第十一話です。
風鳴翼ご乱心事件から一月と少し経ったある日、ガリィ・トゥーマーンは街に鳴り響く警報を聞いていた。
≪今日もノイズ、一昨日もノイズ…飽きたってレベルじゃないんですけど≫
(確かに同じパターンだね最近)
(三日に一回のペースで警報が鳴り響く街…移住待った無し!)
この一カ月に起こった事は、三行で終わるくらい単調なものであった。
ノイズ出現
響到着、苦戦する
翼到着、一人で無双する
これが大体三日に一回のペースで起こっていたのである。ガリィは飽きていた。
≪大体あの陰気女が一人で片づけちゃうから響ちゃん全然成長してないじゃない≫
(碌に会話もしないのはなぁ…)
(それだけ心の傷が深いんでしょうね)
立花響が加入し装者二人体制となった二課だが、その初動は散々なものであった。
まだギアを纏って日の浅い響はノイズの攻撃を回避するのが精一杯。そして病んでいる翼は響と連携せず一人で行動し、その実力の高さでノイズを一蹴して戦闘終了。というのがここ一カ月繰り返された流れだった。
≪もう二年経ってるんでしょ?人間って本当面倒臭いわね、ガリィを見習いなさいよ≫
(⦅ガリィを見習う事は絶対に⦆無いです)
(キャロルちゃんが死んだらキミだってあぁなるでしょ!)
「マスターが死んだらガリィ自身を壊して終わりよ。その先なんて無いわ」
(えぇ…⦅困惑⦆)
(突然闇を覗かせるのやめてもらえませんかね…)
キャロルが死んだら私も死ぬ。突然ベタなヤンデレのような闇を覗かせるガリィに謎の声達はドン引きである。
≪はぁ…もう見に行かなくていいでしょ?何で毎回同じ映像を見せられなきゃなんないのよ…≫
(まぁ、ねぇ…)
(もういい時間だしな、帰るのもアリ)
≪そうね、今日はもう戻…っ!?≫
シャトーに帰還するかどうか話し合うガリィ一行。そしてガリィが戻る事を決断しようとした時、突然郊外の方で爆発が起きたのだった。
≪えぇ…ガリィ帰る気分になっちゃってるんですけど~≫
(あそこ、郊外で木々が生い茂ってる場所…もしかしたら!)
(ガリィちゃん、急いで向かって!)
≪めんどーくさいー、いきたくないー≫
(はよ行けや!)
(展開進むかもしれないんだよあの場所は!)
≪ハイハイ、分かったわよ。行けばいいんでしょ行けば…≫
もう完全に帰宅モードになっていたため現場に向かうのを渋るガリィであったが、謎の声達がしつこく言って来るので渋々現場に向かう事にするのだった。
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ガリィが現場がよく見える建物に到着したとき、既に戦いは始まっていた。
戦っていたのは目の据わった翼、そして対するはガリィが見た事の無いギアを纏った少女である。
(ほら、ガリィちゃん新キャラだよ)
(ネフシュタンの鎧、あれは完全聖遺物なんだよ)
なんとかガリィのやる気を上昇させようと新キャラ推しを始める謎の声達。しかしガリィの反応は彼等の予想しないものであった。
「えぇ、何あれ…ダッサ」
(なんでや!ネフシュタン悪く無いやろ!)
(完全聖遺物だから強いんだぞー!)
予想に反して更にテンションが下がった様子のガリィ。ダサいとは一体どういう事なのであろうか。
≪だってなんか白いタイツ履いてるみたいじゃない。体操のお姉さんじゃ無いんだから…。武器もなんかアレだし、三下みたいな事ばっかり言ってるし≫
(マジレスやめて⦅半ギレ⦆)
(良いから戦いを見守るんだよぉ!⦅話題転換⦆)
ガリィにボロクソに言われたネフシュタンの少女であるが、名誉挽回と言わんばかりに翼を圧倒していた。
翼の剣戟を簡単に弾き、ネフシュタンの武器を鞭の様に自在に操り徐々に翼を追い詰めていくのであった。
≪病んでる上に雑魚にしか勝てないとか、ガリィ可哀想に思えてきたんだけど…≫
(翼さんに厳しいっすね…)
(い、今はまだ覚醒前だから…)
≪あと、響ちゃんあそこにいる必要ある?もう帰ればいいじゃない、別に仲良くも無いんだし≫
(ビッキーにとっては憧れの先輩なんですけどぉ⦅憤怒⦆)
(味方見捨てる主人公とか誰得なんですかねぇ…)
苦戦する翼に「翼さん!」と声を掛ける響、それを聞いたネフシュタンの鎧を纏った少女が背中に忍ばせていたY字型の道具を掲げると、突如何体ものノイズが出現し、響に襲い掛かるのだった。
≪あれがノイズを操る聖遺物?≫
(そう、ソロモンの杖だね)
(OTONA対策には必須のアイテムなんだよなぁ)
襲い掛かるノイズから逃げる響であったが、一分も経たないうちにノイズが放った粘液に絡めとられ拘束されてしまう。
≪響ちゃんもう一カ月以上経ってるのに、あれはちょっと酷くない?≫
(一カ月間避けて逃げてただけだからね…)
(先輩が…いえ、なんでも無いです⦅黙秘⦆)
主人公陣営の層の薄さが予想以上にヤバい事に気付いてしまったガリィである。
そこからはもう一方的な展開だった。捕えられた響に、更に追い込まれとうとう倒れてしまう翼。翼の頭を踏み躙りながらネフシュタンの少女は勝利を確信したのか、襲撃の目的を語り始めるのだった。
≪ねぇ、アレって⦅冥土の土産に教えてやる⦆的なヤツよね?≫
(そうだよ)
(勝ったなガハハ!)
(あっ…⦅察し⦆)
時代劇の悪役のように語りだす少女に何かを悟ったガリィ一行。そう、本日の見せ場はここからである。
なんとか態勢を立て直す翼。しかし鍔迫り合いに持ち込むなど健闘するものの、結局はネフシュタンの少女が放ったエネルギー弾のようなものに吹き飛ばされてしまう。
≪響ちゃんガチャガチャやってるんだけど、何アレ≫
(アームドギア出てよここで出なきゃなんにもならないんだだから、ってやってるんだよ)
(なお、出ない模様⦅無慈悲⦆)
とうとう追い込まれた主人公陣営。それでも翼は立ち上がるが、誰が見ても敗北は時間の問題であった。
その姿を見てガリィは、(ゾンビじゃ無いんだから早く倒れなさいよ。こっちはマスターがお腹空かせて待ってんのよ)と思っていたが、翼の目を見た瞬間その思考は吹き飛ぶのだった。
≪あの目、今までの比じゃ無いくらいヤバいわね。何かやらかすわよ、アレ≫
(そうだよ⦅便乗⦆)
(大当たりなんだよなぁ)
ガリィが言った翼の目は、相変わらず据わったままであったが爛々と輝いていたのである。
そして今までとは明らかに雰囲気の違う歌を口ずさみながらゆっくりとネフシュタンの少女に歩みを進める翼。そう、翼が口ずさんでいたのは絶唱、自爆技と言っても過言ではないものだった。
≪なんでアイツ逃げないの?下手したら死ぬわよ、アレ≫
(影縫いって技があってね、動きたくても動けないんだよ)
(ゆっくり迫って来る翼さん怖い、怖くない?)
とうとうネフシュタンの少女の下に到達した翼。そして翼の口から一筋の血が流れ落ちた次の瞬間、
その周囲を爆音と閃光が包んだのだった。
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≪ちょっと何も見えないんですけど~、サービス悪くない?≫
(無断視聴なんだよなぁ…⦅犯罪⦆)
(この後はある意味見ない方が正解ゾ)
無断視聴しているにも関わらず文句を垂れるガリィであったが、そうこうしているうちに煙は晴れ視界が回復して行く。
そこでガリィが見たのは、ボロボロであったがなんとか撤退するネフシュタンの少女、そして
両目と口から大量の血を流し、歪な笑顔を浮かべる翼の姿だった。
≪鼻からは流さないのね、芸能人の意地なのかしら?≫
(おぅっ…⦅失神⦆)
(テレビ越しで見るより、いやー、キツいっす)
(絶唱は悪⦅確信⦆)
平常通りのガリィに失神者続出の謎の声達、本日は最後の最後にトラウマを植え付けられるホラー会であった。
≪さ、周りも騒がしくなってきたし帰りましょうか?マスターが可愛いお腹を鳴らして待ってるでしょうし≫
(ソッスネ)
(キャロルちゃんに癒されなきゃ…⦅傷心⦆)
(ミカちゃんもいいぞ…⦅現実逃避⦆)
惨い姿の翼よりマスターの空腹が気になるガリィは、そのまま転移結晶を掲げシャトーに帰還するのであった。なお、後ろでは無残な翼の姿を見た響が絶叫しているが、この人形は全く気にしていない、これがガリィ・トゥーマーンという人形であった。
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シャトーに帰還したガリィは、キャロルに夕食を作るための材料を取りに倉庫に向かっていた。
しかしその途中、ガリィは廊下であるものを発見したのである。
前のめりに倒れているミカだった。
⦅…⦆
(し、死んでる…)
(補給してほしくてガリィを探してたんだろうなぁ)
(犯人はガリィ⦅名推理⦆)
そう、ミカは補給してもらうためガリィを探していたのだ。
しかしガリィは不在で、更に今日は帰りが遅かったので限界が来てしまったのだろう。
そんなミカを何の感情も移さない瞳で見つめるガリィが取った対応は、実に彼女らしいものだった。
ガリィは、何事も無かったかのようにミカの横を通り過ぎたのである。
(ファッ!?)
(ウッソだろお前!)
(えぇ…)
≪マスターが先!ミカちゃんは放置でも問題無いけど、マスターは可愛いお腹を鳴らしてるんだから!≫
一応弁明するガリィであったが、ガリィの中の優先順位がはっきりした瞬間であった。
(な、成程…)
(後で補給してあげるなら、まぁ)
- 食後しばらく経って -
(ねぇガリィちゃん、ミカちゃんに補給してあげないの?)
≪……? あっ、忘れてた。ガリィにおまかせでっす☆≫
(やっぱり畜生じゃないか!!⦅戦慄⦆)
次回 緩い回or響ちゃんあの陰気女がいない方が成長してない? に続く
ネフシュタンの鎧を好きな方、ごめんなさい。
次回も読んで頂ければ嬉しいです。