第百七話です。
「ガリィ！ 装者達を守れ、派手に衝撃が来るぞ！」
「飛来物は私とレイアちゃんで防ぎます、ガリィちゃんはその子達の守りを！」
「言われなくても分かってるわよ！」
響のガングニールの一撃が獅子機に突き刺さった僅か後……戦場から離れた岩山に避難していた装者達を衝撃波が襲う。それを三体の人形が食い止め、なんとか窮地を乗り切る事には成功したのだが……。
「すまない、世話をかける」
「気にしないで、翼ちゃん」
「すごい衝撃だったね……」
「ここまで結構離れているのに、信じられないのデス……」
「……もう少し下がるべきだな。 ガリィ！ここもどうやら地味に危険地帯のようだ」
そう、戦場からかなり離れたこの場所ですら安全圏では無かったのである。これは早急に移動しなければならないだろう。
「はあ、面倒臭いけど仕方ないわね……ほらアンタ達、運んであげるから大人しくしていなさいな」
「おい、待てよ。 あのバカのギアを真面に食らったんだぞ？もう終わってるんじゃねーのか？」
「そうね、あの一撃を耐えられるとはとても思えないわ」
しかしクリスとマリアはその必要があるのかを疑問に思っていた。響の繰り出した強烈な一撃を受けた獅子機が無事だとは思えなかったからである。それに対し、ガリィの返答は……。
「それが分かんないからとりあえず下がるんでしょうが！ ふざけた事言ってると次に同じのが来た時にアンタ達だけ守ってあげないんだから！正直に言うけど今回もギリギリだったんだからね｟憤怒｠」
「えっと……すまん」
「ごめんなさい……」
二人に食って掛かるガリィの表情は可哀想な程に余裕が無かった｟悲しみ｠ その酷さは普段は反発するクリスが素直に謝罪をするほどであった……。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「――嘘、ガングニールでも貫けないなんて……！」
獅子機の背中に拳を叩きんだ響の拳は……獅子機の装甲を僅かに削り取っただけに終わった。
「ふむ……動作には今の所問題無し、か。これならもう少し出力を上げても問題は無さそうだな」
響が呆然と立ち尽くす中、キャロルはと言うと……淡々と獅子機のデータ収集を行っていた。どうやら彼女は段階的に獅子機の出力を上げつつ、安全に運用できる限界点を模索しているようだ。
「キャロルちゃん？ 何を、言っているの……？」
「？ 何を驚いている、立花響。 今の攻防は私達にとって準備運動のようなものだろう？」
不幸にもキャロルの呟きが聞こえてしまった響はキャロルにその意味を問う……が、どうやら二人の認識はどこかすれ違っているようだ。
「えっ……そ、そうだったの！？」
「何故お前が驚いている？ 私はこれ程強大な出力で獅子機を運用した経験が無く、お前のシンフォギアもその形態で戦うのは初めてではないのか？」
「そ、そうだけど私は結構本気、だったりして……あは、あははは……｟遠い目｠」
キャロルと響、両者共に初めての戦闘形態である事は間違いない。しかしキャロルにはもう一つ、響が本気を出していない事を確信する要素があった。
「……まさかとは思うが、他の装者の武装を扱う事に夢中で自分が歌っていなかった事に気付いていないのか？｟困惑｠」
「へっ？――――――ほんとだ、私歌ってない……みんなのシンフォギアを貸してもらうのに必死で、声に出すのを忘れてたみたい……｟うっかり｠」
キャロルが響が全力ではなかった事を確信する要素……それは先程の攻防で響が歌っていなかった事だった。
しかし……どうやら響はそれを意図的に行っていたわけではなく、仲間達のシンフォギアを使いこなすのに夢中で声に出すのを忘れていたらしい。
「お前という奴は……歌抜きのシンフォギアでは真面に力を発揮できぬだろうに……｟呆れ｠」
「こ、心の中ではちゃんと歌ってたんだよ！」
「声に出さねば意味無いわ馬鹿者！！」
……実はこの会話には恐ろしい事実が隠されていた。それはキャロルが言った『歌抜きのシンフォギアでは真面に力を発揮できぬ』という部分である。
『歌抜きでは本来の力を発揮できない』
では、先程の大地を揺るがすような響の一撃は……本来の力の何割程度だったのだろうか？
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「獅子機健在！ ガングニールの直撃を受けたものの、損傷は軽微のようです！」
「嘘だろ……！？」
「そんな……今の響さんでもこれが精一杯だなんて……！」
「相手はこちら以上の規格外だという事か……！」
司令室で見守る弦十郎達は、響の一撃を耐え抜いた獅子機の耐久力に絶句していた。……なお、実は両者ともに準備運動をしていただけだった模様｟遠い目｠
「あの……」
「ここまで来て！これだけの奇跡を起こしても駄目だなんて！！」
「諦めるな、エルフナイン君！ 何度も絶望的な状況を覆してきた響君なら、あるいは……！」
絶望的な戦力差を突き付けられ動揺するエルフナイン。しかしこの時、実は司令室のメンバーの中で未来だけが今の状況に疑問を抱いていたのだ。そして……。
「さっきの響なんですけど、歌ってなかった気が……」
「「「「っ！？」」」」
どうやら親友にだけは、響のうっかりはバレていたようだ｟白目｠
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「すぐに戦闘を再開しても良いが……そうだな、老婆心ながら一つお前に助言をしよう」
「助言……アドバイスって事、かな？」
準備運動が終わった後……キャロルはすぐに戦闘を再開させようとはせず、響へと語り掛けていた。どうやら何かに気付き、それを響に伝えようとしているようだが……。
「然り……先程お前は仲間のシンフォギアを次々に展開していた、これに間違いは無いな？」
「うん、そうだけど……も、もしかしてダメダメだった！？ 下手くそだったかな！？」
「ち・が・う！！ 俺が言いたいのは貴様の仲間のシンフォギア……それを同時展開する事が可能なのではないか、という事だ」
キャロルが気付いた事……それは先程の攻防の中で響が次々と仲間のシンフォギアを展開していたものの、二つ以上のシンフォギアを同時には展開していなかった事だった。
故に、今の響が纏うシンフォギアの出力ならばそれが可能だと考えたキャロルはそれを助言という形で伝える事にしたようだ。
「？？？……どうじてんかい？？？」
「……例えば、暁切歌と月読調がユニゾンした際に繰り出す合体技があるだろう？ あれを今のお前なら一人で放てるかもしれぬ、という事だ」
「ユニゾン、みたいな……？――――って無理無理無理！二つのシンフォギアを同時に出すなんて絶対――――って出た！！ 翼さんのとクリスちゃんのが一緒に出ちゃったよキャロルちゃん！？ ど、どうすればいいのかな！？」
キャロルに詳しく説明され、響はなんとなしに天羽々斬とイチイバルの事を頭で考える。すると次の瞬間……響の右手には天羽々斬の剣が、そして左手にはイチイバルのライフルが出現していた。
「落ち着け馬鹿者！！｟半ギレ｠ そもそも、既に今の貴様が右手にガングニールを、左手にアガートラームを纏っている状況から簡単に分かる事だろう……」
「……ほっ、本当だ！！ すごいよキャロルちゃん！私全然気付かなかった！｟尊敬の眼差し｠」
「……さて、続きをするとしようか｟スルー｠」
斜め上の反応を返して来る響に対しキャロルが取った手段は……渾身のスルーであった｟遠い目｠
そしてこの緩い空気の中、怪獣大決戦の本番が始まりを告げたのである。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
『～♪』
「なに、この数値……？――フォニックゲイン、大幅に上昇して行きます！ 先程までの二倍……いえ、三倍以上！」
「……これが奇跡の本当の力なのか――っ、響ちゃんがシンフォギアを展開！ ですが、これは……！？」
司令室の大型モニターには、歌を奏で始めた響の姿が映っていた。その光景をオペレーターの二人は呆然とした表情で見つめ。その後慌てて報告を行っていた。
「イ、イチイバルとシュルシャガナ、二種類のギアを同時に起動しています！」
「シュルシャガナの高機動とイチイバルの破壊力……これ以上ない程に凶悪な組み合わせというわけか」
歌によりフォニックゲインを高めた響は二つのギアを同時展開し、キャロルへと銃弾をばら撒きながら高速で空を駆け接近して行く。しかし……。
「獅子機の迎撃によりイチイバルの弾幕が消滅しました！ 先程までには無かった攻撃手段です！」
キャロルと獅子機も黙ってはいない。彼女は先程までに無かった攻撃手段……獅子機の角から無数の雷撃を放つ技で、イチイバルの弾幕を全て叩き落したのである。
「か、怪獣大決戦だ……」
「未来さん！？ 気をしっかり持ってください！」
「アガートラームによる防御フィールド展開！ 更にイガリマの刃を獅子機へと放っています！」
その光景は正に怪獣大決戦である。これには未来も遠い目になるのは仕方の無い事だろう｟悲しみ｠
しかしそれでも戦いは苛烈さを増して行き、司令室のメンバーの精神にダメージを与え続けるのであった……。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「(いっ、けぇぇぇぇぇっっ！！！！！！)」
「そうだ、それでいい！ ただ複数のシンフォギアを展開するだけではなく、それを合わせる事にこそ意味がある！」
獅子機の前方に展開された防御フィールドに巨大な二振りの剣が突き刺さる。一つはアガートラームで放った銀の剣、そしてもう一振りの剣は天羽々斬により放たれた剣である。
「(これでも突破出来ないの！？――それなら！！！)」
その強大な力をもってしても獅子機の防御を突破する事は叶わないものの、すぐさま響は防御フィールドへと接近して行く、そして……。
「(うぉぉぉぉぉぉっ！！！)」
「何っ！？」
イガリマとガングニール……二つのシンフォギアに搭載されているバーニアで超加速する響の突進が、二振りの剣で軋んでいた防御フィールドを粉々に打ち砕き……。
「ちっ、これでも足りぬか！？ならば更に出力を上げるまで！！」
「もう再生したの！？ は、反則だよ～！！！」
ガングニールの拳が獅子機の顔面に突き刺さり、そのほとんどを消し飛ばした。しかし……それから数秒と経たずにキャロルは獅子機を再生、注ぎ込む想い出の量を更に増やしたのである｟絶望｠
この理不尽な状況を前にすれば、響が歌うのを中断し抗議の声を上げても仕方の無い事だろう｟悲しみ｠
「反則では無い。何故なら再生には限りがあるのだからな」
「……それって、今みたいなのを何回繰り返せばいいの？｟ジト目｠」
「……黙秘する｟目逸らし｠」
「うわ～ん！ キャロルちゃんの鬼！悪魔！金髪幼女！！」
「幼女では無い！今は大人の姿だろうが！｟憤怒｠」
キャロルは反則では無いと主張するが、獅子機と戦わされている方からすれば完全に反則やチートの類である。正にクソゲーの鑑、理不尽という言葉を具現化したような幼女であった。
「……まあ、理不尽を嘆くお前の気持ちも分からんでもない。 故に、お前が降参するなら私は――」
「降参はしないよ！！ 逆にキャロルちゃんが降参するまで、明日でも明後日でも戦い続けるからね！」
「……お前が言うと冗談に聞こえぬのが怖いな」
しかし主人公……立花響は決して諦めない！！ 頑張れ、立花響！負けるな、立花響！｟他人事｠
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「ガリィ、貴様……！」
「ごめんなさい、しようか？」
「遺言くらいは聞いてやるよ馬鹿人形｟全ギレ｠」
「な、なによアンタ達！？ ガリィは無罪！真っ白な無罪なんだから！！」
(駄目みたいですね……｟諦め｠)
(ガリィちゃんの生存は絶望的かぁ。悲しいなぁ……)
(つ、翼さんまでマジ切れしてる｟戦慄｠)
避難場所を変えた装者達は現在……ガリィ・トゥーマーンの裁判を行っていた。
「諦めろガリィ、流石にあれは立花響が気の毒だ」
「今回は流石にフォローのしようがないわね……｟遠い目｠」
なお、ガリィに味方は一人もいなかった模様｟残当｠ このままではゴミ箱行きが確定してしまうだろう。
「……というか貴方、どうやってキャロルをあんな風にしたの？ それに悪気が無ければ、皆も許してくれると思うわよ」
しかし、ゴミ箱待った無しな状況のガリィに救いの手を差し伸べた装者が一人だけいた。そう、マリアである。
「そっ、そうデスよ！ ガリィを死刑にするのは理由を聞いてからでも遅くはないのデス！」
更にもう一人……切歌がガリィの命を救う為に立ち上がる。……普段の行いの割に何故この人形にはこんなに人望があるのだろうか……？｟遠い目｠
「……いいだろう、マリアと暁に免じて話を聞こう。月読と雪音もそれでいいな？」
「ちっ、分かったよ」
「……私もそれでいいです」
そして、マリアと切歌のお陰でガリィは弁解の機会を与えられることになった。これで上手い感じに装者達を納得させられれば、ゴミ箱行きは回避できそうなのだが……。
「は？ どうしてアンタ達に教えてあげなきゃいけないのよ頭おかしいんじゃないの？ 大体ねぇ、マスターとガリィの大切で繊細な思い出をアンタ達みたいなパワー系ゴリラ女に理解できるわけないでしょう、お分かりかしら？ あっ、調と切歌はゴリラから除外してあげるから安心しなさ――って何よアンタ達！？ガリィに何をする気――ってレイアちゃんまでなんで――」
(ガリィ・トゥーマーンって凄い、私は心からそう思った)
(多分ただのキ○ガイだゾ｟暴言｠)
(装者の皆がシンフォギアを纏えないからって調子に乗りすぎぃ！！！)
なんと、ガリィ・トゥーマーンは自らゴミ箱にダイブしたのである。 どうやら四期にガリィの姿は無さそうですね……｟諦め｠
悲報：キャロルと響、全然本気を出せていなかった。
そしてもう一つ悲報：あと三話以内に本編が終わると書いたが、五話以上に伸びる可能性大｟白目｠
次回も読んで頂ければ嬉しいです。