弦十郎は指摘する。何故なら内臓にダメージを受けた状態で装者達の前に瞬時に駆け付け、そしてキャロルの砲撃を切り裂くなどという離れ業は不可能だと確信したからである。

 

「い、今の動きは何だったんですか? 翼さんが突然、響達の目の前に現れたように見えたんですけど……」

 

「……ふむ、翼に何が起きているかは俺にもはっきりとは分からんが……」

 

「だ、だけどすごいです! これなら今のキャロルとも戦えるかもしれません!」

 

 突然の事に戸惑いを隠せない未来と、翼の変化に希望を抱くエルフナイン。しかし……。

 

 

「いや、残念だがそれは難しいだろう」

 

 

「――えっ?」

 

 

 弦十郎はエルフナインの抱いた希望を即座に否定した。その理由が判明するのは僅かに後の事である。

 

 

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「立花達はマリアを起こした後、態勢を立て直してほしい!」

 

「えっ!? つ、翼さんはどうするんですか!?」

 

 目の前に突然現れた翼に指示を出され、慌てて返事をする響。マリアを起こしている間、翼が行おうとしている事とは……?

 

 

「それまでは私が時間を稼ぐ!! はあぁぁぁっ!!!」

 

 

「お、おい先輩! 何馬鹿な事言って――」

 

 

 それは一人でキャロルを相手取る事であった。しかし、もちろんその暴挙に仲間が黙っているわけが無くクリスが制止しようとするのだが……既にその時、翼はキャロルの方へと駆け出した後だった。

 

 

「覚悟っ!!(限界を超えた動きに体が軋んでいる……だが、天羽々斬が私にくれた時間を無駄にはしない!!!)」

 

 

 翼の速度、そして力は呪いを纏っている時と同じ……いや、それを僅かに超えていた。故に翼の剣戟を受け止めたキャロルからすれば、翼が無理をしている事は明白だったのである。

 

「……何が貴様をそこまでさせるのかは理解できぬが、その様子では長くは持つまい。 仲間の為に捨て石となるか、風鳴翼」

 

「呪いを纏う力すら残されていない私がすべき役割、それは仲間達が勝利するための可能性を切り開く事……それを成し遂げる為、捨て石になる事を厭いはしない!!」

 

 鍔迫り合いを続ける両者……しかし、限界を超えた翼ですらキャロルの前では鍔迫り合いを維持するのが精一杯のようだ。しかもキャロルの表情には余裕が見えており、彼女が本気で力を注いでいないのは明らかだった。

 

「立花響といい貴様といい、俺には到底理解できぬ……何故貴様等は諦めない、最早戦いを続ける意味など皆無だというのに……」

 

「お前と手を繋ぐこと……それが力及ばず、失い続けて来た私達にとってどれだけの意味を持つのか……そして、どれ程の救いになるのか! それがわたしの戦う理由だ!」

 

「っ!?……随分と独りよがりな理由を聞かされたものだ」

 

「独りよがりで何が悪い! 立花も、そして私達もお前達と友になれると思っている!そのための努力に、恥じる事など何も無い!」

 

「友だと……?」

 

 翼は感情のままにキャロルへと言葉を投げ掛けていた。そして、その言葉はキャロルを多少なりとも動揺させることには成功したようだが……。

 

 

 

「寝坊助の意識が戻った! 援護するから下がれ、先輩!」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 どうやらマリアの意識はすぐに戻ったらしい。その言葉に反応した翼が後方へと下がり、キャロルの追撃を阻止する為クリスは弾幕を張るのだった。

 

 

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「これは装者達の負けね」

 

≪さて、バレた時にどうやって言い訳するか今の内に考えておきましょうか♪≫

 

(……は?⦅殺意⦆)

(装者達のピンチなんだから、どこぞの魔法使いさんが助けに行けばいいんじゃないですかねぇ?⦅半ギレ⦆)

 

 装者達が死闘に身を投じていた時、ガリィ・トゥーマーンは全力で自己保身に走っていた。

 

「……やはり、ですか」

 

「ええ。 援軍の三人はアンタ達が言った通りそもそも手負いだし、イグナイトモジュールを二回起動した響ちゃんと翼ちゃんも戦力外。 つまり真面に戦えるのはマリア一人だけ……これじゃ勝ち目なんて無いに決まっているでしょ♪」

 

(うーん、この畜生)

(あ、でもまだ限定解除……エクスドライブが残ってるじゃん!)

(そうだよ⦅便乗⦆)

 

 どの口が言っているのかは全く理解できないが、ガリィは戦況を的確に把握していた。しかしガリィと違い声達は、装者達にまだとっておきの切り札が残っている事に気付いたようだ。そう、限定解除( エクスドライブ)である。

 

≪ああ、そう言えばまだ残ってたわね≫

 

「あ、でも限定解除を発動できれば可能性はあるかもね~♪」

 

 そして案の定、ガリィはエクスドライブについてド忘れしていた。恐らくこの後、装者達にどうやって怒られないようにするかで頭が一杯だったのだろう⦅呆れ⦆

 

「限定解除……エクスドライブの事ですか」

 

「そっ、マスターが歌った影響でフォニックゲインは十分なはずよね?」

 

 エクスドライブを発動させる事ができれば勝機が生まれる……そんな事は司令室の面々であれば当然、気付いているはずである。では何故、緒川は浮かない表情をしているのだろうか……。

 

 

 

「……いえ、少なくとも今の時点でエクスドライブを発動する事は絶対に不可能です」

 

 

 

「――――――はっ?」

 

 

 

(えっ…?⦅放心⦆)

(なんで?⦅殺意⦆)

(いやいや原作通りキャロルちゃんは歌ってるし、装者だって六人揃ってるじゃん!)

 

 

 その理由は簡単……現時点でのエクスドライブの発動は不可能、そう司令室が判断していたからだった。

 

 

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「フォニックゲイン数値、現時点でも目標値には届いていません。 これでは、もう……」

 

「響君と翼についてはモジュールの再使用不可、クリス君達は傷が癒えていない。そして、マリア君も連戦の疲れが出始めている……」

 

 エクスドライブに至るためのフォニックゲインが不足している理由……それは、キャロルの歌が本来のものと比べ大きく変質している事が原因だった。

 本来、キャロルの歌は呪われた旋律を主として発動し、周囲に大量のフォニックゲインを蓄積させるというものである。しかしオートスコアラーが健在な状態ではそれは不可能……故にキャロルは不足分を想い出で補っていた。

 つまり、想い出をいくらばら撒いた所でフォニックゲインが発生するはずは無く、それが影響しエクスドライブに至るのが不可能になってしまったのである。

 

「でも、響はまだ諦めていません。 他の皆も必死で戦って……」

 

「残念ですが未来さん、キャロルは先程と比べて明らかに手を抜いています。 これ以上戦闘を引き伸ばしても、皆さんに勝ち目は……」

 

 そんな事は露とも知らないS.O.N.G.司令室メンバーの表情は一様に暗い雰囲気に包まれていた。その原因は中央の大型モニターに映る装者六人とキャロルの戦いであり、装者達は六対一にも関わらず明らかに苦戦を強いられていたのである。

 

「っ! 司令、翼さんが倒れました! 恐らく先程の影響で……!」

 

「……そうか。 装者達には申し訳無いがここまで、だな」

 

 そんな中、遂に装者の中に一人脱落者が出てしまう。その名は風鳴翼……先程無茶をしていた彼女はそれでも必死に戦っていたが、遂に限界を迎え糸が切れたように倒れてしまったのだった。

 

「皆さんは素晴らしい戦いを見せてくれました。それを責める事なんてボクには考えられません……」

 

「エルフナインちゃん……」

 

「ああ、そうだな。 お前達、聞こえるか!戦闘を終了し――」

 

 これ以上戦闘を継続しても、敗北は必至……故に弦十郎は敗北を受け入れ、装者達に戦闘の中止を告げ――――

 

 

 

 

「待ってください弦十郎さん! あ、あれを見て下さい!」

 

 

 

 

「未来君……?――――――あの光は、まさか……!」

 

 

 ようとした瞬間、驚愕した表情の未来がモニターを指差し叫び声を上げた。それに釣られ顔を上げた弦十郎がモニターを見ると、そこには信じられない光景が広がっていたのである。

 

 

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「……ようやく一人、か。 随分と粘ってくれたものだ」

 

「翼さん!」

「先輩!」

 

 翼が倒れ伏し、近くにいた響とクリスが慌てて彼女を抱え起こす。

 

「うぅっ……すまない、皆……情けない限りだが身体が、最早言う事を聞かない……!」

 

「何言ってんだ! あんたは十分頑張った、後はあたし達でやるから休んでろ!」

 

「そうです! 翼さんのお陰でここまで頑張れたんですから休んで下さい!」

 

 幸いにも意識はあったようだが、最早翼に戦う力は残されていないようだ。だが、ファラとの戦いから休む間もなくキャロルと対峙した彼女を責める者は誰もいないだろう。

 

「……もういいだろう、立花響。 貴様が諦めれば全て終わる、早くその女をベッドで休ませてやれ」

 

「翼、さんを……?」

 

 キャロルによる再度の降伏勧告……これまでは頑なにそれを拒んでいた響だが、脱落者が出た以上それを受け入れる方に傾き始めていた。

 

「待て、諦めるな立花……! まだ、我々には切り札が――」

 

 しかし、翼は戦闘を継続するよう響に助言する。しかし……。

 

「それは本部から不可能だって言われたでしょう……あれから私達に状況が変わったという通達は来ていない。つまり、そういう事よ」

 

「マリア……」

 

 最早切り札の発動は不可能……つまりそれは、装者達に勝ちの目が存在しない事と同義であった。

 

「翼さんは十分頑張ったじゃないデスか……負けるのは悔しいデスけど、またリベンジすればいいだけの話デス!」

 

「うん、今は翼さんの身体が最優先だと思います」

 

「お前達まで……」

 

 マリアだけでなく、駆け付けた年少組にまで身体を気遣われる翼。この状況に至り、装者達の意思は完全に降伏へと傾きつつあった。

 

「クリスちゃん……」

 

「……ああ、この雰囲気じゃ、な……」

 

「……うん、そうだね」

 

 その雰囲気を感じ取り、クリスと響も遂に戦闘を終了させる事を決意する。そして、響はキャロルの方へと降参を伝えるために歩き出した。

 

「立花、何をっ!? ま、待ってくれ!」

 

「……翼さん、私の我儘に付き合ってくれてありがとうございました。そして……ごめんなさい」

 

 その姿を見て、必死に響を繋ぎ止めようとする翼。しかし響の歩みは止まる事無く、キャロルの目の前に響は辿り着いた。

 

「……諦めはついたのか?」

 

「うん……あはは、すごいねキャロルちゃん。信じられないくらい強くて、本当にビックリしたよ」

 

「年季の差、という奴だ。 お前達も成長すれば俺を凌ぐようになるかもしれぬ」

 

「そっか……そうだと嬉しいなぁ」

 

 響の意思は、奇跡でも起こらない限り最早揺らぐことは無いだろう。そう……。

 

 

 

  奇跡でも起こらない限りは( ・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「私がふがいない所為で、立花にあのような顔をさせてしまうとは……!(頼む……何でもいい……!立花の願いを、祈りを叶える力を貸してくれ……!!)」

 

「お、おい! 無茶すんな先輩!」

 

 動かぬ身体に鞭を撃ち、翼は虚空へと手を伸ばす。しかし、それに答える者はこの場にはおらず場は静寂に包まれていた。

 

 

 

「ありがとう、キャロルちゃん……この戦いは、私達の負け――」

 

 

 

 そして、響は敗北を認め――

 

 

 

 

 

 

 

 

『~♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歌が……聞こえる……?」

 

 

「……なんだと?」

 

 

 しかし、その言葉は最後まで呟かれる事は無かった。何故なら……。

 

 

「おいおい、なんだよこれは……!」

 

「歌、デスよね……?」

 

「私達の周りから聞こえる……でも、誰が歌っているの……?」

 

「私達以外に誰も居ないわよ……なのに、どうして……」

 

「……私は、夢でも見ているのか……?」

 

 

 彼女達の周囲から聞こえて来たのは……『歌』 誰もいないはずの場所で、確かに歌が聞こえているのである。

 

 

「っ!? この歌は……誰だ、誰がこれを歌っている!?」

 

 

 その異様な状況に最も取り乱していたのはキャロルであった。何故なら彼女は法則に乗っ取り術式を構築する錬金術士……故に、このようなまるで理解ができない現象には恐怖に近い感情を抱くのだった。

 

「わ、分からないよ私達も……」

 

 取り乱すキャロルを前に、自分達の仕業では無いと慌てて語る響。

 

 

 しかし無情にもこの現象には続きがあり、それを見せられたキャロルは更に取り乱す事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

「おい、嘘だろ……」

 

「これは、まさか……!」

 

「あの時と、同じ……!」

 

 

 気が付けば、装者達の周囲には数え切れない程の光の粒子が舞っていた。そして、響、翼、クリスの三人はこの状況に見覚えが、あった。

 

 

「これって、もしかして……」

 

「フォニックゲイン、デスか……?」

 

「嘘でしょ……これじゃあまるで……」

 

 

 そう、その粒子の名は『フォニックゲイン』 彼女達の切り札であるエクスドライブを発動させるために必須なものが、気が付けば彼女達の周囲に舞っていたのである。

 

 

 

「馬鹿な……なんだこれは……一体何が起こっている!?」

 

 

 

 その現象が起こった理由を理解できず、激しく取り乱すキャロル。

 

 

 混沌と化した戦場……しかし一つだけ分かる事は、装者達にとって信じられない現象……そう、『奇跡』が起こったという事である。

 

 

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「フォニックゲイン数値が大幅に上昇して行きます! ……エクスドライブ発動に必要な目標値を突破!尚も上昇して行きます!」

 

「装者達から歌が聞こえると報告が! この現象はその歌が原因と思われます!」

 

 装者達の周囲で起こった現象の影響は、当然司令室のメンバーにまで及んでいた。オペレーターの二人が言う通り、既にフォニックゲインはエクスドライブ発動に必要な数値を突破。それどころか更に上昇を続けていた。

 

「……誰かが装者達のために歌い、フォニックゲインを……? しかし、あの場所で誰が……」

 

「綺麗……」

 

「……まるで、奇跡みたいです……」

 

 装者達の周りに舞い上がる光の洪水……その美しく、幻想的な光景を未来とエルフナインは呆然と見つめていた。

 

「奇跡、か……」

 

『おいおっさん! これでまだ降参しろ、なんて言わないよな!?』

 

「――ああ! これより作戦を変更する! 戦闘継続が可能な装者はシンフォギアの限定解除を行い、キャロル君との戦闘を再開せよ!」

 

 突如発生した『奇跡』により反撃の準備は整った。そして、弦十郎は装者達に切り札の使用を許可する命令を出し……。

 

 

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 

 

 劣勢を強いられ続けた装者達の反撃が今、始まろうとしていた。

 

 

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「――――――はぁ?」

 

 

(なにあれ、怖い⦅震え声⦆)

(あはははは、綺麗だね~⦅現実逃避⦆)

(え、真面目になんなのあの現象? 奇跡、奇跡なの!?)

 

 なお、ガリィ一行は状況に付いて行けず完全に置いてきぼりだった。

 

 残念だがガリィは置いて行く、この戦いには付いて来れそうにないからな……⦅悲しみ⦆

 

 





XV七話のガリィちゃん→ぐう聖
この小説のガリィちゃん→自己保身に必死

キャロル君!今すぐ廃棄躯体のガリィちゃんを起動しよう!⦅満面の笑み⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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