GX編 後日談 その二です。
※ガリィ一行の脳内会話については
≪≫ ←ガリィの台詞
() ←わたしたちの台詞
【】 ←ぐう聖ガリィさんの台詞
となります。
「はっ、ははっ……こ、この風景を見るのも久し振りだなぁ……」
「……お父さん、もしかして緊張してる?」
「そりゃあ緊張はしてるさ。 でも、それよりもその……今の俺って無職みたいなもんだろ? それがちょっとな……」
「大丈夫だよ! ちゃんと就職活動もしてるんだし、話せばお母さん達も分かってくれると思う」
「それならいいんだが……そうだな、今日はとにかく謝るのが第一だもんな。後の事は後で考えるか」
ガリィがS.O.N.G.に正式配属されてから三日後の夕方……立花親子(響、洸)は家族が待つ家に向かって歩みを進めていた。
なおこの日ガリィは待機任務という名の半休を取り、既に潜伏を完了していた。ちなみに切歌と調の夕食はしっかり作り終えており、万が一帰還が遅くなった場合のケアもばっちりである。
「会ってくれるって事は可能性はあると思う……だから諦めずに頑張ろうね、お父さん!」
「俺のやった事を考えれば、簡単に許してもらえるなんて思えないしな。何カ月……いや、拒絶されない限りは何年掛かっても諦めないつもりだ」
「うんうんその意気だよ!――という事で帰って来ました、我が家です!」
「……ああ、そうだな」
父親を勇気づけようと明るく振る舞う響に対し、緊張した表情の洸。
彼はしばらくの間久しぶりに帰って来た家を見つめていたが、やがて覚悟を決めるとインターホンを押し……。
『……はい』
「立花、洸です。 今日は話を聞いてほしくてここまで来たんだ……聞いてくれるか?」
心に傷を負った家族と、数年ぶりの再会を果たした。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「なんであの馬鹿人形を止めなかったんだよ!? あのバカの家族がどうなってもいいってのか!?」
その頃……S.O.N.G.司令室ではクリスの怒号が響いており、その怒りの矛先は目の前に立つ弦十郎へと向けられていた。
「……ガリィ君の目的については半休の申請を受け取った段階で気付いていた。だが……」
「だが、なんだよ? くだらない理由だったらいくらおっさんでもぶん殴るからな!⦅憤怒⦆」
クリスが激怒している理由……それは弦十郎がガリィの申請を許可し、休みを与えた事だった。
タイミングを考えればガリィが立花家になんらかのアクションを起こす事は容易に想像できるはずなのだが……実は弦十郎、ガリィの目的に気付いていながら許可を出していたのである。
その判断には理由があるようなのだが、それは一体どのような理由なのだろうか。
「ふむ……クリス君、これまでガリィ君が人間関係に関わった件……その結果を思い返してほしい」
弦十郎がガリィを立花家に送り出した理由……それはガリィがこれまで関わった件に関係しているようだが……。
「はっ? あの馬鹿人形が関わった件……?」
「ああ、まずは俺とクリス君に関わった時から思い出してみるとしよう。 ガリィ君は二の足を踏んでいた俺の背中を押し、そして当時味方がいなかったクリス君の話を親身に聞いていた」
「……それがなんだよ」
「その結果……クリス君は俺達と共に歩む道を選び、それは今日まで続いている。 そこには確かにガリィ君の取った行動による影響があったはずだ」
「っ!? それは……否定できねーけどなんか腹立つ! アイツはあの時、あたしに対してボロクソ言ってたんだからな!?」
まずは弦十郎とクリスに関わった件……この件でガリィが取った行動はともかく、その結果は今ここにいるクリスを見れば分かるだろう。
「落ち着けクリス君。 そして次は未来君だが、彼女は東京スカイタワーで事件に巻き込まれる数日前、リディアンの秋桜祭でガリィ君と接触している。そしてその後の神獣鏡を纏った一件について、ガリィ君と行った会話の影響があったと彼女から確認は取れている」
「っ!? でもそれは! あの馬鹿人形の所為でバカの親友があんな事になったって事じゃねーか!」
「確かにその一面はあるだろう。だがその結果、魔法使い……ガリィ君が介入した事により未来君は救い出され、この事件が起こったからこそ彼女の心は大きく成長している。だからこそキャロル君との決戦で未来君は響君を信じ、彼女を危険に晒す可能性が高い作戦を伝える事ができたのだろうさ」
「……理解はできる、納得はできねーけど……」
そして次は未来が神獣鏡を纏い響と戦った一件……これにもガリィは絡んでおり、戦闘では水の大蛇を使い響を援護し、未来の救出と響の体を蝕んでいたガングニールの破片の除去に成功している。
ちなみにこの一件の後から未来は精神面で大きく成長し、キャロルとの決戦では響を危険に晒す作戦を考案し装者達を勝利に導いていた。
「そうか、だがマリア君、翼、それに切歌君と調君も……装者達の成長の影にはやはりガリィ君の存在があった事は確かだ」
「……で、許可を出したってわけかよ。 なんていうか、おっさんってやけにあの馬鹿人形を評価してるよな?」
更に他の装者の名前を上げ、その全てにガリィが関わっていると弦十郎は語る。その事に異論は無いクリスだったが、今度は弦十郎が何故ガリィをそこまで評価しているのかが気になっているようだ。
「ああ、クリス君の言う通り俺はガリィ君を高く評価している。キャロル君との打ち合わせの際、S.O.N.G.に加える戦力としてガリィ君を希望したのも俺だからな」
「マジかよ……なんであいつなんだ? 戦力的にはミカが一番のはずだろ?」
「ふむ、それにはいくつか理由があるのだが……少し長くなるかもしれんが構わないか?」
「いいぜ、馬鹿人形が何か仕出かさないかはまだ不安だけど、今はそっちの方が気になるからな」
「ガリィ君には念のため『問題が無さそうなら大人しく帰って来い』と言い含めてあるし大丈夫だろう。それで、俺がガリィ君を高く評価している理由だが――」
弦十郎がガリィを高く評価している理由……それは一体なんなのだろうか? それについて弦十郎が語り出すのだが残念ながら時間切れである⦅無慈悲⦆
今回の主役は立花一家だからね、仕方ないね。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「一番辛い時期に逃げ出しておいて、今更姿を現すのがどれだけ恥知らずな事かは分かってる。だけどそれでも、それでもこれだけは言わせてほしいんだ……本当にすまなかった」
「……洸さん」
「お父さん……」
立花洸は頭を深く下げ、目の前の家族へと謝罪していた。ただ、彼が語る言葉には最終目的であるはずの『復縁』という単語は含まれていない事から彼は今日、まずは謝罪をするために訪れた事が伺えていた。
「世間から逃げて、家族からもずっと逃げ回ってた俺だけど……響に会って話をして、まずは謝ろうって、例え拒絶されるとしてもそれだけはしなきゃいけないって思ったんだ」
「……貴方が今まで何をしていたのか、そして姿を消す前に会社でどんな扱いを受けていたのか……それは響から聞いているわ。 大変だったわね……」
立花母は既に響から洸の事を聞いていたようだ。当時、彼がどれ程の辛さを耐えていたのか、それについては母親も分かっているらしい。
「家族を置いて逃げ出した俺なんかより、お前達のほうが大変だったはずだ……辛い思いをさせてすまなかった」
「洸さん……貴方が姿を消した時に私が一番悲しかった事、何か分かる?」
「えっ? それは……裏切られたとか、そんな感じか?」
「「……」」
洸が姿を消した時に母親が一番辛かった事……それは彼が逃げ出した事でもなく、世間の批判に晒される事でもない。では当時、彼女が一番悲しかった事とは何だったのだろうか。
微妙な空気を醸し出す二人、それを静かに見つめる響と祖母……立花家の玄関前はなんともいえない空気に包まれていた。
「……洸さん、私が一番悲しかったのはね……私を、私達を一緒に連れて行ってくれなかった事なの」
「えっ……そう、なのか?」
「あの時私は、辛くて悲しくて逃げ出したくて仕方なかった。 だけど、逆境に負けず学校や会社に行く家族を見て私も頑張らなきゃって……それだけの思いで必死に耐えていたのよ。だけど……」
「っ――俺が姿を消してしまった……」
「そう、貴方はある日突然私達の前から姿を消した。 その後は毎日泣いていたわ、それこそほとぼりが冷めるまでずっとね……」
洸が姿を消した後、母親は祖母と共に毎日泣いていた。その頃には逃げ出す気力も無く、そもそも響が学校に通う事をやめなかったため、彼女達はひたすらに耐えていたのである。
「俺は……なんてことを……」
「こうして貴方と会えば怒りが湧くかと思っていたけど、今はただただ悲しいだけ……あの時、貴方が私達の手を引いてくれたらどうなっていたか……そんな事ばかりが頭に浮かぶの……」
「お母さん……」
数年ぶりに会った夫に会い、妻が抱いた感情は憎しみや喜びでは無く『悲しさ』だけだった。
当時の世間による立花家への酷い中傷を考えれば逃げ出すのは仕方ない。だが何故自分達も連れて行ってくれなかったのか、もしもそうなっていたら辛い思いはしなくて済んだのだろうか……そんな事ばかりが彼女の頭に浮かんでは消えていたのである。
「本当に、すまなかった……」
「お母さん……お父さんを許してあげられないかな? 家族はもう……一つに戻れないのかな?」
「……ごめんね、響。 お母さん、自分自身がどうしたいのかがよく分からないの……」
「あっ、あはは……そ、そうだよね久しぶりに会ったんだし仕方ないよね! だけどこれから何回も話し合えば――」
母親の姿を見て、復縁の望みが薄い事を察した響は、空気を変えようと振る舞う。
しかしこのままでは、次の機会があるかも怪し――
「話は聞いたわ☆ 全く、アンタ達って揃いも揃ってお馬鹿さんばっかりなのね♪」
(はい不法侵入、前科一犯⦅呆れ⦆)
【こんな事ばっかりやってるのに慕われてるのが不思議よねぇ】
(途中脱線しまくっても結果だけは良い方向に着陸するからな)
しかし次の瞬間、玄関の扉が開け放たれ中から一人の少女が現れた。その少女とは……。
「っ!? ど、どなたですか……?」
「っ!? き、君は!?というかなんで家の中から!?」
「ガ、ガリィちゃん!?」
そう、我らが主人公ガリィ・トゥーマーンである。何故彼女が家の中から現れたのかは分からないがこの瞬間、重苦しかった場の空気が吹き飛ばされた事は確かである。
「ちょっと、アタシが喋ってるんだから静かにしなさいな! とにかくアンタ達、このまま何の進展も無しに解散なんてガリィが許さないんだから! 復縁か離縁か……ここで決着をつけなさい!⦅暴君⦆」
(えぇ……⦅困惑⦆)
【人様の複雑な家庭事情にこうも堂々と踏み込むなんて……確かにこの子にしかできないわね】
(OTONAはこれを見越してガリィちゃんを送り込んだのかな?)
謎の存在感で空気を吹き飛ばしたガリィ。果たして、彼女の参戦は立花一家にとって福音となるのだろうか。畜生の恩返しが今、始まろうとしていた。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「ど、どうして家の中からガリィちゃんが……ねえ、どうやって入っ――」
「まず分からないって言ったアンタ!⦅完全無視⦆ なに馬鹿な事言ってるのよ、そんなの当然でしょうが」
「と、当然、ですか……? でも私は、本当に分からなくて……」
「はっ? あのクズ男⦅強調⦆から何も聞いてないんだから分からないのは当然でしょ。 もしかしてアンタ、響ちゃんからあのクズ⦅強調⦆の話を聞いただけで全部分かった気でいるんじゃないでしょうね?⦅ジト目⦆」
(うーん、この安定感⦅遠い目⦆)
(もう慣れたゾ⦅白目⦆)
【でも、場の空気は明らかに変わったわね】
立花一家が混乱してる隙に、ガリィは響の母親へとゆさぶりを掛けていく。それに対し普通であればまず不法侵入に怒りそうなものなのだが、響の親だけあって母親もどこか抜けているのだろうか……彼女はガリィと普通に会話を交わしていた。
「洸さんから……?」
「そうよ、離縁か復縁か……アンタがそれを判断するにはまず、そこのドクズ⦅強調⦆から直接話を聞く必要があるに決まっているでしょう? 姿を消していた間、そこの臆病者が何を考えどうやって生きて来たのかを、ね」
「救いようのないクズですいません……⦅白目⦆」
(パパさんが死んだ!この人でなし!)
(人でなし? 人じゃないからセーフやろ⦅適当⦆)
ガリィはまず母親をテーブルに着かせることを最優先に考えていた。
母親のここまでの反応を見る限り、娘そっくりなこのお人好しなら勝機はある……ガリィはそう判断していたのである。
「で、ですが――」
「夕食、四人分作っているわよね? まさかガリィの分って事は無いでしょうし、誰の分を作ってるんでしょうねぇ?⦅煽り⦆」
「っ!? そ、それは――」
なんとこの人形、不法侵入した上に物色までしていたのだ⦅呆れ⦆
その結果母親にクリーンヒットを撃ち込む事ができたのは良いのだが……問題はこの人形が全然全く反省していない事である⦅白目⦆
「アンタの中に燻っている想いがあるなら、そこのクズと話をしてみなさいな。 そして娘がどうとか、世間がどうとかは抜きにして自分で判断なさい。家族に戻るか、他人になるかをね」
「……洸さん」
「な、なんだ?」
場の空気は完全にガリィが作り出したものとなっていた。そして……。
「……中、入って。 夕ご飯……無駄になるのも嫌だから」
「お母さん……!」
「あ、ああ……!」
ガリィの目論見は成就する。
残る問題はこの後、立花一家が復縁するかどうかなのだが……ガリィはその事について、あまり心配してはいないようだ。
「あら、やーっと素直になれたみたいでアタシも嬉しいわ♪ それじゃ、部外者はこの辺で失礼するとしましょうか☆」
≪さ~て、場は整えてあげたわよ響ちゃん♪ 後はアンタとクズの頑張り次第なんだから、しっかりしなさいよね☆≫
(あれ、ここで撤退するの? てっきり図々しく中まで入って行くと思ったのに)
【馬鹿ね、この子が居たら本音で話せないかもしれないでしょう? 流石にこの子も空気を読んだのよ】
(立花一家が冷静になる前に逃げないと面倒臭い事になるからね、仕方ないね)
目的を果たしたガリィは撤退を決断し、足早に立花家から遠ざかっていく。
後は洸と響がよっぽどのミスをしない限り、今日復縁が成らずとも家族の縁は続いていくだろう……ガリィはドヤ顔でそう確信していた。
しかし絵に描いたようなドヤ顔しながら歩くガリィにこの後、予想外の展開が訪れる。
「ガリィちゃん! 待ってよ~!」
「っ!?――この声、まさか!?」
突然聞こえたガリィを引き留める声を発していたのは……響だった。どうやら彼女、家族を置いてガリィを追い掛けて来たらしい。
「やっと追いついたぁ~……」
「このお馬鹿!アンタ何やってんのよ!?」
(追って来ちゃったぁ⦅白目⦆)
(早く立花家に戻さないと⦅使命感⦆)
【この状況で追いかけて来るなんて、大事な用なのかしらね?】
響は何か用があるのだろうが、ガリィからすればたまったもんではない状況である。
せっかく気持ちよくドヤ顔で散歩していたのに……ガリィは早速気分を害していた。
「えっと、お、お礼を言いたくて! ガリィちゃんがいなかったら、どうなってたか分からないから……ほんとにありがとう!」
「はあぁぁぁぁぁっ!? そんなの明日でもいいでしょというか今からが勝負所でしょうがこのお馬鹿頭お花畑のどんくさ娘!早く戻りなさい!⦅全ギレ⦆」
(ビッキーらしいなぁ⦅遠い目⦆)
【響ちゃんって天然……というか考える前に体が動くタイプなんでしょうね】
(それが良い所でもあるんだけどねぇ)
響の用件はなんと『お礼が言いたかった』であった⦅遠い目⦆ 勿論これにはガリィも大噴火である。
「あっ!……あはは、嬉しかったからつい……⦅目逸らし⦆」
「……はぁ、この子は本当にもう……いい、一度しか言わないからよく聞きなさいよね」
「えっ? う、うん、何かな?」
響の表情に毒気を抜かれたガリィは、彼女に後日伝えようとしていた言葉をここで伝えることにした。その言葉とは……。
「……マスターを暗闇から救い出してくれてありがとう、貴方にはとても感謝しているわ。
だからこれはガリィからのささやかな恩返し……とは言ってもこの程度じゃまだまだ返し切れてないから、まあ残りはこれからゆっくり返して行くとしましょう。響ちゃんとはもう仲間なんだから時間はたくさんあるんだし、ね」
「――ガ、ガリィちゃん……!⦅感動⦆」
(キャロルちゃんが絡んだ時だけ真面目なんだからも~)
【私もマスターの事は大事に思っているけど、流石にこの子には勝てる気がしないわね⦅戦慄⦆】
(ガリィさんの方が正常だから大丈夫だゾ)
ガリィが言った『仲間』という単語……この言葉を聞いた響は、今更ながらその事実に感動していた。
そして彼女のテンションは上の方に振り切れてしまい、その結果……。
「ガリィちゃーーーん!!!⦅歓喜⦆」
「っ!? こら!抱き着くな!! アンタはこんな事してる場合じゃ無いってさっきから言ってるでしょうが離しなさい!!⦅憤怒⦆」
「ねえねえガリィちゃん一緒に帰ってもっとお話ししようよ! お父さんもお母さんもガリィちゃんがいたら話しやすいと思うし!」
「なに意味不明な事言ってんのよそんな訳ないでしょうが――って力強っ!? ギアも纏ってないのに何よこの馬鹿力は!? というか引き剥がせないんですけど!ミカちゃん助けて!!!⦅届かぬ叫び⦆」
(あ~あ⦅諦め⦆)
【詰めが甘いからこうなるのよ⦅呆れ⦆】
(弱い⦅確信⦆)
ガリィ・トゥーマーン、立花響に捕まり撤退失敗及び拉致確定である⦅悲しみ⦆
場を荒らすだけ荒らして去ったはずがまさかの出戻りとは……これは恥ずかしい⦅遠い目⦆
「お母さんの作るご飯、とってもおいしいんだよ~――ってしまった、ガリィちゃんの分は無いんだっけ……それじゃ私のを半分こしようよ、ねっ!⦅ハイテンション⦆」
「アンタガリィが人形だって事忘れてない!? 食べても味とか分かんないんだけど、ねぇ聞いてる!?」
(味見は任せてよ!⦅満面の笑み⦆)
【本当にどうなってるのかしらね、あたしとこの子は中に居ても味なんか分からないのに不思議】
(というか響ちゃんからの評価が鰻登りですね⦅白目⦆)
必死の抵抗もむなしく、立花家へと連行されて行くガリィ。今回は割といい感じだったのに……やっぱりダメだったよ⦅悲しみ⦆
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「響、こちらの方は、その……」
「ガリィ・トゥーマーン、この関節を見れば分かると思うけど人形よ」
「に、人形……?」
「そ、だからアタシの事はただの喋る人形程度に思って、話を進めてくれて構わないわよ」
「ガリィちゃんこれ食べる? おいしいよ?」
その後、ガリィは何故か立花家の夕食に同席していた。というかガリィがいる所為で食卓は不思議な空気に包まれているのだが……その中で何故か響だけはニッコニコである。
「食べないわよ! というかアンタ――クズも黙ってないで今まで何してたかを話しなさいよ!」
「えっ、俺!? わ、分かったよ」
「よろしい♪⦅上から目線⦆ それじゃまずは逃げ出した日の事から、できるだけ簡潔に分かりやすく話してみなさいな」
何故かこの場を仕切っていたのはガリィであった……はっ!まさか響はこの展開を見越してガリィを拉致したのでは……!⦅天才的推理力⦆
「――そんなにビクビクしながら逃げ回ってたんならさっさと戻って来なさいよクズ!」
(君が一番に怒るのか⦅困惑⦆)
【ま、言ってる事は分かるけど空気は読めてないわね】
(もうガリィさんと交代したらいいんじゃない?)
【えっ、この状況で表に出るなんて絶対に嫌よ】
「お、落ち着いてガリィちゃん!」
「そ、そりゃ何度も戻ろうとは思ったさ……だけどその、怖かったんだ」
「洸さん……」
「その気持ちは分からなくもないけどねぇ……」
こうして洸の身の上話が始まるのだが……それが一段落した瞬間、ガリィは噴火した。
母親でも娘でも祖母でもなく、全く関係が無い人形が一番先に噴火するというまさかの展開である⦅遠い目⦆
「はぁ~⦅クソでか溜息⦆ 一家揃って超が付くほどのお人好し……全くもう、これじゃガリィがおかしいみたいに見えるじゃない、もっと怒るなりしなさいよ」
(えっ)
(がりぃちゃんは、おかしいよ?⦅煽り⦆)
(そうだよ⦅便乗⦆)
「怒ると言ってもその……どういう風に怒ればいいのでしょうか?」
「それをガリィに聞くの!? 今確信したわ……アンタ、間違いなく響ちゃんの母親ね⦅戦慄⦆」
「?? お母さんはお母さんだよ??」
「そういう所がそっくりだって言ってるのよ! はいはいもういいから話を進めましょ、次はアンタ達の番……クズがいない間の事を話してあげなさいな」
ここで再び発生したガリィの誤算……それは響の母親の性格が娘そっくりな事である。
この母娘には主導権を握らせてはいけない……ガリィは決意を固め、話を次に進める事にするのであった。
「……洸さん、少し暗い話になってしまいますが聞いてくれますか?」
「っ――ああ、聞かせてほしい」
「…… (……帰りたい⦅切実⦆ というかこいつら、どうして普通にガリィを交えて話してるのよ……どう考えてもおかしいでしょこの状況⦅遠い目⦆)」
(あっ、そう⦅無関心⦆)
【物事が全て自分の思い通りにいくわけないでしょ――というか貴方の場合、それを身を持って知っているでしょうに……⦅呆れ⦆】
(ガリィちゃんはすぐ忘れちゃうからね、仕方ないね)
こうしてガリィは軌道修正に成功し、話を進める事に成功する。次は立花家に残された三人の話のようだが……ガリィが帰宅できるのはまだまだ先になりそうである⦅悲しみ⦆
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「……これが、洸さん不在の間の私達の生活です」
「うん、これで全部だよ」
立花家に残された三人が語った当時の生活……それは酷いものだった。
空が明るい間は報道陣が詰め掛け野次馬に晒される……そして人気が無くなった深夜、心無い人間により塀が汚され石が投げ込まれる……警察には真面目に取り合ってもらえず、耐えるしかない毎日だった。
「俺がいた頃と同じ、か。 そりゃあそうだよな、連中にとっては俺がいようがいまいが関係無いもんな……」
「警察が動かないのを不思議に思っていたけど、被害届だけ受理して後は放置されていたわけね」
「もう一度警察に行けば良かったのかもしれませんが、私にその気力は残っていませんでした……」
「警察だけじゃなく、学校も響ちゃんのイジメを見て見ぬふりしていたみたいだし……もう一度足を運んでも無駄だったでしょうね」
(この世界の公的機関が酷い、酷くない?⦅真顔⦆)
(米国もアレな感じだからね、仕方ないね⦅呆れ⦆)
【貴方達の知っている世界じゃどうなの?】
(流石に放置は絶対に無い。最低でも警護は付けてもらえると思うよ)
この話を聞いていた声達は、立花一家が中傷されていた事よりもこの世界の公的機関が酷すぎる事に驚いていた。
彼らが住む世界であれば被害者である立花親子には警護を付け、響は一時的にクラスから遠ざけるなり手段を講じるはず……だがこの世界ではそのような動きは一切無く、その酷さに対し声達は呆れを通り越して真顔になる程であった。
「お父さんもお母さんも、一つも悪い事なんてしてないのに……」
「そうよ響ちゃん、被害者であるアンタ達がこうやって今も苦しんでいる事はおかしいの……だからマスターはアンタに復讐すべきだって言ったのよ」
「それは違うよ! あの人達だって家族を……大事な人を失ったのかもしれない。だけど想いをぶつける場所が無くて、それで――」
「あーはいはい脱線してごめんなさいね、アンタの気持ちは嫌と言うほど聞いたから分かってるわよ。 アタシが言いたいのは、何も悪い事をしていないアンタ達が離れ離れになるのは悲しいって事」
(そうなんだよ、立花一家は誰も悪く無いんだよ!⦅迫真⦆)
【えっ、父親は逃げたじゃない⦅マジレス⦆】
(マスコミと野次馬と動かなかった公的機関の所為でそうなったんダルルルルルォ!?⦅憤怒⦆)
確かに父親は家族を置いて逃げた、これは決して許される事では無い。
しかし声達は考える、これがもし自分達の知る世界で起こったとすれば父親は逃げただろうか。マスコミと公的機関……この二つの内、どちらか一つでも被害者の味方になっていれば運命は大きく変わっていたのではないだろうかと……。
「……そう、ですよね。 私達も洸さんも悪い事なんてしていないのに……私、どうしたらいいんでしょう……」
「それはアンタ自身で決断なさい。 それは今日じゃ無くてもいい、それこそ何年かかってもいいの。冷静になった今のアンタなら、きっと納得できる答えを出せるはずよ」
(ホント着陸地点だけは一流だな⦅真顔⦆)
【見なさいよ、響ちゃんの表情。 あれ、詐欺師に引っ掛かる被害者にそっくりなんだけど】
(ビッキー、めっちゃキラキラした目でガリィちゃんの事見てるねぇ⦅遠い目⦆)
「納得できる、答え……何年、掛かっても……」
ガリィの言葉を聞き、心を大きく揺さぶられる立花一家。なお、当のガリィは『もしここでアタシが高額な壺を出したら買いそうね、こいつら』と思っている模様。
「……今、拒絶されないだけでも俺は嬉しい。 だからお前が答えを出すまで、待たせてもらっても……いいか?」
「………………はい」
「お母さん……! お、お祖母ちゃんは!?」
「私もそれで構わないよ」
どうやらガリィが失礼な事を考えている間に、立花一家の話し合いは一応の決着を迎えたようだ。
心の傷は深く、すぐに復縁とはならなかったが縁を繋ぐ事には成功し、響にとって大きな一歩となったのは間違いないだろう。
「そっ、アンタ達の好きにしなさいな。 そこのクズもちゃんと真面目に働いて頑張るのよ、いいわね?」
(おまいう)
(おまいう)
(お前が言うな)
決着が着いた事に満足し、洸に上から目線で語るガリィ。
実は彼女……今回の事件に関わった上に響の父親という洸に対し、既にS.O.N.G.が囲い込みに動いていると思っていた。しかし……。
「働け、か……はっ、ははは……今は就職活動中なんだけど、中々上手くいかなくてな」
「――――――――はっ?しゅうしょくかつどうちゅう?」
(えっ)
(うっそだろ!?)
(いやいやいやいや! これだけ装者と深く関わりのあるフリーの人間を放置してるとかありえないから!)
どうやらS.O.N.G.は彼に対し、何のアクションも起こしていないようだ。これにはガリィも声達もびっくりである。
「?? ガリィちゃん、どうかしたの?」
「――――ちょっと急用ができたから失礼するわね……あのおっさんの事だから『自分は公務員だ。そのような不正はできない』とか考えてるんでしょうけど……時と場合を考えなさいよ筋肉ダルマァァァァッ!!!」
「えっ、えっ??」
(公務員だから仕方ないとはいえこのパターンはねぇ)
(せめて上層部に一声掛けてくれてたら……)
【S.O.N.G.にいるのって真面目で良い子ばかりだものねぇ、そもそもその発想が出なかったのかしら?】
上司の頭の固さにガリィは憤慨し、その勢いで玄関を飛び出し走り出す。彼女の目的地はS.O.N.G.本部である潜水艦、その内部にある司令室である。
「えぇ……⦅困惑⦆」
「い、行っちゃった……」
「なんというか、変わった子だねぇ……」
「お礼を言いたかったのだけれど、また来てくれるかしら?」
その後ろ姿を見送った立花一家の反応がこれである。ちなみに母親だけは少しズレているが、響の母親なのでこれで良いのだ⦅謎理論⦆
立花一家はこの日、再び縁を繋ぐことになった。
これ以降立花一家は定期的に食事を共にする事となり、やがてその頻度が増えていき、そして……。
「洸さん、もう一度同じ家で私達と……」
この日よりおよそ半年後、家族は再び一つに戻る事になる。
「みんな~、ガリィちゃん連れて来たよ~!」
「いらっしゃい、ガリィちゃん♪」
「遅いデス! あたしのお腹はもうぐーぐーへりんこファイヤーデスよ!」
「お腹、空いた……」
「いらっしゃい♪じゃないわよアンタの娘に無理矢理連れて来られたんですけどいい加減どうにかしなさいよ頭お花畑のどんくさ母親!! というかなんでアンタ達までいるの――はっ!晩御飯がいらないってこういう事だったのね!?」
(これで何回目だっけ?)
(十回目くらい?⦅適当⦆)
【そんなに嫌なら全力で逃げればいいのに……ふふ、なんだかんだと言いながら貴方もお人好しなのね~♪⦅煽り⦆】
ちなみに、僅か半年という時間で家族が一つになった過程にはとある人形の存在が影響していたようだが……まあどうでもいい事だろう⦅無慈悲⦆
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「この筋肉ダルマ! 響ちゃんの父親を放置してるってどういう事よバカじゃないのアンタ!?」
「や、藪から棒にどうしたガリィ君。それよりも響君について話して――」
「うっさい今はアタシが話してるのよ! いいから早く上層部なりなんなりに掛け合って響ちゃんの父親を関連企業に囲い込みなさい、あんなに深く関わってる人間を放置するなんてありえないんだから」
(人類最強が相手でも躊躇しない、それがガリィだ!⦅威風堂々⦆)
(子犬がゴジラに吠えているようにしか見えないんですがそれは……⦅遠い目⦆)
立花家の一件からしばらく時間が経ち……S.O.N.G.司令室では現在、ガリィが激しく弦十郎に食って掛かっているところである。
「むっ……つまり君は正規の手順を踏まず、響君の父親を手元に置けと言っているわけか」
「そうよ……ってアンタ不満そうね。 だったらいいわ、丁度良い機会だし今までのアンタ達の考えがどれだけ危険なものか、ガリィが話してあげる」
「……聞かせてもらおう」
【本当に良く喋るわねぇこの子、ある意味尊敬するわ】
(これが一番の武器だからね⦅悲しみ⦆)
ガリィの提案に対し予想通りの反応をする弦十郎だが、ガリィは気にせず話を続けていく。
『今までのS.O.N.G.司令部の考えが危険』 ガリィはそう話すのだが、それは一体どういう意味なのだろうか。
「まず、アンタ達は『敵』というものについて大きな勘違いをしている。 というかこれまでアンタ達が戦って来た相手……フィーネ、FIS、そして私達は敵ですら無いわ」
(これは確かに納得だわ)
(敵に軍師やガリィちゃんみたいなのがいたら間違いなくS.O.N.G.は不利だよね)
【裏側にはそんな連中が腐る程居るものねぇ】
ガリィはまず、『敵』というものの認識について話し始めた。フィーネ、FIS、そしてキャロル陣営……これまで装者達が戦い勝利して来た相手だが、いずれも猛者揃いである事は間違いない。
しかしガリィにすれば彼等は全て敵と呼べるものでは無いようだ、果たしてそれはどういう事なのだろうか。
「敵ですら無い、だと?」
「ええ、だって今までの相手は真正面から突っ込んでくる奴ばかりだったじゃない。 ちなみにアタシがアンタ達を潰そうと考えたなら、攫うなんてまどろっこしい事せずに初手で未来ちゃんを殺すわよ」
(う~ん、畜生だけど最適解なんだよなぁ)
(攫うという手段は相手に希望を与える事になります。 なので初手で殺害し、更にその光景を見せつけるのがベストですね⦅畜生軍師の見解⦆)
(えぇ……⦅困惑⦆)
ガリィのマスターがもしもキャロルではなく容赦の無い人間だったなら……情報を集めた彼女は躊躇無く、初手で未来を殺害するだろう。これで響は絶望し、シンフォギア装者としての力は確実に不安定になる、ガリィはそう確信していた。
「未来君を……?」
「ええ、まずはそれで最大戦力である響ちゃんの心を潰す。 そしてそれを知った装者達はこう考えるでしょうね、『次は自分の親しい人が殺されるかもしれない』 そうなればこっちの思う壺、アンタ達の行動に制限を掛ける事ができるってわけ」
(これは酷い⦅褒め言葉⦆)
【そもそも学園に通いながらっていうのがおかしいのよ。 自分達で弱点を作りに行ってるようなものじゃない】
(それを言ったら高校生に世界の命運を背負わせてるのが一番おかしいんだよなぁ……⦅白目⦆)
装者の親しい人間を殺害し、他の装者にも影響を及ぼす。その効果は非常に大きいものであり、初手でS.O.N.G.の動きを麻痺させる事も不可能では無いだろう。
「だ、だがそれは君が俺達の情報を把握しているからであってだな――」
「馬鹿ね、本気でアンタ達を潰すつもりなら情報くらい集めるに決まってるでしょうが。 通学路を寄り添って歩いている二人を見れば、響ちゃんにとって未来ちゃんが大事な存在って事は猿でも分かるわよ」
(そうだよ⦅便乗⦆)
(それに司令が思っている程、情報のセキュリティは完璧じゃないんだよなぁ⦅遠い目⦆)
(装者達の情報だけなら、学園を監視するだけでそれなりに集まりそうだしね)
シンフォギア装者は翼とマリアを除きリディアンへと通学している。つまりそれは、彼女達が歩く通学路を監視するだけで友人関係を把握し、襲撃対象を選定できるという事である。
「……つまり君は、響君の父親もその対象になると言いたいのだな」
「あの男に未来ちゃん程の価値は無いでしょうけどね。 アタシが言いたいのはその時に備え、手元に置いておきなさいって事よ」
「ふむ……」
「手元に置いておけば最悪の事態に陥っても対応しやすいでしょ。 本当に最悪の場合、見捨てなきゃいけない状況も考えられるんだから」
(そうだよ⦅便乗⦆)
(今日は出番が多くて嬉しそうだね便乗君⦅ほっこり⦆)
【外は物騒な話してるのに中はいつも通り平和ね】
今までは問題が無くても、今後どのような存在と敵対するかは不明である。
故に最悪の場合に備え、被害を最小限にする努力はしておく事……ガリィはその必要性を語っていたのだ。
「確かにガリィ君の言う通り、これまでの相手は真正面から激突し勝利すれば解決だった。 しかし今後、そうではない相手が出現するかもしれない、か」
「ええ、マスターから聞いてると思うけど世界の裏にはヤバい連中が大勢いるの。 だから今の内に平和ボケした意識を改めなさいって言ってるのよ」
(今日のガリィちゃん、良い感じに働いてるんじゃない?)
(そうだね、こういうポジションをOTONA達は期待してたのかな?)
(良い子ばっかりじゃ組織は成り立たないもんな、自分から泥を被れる存在って貴重だと思うよ)
シャトー建造において、キャロルは間接的に世界の裏側と繋がりを持っていた。
故にガリィはその危険性を把握しており、いつか裏側とS.O.N.G.が敵対した場合に備えておけと上から目線で言っているのである。
「……すまない、君の言う通り少々平和ボケをしていたようだ。 響君の父親については、企業を選定し明日にでもこちらの使いを送ろう」
「そっ、分かってくれて嬉しいわ♪ それじゃガリィはこのままエルフナインの補佐に戻るから、じゃ~ね~☆」
(夜勤の時間だ~!)
(無理するエルフナインちゃんを適度に休ませるだけの簡単な仕事です)
(なんでや! 書類整理とかも手伝ってるやろ!)
(ガリィちゃん! OTONAに響ちゃんの事伝え忘れてるよ~)
「あっ、響ちゃんの家族はどうにかなったから心配しなくても大丈夫よ☆ それじゃさよ~なら~♪」
ガリィの警告を理解した弦十郎が折れ、この話には決着がついたようだ。
その答えにガリィは満足し、もう用は無いと言わんばかりに足早に司令室から去っていく。弦十郎はその後ろ姿を見送りながら、自分が緩んでいた事を自覚し……。
「――鈍っている自分自身を今一度、鍛え直さなければならんか……心と力、その両方を……!」
(……ん? なんか今、寒気が走ったような……まっ、気の所為か!)
なんだか恐ろしい事を口走っていたが、残念ながらガリィは聞き逃してしまったようだ⦅悲しみ⦆
そしてこの日以降、OTONAが鬼気迫る表情で訓練している姿が頻繁に目撃されるようになるのだが……原因は不明である⦅目逸らし⦆
次回:ガリィの一日。
知っているかガリィ、人形は寝なくても働き続けられるという事を……⦅ブラック企業⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。