第百六話です。
「……(何か動きがあったようだが、この状況でまだ貴様等に打てる手が残っているというのか?)」
何かを話し合っている装者達を静かに見つめるキャロルは、彼女達に何か動きがあった事を察していた。
「……(限定解除は使用済み、更に装者六名中四名が戦闘を継続するのが困難な状況で打てる手は……まさか、絶唱?)」
装者達の敗北は揺るがないと言っても過言では無い状況の中、装者達が降伏しない事にキャロルは一抹の不安を抱く。しかし……。
「……(どのような手段に出るにせよ、完全体獅子機の稼働テストが行える事は私にとっても利がある、か。 ふっ、貴様等が何をする気なのかは理解できぬが楽しみに待たせてもらうとしよう)」
キャロルはその不安を無視し、装者達を見守る事にした。そして、彼女がこの時に抱いた不安が大正解だった事を、この後キャロルは身をもって知る事となるのである⦅悲しみ⦆
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「シンフォギアを一つにするだと? 小日向、本当にそんな事が可能なのか?」
『現実的に可能かどうかは分かりません。でも響ならそれができるかもしれないって……私は思ったんです』
「つまりお前の思い付きじゃねーか! というかなんでこの馬鹿にだけそんな事させ――」
未来が考えた作戦、『シンフォギアを一つに合わせてライオンを倒そう!』はあまり装者達には受け入れられていないようだ。第一、未来は何故わざわざ響を指名したのか……その疑問をクリスが投げ掛けようとしたところで彼女は気付いた。
「――まさか、こいつのギアの特性を利用してシンフォギアを一つに束ねるって事か……?」
『うん、響のシンフォギアなら皆の想いを……シンフォギアを束ねられるんじゃないかな?』
『皆さんのシンフォギアをフォニックゲインに変換し、それを響さんがガングニールで操作して一つに束ねる……それがボク達が考えた最後の秘策です!』
未来達が提案する作戦の内容……それはまず、響以外の装者のシンフォギアをフォニックゲインに変換する。そしてガングニールの特性である『エネルギーベクトルの操作』を使い束ね、一つになったシンフォギアを響が纏うというものだった。
「そ、そんな出鱈目な事本当にできるんデスか!?」
「限定解除六人分のエネルギーを一人で……? 響さんの負担が大きすぎる気がするんですけど……」
「……そうね。それに響以外の皆にも大きな負担が掛かるんじゃないかしら?」
勢いよく作戦内容を告げるエルフナインだが、そのアイデアは装者達からすれば無茶苦茶な作戦にしか聞こえなかったようだ。エルフナインは装者達の疑問点についてはどう考えているのだろうか?
『皆さん……先程の限定解除についてですが、身体に掛かる負担が少なかったとは感じませんでしたか?』
「あっ、言われてみればいつもより全然楽だった気が……」
「――立花も? つまりあれは、私だけでは無かったのか……!?」
「私もそうデスけど、それが今回の作戦と関係あるんデスか?」
装者達に疑問に対するエルフナインの答え……それは先程の限定解除まで遡るところから始まった。どうやら限定解除時に装者達に掛かる負荷が僅かだったことが今回の作戦に関係しているようだが……。
『先程の限定解除の際、皆さんの周囲には高濃度の光の粒子……フォニックゲインが集中していたのです。そしてその結果、皆さんの身体に掛かる負担は僅かに抑えられた……つまり――』
「……それを利用して、私達の負荷を抑えようって事なのね」
『はい、光の粒子が力を貸してくれるかどうか……それがこの作戦の最重要ポイントです』
エルフナインはどうやら光の粒子をあてにしているらしい。しかし相手は詳細不明の現象であるため、賭けになる事は間違いないだろう。
「上手く行かなかったらどうするの?」
『その時は即座に戦闘を終了。潔く降参しましょう』
「……ははっ、分かりやすくていいじゃねー――ってアホか! 適当過ぎるだろその作戦!⦅全ギレ⦆」
「だ、駄目だよクリスちゃん! 未来達がせっかく考えてくれたんだよ!?」
「おい……お前が一番大変なの分かってんのか? 何が起こるか分からねーんだぞ!?」
正体不明の現象に頼り、奇跡にも近い大技を成功させる……確かにクリスの言う通り適当というか滅茶苦茶な作戦である⦅遠い目⦆ これでは反対されても仕方ないだろう。
「き、きっと大丈夫だよ! だってエルフナインちゃんと未来が考えてくれたんだもん!⦅謎理論⦆」
「バカ! お前ってホントのホントにバカ!!!」
「……作戦を実行するかどうかを決める前に確認したい――小日向、そしてエルフナイン……勝算は十分にあるのだろうな?」
響とクリスが小学生のような言い合いをしている中、翼が通信機の向こうの二人に勝算の有無を問いかける。それに対する二人の答えは……。
『未来さん……本当に言うんですか?』
『うん、弦十郎さんも一緒にお願いします!』
『あ、ああ……なんというか、逞しくなったな未来君……』
いや、どうやら答えは弦十郎を加えた三人で発表するらしい。その答えとは……。
『『『せーの……! 思いつきを、数字で語れるものかよっ!!!』』』
それは以前弦十郎が、そして響が未来を救う為に言い放った言葉だった。その言葉を今度は未来が響の想いを叶えるため、力強く言い放ったのだ。
「っ!――突然大声を上げないでよビックリしたじゃない!……それに叔父様まで参加して悪ノリが過ぎます!」
「そっ、それっ! 前に私が言ったやつ!師匠の持ちネタだ!」
「……!!!!⦅必死で笑いを堪えている⦆」
「相変わらず、調の笑いの基準が分からないのデス……⦅遠い目⦆」
「開き直り、ですって……?⦅驚愕⦆ いえ、確かに言っている事は間違ってはいないのだけれど……⦅困惑⦆」
「間違ってはないけど言ってることは滅茶苦茶だぞ……⦅呆れ⦆」
これに対して装者達の反応は様々だったが、場の空気は少し和らいだようだ。しかし、場の空気が和らいだだけでこの作戦を決行するのは難しいだろう。
『無茶苦茶な事を言っているのはボク達も理解しています。 ですから、皆さんが危険だと判断すれば却下して頂いて構いません』
「で、でもこれを諦めちゃったらキャロルちゃんは……」
「お前が思うほど簡単じゃねーんだよ……せめてこの光頼りじゃなければ、あたしだって反対し――」
そう、この作戦で一番の問題は謎の現象を頼りにしなければいけない所である。では……。
「――なんだ、これ?」
その問題点がクリアされたとしたら、どうだろう?
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「……光が、装者達の周囲に集まり始めている」
装者達の周囲に集まり始める光の粒子……キャロルはそれを誰よりも早く察知していた。
「やはり絶唱、か?……愚かな、最悪死者が出るやもしれぬぞ」
その光景を見て、キャロルは装者達が限定解除状態での絶唱を発動させようとしていると判断していた。
「立花響一人で負荷を抑えられるとでも思っているのか? だとすれば思い上がりも甚だしい、と言ってやりたいところだが……」
キャロルは装者達に対し、少々落胆していた。恐らく、彼女達が命を投げ出すような作戦に出た事が原因なのだろう。
「……奴らが絶唱を始めようとした瞬間を狙い、意識を奪うとするか。 安心しろ……お前達が次に目を覚ますのは絶望的な戦場では無く、柔らかなベッドの上だろう」
どこか優し気な眼差しを装者達に向けるキャロルの表情……それが驚愕に変わるまで、あと僅か……。
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「装者達の周囲に再び高濃度のフォニックゲインが発生しています!」
「司令、これは……!?」
S.O.N.G.司令室のメンバーは、今日二度目の理解不能な現象を観測していた。
「……やれ、という事か」
『師匠! 私達の周りで光がぶわーってなってるんですけど!? な、何かどうなってるか分かんないよぉ~!!』
「お、落ち着いて下さい響さん! 恐らくこれは、光達によるメッセージです!」
『っ!――私達の負荷を和らげてくれると、そう言っているのか……?』
『おいおい、奇跡ってのはこんなに簡単に起こるもんなのかよ……』
「……私の思い付きで、大変な事になっちゃった……⦅呆然⦆」
『未来さんの所為じゃないと思います⦅断言⦆』
『調の言う通りデス!』
『これなら、いけるかもしれないわね……』
中央の大型モニターに映るのは六人の装者達、そして彼女達の周りを包む光だった。作戦を実行するかどうかのタイミングで起こったこの現象……それはまるで、ナニカが装者達の決断を後押ししているようだ。そして……。
「やろう! 皆と一緒なら大丈夫、平気へっちゃらだよ!」
それから数分後、響の言葉が決め手となり作戦は実行される事となったのである。
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「お待たせ、キャロルちゃん!」
「手を繋いで何をする気だ、貴様等……!(まあ大体予想はついているが、ここは乗ってやるとしよう)」
キャロルの目には六人の装者が手を繋ぎ、円になっている光景が映っていた。
「これが私達の、最後の作戦だよ!失敗したら、ゴメンね!」
「……失敗?(絶唱に失敗すれば貴様等の命が危ないのだが……随分と軽い表情をしているな)」
響の表情が柔らかい事に若干の疑問を抱くキャロル。しかしそれも言葉に出す程のものではなく、彼女は静かに装者達を見守り続けていた。
「……始めるよ、皆」
そして、遂に響達の最後の作戦が開始されようとしていた。
「ああ」
「りょーかい」
「はい」
「き、緊張するのデス……!」
「いつでもいいわよ」
響の声に呼応する装者達……そして彼女達は心を、そして想いを一つにするため……。
「「「「「「 ~♪ 」」」」」」
「やはり絶唱か――いや、待て……この旋律は――」
六人の歌声を一つに束ね、旋律を奏で始めた。
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「エクスドライブ・リリースッッッ!!!」
舞い上がる光の中央で装者達が旋律を奏でる中、響が作戦の開始を宣言した。
「~♪ (天羽々斬!)」
「~♪ (イチイバルッ!)」
「~♪ (イガリマァ!)」
「~♪ (シュルシャガナ!)」
「~♪ (アガートラーム!)」
そして響の言葉に続き装者五人がシンフォギアを
「~♪(ぐっ……これは、辛いな。 だが、耐えられぬ程のものではない……!)」
「~♪(これならなんとかなる……耐えられる!)」
「~♪(光が私達を助けてくれているんだ……)」
「~♪(ここまでされて失敗なんて、恥ずかしくてできないのデス!)」
「~♪(月読に暁…雪音も問題は無さそうだな。という事は、私達の中で最も余力を残していたマリアも――)」
対面に立つ切歌と調、そして左隣のクリスの表情を確認し作戦が順調に進んでいる事を確信する翼。そして、最後に一番余力を残していたマリアの方を確認した翼の目は……。
「~♪(ぐっ、ああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!)」
「っ!?(マリアッ!?)」
表情が苦痛に染まり、声に出さず必死で痛みに耐えているマリアの姿を捉えた。
「~♪(馬鹿な……マリアにだけ何故これ程の負荷が!?)」
翼は状況が理解できなかった。何故自分達とは違い、マリアにのみ多大な負荷が掛かっているのか……それが理解できず、彼女はただ呆然とマリアの表情を見つめ続けていた。そして……。
「~♪(まさかアガートラームが……マリアが私達の負荷を肩代わりしているのか!?)」
その原因に辿り着いた。マリアが纏うアガートラームの特性……それは『エネルギーを調律する』ことであり、響のガングニールと似通ったものである。
つまりマリアは何も語らず自分の判断で他の装者に掛かるエネルギーの負担を調律し、負荷を肩代わりしていたのだ。しかし、彼女は何故そんな事を……?
「マリ――」
「~♪(駄目よ翼……これは私の!一番の年長者な上に余力が残っている私の仕事なんだから!!)」
「――っ!?(――言うな、という事か……それがお前の、マリア・カデンツァヴナ・イヴの意地……!)」
アガートラームが皆の負担を肩代わりできる可能性を、未来からこの作戦を聞いた時既にマリアは気付いていた。
周りは響を除けば満身創痍、そして余力が残っている自分自身……この状況でマリアに迷いは無かった、ただそれだけの事である。
「~♪(相手はアレだもの、響には万全の状態で戦ってもらわないとね……)」
自分だけでなく、五人の負荷をも肩代わりしているマリアに掛かる負荷は想像を絶するものだろう……しかしそれでも彼女は笑みを浮かべていた。そして……。
『響ならできるって……キャロルちゃんと手を繋げるって私、信じてるから!!』
『響さん! 数百年に及ぶ闇の中からキャロルを……助けてあげて下さい!!』
『最早言う事は一つだけだ! 勝て、響君!!』
「~♪(皆の声が聞こえる……! それに応えるために……そして私自身のためにもこの勝負、負けられない!!!!!)」
マリアの捨て身の献身により誰一人として脱落者を出す事無く六人の想いが……シンフォギアが一つとなる。
「――――――――――――なんだ、それは……?」
その光景を見せ付けられた奇跡の殺戮者……キャロル・マールス・ディーンハイムの表情は驚愕に染まり、ただ一言問いかけるので精一杯だった。そして……。
「これが私達の……シンフォギアだあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
六人の想いを束ねた奇跡の結晶……六色の光を纏うシンフォギアが空へと舞い上がり、奇跡の殺戮者の前に姿を現した。
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≪――――ねえ、なによあれ?⦅真顔⦆≫
(知らねぇよ、こっちが聞きてぇよ⦅真顔⦆)
(右手にガングニール、左手は……アガートラームだよね?)
(虹色の羽に虹色のオーラ……見るからにヤバそうなんですけど⦅白目⦆)
ガリィ・トゥーマーンと声達は相変わらず急展開についていけず置いてきぼりであった⦅悲しみ⦆
≪――――原作には……≫
(あるわけねぇだろあんなもん。 あんなの出て来たら最終話が二分で終わるわ⦅真顔⦆)
(他の装者の皆はギアが解除されてる……って事は)
(六人のギアを合体させたって事でしょうね、しかも限定解除した状態で……⦅震え声⦆)
声達の原作知識も役に立たず、もちろんガリィ自身が理解できるはずも無い。ここに来てガリィ一行は、本当の意味で未知の領域へと突入したのだ。
なお、それを引き起こした原因の大元はガリィ自身である⦅遠い目⦆
≪――――反則じゃないの?≫
(先に反則したのはキャロルちゃんと獅子機だからね、仕方ないね⦅諦め⦆)
(反則だと思うなら響ちゃんの所に言いに行く? その前に戦闘の余波で蒸発すると思うけど⦅満面の笑み⦆)
≪――――そうね……とりあえず、あの子達を回収してあげましょうか≫
(もうガリィちゃんと私達にできる事はそれくらいしかないんだよ……⦅悲しみ⦆)
(最終回で蚊帳の外かぁ、悲しいなぁ……⦅白目⦆)
(まさか最後の最後に全部乗せが来るとはねぇ……⦅遠い目⦆)
ガリィ一行はこれ以上、理解不能な事態が起きないように祈りながら静かに見守る事にした。
新たに理解不能な事態がガリィ一行を襲うまで、あと僅か……⦅悲しみ⦆
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「マリア!?」
「無理して動かない方がいいのデス!」
「……大丈夫、少し休めば元に戻るから……」
響に全てを託した装者達……その中で最も消耗していたのは、当然ながらマリアだった。
「マリア、どうしてあんな無茶を……」
「一人でかっこつけやがって……! それでお前が倒れたら意味無いだろーが!!」
他の装者達も消耗してはいたが、何処かの年長者が黙って肩代わりしていたため重症といえる程のものでは無かった。ちなみにマリアが仕出かした事は、翼により全員に伝えられた後である。
「……そんな事より、私達がここにいたら響が全力で戦えないわ。 だから早くここから離れないと……痛っ!」
「無理をするな! 退避する際には私がお前を背負う。だからこれ以上動かないでくれ」
「何、言ってるのよ……翼も、他の皆だって満身創痍なんだからそんな事できるわけないでしょう?」
「だが――」
ギアを纏っていない自分達がここにいる限り、響は全力で戦う事ができない……そう考えたマリアは無理に身体を動かそうとしていた。しかし……。
「あらら、情けないわねぇ♪ だけどそこにいたらマスターの邪魔になるし、ガリィが連れて行ってあげる☆」
「貴方達は私達が責任を持ってお守り致しますわ」
「――お前達は……!」
その時装者達の前に駆け付けたのは……かつて敵として戦った二体の人形であった。
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「――――まさか貴様、他者のシンフォギアを自身に取り込んだとでも言うのか……?」
理解不能という言葉を具現化したかのような相手を前に、キャロルの脳内は大混乱に陥っていた。
「……? 違うよキャロルちゃん、取り込んだんじゃなくて束ねたんだよ?」
「??? それは取り込んだのと同じ意味ではないのか?」
「全然違うよ~! でも私馬鹿だから理由とかは上手く言えないんだ、ごめんね!」
「えぇ……⦅困惑⦆」
更に響の性格が災いし、キャロルはこの現象が何なのか余計に分からなくなっていた。まあそれについては後でエルフナインにでも聞いてもらうとして、いよいよラスボスと主人公の大将戦である。
「まあいい、それは後でエルフナインにでも聞くとしよう……それでここからは貴様一人が私と……獅子機と戦うという事で間違いないか?」
「うん、そうだよ!――あっ、皆はどうしよう……先に避難してもらわないと――」
「それについては問題無い、既に迎えを向かわせている。 その後奴らの退避が終わり次第、始めるとしよう」
「本当? ありがとうキャロルちゃん!」
「……気にするな」
その前に地上に残る装者達の避難を済まさねばならないが、どうやら既にキャロルが手を回してくれているようだ。後は装者の退避を待って戦闘を開始するのみ、のはずなのだが……。
「ねえねえキャロルちゃん、みんなが避難するまで暇だよね? 質問とかしてもいいかな?⦅満面の笑み⦆」
「質問……? まあ、私に答えられる事なら構わないが……」
ここで突如、ラスボスと主人公による質問タイムが始まってしまう⦅遠い目⦆ この状況で響は一体、何を聞きたいのだろうか……?
「えっと~、キャロルちゃんは食べるのは好き? 御飯とか、スイーツとか!!」
「……この状況で聞く事が獅子機についてではなく食事の事なのか⦅困惑⦆」
「ワクワク、ワクワク♪」
「……カレーの日は食が進む。後、甘味についてはガリィが時々持ち帰って来るクレープが好みでな……イチゴのソース、あれは癖になる」
「クレープ!? いいねいいね! 今度一緒に食べに行こうよ美味しい店たっくさん教えてあげる♪」
クレープを食べに行く約束をするラスボスと主人公……平和で良い事ですね⦅目逸らし⦆
「……この後私達の処遇がどうなるかは分からぬが、お前が私に勝利する事ができれば……考えておこう」
「っ! やったぁ♪」
なお地上ではガリィとファラによる装者の輸送が始まっている模様。地上の面々はまさかこんな会話が繰り広げられているとは夢にも思っていないだろう。
「……避難は完了したようだ。 始めるか、立花響」
「っ!――うん、そうだね」
それから十分後……響の平和な質問に答え続けていたキャロルにファラからの通信が届く。そして……。
「まずはお前の力を試すとしよう……!」
先手はキャロルだった。彼女は獅子機の周囲に無数の錬金陣を展開し、その一つ一つから必殺の威力を誇る砲撃を放つ。
「っ――クリスちゃん、少し借りるね」
「……回避行動を取らぬ、だと?」
キャロルが無数の砲撃を放った理由……それは響の機動力と回避力を確認するためだった。しかしその予測に反し、響はその場から移動せず……砲撃は全て響に命中したのである。
「何を考えている……? いくらお前のギアが強化されたとはいえ無事に済むと――っ!?」
しかし、爆炎が晴れた先にはキャロルの砲撃を全て受けたはずの響が……無傷で立っていた。
「――その防御形態は……まさか他人のシンフォギアを取り込んだだけでなく、我がものとして使用できるのかお前は……!?」
キャロルの視線の先……そこには響を守る様に前方に展開されたフィールドが見えていた。更によく見ると、響の腰の部分に先程までは無かったはずの武装がいつの間にか展開されていたのである。その武装とは……。
『舐めんじゃねぇ! あたしの……イチイバルのリフレクターをそんな豆鉄砲で突破できると思うなよ!!』
そう、それは雪音クリスが所有するシンフォギア……イチイバルのリフレクターであった。しかもその性能はキャロルの砲撃を全弾防ぎ切る程強度が上がっており、その光景を見せられたキャロルが動揺するのも仕方ないだろう。
「我がものになんてしてない……私はみんなが託してくれた想いを、シンフォギアを束ねただけ」
「っ、束ねた、だと……? というかそれは取り込んだのと同じ意味だと言っているだろうが、立花響!!!」
砲撃を防がれた上に響の発言が+され、混乱したキャロルは続けて獅子機から火球を放つ。その威力は先程の砲撃とは比べものにならぬ程に強大なものであり、いくらイチイバルのリフレクターでも防ぎ切れるかは怪しい所だが……。
「――マリアさん!この技、すごくかっこいいと思います!」
響がそう叫んだ瞬間、左手のギア……アガートラームの銀腕が変形し、巨大な砲のような形となる。そして……。
『生半可な攻撃で悪かったわね……だけど私にも意地があるのよ!!!』
響の左腕から超弩級のエネルギーが放出され、獅子機が放った火球へと襲い掛かった。
「馬鹿な……相殺しただと!? 先程の獅子機とは比べるのもおこがましい程の威力なのだぞ!?」
「っ! 次は私の番だよ!!!」
「――っ!?」
その結果は相殺……超威力を誇る二つのエネルギーは、お互いを食らい尽くし周囲を爆炎で包んだのである。
そしてこの時……驚きの余り思考停止していたキャロルに対し、響は既に次の行動に移っていた。
「――調ちゃん、今度また乗せてね!!」
「空中を!?――鬱陶しい、落ちろ!!!」
僅かの硬直の後、キャロルが正気を取り戻した時……響は車輪のようなものを駆り、空中を高速で駆けていた。それを撃ち落とすためキャロルは先程の様に無数の砲撃を放つのだが……。
『私の禁月輪で守る……響さんには傷一つだってつけさせない!!!』
空中を高速で駆ける禁月輪には、僅か一発ですらも命中する事は無かった。そして、その勢いのまま響は獅子機へと高速で向かっていく。
「――ならば!!」
しかしキャロルも黙って接近を許すわけではない。彼女はダウルダブラの弦を前方に網のように展開し、響の進路を完全に塞いだ。
「――翼さん! 私に苦難を切り開く力を貸してください!」
「っ!? 次は何だ!?」
しかし次の瞬間、響のギアはまたも形状を変化させていた。響の右手には剣が握られており、彼女がそれをダウルダブラの網へと振り被ると……。
『甘い! 防人の剣はその程度で止められはしない!!!』
響の後方の空間から無数の剣刃が放たれ、ダウルダブラの網を全て切断した。
「小癪な真似を……! だが、この距離が貴様だけのものだと思うなよ!!」
「っ!? 突進して来た!?」
既に響は目と鼻の先……しかしキャロルは慌てる事無く獅子機を動かし、即座の判断でその巨体を響へと突進させた。
「わっ、わわわ!――切歌ちゃん! 助けてぇぇぇぇっ!」
「もう遅いわ! この痛みを糧にして自分の迂闊さを少しは反省するがいい!」
迂闊に距離を詰めてしまった状態ではどう考えても回避は不可能……そうキャロルが確信した瞬間、残された最後の装者のシンフォギアが響の窮地を救うために起動する。
『あたしのイガリマならこの程度、余裕綽々デス! そして、このまま反撃デェェェェェス!!!』
「ほっ! よっ――っと!! 危なかったぁ~!」
「鎖だと!?」
響の手には鎖が握られ、その身を上空へと逃がす事に成功していた。響は獅子機と衝突する寸前、イガリマの鎖を獅子機の角へと巻き付け、鎖を引いた反動で上空へと逃れ回避に成功したのだ。
そして、上空に逃れた響の眼下には獅子機の背中が……無防備な姿が映っていた。
「よぉーし! いくよ、キャロルちゃん!!」
「――甘い!」
そのチャンスを逃すまいと響は、獅子機の背中へと急降下を開始する。しかし今度はキャロルも動揺する事無く迎撃を開始、無数の砲撃に加え高熱の結晶……カーボンロッドを響へと射出する。
「うおおおおおおおーーーーっ!!!!!」
「っ!? ククッ、ハハハハハ!!!本当にお前は面白いな、立花響!!」
それに対し響は、お構いなしに突撃を継続……その勢いだけで砲撃が飛び交う中を強引に突き進む。そして……。
「ガングニィィィィィィィィィィィル!!!!!!!!!!!!」
響の右拳……ガングニールの一撃が、獅子機の背中へと派手に突き刺さった。
現時点で判明している響の状態
・六つのシンフォギアの武装を使用可能。同時展開できるかはまだ不明。
・出力及び威力の大幅増加
シンフォギア自体はエクスドライブ状態と変化無し。ただし左手はアガートラームの銀の腕になっています。
一番大きな変化は背中の翼が虹色(黄、青、赤、緑、桃、白)に変化し、全身に虹色のオーラを纏っている事です。
まだ(今のところは)普通やな!
次回も読んで頂ければ嬉しいです。