ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第十話です。




第十話

 

 

 前回の立花響覚醒から数日、ガリィはいつも通り街を散策した後、ビルの屋上で街を見渡していた。

 

≪そろそろ戻りましょうか≫

 

 時刻は十九時を少し過ぎている。ガリィはキャロルの夕食を作るためだいたいいつもこの時間には帰還している。

 しかし、いつも通りにガリィが転移結晶を掲げた瞬間、街に警報が鳴り響いたのだった。

 

≪…はぁ、空気読みなさいよ≫

 

(ノイズが出現しました。ガリィ・トゥーマーンは直ちに確認に向かって下さい⦅親切⦆)

(またキャロルちゃんのお腹が音を立ててしまうのか…)

 

 文句を言いながらビルから跳躍し現場に向かうガリィ。その途中にはノイズに分解された人の残骸が多数転がっておりかなりの被害が出ている事が伺えた。

 

≪ゴミだらけね。どうせなら跡形も無く分解しなさいよ、その方が掃除する人間も楽でしょうに≫

 

(一番のゴミはあなただと思うんですけど⦅名推理⦆)

(ありゃ、先客がいるみたいだね)

 

 現場に到着したガリィが見たのは、多数のノイズを前に立つ一人の女性の背中だった。

 

≪ゲッ、陰気ちゃんじゃない。≫

 

 そこにいたのは風鳴翼であった。ちなみに現在、ノイズが出現した場合の彼女の出勤率は百パーセントであり、こんなブラック環境では翼さんのメンタルが回復しないのも納得できる。

 急募:シンフォギア装者である。翼さんをゆっくり休ませてあげてほしい。

 

 そこからはノイズが合体して巨大化したり響が途中参戦したり翼さんが一撃で巨大ノイズを倒したりしたのだが、本日の問題はこの後である。

 

≪なんかワンパターンでガリィ飽きてきたんですけど…一回アイツらにミカちゃんぶつけていい?≫

 

(病んでる翼さんと初心者ビッキーで勝てる可能性あるんですかねそれ…)

(自分は行かないのか…)

 

≪嫌よ、陰気なのが移るじゃない≫

 

(えぇ…)

 

 戦闘が終わったので『適当に喋ってから帰るかぁ』と大学生のような空気のガリィ一行であったが、彼女らが目を離していた間に現場はとんでもない事になっているのであった。

 

≪ねぇ、なんか味方に武器突き付けてるわよあの陰気女。しかも目がさっきより更にヤバくなってるんですけど≫

 

(あ、そういえば)

(彼が来ますね…)

 

 ガリィが目を離した間に何があったのか、翼は剣の切っ先を響に突き付けて薄く微笑んでいた。怖い、これはガリィじゃなくとも怖い。

 急展開に付いて行けないガリィ、一方謎の声達はその先に来る展開に期待半分恐怖半分といった様子であった。

 

 そして始まる翼のフレンドリーファイア。空高く跳躍し巨大な剣を召喚、更にその大剣に翼の蹴り下ろしで勢いを付け響に向かって振り下ろすのだった。完全にご乱心である。

 

≪ゲッ、マジでやりやがった≫

 

(ガリィちゃんをドン引きさせるなんて、翼さんは凄いなぁ⦅遠い目⦆)

(そろそろ本日の主役が到着しますね)

 

 響に迫る大剣、その勢いは更に増しておりもはや回避は不可能と思われた次の瞬間、ガリィを真顔にさせる事態が起こるのであった。

 

 

 

 

「……ふんっ!!!」

 

 

 

 大男が大剣を左手一つで弾き返したのである。

 

 

「………はっ?」

 

(出た人類最強)

(シンフォギアなんていらんかったんや!男の拳が最強なんや!)

(じ、人類ではノイズに打ち勝てないから…⦅震え声⦆)

 

 思わず声に出てしまうガリィであるが、いきなり謎のおっさんが出てきて左手を突き出したら衝撃波が発生して大剣を弾き返してしまったのだから無理も無い。

 

 

 硬直するガリィを余所に謎のおっさんは止まらない。剣を弾き返したおっさんが今度は足を踏み込むと、又も衝撃波が起こり地面を隆起させていく。その衝撃波は翼へと向かい襲い掛かり、衝撃波に飲まれた翼はそのまま地面へと落下しダウンするのだった。

 

 

 

≪…質問していい?≫

 

(どうぞ)

(落ち着いて、どうぞ)

 

 突如始まるガリィの質問タイムである。

 

 

≪…人間?≫

 

(はい)

(おそらくは)

 

≪あのデカい剣、プラスチックか何かでできてるの?≫

 

(違います)

(当たったらシャレにならんくらい痛いハズです)

 

≪ガリィで勝てる?≫

 

(真正面からなら絶対無理です)

(ミカちゃんの切り札アリでやっと勝負になるレベルかもしれないですね)

 

≪あんなのガリィの知ってる人間じゃない≫

 

(はい、その気持ちはよく分かります)

(視聴者皆が通った道です)

 

 

≪……あれ、使えるわね。マスターに人間を殺させないのに利用できるかも≫

 

(お、なんか思い付いた?)

 

≪詳しい事は後で話すわ、今日はもう帰るわよ≫

 

(((はぁ~い)))

 

 

 何かを思い付いた様子のガリィは転移結晶を掲げシャトーに帰還するのだった。

 

 

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 夕食後、キャロル陣営は一つの部屋に集まっていた。

 

「えーっと、それでは第一回風鳴弦十郎対策会議を始めたいと思います。進行は私、ファラ・スユーフが担当させて頂きます。よろしくお願いしますね」

 

「???」

 

「ミカ、とりあえず地味に話を聞いていれば分かる」

 

「…始めろ」

 

「はい、マスター。それではまずガリィちゃん、お願いね?」

 

「はぁ~い♪」

 

 シャトーに帰還したガリィはキャロルに夕食を振る舞った後、その部屋にオートスコアラー全員を集め会議を始めるのであった。議題はあの人類最強(仮)について、である。

 

「今日なんですけど~、ノイズとシンフォギア装者が戦っているのを偶然見ちゃって。あ、響ちゃんも頑張ってましたよマスター」

 

「…続けろ」

 

 ガリィは響がシンフォギア装者になっている事をキャロルに既に話していた。その時のキャロルの反応は大きなものではなく「…そうか」と一言呟いただけであった。

 

「そしたら急に仲間割れ、というか頭のおかしい装者が急に響ちゃんを大きな剣で攻撃し始めたんです。ガリィびっくりして心臓が止まりそうになっちゃいましたよぉ…」

 

(心臓も無いし真心も無いよねあなた)

 

「意味不明」

 

「そいつバカなのカ???」

 

「何か気に入らない事でもあったのかしら?」

 

「それで響ちゃんに直撃すると思ってガリィ助けようかと思ったんです。

 そしたら急に大男が割り込んできて大きい剣を左手一つで弾いちゃったんですよぉ」

 

 もうお分かりだとは思うが、ガリィに助ける気などこれっぽっちも無かったのが事実である。

 この時点での原作介入は禁止だからね、仕方無いね。

 

「大男…マスターのような錬金術師なのかしら?」

 

「随分派手な事をする」

 

「アタシもそれくらいできるゾ!」

 

「…風鳴弦十郎、特異災害対策機動部二課司令官を務めている男か…」

 

「あらら、ご存じでしたか?マスター」

 

 どこか知っている様子のキャロルに問いかけるガリィ、その戦闘力についても知っているのであろうか。

 

「概要だけだ。確かに戦闘力については驚異的な物を持っているが、そ奴は所詮ただの人間。ノイズを当てれば脅威になり得んと判断した」

 

「ただの人間でその戦闘力、信じられませんわね…」

 

「アタシの方が強いに決まってるゾ!」

 

「あぁ、そうだな」

 

 キャロルは風鳴弦十郎について多少調べてはいたが、ノイズに対しては無力であるため脅威とは思っていなかったのである。

 

(まぁ、そう考えるよね)

(さて、こっからが本番だな)

 

「えぇ、マスターの仰る通りですとも。風鳴弦十郎はマスターの脅威とは成り得ない、それが事実。ですがガリィ達オートスコアラーにとっては?」

 

「…何…?」

 

「私達にとって…それはどういう意味なのかしら、ガリィちゃん?」

 

「ガリィはともかくアタシは負けないって言ってるんだゾ」

 

「ミカ、余計な事を言うな。ややこしくなる」

 

「ミカちゃんは後で説教。ガリィ達オートスコアラーはマスターの計画を進めるため、単独行動する機会が多くなる予定。ですよねマスター?」

 

「…そうだ。貴様等オートスコアラーは何を行うにも想い出の消費は避けられん。故に行動は最小限に抑え、想い出は装者達から呪いの戦慄を奪う事に費やす必要があるのだ。」

 

 そう、オートスコアラーは想い出が無いと戦闘はもちろん、動く事すらままならなくなるのだ。ガリィが無限タンクになっている事を知らないキャロルは、消耗を抑えるためオートスコアラーはできるだけ単独行動させる予定であった。

 

「そこですよぉマスター。例えばガリィが単独行動中に風鳴弦十郎と戦闘になってしまったら…どうしますかぁ?」

 

「…何だと?」

 

「ノイズをばら撒けばいいんじゃないかしら?」

 

「或いは転移結晶で撤退するのも可能だ」

 

「返り討ちにするんだゾ!」

 

 ガリィが危惧していたのはオートスコアラーが単独行動中に風鳴弦十郎と接敵してしまう事であった。ファラやレイアが言う通り回避する手段は存在するが、ガリィは続けて言うのだった。

 

「えぇ、真正面から戦ったのなら確かにそれで乗り切る事ができるでしょうね。でも、もしそれが奇襲、奇策の類であったならばどうかしらぁ?」

 

「…ノイズを展開する間も無く、転移結晶を掲げる事もできぬ、か…」

 

「つまり装者では無くただの人間に破壊される、という事ですわね」

 

「それでは呪いの戦慄は刻めない、か」

 

「弱いガリィは壊されちゃうんだゾ…」

 

 もし風鳴弦十郎の奇襲によりオートスコアラーが破壊されてしまった場合、呪いの戦慄は刻むことが出来ずシャトーの完成は絶望的となる。ガリィが危惧していたのはこの事であった。

 

「もしそうなればマスターの計画は頓挫し、泡沫の夢と消える。なんて可哀想なマスターなんでしょう、でもガリィはお空の上からマスターを見守る事しかできませぇん、うぇーん!(泣き真似)」

 

(えぇ…)

(精神攻撃は基本だから…)

 

 

「それは困りますわね…どうすればいいのかしら」

 

「オートスコアラー全員で先手を取り倒す…か」

 

「装者が出張って来るに決まってるじゃない。それにミカちゃんはともかくガリィ達は絶対無事じゃ済まないわよ」

 

「ガリィはアタシが守るから大丈夫なんだゾ!」

 

「アンタに守ってもらうほどアタシは弱くねぇんだよ!!!(全ギレ)」

 

「………」

 

(キャロルちゃん何か考えこんでるね)

(まぁ相手が相手だからねぇ)

 

「風鳴弦十郎がいなければ特異災害対策機動部二課は成り立たない上に、装者達が呪いの戦慄を克服するためには彼女達の成長が不可欠。

 だから彼を排除する事は論外なんですよねぇ。全く縛りがキツすぎてガリィやめたくなっちゃいますよぉマスタ~」

 

「た、楽しそうねぇガリィちゃん」

 

「マスターが悩んでいるのを楽しんでいる、か。性根の腐ったガリィらしい…」

 

「分解したらダメなのカ…」

 

 何かを考え込んでいるキャロル。その様子を見て楽しそうなガリィである。

 

 

「ガリィ、続けろ」

 

「え?」

 

「謎…」

 

「???」

 

「はぁ~い♪ガリィにお任せですよぅ☆」

 

 突然ガリィに続けろと言うキャロル。それを聞いたガリィはニヤァ…と擬音が付きそうな笑顔で話し出すのであった。

 

「ガリィの風鳴弦十郎対策、それは人間を殺さない事!で~す♪」

 

「人間を…?」

 

「分解はいいのカ?」

 

「分解もダメなんじゃないかしら、ミカちゃん…」

 

「…成程、風鳴弦十郎を釘付けにする…か」

 

 意味がよく分からないオートスコアラーに対して理解した様子のキャロル。

 釘付けにするとはどういう事なのであろうか?

 

「先にバラしちゃうなんてマスターは性格が悪いですねぇ、ガリィびっくりですよぉ」

 

(おまいう)

(おまいう)

(おまえが言うな)

 

 意味不明な事を宣うガリィだったが、キャロルは無視して続きを話すのであった。

 

「ノイズは牽制のみに使い人間を殺めず装者達との戦闘に集中することで、風鳴弦十郎を司令部に釘付けにする。そもそも奴はおいそれと持ち場を離れられる立場では無い。

 人的被害が皆無な状況では司令部を離れる事など不可能だろう、その為の装者なのだからな。

 俺の計画を奴らが把握していない以上、オートスコアラーとの戦闘は装者に任せる以外考えられぬはず」

 

 ガリィの案は、まずノイズを餌に装者を呼び出す。人的被害は皆無なので風鳴弦十郎は持ち場を離れず戦闘を装者達に任せるはず、そしてこちらは呪いの戦慄を確実に頂く。というものであった。

 

 

「…ひどくないですかマスター、ガリィ言う事無くなっちゃったんですけど」

 

「い、良い案だと思うわよガリィちゃん」

 

「だがそれで確実に奴が出てこないとは…」

 

「??? 何言ってるか分かんないゾ…」

 

 レイアの言う通りそれで風鳴弦十郎が出て来ないとは限らないのだが、ガリィはその疑問に答えるのであった。

 

「確実な案なんて無理ですよぉ…でもこれなら出てきたとしてもいきなり奇襲で破壊しに来る事は無いと思いますけど。こちらは装者を殺す気は無いですから、装者を倒してすぐ撤退すれば大丈夫かと」

 

「…人的被害が許容できぬ数になれば、奴らも全力で我々を潰しに来るだろう。奴が前線に出没するのは避けねばならん」

 

「成程、納得しましたわ。私は賛成ですマスター」

 

「マスターがそう決められたのならば」

 

「分解がダメならアタシ何すればいいのか分からないゾ…」

 

 なんとか纏まりそうな雰囲気だがミカが分かっているのか不安である。キャロルも流石にこのままでは本番が不安だと思ったようで、対策を講じるのだった。

 

「ガリィ、後でミカに理解するまで説明しておけ」

 

「えーっ!そんなのイヤですよぅ。ミカちゃんが理解するまでって何時間かかるか分からないじゃないですかぁ!ファラちゃん、レイアちゃん、代わって…くれる?」

 

「が、ガリィちゃんが一番内容を理解しているから適任だと思うわよ⦅目逸らし⦆」

 

「ミカはガリィに一番懐いている。ガリィが適任だ⦅率直な意見⦆」

 

「え~、アタシ面倒臭いのはイヤなんだゾ…それよりガリィと遊ぶんだゾ!」

 

「ふざけんな!誰のせいでこうなったと思ってんだ!」

 

(まぁ、説明するだけならすぐ終わるでしょ⦅希望的観測⦆)

(そうそう、十分もあれば終わるって⦅安易な予測⦆)

 

 ガリィ、残業確定である。言い出しっぺだからね、仕方無いね。

 

「では、今日は解散と言う事で、頑張ってねガリィちゃん」

 

「ミカ、ガリィにしっかり教えてもらえ」

 

「えぇ~、面倒なんだゾ…」

 

 ガリィに後を任せ部屋を出ていくオートスコアラー達とキャロル。しかしキャロルは部屋を出る寸前、ガリィに声を掛けるのだった。

 

「…ガリィ」

 

「はぁ~い、なんですかぁ人形使いの荒いマスター」

 

(ね、根に持っている…)

(この人形根に持ったら一生覚えてそう)

 

 不貞腐れた様子のガリィに声を掛けるキャロル、一体何の用であろうか?

 

 

 

「言うのを忘れていた。夕食、馳走になった」

 

 

 

「いえいえ、お粗末様でした♪」

 

 

(ガリィちゃんチョロい)

(キャロルちゃんおやすみ~)

 

「そうか」

 

「おやすみなさいマスター、また明日」

 

「あぁ」

 

 そう言い部屋を去るキャロル。後に残ったのは機嫌が良さそうな人形とつまらなそうな顔をしている人形であった。

 

 

(さて、残業だ残業!)

(さっさと終わらして今日の総括するよ~)

 

≪はぁ、しょうがないわね…≫

 

 ミカへの説明をさっさと終わらせようと気合を入れるガリィ一行。

 現時刻はガリィの機嫌が悪くなる二十分前、ミカへの説明が終わる二時間前であった。

 

 

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「つまり…ガリィ以外は分解しちゃダメなんだナ!」

 

「なんでガリィだけ例外なのよ!?アンタ実はアタシの事嫌いなんでしょ!」

 

「???」

 

「なんでアタシが変な事言ったみたいになってんのよ!」

 

(ZZZ...)

(こんなんじゃもう説明するのやめたくなりますよぉ~)

(ガリィちゃんが楽しそうでなにより)

 

 

「だーかーらー、ガリィを分解しようとするのやめなさいよ!アンタが言うとシャレになんないんだから!」

 

「??? ガリィ、うるさいゾ。マスターが起きちゃうんだゾ」

 

「………助けて主人公……」

 

(多分ビッキーでも無理ゾ)

(がんばれ、がんばれ)

 

 

 夜は更けて行く…。

 

 

 

 次回 緩い回orあのギア…なんかダサくない…? に続く

 

 

 





思ったよりも長くなってしまいました。

次回も読んで頂ければ嬉しいです。



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