ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

111 / 167


第百九話です。




第百九話

 

 

「はぁっ!? お前まだやる気なのかよ!?」

 

「満身創痍のお前と、万全な立花では勝負の結果は見えているはずだ。そんな事も分からないお前では無いだろう?」

 

 装者六人の全てを束ねた渾身の一撃により獅子機を破壊され、自身もかなりのダメージを負ったキャロル。

 しかし彼女はまだ勝利を諦めておらず、その目には闘志が溢れていた。

 

「そうデスよ! これ以上はキャロルが傷つくだけデス!」

 

「うん、私もそう思う」

 

「ええ、二人の言う通りここまでにしましょう。そうすればすぐに貴方も治療を受けられるはずよ」

 

 そんな彼女を装者達は全力で説得しに掛かるのだが……実は彼女達が気付いておらず、キャロルだけが気付いている事があったのだ。それは……。

 

 

「……二点、お前達は勘違いをしている。 まず一点、私の怪我は見た目ほど大したものではない。そして……」

 

 まず、キャロルの怪我が大したものでは無い事……そもそも彼女の今の身体は自身で製作したものであり、通常の人間より耐久力が遥かに高いのである。そして、もう一つは……。

 

 

「私よりも立花響の方が遥かに重傷であるという事……。 六種ものシンフォギアを一つに集約するだけならまだしも、限界を超える力をも行使した代償は大きいという事だ」

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 そう、激しく消耗していたのはキャロルだけではなく響もだったのである。

 響は先程、五種のシンフォギアを同時展開した時点でかなりの負担が掛かっていた……ではその状態で六種のシンフォギアを束ね、自身の限界を超えた力を行使すればどうなってしまうのか。

 

 その結果は、装者達が響の方へと顔を向けた瞬間に判明した。

 

 

 

「はっ、はぁっ……だ、大丈夫!あと一回くらいなら平気……へっちゃらだから!」

 

 

 

 装者達の視線の先に立つ響は……肩で息をしており、額には大粒の汗が浮かんでいた。

 

「「響さんっ!?」」

 

「立花っ!?」

 

「マジかよ!? 痩せ我慢すんな馬鹿!!」

 

「後一回って、逆に言えば限界が近いって事じゃない!」

 

 それに気付いた装者達が響の下へと一斉に駆け寄り、彼女の状態を確認する。響の目はキャロルと同じくいまだ闘志を燃やしてはいたものの、やはりその表情には苦痛が見えていた。

 

「……立花響に纏わりつく光の群れが負荷を軽減しているようだが……それでも吸収しきれぬ程の強大な力だったのだろう。本来であれば精神と肉体が崩壊していてもおかしくはないはずだ」

 

「た、確かに立花が発揮した力は凄まじかったが……そこまでのものなのか!?」

 

「本来、強大な力を得るには大きな代償が付き纏うもの……その証拠に私は自分自身の記憶を捧げる事で、この大きな力を振るう事ができている」

 

 そう、限定解除を成し遂げ周囲の光の加護を受けても尚、吸収しきれない程の力の反動が響の身体を蝕んでいたのだ。

 ちなみにキャロルは大きな代償を払っていると言っているが、今回に関しては何処かの人形がやらかしたお陰でノーリスクで力を発揮できている模様⦅遠い目⦆

 

「……でも、キャロルは平気そうに見えるような……」

 

「いいか、月読調……それに関しては全てそこの青い道化に責任がある、私に非は断じて無い!⦅目逸らし⦆」

 

「えぇ……⦅困惑⦆」

 

 キャロルが言っている事は一見部下に責任を擦り付けているように聞こえるが、残念ながら全て事実であるどころか彼女は無許可で唇を奪われた被害者なのだ。

 

「マスター、ご無事でなによりです」

 

「先程の一撃は流石のマスターでも駄目かと思ってしまいましたわ……」

 

 そんなキャロルに駆け寄る人形が二体……レイアとファラであった。先程響が放った一撃には彼女達も主の敗北を覚悟していたようだ。

 

「意識が途切れそうになった瞬間、あの馬鹿者の声が聞こえてな……それでどうにか踏みとどまったというわけ――ってあの馬鹿者はどうした? この状況なら真っ先に駆け付けそうなものだが……」

 

「……そう言えばガリィにしては地味に反応が遅いな、マスターが負傷したとあらば一番に駆け付けそうなものだが……」

 

「えっと、ガリィちゃんはその……⦅目逸らし⦆」

 

 どうやらキャロルはぎりぎりの所で意識を保つ事に成功していたようだ。しかしガリィは一体どうしたのだろうか……その姿はファラが目を逸らした先にあった。

 

 

 

「……(あああああああああああマスターのお肌に傷がついてるぅぅぅぅぅぅ!!!!駆け付けたい駆け付けたい今すぐに駆け寄りたいぃぃぃぃぃ!!!!!でも今駆け寄ったらあのゴリラ女供に響ちゃんがああなったのがアタシの所為ってバラされるかもしれない……そうなったら流石のマスターでもガリィをガミ箱⦅ガリィ専用ゴミ箱⦆に捨てるかも……いや捨てるわね、だってガリィがマスターの立場なら躊躇なくそうするもの!!つまり今ガリィができる最善は時間を引き延ばしてどうにか評価を上げる策を考える事……それしかない、アタシがマスターとの薔薇色の未来を掴み取るにはそれしかない!!!⦅結論⦆)」

 

(もうずっと黙っているのが一番良いと思うんですけど⦅名推理⦆)

(ワンチャンS.O.N.G.の雑用係になれるかもしれないからね)

(キャロル覚醒→ガリィの所為 ビッキー覚醒→ガリィの所為  うーん、この諸悪の根源⦅白目⦆)

 

 

 何故かガリィは『ざわ……ざわ……』と擬音が付きそうな表情で何かを考え込んでいた。どうやら彼女はゴミ箱行きを逃れる為にまだ頑張るつもりらしいのだが……正直、廃棄躯体のぐう聖ガリィちゃんとトレードするのが一番だと思うんですけど⦅真顔⦆

 

「――あっ⦅察し⦆ ……ガリィはあのまま放置で構わぬ、それよりもお前達には引き続き装者達の守護を任せる」

 

「はい⦅即答⦆ 私達はここでマスターのご武運を願っています」

 

「あの、先程から気になっていたのですけれどその……マスターは響ちゃんに対して勝算があるのでしょうか?」

 

 ガリィがいらん事を考えているのを経験則で瞬時に看破したキャロルとレイアは、彼女を放置する事をすぐに決断した。

 一方ファラはガリィについてはスルーし、キャロルが響との戦いに勝算があるのかが気になっていたようだ。

 

「……立花響は自身が持つ全ての力を発揮し、獅子機の撃破を成し遂げたのだ。ならば私もそれに答えねばなるまい」

 

「マスターがまだ出していない力――それは、まさか……?」

 

 全ての力を振り絞る響に応えるため、自身も全ての力を振るう事を決断したキャロル。果たして、彼女に残されている力とは……?

 

 

「そうだ、錬金術師としての私では立花響には届かぬだろう……ならば、それ以外の力に頼る他あるまい」

 

 

 それは錬金術師としてのものではない何か……キャロルは周囲に漂う光の粒子を見つめながらそう語るのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「我々はこれより、装者達の保護を迅速に行うため現場海域へと向かう!」

 

「「了解!」」

 

 S.O.N.G.司令部である潜水艦……その船は現在、現場海域へと舵を切ろうとしていた。次の一撃で決着がついた場合、迅速に装者達……特に響を治療室に送り込むためである。

 

「キャロルが戦いを続ける事に違和感を感じます。もしかしたらまだ何か奥の手を残しているのかもしれません」

 

「そうなんだ……でも、どちらにせよ響は絶対に諦めないと思うから……⦅遠い目⦆」

 

 キャロルにまだ奥の手が残されているのでは?と警戒を露にするエルフナインだが、未来の言う通り響が諦める事は絶対にありえないので無用な心配である。

 

「装者達とオートスコアラー三体、戦場から距離を取りました。 どうやら響ちゃんの説得には失敗したようです」

 

「……まあ、そうなるよな⦅溜息⦆」

 

「ここまで来たら響君に任せる他あるまい。 我々が出来る事は彼女を戦闘後に治療室に叩き込む事、それくらいだろうからな」

 

 そんな中、司令室大型モニターには響とキャロルから離れていく装者達とオートスコアラーの姿が映っていた。どうやら彼女達は響の説得に失敗してしまったらしい。

 

「……ほら、ね⦅引き攣った笑み⦆」

 

「は、はい……」

 

 なお、その事をいち早く悟っていた未来の笑顔は引き攣っていた。その表情を見たエルフナインは『未来さんは大変だなぁ⦅小並感⦆』と思っていたが、口に出す事はしなかった模様。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「色々と理由はあるが、結局のところ私はお前に負けたくないらしい」

 

「えっ?」

 

「昔、パパと一緒に薬草の採取に向かった時もそうだった。私はパパよりも多く採取できなければ不機嫌になり、パパの夕食のおかずを一品減らしたりしたものだ」

 

 キャロルと響、二人だけになった戦場で彼女達は語り合っていた。その内容……どうやら正気を取り戻したキャロルは本来の負けず嫌いな性格が戻って来たらしく、過去のエピソードを交えてその事を語ってるところである。

 

「えぇ!? キャロルちゃん酷い! ご飯を減らされるなんてそれじゃお父さんが可哀想すぎるよ!⦅迫真⦆」

 

「……数年しか生きていない頃の話だ、それに既に時効は成立している⦅目逸らし⦆」

 

「食べ物の恨みに時効は無いんだよキャロルちゃん! だって私なら一生覚えてるもん!⦅威風堂々⦆」

 

「……お前と食事を供にする時は細心の注意を払うとしよう。 さて、それでは始めるとしよう……私とお前、最後の勝負を」

 

「むぅ~、今はそれでいいけど食べ物については後でしっかり話をするんだからね!」

 

 何はともあれ、遂に最後の勝負が始まろうとしていた。片や傷ついたファウストローブを纏うキャロルと、六種のシンフォギアを束ねた反動を耐えている響……お互いに満身創痍の状態の中、勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか。

 

 

「ああ、それでいい。……地上では奴等に被害が及ぶ可能性がある、か。 立花響、決着は空でつけるとしよう」

 

「――うん、分かったよ!」

 

 

 まずは仲間達の無事を確保するため二人は空へと上がる。その光景を仲間達は固唾を飲んで見守り、お互いの陣営の勝利を祈っていた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「あいつ……これが終わったすぐに治療室にぶち込んでやる!⦅憤怒⦆」

 

「ああ、そうだな……だが今は立花に歌を届ける事を最優先に行わねば」

 

 空にへと上がって行く二人を見つめる装者……彼女達にできる事は響へ歌を送る事だけであった。

 

「……でも気になるわね、あの状態でキャロルに打てる手はあるのかしら?」

 

「確かにマリアの言う通りデス、お互いに全ての力は出し切っているはずなのデスけれど……」

 

「私達が知らない、奥の手があるのかな……?」

 

 司令部にいるエルフナインと同じく、キャロルがまだ諦めていない事が気になる装者達……実は彼女達の予想は正しく、そしてキャロルの奥の手は彼女達が知っているものである。

 

「気になるのは分かるが、どちらにせよ次の一撃で決着がつく以上私達にできる事は立花に歌を届ける事のみだろうな」

 

「……そうね、キャロルに奥の手があるのならすぐに分かるはずだもの……気にしても仕方ない、か」

 

「翼さんの言う通り、頑張って響さんに歌を届けようね切ちゃん」

 

「デース!」

 

 次で決着がつくのは明白なため、マリア達もキャロルの奥の手を気にせず響へと歌を届ける事に集中する事にしたようだ。そして、空へと浮かぶキャロルに変化が訪れるのだった。

 

 

「っ!? あいつ、まだアレを呼び出せるのかよ!?」

 

「だが、顔部分だけのようだ。傷ついた今のキャロルではそれが限界なのか、それとも……」

 

 

 なんとキャロルは再び青い瞳を持つ獅子機を召喚したのである。しかし召喚された獅子機は何故か先程よりも巨大になった顔部分のみであり、その意図が分からない装者達は空に浮かぶ獅子を不思議そうに見つめていた。

 

 

「残念だが、マスターの派手な切り札はこの先だ。……もっとも、錬金術師としてはらしくない手段だがな」

 

 再び召喚された獅子機が奥の手だと考える装者達……それが間違いだと語り掛けたのはレイアだった。どうやら彼女はキャロルの奥の手を把握している様なのだが……。

 

「……何ですって?」

 

「貴方達は先程それを見たはずです。 錬金術師らしくないマスターの力……それと想い出を組み合わせた破壊の嵐を」

 

 そこに補足を加えるのはファラだった。どうやらオートスコアラーは皆、キャロルの奥の手を把握しているようだ。

 

「破壊の嵐……だと?」

 

「ええ、そうです……心配しなくともすぐに分かるはずよ」

 

 それはすぐに分かる……そう語った後、ファラは空に浮かぶキャロルへと視線を送る、そして……。

 

 

 

 

 

『~♪』

 

 

 

 

 

 装者達のものではない……しかし透き通るような歌声が、戦場に響き始めた。

 

 

 

 

 

「(だ、駄目……何も思い付かない!クソッ、アタシの何が悪かったって言うのよ!?マスターは正気を取り戻したし死人もゼロ、装者達だって本来より強化されたじゃない!?クソクソクソクソッ!!!どうして頑張ったアタシがこんな目に遭わなきゃいけないのよ!?)」

 

(うん、すごく頑張ってるとは思うよ。でも……)

(余計な事をしすぎなんだよなぁ……⦅白目⦆)

(思えば教室で響ちゃんにちょっかいをかけたのが始まりでしたね……⦅遠い目⦆)

 

 

 なお、ガリィは自身の生存が掛かっておりそれどころではない模様。声達の言う通り余計な事をしなければ間違いなくMVPだったのに……⦅呆れ⦆

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「これは、歌……!?」

 

「~♪(お前達には先程見せたはずだ、想い出と歌を融合させた破壊力を)」

 

 響の視線の先には頭部のみで浮かぶ獅子機が存在し、そしてその内部からは歌が聴こえていた。

 

「っ!?『みんなお願い! 私に力を貸して!』」

 

 その光景に対し、響も仲間達に念話を送り助力を求める。すると……。

 

 

「~♪」

 

 

「~♪『ありがとう、みんな! 絶対勝つから!』」

 

 

 五色の歌声が響へと届き、更に響も歌を重ねる事で全てのシンフォギアの力が解放される。どうやら最後の決戦は歌同士の戦いになるようだ。

 

「~♪(歌により発生するフォニックゲインと残った想い出を全て注ぎ込んだ獅子機の咆哮で勝利を勝ち取る!)」

 

「~♪(っ!? すごい力だ……多分、これまでとは比べものにならない……!)」

 

 色とりどりな歌声が響く中、獅子機の口が開かれ強大なエネルギーを蓄えていく。それはこれまで獅子機が放っていた火球とは違い、純粋な破壊力のみに特化したエナルギーの塊……正にキャロルの全てを込めた力であった。

 

「~♪(私の手を取ると言うのならばこれを超えてみせろ、立花響! お前の望む未来をその手で……勝ち取ってみせるがいい!!)」

 

「~♪(っ――来る!)」

 

 響はその攻撃に備え、自身が構える巨大なアームドギアでの迎撃を開始する。そして、遂に……。

 

 

 

 

「これが私の全てだ!!! 立花響ぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉーっっっっっ!!!!!!!」

 

 

 

 キャロルの全てを注ぎ込んだ獅子の咆哮と、仲間と自身の全てを拳に注ぎ込んだ響のアームドギアが真正面から激突した。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「(互角だと!?……だがっ!!!)」

 

 

「(ぐ、ううぅぅぅぅっっっ!!!)」

 

 

 獅子機の咆哮と響の突撃は……互角だった、ように見えていた。しかし……。

 

 

「(徐々に消耗していくお前とは違い、こちらは想い出がある限り威力が減衰する事は無い!)」

 

 

「(まっ、まだ負けてない!! みんなの想いを背負った私が、負けるわけにはいかない……負けたくない!!!)」

 

 

 僅かに……本当に僅かに響は押され始めていた。その原因は両者による攻撃の性質の違い……ガリィから渡された想い出が尽きるまで一定の威力を維持できるキャロルに対し、自身の身体をぶつけているが故に徐々に消耗して行く響……その性質の差が、徐々に響を敗北へと近づけていた。

 

 

「(私は尊敬する……不利な状況を何度も覆し、一度として諦めなかったお前を!)」

 

 

「(勝ち取るんだ……!! キャロルちゃんと、ガリィちゃん達と一緒に歩く未来を実現するために!!!)」

 

 

 想いを強める事で、なんとか拮抗状態を保つ響……しかし押し返すまでには至らず、状況はキャロルの圧倒的有利なままであった。

 

 

 

 

「っ! このままでは立花が!」

 

「何か、何か手は無いのかよ!?」

 

「あたし達は全部出し切ってスッカラカンなのデェェェス!!⦅悲鳴⦆」

 

「何か……何か手は無いの!?」

 

 吹き荒れる暴風に耐えながら、状況を見守っている装者達……彼女達もまた、響と同じく打開策を模索していたが、最早彼女達が響に渡せる力など、何も残っているはずも無いのである。

 

 

「どうかあの子に奇跡を……未来を勝ち取る力を、どうか……!!」

 

 

 マリアがどこへともなく祈りを捧げ、今一度の奇跡を願う……しかしその願いは誰にも届く事無く、虚空へと消え――

 

 

 

 

 

 

『私を……私達を忘れるなんて酷いわね』

 

 

 

 

 

 

「――っ!?」

 

 

 それは幻聴か、それとも……。 だが、確かにマリアの耳は自身に語り掛ける声を聞いたのだ。

 

 

「マリア!? どうしたデスか!?」

 

 

「い、今、声が……私達を忘れるなって」

 

 

「はぁ!? そんなものあたしは聞いてねーぞ!?」

 

 

 他の装者達には聞こえず、マリアだけが聞いた声……それはやはり幻聴だったのだろうか。

 

 

 

 

「っ!? あれは……!?」

 

 

 

 

 しかし次の瞬間、戦況を逆転させるための最後の奇跡が起こり始める。

 

 それは響が、仲間達が、そしてそれに深く関わったエルフナインでさえ忘れていた最後の力……本来であれば主を蝕むはずの危険な力が今、装者達に奇跡を見せようとしていた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「と、突如イグナイトモジュールが起動!」

 

「更にニグレド、アルベド、ルベド……す、全てのセーフティが強制的に解除されました! う、嘘だろ……なんでだよ!?」

 

 S.O.N.G.司令室で戦況を報告するオペレーターの二人は、その信じられない光景を混乱しながらもなんとか弦十郎へと伝えていた。

 

「響のギアに黒色が……!」

 

「それだけではない、翼にも黒色が混じっている!」

 

 劣勢に追い込まれていた響に起きた変化……それはイグナイトモジュールが突如起動し、更に全てのセーフティを強制的に解除した事だった。

 

 実はイグナイトモジュールには段階的にセーフティが掛けられておりニグレド、アルベド、ルベド……と段階的にセーフティを外す事でギアの出力を上昇させる機能が搭載されている。

 ちなみにこの機能を解放する事のデメリットは制限時間の減少であり……そのセーフティが今、自動的に全て外されたのだ。

 

「ガングニールの出力、飛躍的に上昇していきます!! 再び拮抗状態に……いえ、押し返し始めています!!」

 

「す、すごい……弦十郎さん、これなら!!」

 

「――ああ!勝てるかもしれん!!」

 

 その信じられない光景を見て沸き立つ司令室の面々……しかしエルフナインだけは余程驚いたのか、呆然とモニターを見つめていた。そして……。

 

 

 

 

「限定解除を束ねた奇跡の更に先……それはシンフォギアの無限の可能性……エクスドライブ・アンリミテッド!!!」

 

 

 

 今後正式にエクスドライブ・アンリミテッドと名付けられる形態の名を、エルフナインが叫ぶのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「馬鹿なっ、 ドヴェルグ=ダインの遺産( ダインスレイフの欠片) が何故!?」

 

 装者達を勝利に導くための最後の奇跡……それを見せ付けられたキャロルは歌う事も忘れ、呆然とした表情で響を見つめていた。

 

「っ!?(ギアが黒く……!?)」

 

 その変化に戸惑っていたのは響も同様だったが、しかし……。

 

 

 

「(――そっか……貴方達も一緒に戦って来た仲間だもんね!)」

 

 

 立ち直るのはキャロルよりも響の方が断然早かったようだ。

 呪いを纏った彼女のギアは所々が黒色に覆われ、背後の翼と纏うオーラにも黒色が追加されていた。

 

 そう、響の翼には黄、青、赤、白、緑、桃色、そして……最後に加わった黒色が揃い、遂に七色を有する虹の翼が完成したのである。

 

 

「最後に無様を晒したのは私……狂気に囚われていた私自身だったという事か!?」

 

 

 徐々に獅子機が押し込まれる光景を見つめながら、キャロルは自身の失策を察していた。

 そう、最後に勝敗を分けたのは自身が装者達に託したもの…… ドヴェルグ=ダインの遺産( ダインスレイフの欠片)だったのだから……。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉーっっっっっ!!!!!」

 

 

 自身の失策にキャロルが気付いている間にも、響の纏うギアの出力は上昇して行きエネルギーの中を突き進んでいく。

 限定解除、装者六人によるユニゾン、そしてイグナイトモジュール……彼女達が持つ武器の中でも最大の威力を誇る三種を合わせた力が、遂にキャロルの全力を上回ったのだ。

 

 

「これが紛い物ではない、本当の奇跡の力……人間が勝ち取った想いの力か……!」

 

 

 自身の全力を超える力を見つめるキャロルが抱いていた思いは怒りでも、悔しさでもなく……純粋な憧れと尊敬の思いだった。

 彼女がこれまで見せられ、苦しめられてきた偽物とは違う奇跡の力に彼女は魅了されていたのである。

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」

 

 

「見事だ、立花響とその仲間達よ。そして……」

 

 

 表情に笑みを浮かべるキャロルの目の前には巨大な拳……そう、獅子機の咆哮を全て吹き飛ばした響のアームドギアがあった。

 

 

 

 

 

「キャロルちゃん……私の伸ばした手は、君に届いたかな……」

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 響の言葉を聞いた後、キャロルはアームドギアに手を伸ばし触れた。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、届いたよ……私の負けを認めよう、立花響」

 

 

 

 

 

 

 

 

 長きに渡る戦いに、遂に決着がついたのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「立花が勝った、のか……」

 

「ああ……! あの馬鹿の勝ちだ!!」

 

「やったーっ!!! 響さんの大勝利デース!!!」

 

「うん、本当にすごかった……!」

 

「最後のイグナイトモジュール……あれは、もしかして……」

 

 響の勝利を見届けた仲間達は沸き立っており、切歌は調と抱き合う程に喜びを露にしていた。

 

 

「まさか最後に呪いの力を持ってくるとはな……見事だった」

 

「ええ、私から貴方達に惜しみない称賛を。 本当に素晴らしい戦いでした」

 

「ああ……終わっちゃった……」

 

(終わってしまいましたなぁ……⦅諦め⦆)

(最後にイグナイトモジュールを起動させるとかビッキーはすごい!⦅称賛⦆)

(勝手に起動したように見えたんだけど……気の所為だよねぇ)

 

 そして装者達を守り抜いたオートスコアラー達もまた、彼女達に惜しみない賛辞を送っていた。正に大団円……ガリィが夢見た結末がここにあったのだ。

 

 なお、何故か本人だけはこの世の終わりのような表情をしている模様。 一体どうしてなんですかねぇ?⦅煽り⦆

 

「何を話しているんデスかねぇ?」

 

「お互いの健闘を称えているのだろう。あの表情を見れば分かる」

 

「ったく、疲れてるんだからからそういうのは後にしろっての!」

 

「クリス先輩……響さんの身体が心配なんですね⦅優しい眼差し⦆」

 

「っ!? ちっ、ちげーし!あいつなんかどうでもいいし!⦅赤面⦆」

 

「ふふっ、貴方って本当に顔に出やすいわよね」

 

 装者達は皆、リラックスした表情で談笑していた。後は響とキャロルを迎え帰還するのみ、それで物語はハッピーエンドに――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エネルギーの暴走……!? どういう事ですかマスター!?」

 

 

「シャトーに装者達を避難……!? ではマスターはどうされるのです!?」

 

 

 

 

 

 

 物語はまだ、終わらない。

 

 





スマホ用ゲームアプリ、戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED 好評稼働中!

良い子の皆、課金はキャロル陣営がプレイアブル化されるまで控え目にしておくんだゾ!⦅余計なお世話⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。